7月23日より四日間の日程で、第83回東京陸上競技選手権大会が駒澤競技場で開催される。この大会は陸上競技界では一地方大会に過ぎないが、東京オリンピックを目指す多くのアスリートが今シーズンの始動に選んでいる。注目種目、注目選手など、みどころを男子から追って行きたい。
23日に予選が行われる男子100mにはリオ五輪4×100mリレーでアンカーとして銀メダル獲得に貢献したケンブリッジ飛鳥(Nike)が登場。2019年はハムストリングの故障の影響も有って状態が上がらず世界陸上の100m代表を逃し、リレーメンバーの座も明け渡す事となった。現在も東京五輪へ向けてのリレープロジェクトのメンバーに名を連ねてはいるが、レギュラーメンバーに再び割って入る為にも、強力な対抗馬のいない今大会ではしっかりと勝ちきり、尚且つ10秒2台辺りのタイムを出して存在感を示して置きたいところだ。
ケンブリッジ飛鳥に対抗できそうな存在を挙げるとすれば、長田拓也(富士通)か。長田も2018年のオールスターナイト陸上で10秒14の好タイムをマークして以降は目立った成績を残せていないが、調子を取り戻してくれば日本短距離陣の選手層が更に厚味を増す。復活に期待したい選手だ。
また、充実しているように思われがちな男子短距離陣であるが、課題はサニブラウン以降の世代の記録に若干の停滞が見られるところにあるだろう。今大会で思わぬ新星の出現があるのか、こちらも期待してみたい。尚、準決勝、決勝は翌24日に行われる。
リオ五輪以降桐生祥秀の日本人初の9秒台を皮切りに、小池祐貴、サニブラウンが次々ブレイクスルーをし、男子100mでは東京五輪でトラック種目として久々の決勝進出者が出るのではと大きな期待と注目を集めているが、世界的に層の厚い男子100mよりもむしろ決勝進出に近い位置にいるのではないかと思わせる選手も、今大会に出場を予定している。
24日から予選の行われる男子110mHの高山峻野(ゼンリン)だ。昨年の充実ぶりは著しく、6月の日本選手権では13秒36の日本タイ記録で優勝、翌月のオールスターナイト陸上では13秒30、更には翌月の福井ナイター陸上で13秒26を叩き出す、短期間に日本記録を二度も更新する快進撃を見せた。
世界陸上でも勢いは止まらず準決勝に進出すると、序盤はスペインのオルテガら強豪を押さえてトップの快走を見せるも5台目辺りでハードルに乗り上げて失速、残念ながらこの種目の日本人選手初の決勝進出は逃しはしたが、もしかしたらの期待をを抱かせるには充分の見せ場は作った。世界陸上後にはスピード強化にも着手し、100m10秒34にまで記録を伸ばしている。既に五輪派遣標準は突破しており、今大会は大きなプレッシャーもなく臨むことが出来る。思い切った攻めの走りが見られるかもしれない。
その高山に続く存在として期待の若手、泉谷駿介(順天堂大)もエントリー。ハードルを越える際にリード脚と反対側の腕を泳ぐように大きく回す独特のフォームで、粗削りながら今後の伸びしろを充分に感じさせる選手だ。昨年のゴールデングランプリ陸上では13秒26を叩き出し日本記録誕生かと思わせたが残念ながら追い風参考。しかしながら日本選手権では高山に同タイム着差有りで敗れたものの日本タイ記録をマーク、実力をもってフロックでなかった事を証明した。世界陸上は故障欠場となり、悔しい思いをした筈。今大会では高山選手に食らい付き、東京五輪へと繋がる走りを期待したい。準決勝、決勝は25日。
男子800mには好メンバーが揃った。
まずは、本来であればこの秋よりテキサス農工大に留学予定だったクレイ・アーロン竜波(相洋AC)。昨年の日本選手権では高校生ながら日本記録に迫る1分46秒59で優勝を果たした若き実力者。東京五輪出場へ向けアメリカ留学を決意するなど意欲を見せていた中、コロナ禍により大幅な軌道修正を余儀なくされている。今大会でそれらの鬱憤を晴らす走りを見せる事ができるか。また、まだ突破できていない派遣標準(1分45秒20)に少しでも近い記録を出しておきたいところだ。
昨年の日本選手権でそのクレイ・アーロンの後塵を拝した現日本記録(1分45秒75)保持者である川元奨(スズキ浜松AC)もエントリー。リオ五輪では準決勝進出にあと0秒01というところまで迫った実績があるだけに、リベンジの機会を窺っているのではないだろうか。彼にもまた、派遣標準に近い水準の記録が求められる。
その他、昨年度は名門中央大学の駅伝主将を務め、東京五輪出場を目指して元日本記録保持者の横田真人氏の門を叩き、氏の主催するtwolapsTCで練習に励む田母神 一喜(阿見AC)、ジャカルタアジア大会代表の村島匠(福井県スポーツ協会)の名も見られ、ハイレベルな優勝争いが展開されそうだ。
また、選手コール時に見せるジョジョ立ちからのキレッキレの決めポーズ、「シカイリュージョン」で関東インカレの名物男だった鹿居二郎(サンベルクス)も出場予定。そのパフォーマンスは一見の価値有りなのだが今回は残念ながら無観客となっている。男子800mの予選は24日、準決勝、決勝は25日に行われる。
フィールド種目では24日に行われる走り幅跳びの日本記録保持者、城山正太郎(ゼンリン)の出場が楽しみだ。昨年の福井ナイター陸上で日大の橋岡優輝に目の前で日本記録を出された直後、8m40のビッグジャンプで更新する離れ業を見せ、世界陸上代表の座も手中に収めた。その世界陸上では8mジャンプこそ無かったがきっちり決勝に進出、入賞を逃しはしたが世界のトップ選手と渡り合える手応えは掴んだのではないか。100mhの高山と同様に派遣標準を突破しているので、いろいろな課題が試せる絶好の機会でもある。世界の舞台で戦う際に重要となる1本目、3本目にどんな跳躍を見せてくれるかに注目したい。この試技で8mを跳べるようになれば、世界大会でも主導権が奪える選手になるだろう。
投擲では、やり投げの新井涼平が登場する。一時期の不振こそ脱して80mスローも戻って来たが、本来の実力からすればまだまだと言ったところ。五輪出場はWAポイントで出場圏内に入っているが標準記録(85m00)は突破できておらず、安心できない。コロナ禍において公平を期す為の記録凍結期間中ではあるが、標準突破への足掛かりになるようなビックスローを見せることが出来るか。予選は25日決勝は26日に行われる。
男子最後の注目選手は、十種競技の第一人者右代啓祐(スズキ浜松AC)。 新井同様にWAのポイントで五輪出場圏内に入っているものの、右代はボーダーライン上。今期初試合で、標準突破への手応えを掴めるか。前半5種目が23日、後半5種目は24日に行われる。
文/芝 笑翔