第68回全日本実業団対抗陸上競技選手権が9月18日より三日間の日程で、埼玉・熊谷スポーツ文化公園陸上競技場にて行われた。
好記録が生まれたたのは女子5000m。大会初日の女子ジュニア3000mでも大会新の8分52秒80の好タイムで優勝した廣中璃梨佳(日本郵政グループ)が1周72秒をきっちりと刻むハイペースに、ベテラン新谷仁美(積水化学)、ケニア人のR・ムワンギ(ダイソー)が付いていく。レース後半からは廣中に変わり新谷が先頭にかわり72秒ペースを刻み続ける。4000mの通過が12分丁度と、2005年に福士加代子(ワコール)がマークして以来の15分切りが狙えるペースを維持。廣中も懸命に追走、ムワンギは3番手の位置を変えない。ラスト1周、外側から廣中が仕掛けるが、新谷も譲らない。間隙を突くようにスパートをしたのはムワンギ。廣中はここで突き放され、新谷も必至に追い縋ったが、わずかに届かず、そのままムワンギが14分55秒32のタイムで逃げ切った。
2着に終わったものの新谷のタイムは14分55秒83、3着の廣中も14分59秒37と日本歴代2位、3位となる15分切りを達成した。
今期1500mを中心に大会に出場しスピード強化に取り組み、その成果を存分に見せ付けた新谷は、今後、12月に行われる長距離日本選手権でオリンピック参加標準記録を突破している10000mでの代表内定を目指していく事になると思われる。
同じく5000mの標準記録を突破している廣中はには、今大会に出場の無かった、絶好調の田中希実(豊田自動織機TC)が待ち受けている。日本選手権では今大会ではお預けになった日本記録(14分53秒22、福士)更新も期待出来そうだ。
女子やり投げでは、日本記録保持者の北口榛花(JAL)が63m45の大会新記録をマークし貫録を示した。8月のGGPでは60mに届かない平凡な記録に終わっていたが、5投目に62m88と今期初の60mオーバーを記録すると、最終投擲では更に記録を伸ばした。北口は試合の中で投擲を修正していく能力に長け、投擲を重ねるに連れて記録を伸ばしていくタイプだが、世界大会で安定した成績を収めるには序盤から60mを投げる試合の入り方、その為の準備が課題となるだろう。
男子の走り高跳びでは真野友博(しんのともひろ、九電工)が2m31の高さを3回目の試技で成功、五輪標準記録の2m33は3回失敗となったものの、戸邉直人(JAL)、衛藤昴(味の素AGF)に続く五輪代表候補に名乗りを上げた。
男子3000m障害では、山口浩勢(愛三工業)がJ・ディク(日立物流)、P・キプラガト(愛三工業)の二人のケニア人選手に食い下がり、8分25秒34のタイムで3着に入った。7月のホクレンDCに続く好走で、実力を証明した。優勝したディクのタイム、8分24秒38は大会新記録。
その他のトラック種目、男子100mは日本選手権を10日後に控えて、有力選手がそちらへ向けての調整を選択し欠場が相次いだなか、ベテランの草野誓也(アクセルTC)が10秒30で優勝、昨年のドーハ世界選手権4×100mリレーで2走を務め、銅メダル獲得に貢献した白石黄良々(セレスポ)は10秒32で2着に終わった。
200mはリオ五輪4×100mリレー銀メダリストの飯塚翔太(ミズノ)が20秒47で快勝、日本選手権へ向けて調子を上げて来た。
100mHでは予選で13秒38の好タイムをマークした今期好調の金井大旺(ミズノ)が日本選手権に備えて決勝を回避、日本記録保持者の高山峻野(ゼンリン)が13秒51で制した。高山はレース後に「スタートの良い金井選手が欠場になり、他の選手も控室で喜んでいた」と語っており、日本選手権への駆け引きは既に始まっているようだ。また、400mHは五輪参加標準突破者の安部孝駿(ヤマダ電機)が49秒38で制した。
長距離種目の5000mでは坂東悠汰(富士通)が13分22秒60の好タイムで4位に入る健闘。優勝は13分10秒64の大会新をマークしたJ・ディクで、3000m障害に続き2冠を達成した。
女子の100mは今期急成長中の鶴田玲美(南九州ファミリーマート)が11秒79で優勝、2着には11秒85で湯淺佳那子(三重県スポーツ協会)、100mHが専門の寺田明日香(パソナグループ)が11秒93の3着で続いた。日本記録保持者の福島千里(SEIKO)は12秒25で予選で姿を消した。
女子200mは大石沙也加(セレスポ)が23秒85で制して今期の好調ぶりをアピール、400mは実力者青山聖香(大阪成蹊学園職員)が53秒55で完勝。
100mHは寺田、清山ちさと(いちご)木村文子(エディオン)が回避した中、8月のANG福井で追い風参考ながら12秒87をマークして波に乗る青木益未(七十七銀行)が13秒13できっちりと勝ち切り、400mHでは宇都宮絵莉(長谷川体育施設)が58秒12で制し、不調に終わったGGPからしっかりと立て直してきた。
中、長距離では卜部蘭(積水化学)が800mを2分5秒26、1500mを4分12秒44で制し二冠を獲得。3000m障害は19歳の若手、山中柚乃(愛媛銀行)が9分50秒05の今シーズン日本ランキング1位となる好タイムで制覇。
10000mは昨年故障に苦しんだ鍋島莉奈(日本郵政グループ)が、ラスト1周で切れのあるスパートを見せて32分3秒40で制し復活の狼煙を上げ、2着には32分6秒46で松田瑞生(ダイハツ)が飛び込んだ。
フィールド種目の男子走り幅跳びは、標準記録を突破している津波響樹(大塚製薬)が7m92で制したが、日本記録保持者の城山正太郎(ゼンリン)は7m61に終わり、今大会でも不振脱出とはならず。
棒高跳びは山本聖途(トヨタ自動車)が5m50の高さに成功。優勝を決めた後に5m71に挑んだがクリアは成らなかった。
投擲では、砲丸投げの佐藤征平(新潟アルビレックスRC)が日本歴代7位に並ぶ18m20の自己ベストで優勝。
GGPで84m05のビッグスローを見せていたやり投げのディーン元気は優勝を果たしたものの、小雨で足元の悪いコンディションの影響も有ったのか記録は76m64に留まった。
女子の走り高跳びは優勝の津田シェリアイ(築地銀だこ)が1m85をクリア。この記録は日本歴代10位の好記録だ。
走り幅跳びは嶺村優(オリコ)が6回の試技全てで6mを超える抜群の安定感を発揮して6m11の記録で制し、秦澄美鈴(シバタ工業)、中野瞳(和食山口)の実力者二人は共に3回ファウルで記録なしに終わっている。
三段跳びでは森本麻里子(内田建設)が出場選手中唯一の13mオーバーとなる13m26で優勝を果たした。
投擲では、ハンマー投げの渡邊茜(丸和運輸機関)が65m22の好記録で制した。
既に東京オリンピック出場が内定している競歩選手では、20㎞競歩の代表に内定している京都大学出身の山西利和(愛知製鋼)が18分34秒88の日本新記録で優勝し、順調な調整ぶりを伺わせ、同じく高橋英輝(富士通)が18分51秒25で2位に入っている。50㎞代表の鈴木雄介(富士通)、女子20㎞代表の、岡田久美子(ビックカメラ)、藤井菜々子(エディオン)は今大会にエントリーしていたが欠場となった。
また、男子マラソン代表に内定している服部勇馬が男子10000mに出場し、27分47秒55の自己記録をマーク、女子マラソン代表の前田穂南(天満屋)、一山麻緒(ワコール)も女子10000mに出場、前田は4000m過ぎから先頭グループを引っ張る積極的な走りで32分8秒06で3位、一山も9000m過ぎまで先頭集団に食らい付く粘りを披露、32分20秒58と最後はやや疲れたが4位に入った。
一山は最終日の5000mにも出場し、15分36秒11で走っている。
今大会に出場した代表内定各選手は、ここまでの取り組みへの手応えや新たな課題を口にしており、五輪本番を見据えた有意義な大会となったようだ。
その他の競技結果は以下の通り。
男子ジュニア1500m 宮木快盛(大塚製薬) 3分58秒15
男子400m 佐藤風雅(那須環境技術センター) 46秒39
男子800m 梅谷健太(サンベルクス) 1分50秒33
男子1500m 館澤亨次(横浜DeNA) 3分40秒73
男子三段跳 池畠旭佳瑠(駿河台大非常勤) 15m85
男子円盤投 堤雄司(ALSOK群馬) 59m22
男子ハンマー投 柏村亮太(ヤマダ電機) 69m12
女子棒高跳 那須眞由(RUN JOURNEY 4m10
女子砲丸投 吉野千明(日体大職員) 14m62
女子円盤投 辻川美乃利(内田洋行) 52m63
文/芝 笑翔