2020年トラック&フィールドの総決算!第104回日本陸上選手権プレビュー

第104回日本陸上選手権が10月1日より三日間の日程で新潟県デンカビックワンスタジアムに於いて開催される。本来であればオリンピック選考会として6月に開催される予定であったが、一連のコロナ禍によって東京オリンピックは一年延期となり、本大会の開催時期も秋にずれ込んだ。
選手達にとってはモチベーションの維持といった精神的な問題に加え、政府の緊急事態宣言発令による活動自粛を余儀なくされ、普段どおりの練習さえままならない困難な状況を経て迎えたシーズンの総決算の場でもある、今大会の注目選手を中心にみどころを紹介する。

この選手がフィールドに現れると、それまでの雑然としたスタジアムの空気が一気に張り詰め、その一挙手一投足に観衆の視線が集中する。男子走り幅跳びの橋岡優輝(日本大4年)も、トップアスリートだけが持つこうした「支配力」を身に纏い始めている。
元棒高跳び日本記録保持者を父に、100mHと三段跳びの元日本記録保持者を母に持ち、早くから世界を舞台に戦う事を意識してきた陸上界のサラブレッドは、期待に違わぬ成長を見せ、昨年のドーハ世界選手権でも8位に入賞。今期も、今大会と同じ舞台で開催された9月の日本インカレでは、最大4回と試技数が制限された中にあって、最終試技で一時は今期ワールドリードとなった8m29を記録(その後中国の王嘉男が8m36に更新)。本人が「このジャンプを3回目の試技までに跳ぶことが出来れば、世界で通用する。」と語ったように、好記録を出して尚もう一段の飛躍を期している。今大会では最大の武器である研ぎ澄まされた集中力で、課題となっている1回目の跳躍での8m越えを見せ、3回目までにアジアのライバル、王に奪われたワールドリードを奪還する8m36越え、更に今大会にも出場する城山正太郎(ゼンリン)の持つ8m40の日本記録を上回る跳躍が出来れば、東京オリンピックのメダルがはっきりと視界に入って来るだろう。

女子やり投げの北口榛花(JAL)もワールドクラスに近付きつつ有る選手だ。昨年の世界選手権では予選落ちに終わったものの、その後のシーズン最終戦で2019年世界ランク7位となる66m00の日本記録をマークし、鬱憤を晴らした。 今シーズンは序盤こそ思うような投擲が出来ていなかったが、直近の全日本実業団選手権では最終6投目に63m45を投げて優勝し、調子も上がってきた。北口の良さは、投擲を重ねるごとに記録を伸ばす試合の中での修正力に有るが、3回目までに60mオーバーの投擲が出来なければ、世界の決勝の舞台には残れない。 今大会では試合の入り方、集中の仕方を工夫し、1投目からビッグスローを披露できるかに注目したい。

陸上競技の華は何と言っても男子100m。今期様々な制約があった中でも、変わらぬ走りで健在ぶりを見せつける桐生祥秀(日本生命)と、リオデジャネイロオリンピック以降の度重なるケガから華麗に復活したケンブリッジ飛鳥(nike)の一騎討が濃厚だ。
桐生のシーズンベストは10秒04、ケンブリッジは10秒03と9秒台に肉迫。日本一をを決める最高の舞台での9秒台決着の期待が高まっている。
今期やや出遅れた感のある小池祐貴、多田修平の住友電工勢が好調二人に割って入るには8月のANG福井以降どこまでコンデションを上げられたかがカギになる。
尚、アメリカに拠点が有る日本記録保持者のサニブラウン・アブデル・ハキーム(タンブルウィードTC)、右膝に違和感を抱える10秒00の記録を持つ山縣亮太(SEIKO)は、今大会を欠場する。

男子100mHは世界との差が縮まってきている。その立役者が昨年の世界選手権の準決勝で、6台目のハードルでバランスを崩すまで先頭争いを演じる善戦を見せた高山峻野(ゼンリン)だ。今期は日本記録(13秒25)をマークした昨年ほどの勢いはないが、それでも8月のANG福井で13秒34をマークし、全日本実業団では13秒51のタイムながら優勝するなど調子を上げて来た。
その高山を共に出場した大会で悉く押さえ、今期絶好調なのが全日本記録保持者の金井大旺(ミズノ)。ANG福井では高山の持つ日本記録に際どく迫る13秒27で優勝、直近の全日本実業団では予選で出場選手中トップタイムとなる13秒37で走った後に決勝をパス、今大会に備えて来た。今期自己記録を13秒39mまで伸ばしてきた石川周平(富士通)を加えた3人による、日本記録越えのハイレベルな争いが実現しそうだ。

女子の100mHも男子同様に記録の期待が高まっている。8月のANG福井の予選で日本記録(12秒97)保持者の寺田明日香(パソナグループ)が追い風参考(+2,3m)ながら12秒92をマークすると、決勝では青木益未(七十七銀行)が寺田を押さえて優勝、こちらも2,1mと風に恵まれなかったが12秒87を記録。公認記録に限りなく近い条件で、日本記録を大きく上回るタイムを叩き出して見せた。今大会ではこの時に幻に終わった日本記録更新が現実のものとなるか。
今期自己ベスト(13秒13)を記録するなど好調だった清山ちさと(いちご)や、WAランキング日本人トップでオリンピック代表争いをリードする木村文子(エディオン)がケガや調整不足で欠場するのは寂しいが、それでも昨年に一気に記録を伸ばしてきた福部真子(日本建設工業)、田中佑美(立命館大学4年)、鈴木美帆(長谷川体育施設)に加え、ベテラン紫村仁美(東邦銀行)も調子を上げてきており、更には今期に入り、田中を降して日本インカレを制するなど急成長を見せている島野真生(日本体育大学1年)など有力選手が目白押し。
予選からしっかりと走らなければ先のラウンドに進むのも難しい、最も厳しい入賞争いが待ち構えている種目とも言えそうだ。

月のホクレンディスタンスチャレンジシリーズに於いて1500mから5000mまで様々な種目で好タイムをマークし、8月のGGPでは公言通りに1500mの日本記録を4分05秒27に塗り替え田中希実(豊田自動織機TC)の参戦で俄然面白くなってきたのが女子800m、1500mの中距離2種目。
昨年にこの2種目を制している卜部蘭(積水化学)が強敵になるが、特に800mでは、5000mが専門ながら中距離を戦うスピードも併せ持つ田中という異分子が加わることで、卜部、川田朱夏(東大阪大学3年)、塩見綾乃(立命館大学3年)、広田有紀(新潟アルビレックスRC)らこの種目を主戦場にしてきた選手達にどういった化学反応を齎すか、大いに楽しみだ。
久しく破られていない杉森美保のもつ日本記録(2分00秒45)を更新し、1分台に突入するような事も全くないとは言い切れない。

その他男子では、2m30オーバーのベスト記録を持つ戸邉直人(JAL)と衛藤昴(味の素AGF)の長らく続いた二人の争いに、全日本実業団で2m31をクリアして優勝した真野友博(九電工)が割って入りそうな走り高跳び、GGPで84m05のビッグスローを見せたディーン元気(ミズノ)と新井涼平(スズキ)の対決となりそうなやり投げにも注目。

女子では今期大幅に自己記録を更新している兒玉芽生(福岡大3年)、鶴田玲美(南九州ファミリーマート)が更に記録を伸ばし、福島千里(SEIKO)の保持する11秒21にどこまで迫って来るかに期待のかかる女子100mや、先の全日本実業団で、女子では久々の好記録となる1m85をクリアした走り高跳びの津田シュリアイ(築地銀だこ)にも注目したい。

今期は先に触れたように、コロナ禍により例年とは比較にならないほど活動が制限された中で迎えた特殊なシーズンとなっている。この状況下で充分な練習や実戦が積めなかったためか、シーズンが深まるにつれ、実績のある有力選手にも故障者が目立つようになってきた。今大会でも先述した選手の他、男子400mのウオルシュ・ジュリアンも今大会を回避している。 来年夏に開催が予定されている東京オリンピックを睨んだ時に、長期スパンで捉え直し、ここで無理をせずにじっくりとトレーニング法から改めて、来シーズンに総てを賭けるのも選択肢の一つだろう。 また反対に、この日本選手権でしっかりと実績を残し、来期への手応えを得て置きたいという選手も多いかと思われる。
今年の舞台、デンカビッグワンスタジアムで先日開催された日本インカレでは、走り幅跳びの橋岡の記録の他にも、男女の100mなどで好記録が生まれている。出場する選手達の今できる精一杯の躍動を、楽しみに待ちたい。

文/芝 笑翔

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