第97回箱根駅伝予選会が10月17日に開催される。今年はコロナ禍により、従来の自衛隊立川駐屯地をスタートし昭和記念公園を周回するコースから、立川駐屯地内のみを周回するコースに変更して実施され、出場12名のうち上位10名のハーフマラソンの合計タイムによって争われる。今期は記録会の開催が少なく、判断材料も多くはないが、全46校の大学が10枚の箱根本選出場切符を賭けた戦いの展望を探って行く。
予選会のトップ通過を争うと見られるのは中央学院大学、中央大学、日本体育大学の3校。
中央学院大は前回大会で11位となり、5年間守り通したシード権を逃し、6年振りの予選会出場。前回の箱根本大会で1区5位と健闘した栗原啓吾(3年)、今年2月に行われた丸亀ハーフで61分台を記録した戸口豪琉(4年)の二人は日本人選手個人トップも狙え、昨年ケガに苦しんだエース、高橋翔也(4年)も無事エントリー。その他昨年本大会6区で58分台の激走を見せた武川流以名(2年)ら実績のある選手が揃い、盤石の布陣となっている。
中央大は就任5年目の藤原正和監督が自らスカウトしてきた最初の世代がいよいよ4年生となり、正念場を迎える。1万メートル28分台の記録を持つ大森太楽、三須健之介の4年生に、三浦拓朗、森凪也の日本人トップ候補の3年生、さらに距離適性は未知数だが、夏のホクレンで5000mのジュニア日本記録を樹立したスーパールーキー吉居大和も加わり、戦力は充実している。
日体大は前回箱根1区で3位、丸亀ハーフで61分台をマークした大エース池田耀平(4年)の存在が大きい。その池田や、昨年予選会16位の藤本珠輝(2年)で大きくタイムを稼ぐことが出来、中堅選手の層も厚い。
手堅く予選を通過できそうなのが、神奈川大学、順天堂大学の2校。
神奈川大はエース力こそ先述の3校からは見劣りがするものの、本大会の経験者も多く、また一昨年は予選会総合3位、昨年は2位とこと予選会に関しては安定感がある。本大会で2区を走ったエース候補北崎拓矢(4年)はエントリーから漏れたが、7区を区間一ケタの8位でまとめた川口慧(3年)5区6位と気を吐いた井出孝一(4年)1区13位ながら62分台のタイムで粘りの走りを見せた西方大珠(3年)らがチームを牽引する。10000m28分台の小笠原峰士(4年)、三大駅伝は未経験ながら、ハーフマラソン63分台の記録を持つ鈴木玲央(2年)にも力がある。
順大は10000m28分台ランナーを7名抱えるうえ、3000m障害で日本歴代2位の好記録を叩き出した話題のルーキー三浦龍司の存在もあるが、上位に推しても良かったのだがここ数年トラックのスピードが駅伝の成績に結び付いておらず、ロードを苦手にしている選手が多いのがもどかしいところ。タイムの割にエース格と呼べる選手はハーフマラソン62分台を記録している清水颯大(4年)くらい。前回箱根4区9位の実績がある野口雄大(4年)は故障明けで万全とは言えず、距離適性が未知数で、12月には3000m障害のオリンピック選考会が控える三浦に多くを託すのは無理というもの。そのため評価を上位3校より落とした。
予選通過は有力だが、一つ歯車が噛み合わなければ、奈落の底も有り得るのが拓殖大学、日本大学の共に強力な留学生の在籍する2校。
拓殖大は昨年の箱根本大会の2区で1時間6分16秒のタイムで区間2位となったレメティキ(2年)という大砲の存在があるが、日本人エース石川佳樹がエントリーを外れる大きな痛手。27分台のレメティキを除けば10000m28分台の選手もおらず、選手層も厚くはない。しかしながらここ数年ロードでは持ちタイム以上の力を発揮し、競り合いに強く、粘り強く走り抜く事が出来ている。レメティキが個人トップ争いをして大きくタイムを稼ぎ、箱根経験のある竹蓋草太(3年)、兒玉陸斗(3年)吉原遼太郎(4年)らの手堅い走りで予選通過をめざす。
予選通過が有力と見られていた日大は直前にきて黄色信号が灯った。実業団経験も有る留学生ドゥング(2年)はベンジャミン、ワンブィといった爆発力のあった先輩留学生に比べると若干パンチ不足のうえ、コロナ禍でケニアからの来日も遅れ、コンデションが未知数なところが有る。また昨年の箱根6区で区間4位と目の覚めるような激走を見せた宮崎佑喜(4年)ハーフマラソン63分台の記録を持つ野田啓太(4年)ら主力がメンバーから外れている。直前の早稲田記録会でも記録が伸びず、予選通過に向けて暗雲が漂い始めた。予選通過には、ドゥングを始めハーフ63分台の記録を持つ横山徹(4年)、武田佑太郎(4年)、樋口翔太(2年)の日本人主力が大きくタイムを稼ぎ、ロード力は未知数ながら早稲田記録会で10000m28分台を記録した新戦力、小坂太我(3年)が上手くハーフの距離を纏められるかに掛かっている。
前回で本大会に出場したが、今年は予選突破のボーダーラインにいるのが、法政大学、国士館大学、筑波大学の3校。
法大は昨年本大会で主力に故障が相次ぎ、シード権を逃して4年ぶりに予選会に回った。巻き返しを図りたいところだが、ハーフ62分台の記録を持つエース鎌田航生(3年)、昨年4区で8位と健闘した河田太一平(2年)以外の主力候補だった3、4年生複数がエントリーから外れ厳しい状況。
国士館大は個人1位の有力候補のヴィンセントが頼みの綱。ヴィンセントが大きくタイムを稼ぎ、前回の予選会を二ケタ順位で走っている清水悠雅(3年)を中心に、昨年非常に上手く機能した集団走が今年も上手くはまれば、予選通過が見えて来る。
筑波大は昨年は予選会を6位で通過し26年ぶりに本大会出場を果たした。結果は20位に終わったが、箱根路を経験したメンバーの大半が今回もエントリー。中でも西研人(4年)は箱根1区11位と健闘した後、丸亀ハーフでは61分台をマークし、今大会では日本人トップの有力候補に数えられるほどに成長している。昨年の予選会で20位の猿橋拓己(3年)、昨年予選会46位、高校時代は全国高校駅伝で鳴らした相馬崇史(4年)ら主力の力で2年連続予選突破を目指す。
前回、本大会出場を逃したが、今回は予選突破を果たしたいダークホースが、麗澤大学、上武大学、駿河台大学、城西大学の4校。
麗澤大はここ2年間箱根予選会11位、特に昨年は10位と僅かに26秒の差で涙を飲んだ。集団走が非常に上手く、昨年の予選会ではボーダーを争う事になるチーム10番手の選手の力は、本選に出場をした大学に劣っていなかった。タイムを稼ぐことが出来るエースの出現が待望されるが、10000mで28分台をマークした杉保滉太(4年)、昨年の予選会でチーム3番手だった椎野修羅がその候補。この二人が一皮剥けた走りが出来れば、念願の初出場を大きく手繰り寄せる事も可能だ。
上武大はお家芸の集団走が十分機能せず、初出場からの本選連続出場を11で途絶えさせてしまった。今年は昨年予選会12位でハーフ61分台の記録を持つ岩崎大洋(4年)、同予選会18位だった坂本貫登(4年)の他校エースに比肩しうる二人に加え、10000m28分台の記録を叩き出した村上航太(2年)も大きくタイムを稼ぐ事が期待できる。ここに集団走グーループがかつてのような強みを発揮出来れば、2年振りの本選復活は夢物語では無くなって来る。
駿河台大は10000m27分台の走力を持つ留学生ブヌカ(4年)の出来に大きく左右されるが、日本人エース吉里駿(4年)も28分台を記録するなど走力が上がり、河合拓巳も28分台をマーク。昨年予選会を二桁順位で走った町田康誠(2年)阪本大貴(3年)と5人まではある程度計算が出来、6番手以降の選手の粘りが予選突破への鍵になる。かつて法政大学の一区で箱根を沸かせた徳本監督の采配にも注目だ。
昨年の全日本大学駅伝で3区2位の好走を見せたエース菅原伊織(4年)を擁する城西大は、前回の予選会では主力クラスのまさかの大不振で不覚を取った。2年ぶりの出場を狙う今年は菅原と、昨年予選会32位とロードに強い菊池駿弥(4年)箱根本選の経験が有る雲井崚太(4年)の実績の有る3人がどのくらいタイムを稼げるか。10000mの上位10人の平均タイムはボーダーに近付いており、やはりこの3人にチームの浮沈が掛かっている。
その他、山梨学院大学はは留学生ムルワの欠場の穴が大きく、名門大東文化大学はまだ再建途上にあり、今回は圏外か。
当日の立川の天候は雨で、気温は14度との予報が出ており、暑さが厳しくスローペースになった昨年と打って変わってのハイペースが予想される。但し雨の降り方によっては選手の低体温や、痙攣などのアクシデントにより、大きな順位変動が起こる可能性もある。 学連幹事が最後の10校目を読み上げるその時、今年はどんなドラマが生まれるのだろうか。
文/芝 笑翔