10月18日、山口維新みらいふスタジアムにおいて田島直人記念陸上が行われ、コロナ禍で規模縮小を余儀なくされた陸上の日本グランプリシリーズ(以下日本GP)が幕を開けた。日本GPシリーズは、WA(世界陸連)のGPシリーズを手本に2018年に創設された、指定大会での順位、記録を元にしたポイントをシリーズを通して争い、総合成績トップの男女1名ずつを「日本グランプリシリーズWinner」として表彰する大会だ。
今年は、既に行われた山口大会(田島記念)、10月24日開催の大阪大会(木南道孝記念陸上)、10月25日開催の北九州大会(北九州陸上カーニバル)、11月3日開催の新潟大会(Denka Athletics Challenge Cup 2020)の4大会に、コロナ禍の特別措置として、既に行われたSEIKOゴールデングランプリと日本選手権がポイント対象大会となっている。
24日に開催が迫る木南記念には、女子100mHに今年の日本選手権を制した青木益未(七十七銀行)、日本記録保持者の寺田明日香(パソナグループ)ら、トップ選手がエントリーに名を連ねた。ここでは、長距離を除くトラック種目で、東京オリンピック出場の可能性が最も高い、その女子100mHにポイントを絞り、特に青木、寺田を追いかける存在の若手注目株を中心に見どころを探って行く事にする。
注目の若手選手の一人目は藤森菜那(ゼンリン)。 中学生の頃から名の知られた逸材で、浜松市立高校1年時には日本ユース選手権で優勝するなど将来を嘱望されていたが、高校3年時には故障に見舞われ、明治大学入学後もしばらくは記録が停滞していた。それが昨年、大学ラストイヤーを迎えると、これまでに溜まっていた鬱憤を一気に晴らすように記録が伸び始め、寺田明日香が日本新記録を叩き出した富士北麓ワールドトライアルでは、自己ベストの13秒32をマーク。今期からは明大時代の先輩に当たる高山峻野を追うような形でゼンリンに入社し、シーズン当初は思うような走りを見せられなかったが積極的に大会出場を続け、秋に入って次第に状態が上向いてくると、10月3日の日本選手権では青木、寺田には遅れを取ったが、大混戦の3位争いを制する勝負強さを見せた。続いて出場した田島記念では13秒26の自己ベストをマークして優勝を果たし、シーズン最終盤のここに来て最も勢いを感じる選手だ。
二人目は金井まるみ(ドトールAC)。青山学院大学時代から、関東インカレ、日本インカレの上位入賞の常連ながら、日本選手権の決勝の舞台へはなかなか届いていなかった。社会人1年目となった今期、9月の全日本実業団選手権では100mに挑戦し4位に入賞するなどスピードに磨きをかけ、日本選手権は0秒02の差で決勝進出を逃したが、好スタートからスピードに乗って先行するレース振りにはっきりと進境が伺われた。今のところ自己ベストは、日本選手権の予選と、先日の田島記念でマークした13秒46に留まっているが、スピードタイプのハードラーは今期の青木益未のように、技術とスピードが上手く噛み合えば一気に記録を伸ばしてくる例も珍しくはない。金井もそうした可能性を秘めた一人だろう。
また、今期初戦の東京選手権で青木を降す好スタートを切りながら、その後はやや停滞してしまった感のある、13秒21のベストタイムを持つ鈴木美帆(長谷川体育施設)、やはり昨年に13秒13のベストタイムを出しながら今期は不調に陥っている福部真子(日本建設工業)の若手実力者の二人は、今大会で少しでも良い感触を得て、来期のオリンピックイヤーに臨みたいところだろう。
加えて、今期13秒36の自己ベストをマークしている中島ひとみ(長谷川体育施設)、既にキャリアは中堅の域に差し掛かったて来たが、中島と同タイムの13秒36の自己ベストを記録し、日本選手権では決勝に進出して存在感を見せた藤原未来(住友電工)といった、今期日本女子100mH陣に更なる厚みを齎した選手達が、寺田、青木、紫村仁美(東邦銀行)らとの差をどれだけ縮める事が出来るか。
木南記念は、結果によってはまた、この種目のオリンピック出場を巡る勢力図が大きく変わる大会となるかもしれない。
文/芝 笑翔