師走の博多を彩る、第74回福岡国際マラソンが12月6日、平和台陸上競技場を発着点とする42,195㎞のコースで行われる。今年の大会はコロナ禍により無観客、また外国人選手を招待せず、実業団在籍の外国人選手を含めた87名の国内登録選手が参加しての実施となる。
当初出場を予定していた、東京オリンピックマラソン代表の服部勇馬(トヨタ自動車)、出場選手中一番のベストタイム、2時間6分45秒の記録を保持している高久龍が欠場。特に服部の不在は、「2時間5分台で走るだけの準備をしてきた」との事前の発言も有り、大迫傑のもつ2時間5分29秒の日本記録の更新の期待も高まっていただけに残念だが、本命不在のレースとなった中、新たなスター候補の誕生に期待をしたい。
そのスター候補の筆頭として名前を上げたいのが、吉田祐也(GMOインターネットグループ)だ。今年2月、青山学院大4年時に出場した別府大分毎日マラソンでは、外国人ランナーに食い下がり、39㎞付近では一時先頭に踊り出る積極果敢なレース振りで、40㎞まで藤原正和(当時中央大、現中央大学駅伝監督)の持つ2時間8分12秒を上回る快走を披露その後は脚が止まり、優勝争いから脱落したものの、2時間8分30秒の好タイムをマーク、マラソン適正と勝負センスの高さを見せ付けた。その後急遽進路を変更し、競技続行を決断しGMOアスリーツに加入、5000m、10000mで自己ベストを更新するなど、今期も好調で、俗に鬼門とも言われる2回目のマラソンでも好結果を出せるか、注目だ。
東京オリンピックマラソン代表の補欠候補選手となっている、「4人目の男」大塚祥平(九電工)も期待の高い選手だ。昨年のMGCでは序盤は出遅れたものの、30㎞手前で代表となった中村省吾(富士通)服部、大迫傑(nike)に追い付き、先行していた設楽悠太(Honda)を抜き去った後も40㎞手前まで先頭集団に食らい付く大健闘、粘りの走りで4位に入賞。駒澤大学時代は箱根の山登り、5区で鳴らし、起伏のあるコースや、降雨、低温、逆に夏場のレースなど難しい条件でも常に上位に顔を出す安定感が強みの反面、ベストタイムが2時間10分12秒と、スピードレースの経験がやや乏しいのが難点。MGCの後に出場した3月のびわ湖毎日マラソンでは、デビュー戦以来の失敗レースとなってしまい、真価の問われる今大会は、2時間7分台を目標としている。
大塚同様、MGCで力の有るところを見せた竹ノ内佳樹(NTT西日本)も上位争いに加わりそうだ。MGCでは33㎞付近で先行グループに追いつく執念を見せ、38㎞で8人に絞られた先頭集団から遅れるも、その後踏ん張って2人を抜き、6位に入賞。その1か月半後の11月3日にはニューヨークシティマラソンに挑戦し、2時間11分18秒のタイムで8位と好走。誰よりも先んじてパリ五輪への第一歩を踏み出したところに、意気込みの強さが窺える。2017年に自己ベストの2時間10分1秒をマークして、MGC出場権を獲得した相性の良い大会で自己ベストの大幅更新を狙いたい。
他にも、3月のびわ湖毎日マラソンで悪天候の中2時間8分59秒をマークした作田直也、別大マラソンで2時間8分53秒で吉田に次ぐ日本人2位にとなった小山司(SUBARU)も今後の伸び代を感じさせる好選手だ。
こうした期待の若手選手にとって一筋縄でいかない存在なのが、実績、経験の豊かなベテラン勢。簡単に花は持たせてくれないだろう。
藤本拓(トヨタ自動車)は、2018年、大迫が最初の日本記録を叩き出したシカゴマラソンで、激しくペースの乱高下する難しいレースの中30㎞手前まで先頭集団に取り付き、その後は単独走になりながらも脚を残しながら2時間7分57秒でまとめ切る冷静なレース運びを見せ、現在は2時間2分台の記録を持つベルハヌ・レゲセに先着した実績を持つ。昨年の大会では、30㎞過ぎのペースアップに対応できず、2時間9分36秒の2位に留まっていた。その後、優勝者のドーピング失格により順位は繰り上がったが、今大会ではすっきりと勝利を手にしたいという強い思いがあるはずだ。
岡本直己(中国電力)はニューイヤー駅伝や、全国都道府県男子駅伝でのごぼう抜き記録で、ロードレースファンの間で「ミスター駅伝」として親しまれてきたが、マラソンでも42,195㎞を走り切るコツを掴んだのか、2018年の北海道マラソンで初優勝すると、MGCでは10位と粘り、今年3月の東京マラソンでは初のサブテン、9分台を一挙に飛び越えて2時間8分37秒の好記録をマークし意気軒高。経験豊富なうえに36歳にしてなお進化を続け、マラソンでは遅咲きながら、今まさに旬を迎えている選手だ。
リオデジャネイロオリンピック代表の佐々木悟(旭化成)は、あと一歩のところでMGC出場の権利を獲得出来なかったが、2月の別大マラソンで2時間10分25秒をマークし、まだまだ力の有るところを示していた。今大会が引退レースとの報道も有るが、2015年、オリンピック代表を決定づけた思い出の舞台でその時以来のサブテンを達成し、出来る事なら決意を翻してもらいたい。
そのほか、近走は不振気味な人気者のプロランナーの川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)や、園田隼(黒崎播磨)は復活を期し、レースに出れば常に10分台近辺の安定感が有ったものの、爆発力にやや欠けていた福田穣(NNランニングチーム)は西鉄を退社し、プロランナーとして世界記録を保持するキプチョゲと同じチームに移籍、背水の陣で挑む。
神野大地(セルソース)も好記録ラッシュに沸いた東京マラソンで凡走に終わり、今大会でプロランナーとしての存在価値を高めたいところ。
ここまで数々のランナーの名を上げてきたが、こうして見ると、服部の不在は却って勝負を面白する事になりそうだ。混戦の中、真っ先にゴールテープに飛び込むのは誰になるのか。明日12時10分、号砲と共に選手達は博多の街へ駆け出して行く。
文/芝 笑翔