第40回大阪国際女子マラソンが1月31日、コロナウィルス感染拡大防止策の為に変更された長居公園内周回コースで開催され、東京オリンピックマラソン代表に選出されている一山麻緒(ワコール)が2時間21分11秒で優勝を飾った。例年の大会と異なり、川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)ら男子選手がペースメーカを担ったため、男女混合レースにおける大会記録として扱われる。 MGCで優勝を飾りオリンピック代表となった前田穂南は2時間23分30秒の自己ベストで2位に入った。
今大会では東京オリンピック代表の二人が顔を揃えた事もあり、オリンピック本番でのレースにスピード面において自信を持って挑ませるために、野口みずきの持つ2時間19分12秒の日本記録とほぼ同じ1㎞3分18秒のペースが設定された。
レースは序盤の2㎞ほどはこの設定より若干遅い入りになったが、それでもこのペースを選択したのは、一山、前田の二人だけ。その後は第1ペースメーカーの川内、岩田勇治(三菱重工)の完璧なペースメイクで5㎞を16分32、10㎞を33分ジャストと設定通りのタイムで通過。一山はハイペースの中でも川内、岩田の動きに自分の動きをしっかりと合わせる事が出来ていたが、一方の前田は速い流れの中で、これまでのレースで見せていた伸びやかなストライド走法は影を潜め、ピッチ数での対応を余儀なくされているように見受けられ、リズムを損ね、レースの流れに乗りきれていないように感じられた。
その前田が13㎞過ぎに先頭から遅れだすと、レースの興味は日本記録の更新、或いは久々の2時間20分切りかという一山の記録一点に、完全に絞られた。 その一山も20㎞を過ぎた辺りからやや顎が上がり、余裕がなくなり始めた。それでも中間点の通過を1時間9分35秒と設定ペースを維持していたが、次第に右腕の振りが大きくなり、何とかペースを維持しようとする、好記録を出した昨年の名古屋ウィメンズの40㎞以降のような力みの感じられる走りに変わり始めた。25㎞では5㎞のラップが16分40秒と10秒の落ち込みで踏み止まったが、ここからペースを戻していくのは難しいと感じさせる走りになっていた。
名古屋の際は30㎞までの5㎞でラップタイムが17分まで下がり、この間少し足を溜めた事によって、その後の5㎞を16分14秒、16分31秒と爆発的なペースアップに繋げたが、その時とは各5㎞で10秒速いラップを刻んでいた事もあってか余力もなく、25㎞からの5㎞で17分02秒と自然に落ちて行ったラップを30㎞以降で大きく上げる事が出来ず、次第に日本記録更新が困難な状況に成って行く。
それでもこの30㎞以降の辛い局面で、1㎞ごとに落ち込んだタイムをまた設定ペース近くまで戻す走りを繰り返す、激しく消耗し大崩れが有ってもおかしくない状況に陥りながらなんとか立て直しを図り、35㎞からの5㎞では16分59秒と10秒ほどタイムを戻したところに、女子限定マラソン日本記録保持者としての一山の意地が感じられた。
前田も終わってみれば自己ベストと、現状示して置くべき力は発揮できたのではないか。集団から遅れてからは、自分のペースになった事もあり、大きなストライドの走りが戻っている場面も見られた。とは言え絶対的なスピードの向上という課題は依然として残った。
この二人以外に日本記録ペースに挑戦する選手が出なかった事は、パリオリンピックに向けて選手層に厚みを持たせたい、陸連長距離強化プロジェクトにとっては歯痒い事態だったかもしれない。 そんな中で、ベテランの域に入りつつある阿部友香里(しまむら)が第2ペースメーカー竹ノ内佳樹(NTT西日本)らが5㎞17分5秒をきっちり刻む集団で35㎞までペースを維持し2時間24分41秒の大幅自己ベストを記録、2秒差でMGCを逃した2年前のリベンジを果たして3位。第2集団にも男子ペースメーカを配して記録に挑戦するという今大会の意図をよく理解し、若手に手本を示した。
4位には上杉真穂が2時間24分52秒で続いた。 上杉は昨年の名古屋ではオリンピックファイナルチャレンジでハイペースとなった集団に食らい付く積極性が有り、今回は記録を作って置くために第2グループを選択したが、結果を残したことで今後の飛躍が楽しみだ。
5位には萩原歩美(豊田自動織機)が2時間26分15秒で入った。昨年暮れの日本選手権・長距離で10000mでは31分36秒04の自己ベストで6位に入賞し、好調さを伺わせ、初マラソンながら注目されていた。レースでは慎重になったのか、第2グループにも付かず17分30秒ペースの後方集団から順位を上げて行ったが、今大会の趣旨からいっても、過去のトラックでの実績を考えても、もう少しチャレンジをして欲しかった、というのが正直なところ。一度フルマラソンを経験し、次のレースでは積極性も見せてもらいたい。
この大会に臨むプロセスの中で、一山は年末年始に扁桃炎の影響で、前田は事前レースとして挑んだ山陽ハーフマラソンの後に左脚ふくらはぎに炎症が出て、共に数日間全く走れない事があったと伝えられており、最低限まとめるレースができていた反面、日本記録の更新へこれ以上ない手厚い体制が敷かれた中、期待に応える走りができたとは言い切れず、このレースにおける二人の評価はなかなか難しい。
期待された日本記録更新とはならなかったが、果敢に挑戦し、それぞれに課題を突き付けられたことが今大会の収穫であり、オリンピック本番までのプロセスでいかに修正を測り、結果に反映させていくかが今後、問われる事なるだろう。
第40回大阪国際女子マラソン結果
①一山麻緒(ワコール)2時間21分11秒
②前田穂南(天満屋) 2時間23分30秒
③阿部有香里(しまむら)2時間24分41秒
④上杉真穂(スターツ)2時間24分52秒
⑤萩原歩美(豊田自動織機)2時間26分15秒
⑥和久夢来(ユニバーサルエンターテインメント)2時間26分42秒
⑦池満綾乃(鹿児島銀行)2時間28分26秒
⑧松田杏奈(京セラ)2時間29分52秒
文/芝 笑翔