第104回日本陸上選手権大会クロスカントリー競争が、2月27日、福岡市海の中道海浜公園を舞台に開催される。優勝者には5月3日に開催される第105回日本陸上選手権大会・10000mの出場権が与えられる男女のシニアレースには、トラックでの東京オリンピック出場を目指す有力選手が多数エントリー、勝負重視の白熱したレースが繰り広げられる事になりそうだ。
男子シニア10㎞の注目選手は、田村和希(住友電工)、松枝博輝(富士通)、三浦 龍司(順天堂大1年)の三選手。
田村は昨年12月の日本選手権長距離・10000mで優勝した相澤晃(旭化成)、2位の伊藤達彦(Honda)に続く3位に入り、村山紘太(旭化成)の持つ従来の日本記録、27分29秒69を上回る27分28秒92をマークしながらオリンピック参加標準記録まで0秒92届かず、表彰式で号泣する姿が今も印象に残る。 現在10000mのWAランキングで日本人最高位の24位に位置しており、40名が出場できるオリンピックにはターゲットナンバーでの出場が有望視されているが、参加標準を破って実力で出場権を勝ち取りたいだろう。 5月の日本選手権での内定獲得へ向けて今大会の優勝をステップボードにしたいところだ。 2019年、2020年大会ではいずれも2位と惜しいところで勝ち切れず、しかも2019年は坂東悠汰(当時法大)、2020年は浦野雄平(当時國學院大、いずれも今大会は欠場)と現材富士通に在籍する選手に優勝を攫われており、今大会の優勝候補の一人と目される松枝には、絶対に負けたくない筈だ。
5000mでのオリンピック出場を目指すその松枝は、日本選手権長距離・5000mでは坂東に敗れて2着に終わったが、苦手としているロードシーズンに入って絶好調。 ニューイヤー駅伝では1区区間賞、順天堂大時代の2013年以来9年振りのハーフマラソンとなった2月14日の実業団ハーフでは1時間1分29秒の好記録をマークするなど乗りに乗っている。 専門種目の5000mでは日本選手権を2度制するなど、大舞台での勝負強さには定評が有り、今大会でもその実力を見せてくれるだろう。
三浦は昨年のホクレンDC千歳大会の3000m障害で8分19秒37の日本歴代2位の記録をマークした若手のホープ。日本選手権長距離・3000m障害を故障で欠場した後、箱根駅伝では順大の1区を任されたものの、力を発揮出来たとは言い難かった。トラックシーズン開幕を目前に控えてクロスカントリーで刺激を入れ、記録の有効期間外のため認められなかったオリンピック参加標準記録突破を改めて目指す事になりそうだ。
その他、社会人では三浦と同種目、3000m障害のリオデジャネイロオリンピック代表、塩尻和也(富士通)もエントリーに名を連ねている。実業団ハーフは1時間4分台に終わり、ゴール後の歩様もぎこちなかったため故障が心配されたが、現在のところ欠場者リストに名前が無く、出場出来ればどのような走りを見せてくれるか、体調面も含めて注目したい。
学生では昨年の大会で4位に入賞、日本選手権長距離・10000mでも27分58秒52をマークするなど進境著しく、今春よりカネボウに進む池田耀平(日本体育大学4年)、同じく今春より実業団の強豪Hondaに加入する事になった地方大学の星、川瀬翔矢 (皇學館大4年)、昨年1年生ながら箱根の2区を任され好走するも、今年は故障で走れず復活を期す岸本大紀(青山学院大2年)の走りもチェックしておきたい。
女子シニア8㎞は昨年の日本選手権長距離・5000mで名勝負を演じた田中希実(豊田自動織機TC)と廣中璃梨佳(日本郵政グループ)の再対決に注目が集まっていたが、残念ながら廣中が欠場となり、田中の独走に待ったを掛ける選手が現れるかがレースの焦点になりそうだ。
田中は昨年3000mと1500mの日本記録を立て続けに更新、また800mから5000mまで数多くのレースに出場しいずれの種目でも日本トップクラスの実力を誇る。 今年も年明け早々に都道府県女子駅伝の代替として京都行われた記録会の10000mに出場し全体1位の31分59秒89をマークしている。すべてはオリンピック代表に内定している5000mで決勝に進出し、入賞を果たすため。ケニア、エチオピア勢と互角に勝負するために、800m、1500mで絶対的なスピードを養い、10000mでは体力を強化するなど、明確な目標を持ち、今大会出場もその一環として捉えている。 それでも出場をする以上、勝負勘を磨くために一つのレースに勝つ事にも相当なこだわりを見せる選手でもあり、勝ち方にも注目をしてみたい。
田中を追う筆頭候補は萩谷楓(エディオン)か。昨年のこの大会で3位に入賞した後、ホクレンDC網走大会では田中に続く日本人2位に入り、15分05秒78をマーク。日本選手権の5000mでは田中、廣中の争いに割って入れず悔しい思いもしており、今後この種目の参加標準記録を突破して、代表争いに絡んでいく為にも今大会で田中に迫り、トラックシーズンへの手応えを掴んでおきたい。
2019年の世界陸上ドーハ大会10000mの山ノ内みなみ(京セラ)は、昨年は故障も有ってほとんどレースに出場が無く、再起をかけての今大会出場となる。本来であれば10000mのオリンピック代表を争うことの出来る実力者だけに、ここでのレース内容次第で、再び代表候補としての存在感が増していくものと思われる。
尚、第36回U20日本陸上競技選手権大会クロスカントリー競走も同日に開催され、男子8㎞、女子6㎞の競技が実施される。 明日の日本長距離界を担う選手達の力走もまた、楽しみだ。
文/芝 笑翔