2月28日、2021 Japan Athlete Games in Osaki(JAGO)が鹿児島県大崎町のジャパンアスリートトレーニングセンター大隅(JACTO)で開催される。鹿児島では昨年、国体が開催される予定であったが、一連のコロナ禍により中止となった。そこで「コロナ禍でも実施可能な陸上競技大会を開催することにより,アスリートに練習の成果を発揮する場を 提供する。併せて,2020 年に開催予定であった「燃ゆる感動かごしま国体・かごしま大会」に向け,精進 を重ねてきた鹿児島県代表選手らにトップアスリートと試合をする場を提供し,競技力の向上を図り,ア フターコロナを見据えた陸上競技大会を開催する。」ことを目的にプロジェクトが立ち上がり、クラウドファンディングで協賛を募るなど地道な努力で開催に漕ぎつけた。 日本で唯一の室内公認100mトラックを有するJACTOに、大会の趣旨に賛同した多くの東京五輪、パラリンピック出場を目指すアスリートが集い、今期初戦をを迎える注目の室内大会となった。
実施種目は男女の100m、100mH、走り幅跳び、男子棒高跳び、パラ種目など。
男子100mにはリオ五輪4×100mリレーの銀メダリスト、山縣亮太(SEIKO)が出場。 2018年のジャカルタアジア大会で10秒00をマークして銅メダルを獲得したが、以降は故障に悩まされ、昨年もSEIKOスーパー陸上で10秒43を記録したのみ。日本選手権はひざの故障のため欠場しており、久々の実戦となる。山縣の動向次第で、100mの五輪代表選手も、4×100mリレーのメダルの色も違ってくるだけに、どの程度コンディションが戻っているか、注目だ。
男子100mHには既に五輪標準を突破している高山峻野(ゼンリン)がエントリー。 一昨年のドーハ世界陸上の準決勝では素晴らしいスタートダッシュから上位争いを展開しながら、中盤でハードルに接触してバランスを崩して失速、あと一歩のところで決勝進出を逃しているだけに、オリンピックイヤーに懸ける思いは一入だろう。
まずはこの大会で好スタートを切って、悲願の五輪決勝進出への弾みにしたい。
男子走り幅跳びには同種目の日本記録保持者で、高山同様五輪参加標準記録を突破している城山正太郎(ゼンリン)が出場。昨年は年間を通して8mジャンプを見せることが出来ず、物足りなさを感じさせるシーズンだった。シーズン初戦だが、復調のきっかけとなるような跳躍を見せて欲しい。
走り高跳びに出場する山本聖途(トヨタ自動車)は、ロンドン、リオと2大会連続で五輪に出場しているが、東京へ向けてはまだ参加標準記録の5m80を跳べておらず、正念場を迎えている。2019年のドーハ世界選手権の代表江島雅紀(日本大学4年)も同様だ。共にこの記録に少しでも近い高さをクリアして、今シーズンへの手応えを得て置きたいところだろう。
女子の100mHには実力者が顔を揃え、シーズン初戦から火花を散らす好レースが期待できそうだ。 木村文子(エディオン)は昨年に五輪が開催されていればWAの定めるワールドランキングに基づくターゲットナンバーによる出場が有力視されていたが、1年延期となり、多くのポイントが有効期限を過ぎ、ランキングを大きく落としてしまった。既に今期で競技生活を終える事を表明しており、五輪出場を総決算とするためには、12秒84の参加標準記録の突破が必須の情勢となっている。昨年1年をほぼ休養に費やし、一度記録会に出場したのみだったため、国内一線級との対戦は一昨年の日本選手権以来(その後ドーハ世界陸上に出場している)久々となる。木村不在の間にこの種目の勢力図は大きく塗り替わったが、再び存在感を高める事ができるか、非常に大事なリスタートとなる。
その木村が不在だった昨年に躍進したのが青木益未(七十七銀行)。ANG福井で追い風参考(+2,1)ながら12秒88と標準記録に迫る記録で日本記録保持者の寺田明日香(パソナ)を破り、秋には日本選手権も制した。今期も勢いを持続し、更なる成長を遂げているか、こちらも五輪標準記録突破に向けて大事な初戦を迎える。
その他、昨年序盤に自己記録をマークするなど好調なシーズンを送っていたが、日本選手権を故障で棒に振ったベテラン清山ちさと(いちご)は復帰レースとなり、若手では昨年日本選手権で3位に入るなど成長著しい藤森菜那(ゼンリン)、スタートの良さに磨きがかかってきた金井まるみ(ドトールAC)らがエントリーしている。
女子100mは昨年急成長を遂げた地元鹿児島出身の鶴田玲美(南九州ファミリーマート)に注目。大東大時代はさしたる実績はなかったが、地元に戻った社会人1年目の昨年に100m11秒48、200mでは日本歴代3位となる23秒17と一気に記録を伸ばし、停滞感のあった日本の女子短距離界に新風を巻き起こした。鶴田の活躍は地元・鹿児島の、中高生選手のみならず、伸び悩んでいる多くの女子アスリートに勇気を齎したのではないだろうか。五輪を目指すリレープロジェクトのメンバーに加わり、さらなる飛躍が期待されるシーズンの初レースだ。
女子走り幅跳びでは秦澄美鈴(シバタ工業)に期待。安定して自己記録の6m45近辺を跳ぶ力があるものの、そこからなかなか殻を破り切れていないのがもどかしいところ。五輪参加標準記録の6m82はまだ遠いが、まずは一つの壁となっている6m50越えを果たして、飛躍へのきっかけを掴みたいところだ。
今大会の開催は地元陸上界の熱意、アンバサダーを務める十種競技の右代啓祐(国士館クラブ)、中村明彦(スズキAC)、パラアスリートの山本篤(新日本住設)らの尽力があったからこそ形になったものでもある。無観客の開催ではあるが、好記録に湧き、また中学生、高校生選手達の今後の励みともなる、実りある大会となることを期待したい。
文/芝 笑翔