第104回陸上日本選手権大会クロスカントリー競争が2月27日、福岡市海の中道海浜公園を舞台に開催され、男子シニア10㎞では三浦龍司(順天堂大1年)が29分10秒のタイムで、女子シニア8㎞では萩谷楓(エディオン)が25分54秒で共に初優勝を飾った。 東京五輪5000m代表に内定している田中希実(豊田自動織機TC)は26分21秒で4位だった。
圧巻の逃走劇だった。 女子8㎞では優勝の大本命だった田中希実(豊田自動織機TC)らを含む集団から、2周目で萩谷が抜け出しに掛かり、じわじわと引き離し始めた。少し仕掛けが早いかと思われたが、単独走でも萩谷は綺麗な脚捌きと力強い腕の振りを保ち続け、第二集団との差は縮まらないまま、ゴールに飛び込んだ。 既に東京五輪内定を勝ち取り、本番に向けて長期スパンで調整をしている田中と、まず今期のトラックシーズンで五輪参加標準を突破しなければならない萩谷とでは、この大会に挑む目的も、位置付けも違っていただろう。しかしながら萩谷にとっては、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの、昨年は1500mでも、5000mでも一度も先着できなかった田中に勝負を挑んで勝つ事は、大きな意味合いを持っていたのだろう。 田中に勝つにはこれしかないとばかりに早めに勝負を仕掛けたところに、このレースに懸ける強い思いが垣間見えた。
その後、差を拡げ続けたのは、期待されながら3位に終わった昨年の日本選手権5000mの後に悔しさを胸に練習を重ね、成長を遂げた証だろう。 大きな飛躍を遂げる選手には、そのきっかけになるレースが必ず有るものだが、萩谷にとってきっかけはこのレースだったと後々にそう語られることになるかもしれない、と思わせるような劇的な勝利だった。
2位に入った酒井美玖(北九州市立高3年)は追走集団に食らい付き、田中、和田有菜(名城大3年)を差し切ったラストスプリントが素晴らしく、高い将来性を感じさせた。 4月からは実業団の強豪デンソーに加入、更なる成長が楽しみだ。
4位の田中は奄美での強化合宿直後とあって、やや精彩に欠ける走りだったか。体力強化と刺激を入れる事が、今回のチャレンジの目的だったのかもしれない。今後はしっかりと疲れを取って、トラックシーズンでは巻き返しを見せてくれるだろう。
一方の男子はラスト1周で有力選手が入れ代わり立ち代わり仕掛け合う、激戦となった。残り1㎞手前で田村友佑(黒崎播磨)が先頭に出てペースアップを図ると、それまで苦し気な表情をみせていた友佑の兄、田村和希(住友電工)がスパート、抜け出しにかかったが、松枝博輝(富士通)がすかさず被せ、三浦も呼応する。 クロカン選手権名物のキャメルヒルズ手前で田村和が脱落し、三浦、松枝による現役順大生とOBの一騎討ちに。 先に仕掛けた三浦に猛然と追いすがる松枝。 最後の直線、熾烈を極めたラストスパート合戦は、三浦に軍配が上がった。 学生時代にはメイン種目が1500mで、ラストスプリントと勝負強さには定評のある松枝を、ホクレンDC3000m障害でキプラガットとのラスト勝負に一歩も譲らず先着した三浦が僅かながら抑え切った。 3位には田村和を交わした今井篤弥(トヨタ自動車九州)が入り、田村和は4着だった。
入賞までの競技結果は以下の通り
第104回陸上日本選手権大会クロスカントリー競争
男子シニア10㎞
①三浦龍司(順天堂大1年)29分10秒
②松枝博輝(富士通)29分10秒
③今井篤弥(トヨタ自動車九州)29分16秒
④田村和希(住友電工)29分17秒
⑤鈴木塁人(SGホールディングスグループ)29分18秒
⑥田村友佑(黒崎播磨)29分20秒
⑦藤本珠輝(日体大) 29分21秒
⑧川瀬翔矢(皇學館大)29分24秒
女子シニア8㎞
①萩谷 楓(エディオン)25分54秒
②酒井美玖(北九州市立高)26分20秒
③和田有菜(名城大)26分20秒
④田中希実(豊田自動織機TC)26分21秒
⑤川口桃佳(豊田自動織機)26分35秒
⑥鷲見梓沙(ユニバーサルエンターテインメント)26分58秒
⑦山ノ内みなみ(京セラ)27分11秒
⑧阿部有香里(しまむら)27分16秒
文/芝 笑翔