3月14日に開催された名古屋ウィメンズマラソン2021は、時折突風が吹き過ぎる過酷とも言えるコンディションの中、30㎞以降独走となった東京五輪候補選手(これまでの大会で言う補欠選手)の松田瑞生(ダイハツ)が2時間21分51秒の好タイムで初優勝。中間点過ぎまで松田に食らい付いた佐藤早也伽(積水化学)が2時間24分32秒で2位、後方集団から追い上げた初マラソンの松下菜摘(天満屋)が2時間26分26秒で3位に入った。松田と同じく東京五輪候補選手となっている小原怜は2時間32分03秒の18位に終わった。
バンテリンドームナゴヤに真っ先に姿を現すとサングラスを上げ、笑顔のような、安堵のような複雑な表情を見せながらゴールテープを切った。迎える山中監督と抱擁をかわす。
MGCで4位に敗れ、自らが記録した2時間22分23秒を越える事が課せられた東京五輪ファイナルチャレンジの大阪国際女子で2時間21分47秒をマークし、最終切符を掴みかけながら、一山麻緒(ワコール)に記録を更新されて五輪代表を逃した松田にとって、今回の名古屋の目標は、「過去の自分」を越える事。僅か4秒届かず、失意の日々を支えてくれた山中の姿を認めた瞬間、溢れ出す涙を留める事が出来なかった。
5㎞を16分40秒、中間点を1時間10分30秒を目安にペースが設定されたレースの序盤から、松田はPMの後ろでは無く横に陣取り自らペースを作る姿勢を見せ、最初の5㎞は16分35秒と設定より速い通過、このペースを共にする選手は少なく集団は早くも4人の第一PMの他に昨年の名古屋で2時間23分27秒をマークしている佐藤、1月の大阪国際女子で好走した上杉真穂(スターツ)、初マラソンの福良郁美(大塚製薬)を合わせた4人となった。10kmで二人のPMが仕事を終え、レースを外れた辺りから強い向かい風が選手達を襲い始め、11㎞過ぎで福良が、12㎞過ぎでは上杉が集団から零れ、13㎞からはもう一人PMがレースを外れ、集団は松田、佐藤と30㎞までを引っ張るPMのワンジル(スターツ)の3人となった。10㎞からの5㎞は風の影響も有り16分50秒にペースダウン、それでも松田はワンジルの後ろには付かずにほぼ横並びの位置取りは変わらず、佐藤はワンジルの後ろに入るが、突風にあおられてそれもままならず、右に左にと位置取りが落着かない。そんな過酷な状況のにあっても中間点は昨年に一山が2時間20分29秒の大会記録を出した時とほぼ同じ、1時間10分24秒で通過したが、次第に消耗の色が濃くなっていた佐藤も23㎞手前で遅れ始めた。
向かい風は松田にも等しく立ちはだかった。PMが一人になるまで集団後方で足を溜めていたワンジルと間隔が生じ始めると、懸命に腕を振り、また間を詰める。俯き、足元を見つめるように顎を引き、突風を堪える。思うようには伸びなくなったストライドを、ピッチの数で補った。30㎞でワンジルが外れた後は長く、苦しい一人旅となったが折り返しを過ぎて風向きが変わり、33㎞の上り坂を前に走りのリズムを取り戻した。 しかしながらここまでの体力の消耗もまた激しく、35㎞では給水ボトルを掴み損ねた。蛇行する場面も何度も有った。40㎞地点まで何とか5㎞17分ちょうどのペースを維持し、残り5㎞地点を2時間5分で通過。16分46秒で走り切れば自己ベスト。過去の自分を越える事が適う。残る力を必死に絞り出す。ドームに敷かれたカーペットの上を駆け、ゴールテープまで20mほどに迫った時、タイムは2時間21分47秒を経過していた。
涙は松田にとって必要なものだったのかもしれない。あと一歩のところで代表を逃した「過去の自分」を洗い流すために。その「過去の自分」をタイムにおいて越える事の出来なかった悔しさもあっただろう。
しかし、このようにも思う。 このレースで目にする事が出来たのは、強い向かい風の中、五輪代表を逃すという傷心とその呪縛を乗り越えようと懸命に闘い、ついにそれを果たした、新生松田瑞生の姿だったのだ、と。
「過去の自分」には4秒届かなかった。だが、名古屋ウィメンズマラソン2021は、過去のどのレースをも内容面において凌駕する、松田のベストレースだ。
名古屋ウィメンズマラソン2021結果
①松田瑞生(ダイハツ)2時間21分51秒
②佐藤早也伽(積水化学)2時間24分32秒
③松下菜摘(天満屋)2時間26分26秒
④和久夢来(ユニバーサルエンターテインメント)2時間26分30秒
⑤田中華絵(資生堂)2時間26分49秒
⑥赤坂よもぎ(スターツ)2時間26分51秒
⑦上杉真穂(スターツ)2時間27分03秒
⑧加藤 岬(九電工)2時間27分20秒
以下主な選手
⑨池田千晴(日立)2時間27分39秒、⑩福良郁美(大塚製薬)2時間28分31秒、⑪大森 菜月(ダイハツ)2時間28分38秒、⑫竹本香奈子(ダイハツ)2時間28分40秒、⑯岩出玲亜(千葉陸協)2時間30分35秒、⑱小原怜(天満屋)2時間32分03秒、⑳池本 愛(SWAC、元ダイハツのプロランナー)2時間34分33秒、㉒儀藤優花(肥後銀行、今大会最年少の20歳)2時間35分04秒、㉓山口 遥(AC・KITA、最強女性市民ランナー)2時間37分04秒、㉕伊藤舞(大塚製薬、リオ五輪代表)2時間38分07秒、㉖清田真央(スズキ)2時間38分47秒、㉗宇都宮恵理(日本郵政グループ、現役ラストラン)2時間39分40秒
文/芝 笑翔
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