秦澄美鈴が6m65の日本歴代4位の好記録! 日本女子走り幅跳びにブレイクスルーは起こるのか

スポーツの世界では一つの記録をきっかけに、それまでの停滞が信じられないほど劇的に記録が塗り替えられていくようなことが度々起こる。

陸上競技においては2018年の東京マラソンで設楽悠太(HONDA)が2時間6分11秒と高岡寿成(当時カネボウ)の持つ日本記録を16年ぶりに更新すると、同じ年の10月のシカゴマラソンでは大迫傑(当時オレゴンプロジェクト、現nike)が2時間5分50秒に、更に2020年の東京マラソンで2時間5分29秒にまで記録を伸ばし、そして今年2月のびわ湖毎日マラソンにおいて、鈴木健吾(富士通)が2時間4分56秒をマークし、日本マラソン界も2時間4分台の時代に突入した。

男子走り幅跳びでは2019年4月のアジア選手権で橋岡優輝(当時日大、現富士通)が8m22をマークし、2004年に寺野伸一(当時サンクラブ)が8m20を記録して以来久々の8m20越えを果たすと、同年8月に行われたANG福井において、その橋岡が8m32を記録して森長正樹(当時日大)の打ち立てた8m25の日本記録を実に28年ぶりに更新。しかしながらアンタッチャブルレコードを更新した橋岡の日本記録保持者としての地位は、史上最も短い期間に終わっている。橋岡のビッグジャンプから1時間も経たないうちに、それまでのPBが8m01だった城山正太郎(ゼンリン)が8m40の日本記録を打ち立てたのだ。この大会では津波響樹も8m23をマーク。ANG福井はそれまで8m20オーバーは2名だった日本男子走り幅跳びに大きな地殻変動を齎した大会になった。

4月25日に開催された兵庫リレーカーニバルの女子走り幅跳びにおいて、秦澄美鈴(シバタ工業)がマークした6m65の記録もこれらの記録と同様に、あれがきっかけだったのだ、と後々想い起すことになるかもしれない。日本人女子が6m50オーバーを記録したのは2017年に甲斐好美(当時VOLVER、現浦安陸協)が6m58を記録して以来5年ぶり、日本歴代4位の好記録だ。

この秦の競技履歴は日本のトップ選手のなかではユニークなもので、武庫川女子大時代には走り高跳びをメインに競技を行い、並行して走り幅跳びにも取り組んでいた。
2017年の大学3年時にはアジア選手権の走り高跳び代表に選ばれ、1m75を記録し11位に入っている。
走り幅跳びで脚光を浴びたのは2018年の日本選手権で2位に入ってから。2019年にシバタ工業の所属となり種目を走り幅跳び一本に絞ると、GGPで6m41、日本選手権では6m43で初優勝、富士北麓で6m45と、本格転向1年目にしてそれまで6m24だった自己記録を順調に伸ばしていった。
昨年こそコロナ禍にあって大会出場もままならず、記録を伸ばせなかったが、今年に入り2月の鹿児島・大崎で行われた室内陸上で6m35、3月に大阪で行われた日本室内選手権で6m33をマークして好調なシーズン滑り出しを見せていた。

秦の跳躍の魅力はその高さにある。大きく腕を拡げる反り跳びのフォームはダイナミックでとても美しい。この高く飛び出すことのできる踏切りの上手さは走り高跳びで培ったものだが、時に高く上がりすぎ、距離を伸ばすことを阻む欠点にもなっていた。高跳びというバーチカルの世界から、幅跳びというホリゾンタルの世界へ、縦の運動を横へと距離を伸ばすカギは助走のスピードだ。100mの自己ベストも2019年に11秒90に伸ばすなどこちらの強化にもしっかりと取り組み、記録を更に伸ばす下地はしっかりと出来上がっていた。

屋外初戦となった兵庫リレーカーニバルでは一本目から3mの追い風で非公認ながら6m69を記録すると、2本目に風が収まった条件の中で一本目同様の素晴らしい跳躍を再現し6m65をマーク、風も追い風1,1mで公認記録となった。この跳躍で遠いと思われていた世界がぐっと近づく事となり、東京五輪参加標準記録6m82まであと17㎝、秦のスパイク一足分の範囲内に収まるまでにその差が縮まっている。
男子の城山は一気に39㎝記録を伸ばし、男子走り幅跳びの景色を一変させた。
現在の秦からもスパイク一足分もない17㎝を跳び越えて世界への重い扉を開き、女子走り幅跳びの新たな風景を見せてくれそうな雰囲気が色濃く漂っている。

この秦から、6m44の自己ベストを持つ高良彩花(筑波大)、昨年6m31をマークし心境著しい山本渚(長谷川体育施設)らが刺激を受け、競り合う事で相乗効果が生まれれば、日本女子走り幅跳びの競技レベル向上に繋がる筈だ。
2019年のANG福井で男子走り幅跳びの選手たちが起こしたような一気のブレイクスルーが、女子には起こらないとは限らない。
5月9日、東京五輪テストイベントがその日となる可能性は充分に有る。

文/芝 笑翔

記事への感想お待ちしております!twitterもやっています。是非フォローおねがいします!(https://twitter.com/ATHLETE__news

コメントを残す

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。
search previous next tag category expand menu location phone mail time cart zoom edit close