東京五輪テストイベントREADY STEADY TOKYOの陸上競技に組み込まれる形でWA(世界陸連)コンチネンタルツアーゴールド東京が5月9日、東京・国立競技場で行われ、男子3000m障害では順天堂大学の期待の若手、三浦龍司が従来の記録(8分18秒93、2002年に岩永嘉孝が記録)を18年振りに更新する8分17秒46の日本記録を樹立、優勝を果たすと共に東京五輪参加標準記録(8分22秒00)を突破した。日本人2番手の3位には8分22秒39をマークした山口浩勢(愛三工業)が入ったが僅か0秒39届かず標準記録の突破を逃した。
三浦は昨年7月のホクレンDC千歳大会で8分19秒37をマークしていたが、WAの定める五輪資格記録の適用期間外だったため、五輪出場の為にはもう一度同レベルの記録を出さなければならなかった。昨年の日本選手権は故障で欠場、今シーズンの初戦となった織田記念では素晴らしいスパートを見せたものの記録は8分25秒31と届かず、迎えた今大会では序盤から標準記録を上回るペースで先行し、中盤では一端ペースを落とし先頭を譲って体力を温存、2000m手前から徐々にペースを戻していき、ラスト1周では更にギアを入れ替える圧巻のラストスパートで「追試」をクリア、陸連長距離関係者から寄せられる大きな期待に、日本記録の熨斗を付けて応えた。

また男子400mHでは法政大学の黒川和樹が48秒68の好タイムで優勝、48秒84で2位に入った山内大夢(早稲田大学)、世界陸上ドーハ大会で準決勝に進んだ豊田将樹(富士通)が48秒87で3位に続き、一挙に3名が参加標準記録(48秒90)を突破、これでこの種目の標準突破者はこの日49秒35で4位に敗れた安部孝駿(ヤマダHD)を含めた4人となり、3枠を巡る東京五輪代表争いが一気に激化の様相を見せ始めた。
安部は静岡国際に続いて黒川、山内に敗れ、ほぼ手中に収めたと思われた五輪代表の座が危うくなってきた。日本選手権で手堅く内定を勝ち取り、五輪本番にトップコンディションに持っていく目算は修正を余儀なくされたが、ドーハ世界陸上で決勝進出まであと0秒04に迫った実績は群を抜いており、ここからの巻き返しを期待したい。
注目の男子100mは、予選で桐生祥秀(日本生命)がフライングを犯して失格、ケンブリッジ飛鳥(nike)も予選を走り終えた後、太腿裏の張りを訴えて決勝を棄権、有力選手が相次いで姿を消した中、好スタートを決めた多田修平(住友電工)が加速に乗ってリードを拡げ、そのまま押し切るかに思われたが、追い上げてきたロンドン世界陸上金メダリストのJ・ガトリン(米国)がゴール直前で辛くも多田を交わし10秒24で勝利。目前で大魚を逸した2着多田のタイムは10秒26、追い込んで来た小池祐貴(住友電工)が10秒28で3着。今シーズン既に9秒台をマークしているガトリンを相手に日本の二人は健闘したとも言えるが、優勝したガトリンも含めて記録は期待されたほど伸びなかった。
記録が伸びなかったのは男子110mHも同様で、先月の織田記念で13秒16の日本記録を樹立したばかりの金井大旺(ミズノ)が前日本記録保持者の高山峻野(ゼンリン)、この大会で参加標準記録の突破が期待されていた泉谷駿介(順天堂大)との見応えのある三つ巴の接戦を制したが、タイムは13秒38に留まっている。高山は13秒45で3着、13秒43で2着の泉谷の標準記録突破は次の機会に持ち越しとなった。
男子走り高跳びは、ドーハ世界選手権金メダルのM・Eバーシム(カタール)に対し日本記録保持者の戸邉直人(JAL)が一歩も譲らず。両者2m30まで一回もバーを落とすことなく跳躍を重ね、2m27は3度目でクリアとピンチを潜り抜けてきたリオ五輪代表の衛藤昂 (味の素AGF)も、この高さを2度目でクリアして追い縋った。続く2m33は3人共クリアがならず、ここで衛藤の3位が決定。勝負の行方はバーシムと戸邉のジャンプオフに持ち込まれたが、両者ともに疲労の色が隠せず、2m33から2m31、2m29とクリアが出来ずにバーの高さが下がり、2m27になったところで共に試技を行わず、両者を優勝とする措置が取られた。
男子走り幅跳はドーハ世界選手権代表橋岡優輝(富士通)が1回目の跳躍でいきなり8m07をマークして日本記録更新に期待を抱かせたが、以降は4連続ファウルとここのところ顔を覗かせている踏切が合わない跳躍が続き、6回目は有効試技になったものの記録は伸ばせず、この大会では橋岡の武器の一つである修正力の高さを見せる事は出来なかった。しかしながら最初の試技で8mオーバーを跳ぶ事は国際大会で上位を目指すうえでの必須条件であり、これをクリアできたのは大きな収穫だ。残る課題は助走距離とスピードの調整を図りつつ、どう踏切を合わせていくかだ。
女子5000mでは昨年暮れの日本選手権10000mで30分20秒44の日本新で優勝し、五輪代表に内定した新谷仁美(積水化学)と、先日の日本選手権10000mで31分11秒75で優勝し参加標準記録を突破したばかりの廣中璃梨佳(日本郵政G)の「五輪内定日本選手権女王」の対決が話題となっていたが、5000mでの代表を目指す萩谷楓(エディオン)が東京五輪への執念をみせた。
日本記録の更新も予想されていたレースは、廣中が10000mを走ったばかり、新谷も今期初レースという事も有り、またケニア人実業団選手のM・ムッソーニ(ダイソー)、C・Jチェプンゲティチ(資生堂)も積極的に引っ張る事はなく互いに出方を探るような極端なスローペースとなり、標準記録の15分10秒00を破れていない萩谷にとっては、昨年の日本選手権5000mに続いて望ましくない展開となった。
1000mのラップは3分13秒とこの段階で標準突破ペースから11秒遅れ、このレースでの達成は厳しくなったように思われた。ここから新谷が引っ張り始めて2000m通過は6分14秒、この間の1000mは3分01秒と一気にペースが上がるも、3000m通過が9分20秒とややペースが落ち着く。3000m以降はチェプンゲティチが新谷に替わりペースを上げる。この段階で先頭集団はケニヤの二人に、廣中、萩谷、新谷は集団の後ろに位置を取り始めた。満を持して先頭を引き始めた廣中が4000mを12分22秒と、標準記録ペースから14秒遅れで通過をするとじわじわとペースを上げる。昨年の日本選手権ではこの辺りから離されてしまった萩谷もしっかり対応し食らい付いた。
ラスト1周を目の前に萩谷がスパート、一気にペースが上がり新谷は付いていく事が出来ず、残る廣中と二人のケニア勢も1度は突き放したが、バックストレートに入ったあたりで3人の猛烈な追い上げを受ける。萩谷はムッソーニとチェプンゲティチには屈したが廣中のスパートは抑えきった。上りの1000mで2分50秒を切り、ラスト1周を63秒でカバー、正式リザルトは15分11秒84の3位、標準突破まであと1秒84にまで迫っていた。
惜しくも、この執念は今大会では実らなかったが、2月の日本クロスカントリー選手権で5000m五輪代表の田中希実(豊田自動織機TC)を降したのに続き、廣中、新谷の10000m五輪代表をまとめて破り、この3人に見劣りしない女子長距離の五輪代表候補である事をしっかりとアピールした。
萩谷が五輪代表を掴むためには、昨年の日本選手権や今大会のような極端なスローペースになりそうなケースでは、一人集団を飛び出してでもペースを作り変え、押し通していく強引さが時に必要なのではないだろうか。

1500mに出場した東京五輪5000m代表の田中は4分09秒10で圧勝したが、このレースの目標としていた自分越え、4分05秒27の日本記録更新はならなかった。 H・エカラレ(豊田自動織機)らケニア人選手がレースを引っ張ったがハイペースとはならず、1000m手前から変わって田中がペースを上げ、ラスト1周でもう一段の切り替えを見せたが残り200mからはやや動きが鈍ったか。
織田記念の5000m、静岡国際の800m、そして今大会の1500mと10日の間に3つの距離の異なるレースで課題に取り組みながら記録も目指した今回の試みは、記録面においては結実しなかったが、酷暑の中で行われる東京五輪で疲労の溜まる中で自分の持てる能力を出し尽くすこと、最後の直線、最後の一歩まで動きを保ち続けることに繋がって行くのでは、と思わせるに充分な内容を伴ったものだった。
女子走幅跳びでは兵庫リレーカーニバルで6m65を記録した秦澄美鈴(シバタ工業)が自己記録更新と、あと17㎝に迫っている五輪参加標準記録の突破を目指したが、記録は6m48 に留まった。
また女子やり投では福岡大の上田百寧(ももね)が58m93を投げ、昨年の日本選手権覇者の佐藤友佳(ニコニコのり)を破る大金星。佐藤は57m94で3位と、61m01を記録した織田記念から一転して精彩を欠いた。国際舞台で戦える力は充分に備わっているだけに、より一層の安定感が求められるだろう。
国立競技場のトラックは記録の出やすい高反発素材と喧伝されていたが、昨夏に開催されたGGPに続き、五輪本番のテストイベントとして行われた今大会でもスプリント競技においては記録が伸び悩んだという印象を持った。水準の記録と呼べるのは100mHの寺田明日香(ジャパンクリエイト)の12秒99くらいのもので、男子100mの記録はオリンピックイヤーにしては物足りず、110mH陣も持ちタイムからすれば力を発揮したとは言い難いものだ。
GPシリーズ開催が続くGWの連戦の最後で選手たちの疲労の溜まる中での実施といった要因もあるだろうが、慣れない高反発トラックで能力を出し切れていないとするならば、対策を講じる必要があるのではないだろうか。
文/芝 笑翔
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WAコンチネンタルツアーゴールド東京の8位入賞までの競技結果は以下の通り
トラック種目
女子3000m障害決勝 結果(8位まで)
①J・チェプケモイ(九電工)9:39.29
②山中柚乃(愛媛銀行)9:46.72
③吉村玲美(大東文化大)9:52.43
④藪田裕衣(大塚製薬)9:52.54
⑤森智香子(積水化学)9:58.40
⑥石澤ゆかり(エディオン) 10:04.28
⑦瀬川帆夏(シスメックス)10:04.90
⑧吉川侑美(ユニクロ)10:09.55
男子3000m障害決勝 結果(8位まで)
①三浦龍司(順天堂大)8:17.46 ※日本新記録
②P・キプラガット(愛三工業)8:21.10
③山口浩勢(愛三工業)8:22.39
④阪口竜平(SDホールディングス)8:23.93
⑤青木涼真(Honda)8:26.30
⑥塩尻和也(富士通)8:32.51
⑦楠 康成(阿見AC)8:34.24
⑧潰滝大記(富士通)8:35.21
男子200m 決勝
①飯塚翔太(ミズノ)20.48
②松本 朗(早稲田大)20.57
③東田旺洋(栃木県スポーツ協会)20.60
④山下 潤(ANA)20.61
⑤鈴木涼太(城西大)20.79
⑥澤 大地(早稲田大)20.80
⑦樋口一馬(MINT TOKYO)20.88
⑧鈴木碧斗(東洋大)20.95
⑨小林将一(ビルスコープ)1:07.64
男子400m 決勝
①佐藤拳太郎(富士通)45.61
②伊東利来也(三菱マテリアル)46.15
③川端魁人(創徳中教員)46.25
④池田弘佑(あすなろ会)46.58
⑤R・ユーシフ(英国)46.69
⑥河内光起( 大阪ガス)46.71
⑦藤好駿太(早稲田大)47.01
⑧野瀬大輝(立命館大)47.31
⑨板鼻航平(Accel)47.49
男子400mH 決勝
①黒川和樹(法政大)48.68 ※五輪参加標準突破
②山内大夢(早稲田大)48.84 ※五輪参加標準突破
③豊田将樹(富士通)48.87 ※五輪参加標準突破
④安部孝駿(ヤマダHD)49.45
⑤岩﨑崇文(新潟アルビレックスRC)49.64
⑥川越広弥(JAWS)49.76
⑦松下祐樹(ミズノ)49.88
⑧杉町マハウ(日本ウェルネス職)50.11
⑨陳 傑 (台湾)52.08
男子5000m 決勝 結果(8位まで)
①市田 孝(旭化成)13:27.73
②C・カンディエ(三菱重工)13:29.33
③相澤 晃(旭化成)13:29.47
④服部弾馬(トーエネック)13:29.65
⑤茂木圭次郎(旭化成)13:31.08
⑥B・カロキ(トヨタ自動車)13:31.47
⑦田中秀幸(トヨタ自動車)13:32.78
⑧梶原有高(ひらまつ病院)13:42.75
男子110mH 決勝 結果
①金井大旺(ミズノ)13.38(-0.8)
②泉谷駿介(順天堂大)13.43
③高山峻野(ゼンリン)13.45
④村竹ラシッド(順天堂大)13.51
⑤陳 奎儒(台湾)13.62
⑥横地大雅(法政大)13.67
⑦石川周平(富士通)13.67
⑧徳岡 凌(立命館大)13.77
⑨大室秀樹(大塚製薬)14.46
男子100m 決勝 結果
①J・ガトリン(米国)10.24(+0.0)
②多田修平(住友電工)10.26
③小池祐貴(住友電工) 10.28
④デーデーブルーノ(東海大)10.40
⑤坂井隆一郎(大阪ガス)10.42
⑥宮本大輔(東洋大)10.44
⑦L・M・ゾーリ(インドネシア)10.45
ケンブリッジ飛鳥(nike) DNS
女子1500m 決勝 結果(8位まで)
①田中希実(豊田自動織機TC)4:09.10
②卜部 蘭(積水化学)4:12.38
③後藤 夢(豊田自動織機TC)4:13.44
④樫原沙紀(筑波大)4:13.82
⑤M・アキドル(コモディイイダ)4:14.35
⑥C・バイル(日立製作所)4:15.35
⑦米沢奈々香(仙台育英高)4:17.96
⑧飯野摩耶( 埼玉医科大学G)4:18.02
女子100mH 決勝 結果
①寺田明日香(ジャパンクリエイト)12.99(-0.8)
②青木益未(七十七銀行)13.06
③木村文子(エディオン)13.22
④鈴木美帆(長谷川体育施設)13.52
⑤島野真生(日本体育大)13.57
⑥大久保有梨(ユティック)13.61
⑦紫村仁美(東邦銀行)13.63
⑧竹内真弥(チームミズノ)13.66
⑨田中陽夏莉(メイスイ)13.82
女子5000m 決勝 結果
①M・テレシア(ダイソー)15:10.91
②C・J・ジェプングティチ(資生堂)15:11.52
③萩谷 楓(エディオン)15:11.84
④廣中璃梨佳(日本郵政G)15:12.86
⑤新谷仁美(積水化学)15:18.21
⑥矢田みくに(デンソー)15:34.76
⑦川口桃佳(豊田自動織機)15:34.97
⑧M・アグネス(京セラ)15:39.38
フィールド種目(8位まで)
女子やり投げ 決勝 結果
①上田百寧(福岡大)58m93
②斉藤真理菜( スズキ)58m68
③佐藤友佳(ニコニコのり)57m94
④山下実花子(九州共立大)57m57
⑤武本紗栄( 大阪体育大)57m37
⑥長 麻尋(国士館大)56m12
⑦奈良岡翠蘭(日本大)52m59
⑧久世生宝(コンドーテック)52m51
男子走幅跳決勝 結果
①橋岡優輝(富士通)8m07(+1.8)
②外川天寿(ジャンプライズTC)7m82(+1.4)
③城山正太郎(ゼンリン)7m79(+0.7)
④小田大樹(ヤマダHD) 7m74(+1.0)
⑤津波響樹(大塚製薬)7m72(+0.0)
⑥H・フレイン(オーストラリア)7m70(+1.1)
⑦山川夏輝 (東武トップツアーズ)7m29(+0.7)
⑧サプワトラフマン(インドネシア)7m22(+1.0)
女子走幅跳決勝 結果
①秦澄美鈴(シバタ工業) 6m48(+0.6)
②中野 瞳(和食山口)6m29(+0.3)
③髙良彩花(筑波大)6m24(-0.1)
④小玉葵水(東海大北海道)6m11(+0.9)
⑤嶺村 優 (オリコ)6m03(-0.3)
⑥山本 渚(長谷川体育施設)5m94(+1.6)
⑦中田茉希(大塚高)5m72(+0.4)
⑧松田奈夏(青山学院大)5m50(+1.4)
男子棒高跳決勝
①山本聖途(トヨタ自動車)5m55
②竹川倖生(丸元産業)5m45
③江島雅紀(富士通)5m45
④澤 慎吾(きらぼし銀行)5m35
⑤石川拓磨(東京海上日動CS)5m35
⑥古澤一生(筑波大)5m35
⑦来間弘樹(ストライダーズAC)5m15
⑦笹瀬弘樹(TOMORUN)5m15
※順位は無効試技の差による
男子やり投げ 決勝 結果
①小南拓人(染めQ)80m98
②小椋健司(栃木県スポーツ協会)78m20
③黄 士峰(台湾)77m35
④ディーン元気(ミズノ)76m66
⑤長沼 元(スズキ)75m39
⑥長谷川鉱平( 福井県スポーツ協会)71m27
⑦寒川建之介(GRAND STONE)67m77
新井涼平(スズキ)は記録なし
男子走高跳決勝 結果
①戸邉直人(JAL)2m30
①M・E・バーシム(カタール)2m30
※ジャンプオフで決着つかず両者優勝
③衛藤 昂(味の素AGF)2m30
※無効試技の差による
④赤松 諒(アワーズ)2m27
⑤瀬古優斗(滋賀レイクスターズ) 2m20
⑥佐藤 凌(新潟アルビレックスRC)2m15
⑦堀井遥樹(新潟医療福祉大)2m15
⑧真野友博(九電工)2m15