先週末、陸上界では各地区の実業団選手権が行われ、さながら「実業団ウィーク」の様相を呈していた。今週は北海道、関東、北信越、関西、九州で学生対校選手権が開かれる「インカレウィーク」となる筈であったが、コロナウィルス第三波による感染拡大に伴う緊急事態宣言の延長により、北海道、関西、九州インカレは延期、関西では代替措置として対校選手権のない「関西学生チャンピオンシップ」が開催される事になった。また伝統の関東インカレも節目の第100回目の大会となるが、昨年同様に観客動員を行わずに開催される。ここでは関東インカレと、関西学生チャンピオンシップにエントリーしている有力な学生選手を紹介し、注目種目についても触れていきたい。
まず筆頭に挙げたいのが5月9日に開催されたWAコンチネンタルツアーゴールド東京の3000m障害で8分17秒46をマークして優勝を飾り、東京五輪派遣標準記録も突破した三浦龍司(順天堂大2年)。関東インカレでは専門の3000m障害ではなく、1500mと5000mにエントリー。五輪代表の決まる6月の日本選手権を前にスピードを磨く事、スタミナを蓄える事が主眼と見られるが、5000mの13分51秒97の自己ベストはこの種目でも学生トップクラスの実力を有している。一方の1500mは高校時代の昨年3月以来のレースとなるが、3000m障害での驚異的なラストスパートを見る限り自己ベストの3分48秒00を大きく更新する可能性は充分有るだろう。
三浦に同じくコンチネンタルツアーゴールドの400mHで共に参加標準記録を突破した黒川和樹(法政大2年)と山内大夢 (早稲田大学4年)。関東インカレに舞台を移し再び激突する。黒川は序盤からハイペースでリズムに乗っていくレースを得意とし、コンチネンタルツアーでは48秒68をマーク、山内は序盤は抑え気味に入り、後半に追い込むレースパターンで同レースでは先行した黒川にゴール前際どく詰め寄り48秒84を記録と、対照的なタイプなところも面白い。五輪最終選考会となる来月に開催される日本選手権の前哨戦とも言え、ここでもお互いに譲れない争いが見られるだろう。
男子110mHの泉谷駿介(順天堂大4年)あと0秒01にまで迫っている五輪参加標準記録(13秒33)の突破を関東インカレで果たせるか。 コンチネンタルツアーゴールドで自己ベストの13秒51をマークして4着に食い込むなど、今期に入って急速な成長を見せている村竹ラシッド(順天堂2年)は、好スタートで泉谷に食い下がりたい。
関西学生チャンピオンシップに出場する徳岡凌 (立命館大4年)も村竹同様、今期力を付けている有望株。京都インカレでシーズン早々に13秒55を叩き出し躍進を予感させたが、織田記念、コンチネンタルツアーでは実力発揮には至らず。優勝を飾り自信を取り戻して日本選手権に備えたい。
男子のフィールドでは共に関東インカレに出場する、走幅跳の鳥海勇斗(日本大2年)と棒高跳の古澤一生(筑波大1年)に注目。 鳥海は昨年のU20日本選手権で7m88を跳び、8m越えが視野に入ってきている。今春日大を卒業した橋岡優輝(現富士通)に続く存在となれるか。 古澤は前橋育英高3年だった昨年夏の群馬県高校総体代替大会で高校歴代1位となる5m51をクリアして周囲をあっと言わせた。筑波大に進学をした今シーズンは環境も変わり、出場もコンチネンタルツアーの1試合のみで記録も5m15とまだ低調。そろそろ本領を発揮しておきたいところだ。
一方女子の注目選手はまず100mの関西勢から。
5月1日からポーランド・シレジアで開催された世界選手権の4×100mリレー代表に選ばれ、1走として五輪出場権獲得に大きく貢献した青山華依(甲南大1年)が、帰国後初レースでどのような走りを見せてくれるか楽しみだ。3月末の世界リレー代表選考会ではこの時期としては高水準の11秒56を叩き出しており、どこまで記録を伸ばしてくるか、日本選手権初優勝を目指す上でも重要な大学デビュー戦となる。
青山の独走に待ったを掛けたいのが同じく世界リレー代表で3走を務めた斎藤愛美(大阪成蹊大4年)。高校3年時から長らく不振のトンネルを抜け出せずにいたが、一昨年秋から少しづつ状態が上向き始め、世界リレー代表選考会では11秒66で青山に次ぐ2着に入り、代表の座に返り咲いた。自己ベストの11秒57は高校2年時の2016年、5年近く更新できていないこの記録を上回る事が、後に控える悲願の日本選手権初制覇への第一歩だ。
三浦愛華(園田女子大2年)は3月中旬の学連競技会で11秒86をマークして以降、安定して11秒8台をマークしていたが、5月4日の奈良県選手権で記録を11秒67にまで伸ばし、一気に台頭してきた。現在、この種目で学生、実業団選手を問わず最も勢いを感じさせる選手の一人で、今シーズンの成長曲線が昨年に躍進を見せた世界リレー代表鶴田玲美(南九州ファミリーマート)を思わせる。青山、斎藤を降し、関西学生チャンピオンの称号を手にすることが有れば、一気に日本選手権の優勝候補、五輪4×100mリレー代表候補に躍り出ることになる。
関東では石川優(青山学院大1年)が抜けた存在。4月の出雲陸上で追い風3mながら11秒43をマークして優勝を飾り、昨年の日本選手権3位から一層の成長を感じさせた。世界リレーでは代表に選ばれながら控えに回った鬱憤を関東インカレで晴らしたい。
女子3000m障害の吉村玲美(大東文化大3年)も東京五輪出場の期待が寄せられている選手の一人。WAの世界ランクでは日本人選手の最上位で、出場の目安とされるターゲットナンバー圏内に位置している。関東インカレのレベルではライバルが見当たらないが、五輪代表を巡る争いは山中柚乃(愛媛銀行)の躍進や、森智香子(積水化学)の復活もあり、熾烈になりつつある。単独走であっても自己ベスト9分49秒30を更新するような走りで、五輪最終選考会へ向けて存在感を示して置きたい。
フィールド種目の注目は、走幅跳の関東勢二人、高良彩花(筑波大3年)と東祐希(日本体育大4年)。高良は小柄ながらスピードを生かした助走からパワフルな跳躍を見せ、安定して6m30を記録する事が出来ているが、この状況からなかなか抜け出す事が出来ないでいる。
一方の東は5月2日の日体大記録会でそれまでの自己記録を36㎝更新する6m41のビッグジャンプを披露し、今勢いがある。ここまで学生レベルの大会でも大きな実績がないだけに、今後を占ううえでも関東インカレは一つの正念場だろう。 この二人の競り合いから6m50オーバーのビッグジャンプが生まれる事を期待したい。
加えて三段跳の内山咲良(東京大6年)は、医学部に在籍しながら13m00の自己ベストを持ち、2019年の日本インカレでは表彰台にまで登り詰めた実績がある。5月3日の静岡国際でも12m71を跳び3位に食い込み、東大の女子選手としては初の関東インカレ制覇の偉業が期待されている。今シーズン好調の金子史絵奈(青山学院大4年)がライバルになりそうだ。
この他、関東インカレ男子100mは共に世界リレー4×100mリレー代表となった鈴木涼太(城西大4年)と宮本大輔(東洋大4年)の二人に、持ちタイムはエントリー選手中1番ながらレース内容にムラの有るデーデー・ブルーノ(東海大4年)を加えた三つ巴の争いに見応えが有りそうで、関西学生チャンピオンシップでは昨年のANG福井で激走を見せた上山紘輝(近畿大4年)の出場する男子200m、静岡国際陸上や東京五輪テスト大会で存在感を示した一ノ宮健郎(関西学院大4年)の出場する男子800m、世界リレー選手権女子4×400mリレー代表川田朱夏の出場する女子800mが注目だ。
また、関東インカレでは男子ハーフマラソンの会場がコロナウィルス感染拡大防止措置として、相模原ギオンスタジアム周辺の公道から、完全に閉鎖のできる東京・稲城市のよみうりランドを周回するコースに変更されたことも話題となっている。
関東インカレは5月20から四日間の日程で相模原ギオンスタジアムにて、また関西学生チャンピオンシップはたけびしスタジアム京都で、こちらも5月20から四日間の日程で開催される。
トップ選手の活躍もさることながら、初のインカレに胸を弾ませる新入生や、学生生活の集大成と位置付ける4年生など、さまざまなレベルの選手が競技にしっかりと向き合い、仲間と共に喜びや悔しさを分かち合う姿が垣間見れるところが、学生スポーツの最大の魅力だ。それぞれの競技への思いが交錯する熱い四日間が始まる。
文/芝 笑翔
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