好記録の相次ぐ男女1500mに注目!第69回全日本実業団対抗陸上競技選手権大会

第69回全日本実業団対抗陸上競技選手権大会が、大阪・ヤンマースタジアム長居を会場に9月24日より3日間の日程で行われる。東京五輪で奮闘した代表選手では、女子10000mで7位入賞を果たした廣中璃梨佳(日本郵政G)が1500mに、女子マラソン8位入賞の一山麻緒(ワコール)も5000m、10000mにエントリー、まさかの結果に終わった男子4×100mリレーメンバーからは山縣亮太(SEIKO)、多田修平(住友電工)、小池祐貴(住友電工)がエントリーするなど多数が集結、新たな目標へ向けて再スタートを切る。(小池は8月に行われたANGFukuiで200mに出場している)

そんな今大会で取り分け注目して見たいのが、男女の1500m。東京五輪では女子の田中希実(豊田自動織機TC、今大会はエントリーなし)が予選、準決勝と日本新を連発、取り分け準決勝では3分59秒19と待望の4分切りを達成、決勝でも8位入賞を果たし大いに沸いたが、もう一人の代表、卜部蘭(積水化学)も世界の強豪選手相手に怯む事無く食らい付き、引っ張られるような形で初の4分10秒切りとなる4分07秒90の自己記録をマーク、予選突破は果たせなかったものの、貴重な経験を積んだ。この経験を今後に繋げて行くためにも、今大会ではオレゴン世界陸上参加標準記録4分04秒20の突破を意識したレースを見せてもらいたい。

東京五輪の女子5000mでは14分52秒84の日本記録を樹立し9位に入り、10000mでは7位入賞を果たした廣中璃梨佳(日本郵政G)は得意の5000mや10000mではなく、1500mにエントリーをしてきた。パリ五輪を睨み、もう一段のレベルアップを図る為のスピード強化の一環と考えられ、800mや1500mの大会に出場しながら成長してきた好敵手、田中希実への対抗意識も少なからずあるのかもしれない。2019年に日本郵政入社以降、1500mは年に数回走る程度なのでPBは4分16秒48に留まっており、本質的には中距離タイプではないが、5000mの持ちタイムを考えればこの距離でもPBを上回ってくる余地は充分あるだろう。

更に東京五輪5000mでは予選突破を果たせなかったが15分04秒95のPBをマークし、1500mでも4分13秒14の記録を持つ、ラストスパートの切れに定評のある萩谷楓(エディオン)も加わり、勝負も、記録も楽しみとなるレースが期待できそうだ。
今年社会人1年目の新人では、福岡大卒の井手彩乃(ワコール)が、日本選手権で4分13秒49まで自己ベストを伸ばしてきており、注目しておきたい。

男子1500mも今期2度に渡り日本記録が更新され、勢いの出ている種目となっている。現日本記録保持者の河村一輝(トーエネック)は、今期絶好調、4月の金栗記念を3分38秒83で制すと以降敗れたのは兵庫リレーカーニバルの1度だけ、静岡国際、木南記念、デンカチャレンジとGPシリーズを勝ちまくり、日本選手権でも快勝すると、7月のホクレンでスタンスチャレンジでは狙っていたかのように3分35秒42の日本記録を叩き出し、乗りに乗っている。今大会はペースメーカーの付かないレースだが、今期の勢いなら自身でペースを作りながら押し切ることもあり得るのではないか。女子1500m同様、激しいボディコンタクトのあるこの種目は日本人に不向きと言われてきたが、あと0秒42に迫っている世界選手権参加標準突破の瞬間が見てみたい。

記録を後押しするために欠かせないのがライバルの存在だが、その点で面白いのは坂東悠汰(富士通)だ。東京五輪の5000mでは奮わなかったが、河村が日本記録をマークしたレースに、五輪本番に備えたスピード練習の一環として出場し、3分37秒99とこの距離を大会で走る事の少ない選手としては破格の好タイムをマークしている。女子の廣中同様に今後を見据えたスピード強化を図るための参戦と思われるが、この距離での相当なポテンシャルの高さも窺えるので結果如何によっては、新たな道が開けてくるかもしれない。積極的なレース運びを期待したい。

男子100mにエントリーした山縣は、リオ五輪明けだった16年の大会では10秒03の自己新を、翌年は故障によりロンドン世界陸上代表を逃すなど不振に陥っていた中、復活となる10秒00を記録するなど、この大会との相性が抜群。今回もその時同様、手応えを得てシーズンを締めくくる事が出来るか。
またレースごとに出来、不出来の差が大きい多田、小池の二人には高いレベルでの安定感を求めたい。
この実績のある五輪代表の「3強」だけでなく、今大会でより注目しておきたいのはシレジア世界リレー選手権4×100m代表の坂井隆一郎(大阪ガス)、昨年の日本インカレ覇者で10秒14の自己ベストを持つ水久保漱至(第一酒造)といった次世代を担う選手達だ。山縣らの五輪や世界選手権での実績を前に、些か臆している部分はないだろうか。
4×100mリレーの代表は、まだ世界選手権の出場権を手にしておらず、来年に開催される世界リレーでトップ10に入る事が求められる。来シーズン早々にも代表を巡る闘いが始まるだろう。リレー代表の底上げには若い選手たちの突き上げ、台頭が望まれる。
日本選手権でデーデー・ブルーノ(東海大)が2着に食い込み、あっと言わせたように、今大会では坂井、水久保が「3強」の間に割って入り、周囲を驚かせる番だろう。ターゲットタイムは、10秒0台だ。

フィールド競技では五輪代表に届かなかった女子選手二人に注目。
まずはやり投の佐藤友佳(ニコニコのり)。今期は4月の織田記念で61m01を投げて優勝する好スタートを見せながらその後はひじの故障に悩まされ、日本選手権は不振に終わり、それまで長く維持してきた五輪代表を巡るWAのランキングも最後の最後で出場圏外に押し出され、代表の座を射止める事が出来なかった。体調さえ戻っていれば60mスローは可能な筈で、オレゴン世界選手権代表への足掛かりとなる再スタートとして欲しい。

もう一人は走幅跳の秦澄美鈴(シバタ工業)。こちらも4月の兵庫リレーカーニバルで6m65の自己新記録をマークしながらその後が続かず、五輪参加標準記録には届かなかった。元々は武庫川女子大時代の2017年にアジア大会で11位になっている走高跳の選手で、本格的に走幅跳に専念したのはシバタ工業入社後。まだキャリアが浅く今後の伸びしろを感じさせる選手だ。今大会で兵庫リレカの再現が出来れば、世界への視界が再び開けてくるだろう。

最後となったが、ロンドン、リオと2度五輪で代表となり、リオ大会では7位入賞を果たしている棒高跳のレジェンド澤野大地(富士通)、ロンドン五輪の女子4×100mリレー代表の市川華菜(ミズノ)、女子短距離を長年に渡り引っ張ってきた和田麻希(ミズノ)といった、日本陸上界に功績を残し、記憶に残る名場面を生み出して来た選手達がこの大会を以って競技人生に終止符を打つ事を表明しており、今年の全日本実業団選手権は惜別の大会ともなった。その雄姿を心に焼き付けたい。

文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)

記事への感想お待ちしております!twitterもやっています。是非フォローおねがいします!(https://twitter.com/ATHLETE__news

コメントを残す

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。
search previous next tag category expand menu location phone mail time cart zoom edit close