第33回出雲全日本大学選抜駅伝競走が10日、出雲大社正面鳥居前をスタートし、出雲ドーム前をゴールとする6区間45.1㎞のコースで開催され、東京国際大学が2:12:10のタイムで初出場初優勝の快挙を成し遂げ、学生三大駅伝も初制覇となった。
レースのポイントとして上げたいのは2区。青山学院大がトップで近藤幸太郎(3年)から飯田貴之(4年)に襷を引き継ぐも、4秒差でスタートをした早稲田大の井川龍人(3年)が瞬く間に飯田を躱し先頭に躍り出る。1度は離されかけた飯田も追い付き、この2校が、東京国際大の佐藤榛紀(1年)、國學院大の木付琳(4年)、順天堂大の平駿介(3年)、東洋大の奥山輝(2年)で形成される3位集団をじわじわと引き離す。3kmを過ぎて平が3位集団を引き始めると、奥山が遅れ始めたが、1区で16秒差と出遅れていた駒澤大の安原太陽(2年)がこの集団に取り付く。残り1㎞手前から平と木付が更にペースを上げ追撃を開始、ここで安原が、続いて佐藤も引き離される。平が前を行っていた井川、飯田の二人を捉えたところで木付がスパートを仕掛けると飯田、井川の順で離され始め、最後は平を振り切って木付が先頭での襷渡し、続いて平、3番手には離されていた佐藤が渾身のラストスパートで飯田、井川を捉え、トップから4秒差に踏み止まった。暑さや残りの距離、自身の残りの体力、3区に控える日本人エースの丹所健(3年)への負担などを冷静に測りながら、前を行った木付、平を深追いせず、ぎりぎりまでスパートを我慢したこの佐藤の洞察力と緻密な計算で、先頭との差をいつでも詰める事が可能な位置での丹所への襷渡しとなり、追いつかれた駒澤との差を10秒まで押し返したことが、1区3位の山谷昌也(3年)の好走と共に、東京国際大に想定以上の良い流れを生み出した。
佐藤から襷を引き継いだ丹所は落ち着いていた。4秒差を一気に詰める事はせず、設定ペースを守るように先行する順天堂・野村優作(3年)、國學院大・藤木宏太(4年)を、後方から追い付いてきた早稲田大の太田直希(4年)、青山学院大・佐藤一世(2年)と共に追いかける。気温と8.5㎞という区間距離を考慮に入れた上で、自身の調子やライバル選手の動きを確認するような慎重な入りを見せていた。やがて藤木、野村を追走集団が吸収し、5チームの先頭集団が形成されたが、2㎞を過ぎたところで、ウォーミングアップは終わったとばかりに丹所がペースアップ、追い縋る選手は無く、徐々に後続を引き離していった。7月のホクレンディスタンス網走大会で10000m自己ベストをマークした経験が、暑い中での単独走を押し切るだけの確信の裏付けとなっていたのだろう。この3区で丹所が作り出した29秒の貯金で「先頭効果」を期待できる展開となり、初の学生駅伝となる4区の1年生、白井勇佑、主軸の一人と期待されながら駅伝では思うような結果を出せていなかった5区を担う宗像聖(3年)に掛る重圧を軽減、こうなると留学生大砲のY・ヴィンセントが最終区に控える心理効果も大きく、白井はミスのない走りでしっかりと宗像に襷を繋ぐ事に集中し、宗像からの襷がヴィンセントに渡った時点で勝負有り。優勝争いに食らい付き、先頭が見える位置でヴィンセントに繋げば逆転も有ると言われていた東京国際大が戦前の予想を覆し、ヴィンセントまでに大きな貯金を作る総合力の高さでその「依存」からの脱却を示した圧勝劇だった。
大会前、優勝候補の呼び声が高かった駒澤大は、田澤廉(3年)と並ぶエースの一角、鈴木芽吹(2年)の欠場よりも、序盤にレースの流れに乗れなかった事が大きく響いた。日本インカレ5000mで2位に入り1区に抜擢された篠原倖太朗(1年)が終盤まで好位置に付け健闘を見せたものの、残り500mからのスパート勝負に対応できず力尽き、先頭から16秒差の8位での中継となった。以降2区安原、3区花尾恭輔(3年)らが序盤を突っ込み気味に入っては終盤に引き離される悪循環に陥るなど順位を上げてはまた落とし、最終区に配された田澤が5位まで順位を押し上げるに留まった。他の駅伝では取り返す事のできる序盤の誤算が、短い区間距離のうえに気温の高さも加わって、埋める事が出来ない致命的な結果をもたらす出雲駅伝の「落とし穴」に嵌ってしまった恰好だが、11月の全日本大学駅伝では、立て直しを図ってくるだろう。
2位に入った青山学院大は1区区間賞の近藤がエースと呼ぶに相応しい、また最終6区で順位を押し上げ主力候補に名乗りを上げた横田俊吾(3年)の力走が大きな収穫で今後への手応えを得た半面、主力の一人である飯田が流れを作る事が出来ず課題も見つかった大会ともなった。
宮下隼人(4年)、松山和希(2年)のエース級二人がエントリーから外れ苦戦が予想された東洋大は、5区に起用されたスーパールーキー石田洸介が、期待に違わぬ走りで一時は2位に浮上して見せ場を作り、区間賞を獲得。最終的に3位となったが、層の厚さと底力を見せた。
4位、國學院大は、2区でトップに躍り出た木付がチャンスを作ったが、続く3区でエースの藤木が精彩を欠き順位を落としてしまったのは、4区中西大翔(3年)5区伊地知 賢造(2年)が共に区間2位の走りを見せていただけに悔やまれる。最終区に抜擢されたルーキー平林清澄は順位を2位まで押し上げながら、残り1㎞を切って青山学院大、東洋大に交され力尽きたが、足りなかったのは経験だけ。今後に期待を抱かせる力走だった。
補員登録となり、その動向に注目が集まっていた東京五輪3000m障害代表、順天堂大の三浦龍司(2年)は、そのまま当日変更なく出場せず。順天堂大は1区伊豫田達弥、2区平で好スタートを切ったが3区、4区が2桁順位に沈み関東学連勢最下位の10位に終わった。この二区間以外の4選手は区間5位以内に纏めており、歯車が上手く噛み合わなかった。
その他の地区学連のチームでは、立命館大学が11位に入り、次の大会での関西学連出場枠1増を勝ち取ったものの、関東学連の牙城は崩せず。 個人では1区4位と有力校のエース級選手達に割って入った、東北学連選抜・東北大地球物理学専攻修士課程の2年生、松浦崇之の激走が一際強い輝きを放った。
文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)
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大会結果と各区区間賞は以下の通り
第33回出雲全日本大学選抜駅伝競走
①東京国際大学 2:12:10
②青山学院大学 2:14:07
③東洋大学 2:14:13
④國學院大学 2:14:17
⑤駒澤大学 2:14:53
⑥早稲田大学 2:15:00
⑦創価大 2:15:37
⑧帝京大 2:16:24
⑨東海大学 2:16:53
⑩順天堂大学 2:17:17
⑪立命館大学 2:20:14
⑫大阪経済大学 2:21:48
⑬関西学院大学 2:22:26
⑭皇學館大学 2:23:07
⑮北信越学連選抜 2:23:58
⑯広島経済大学 2:24:36
⑰札幌学院大 2:25:36
⑱東北学連選抜 2:25:50
⑲北海道大学 2:27:52
⑳日本文理大学 2:30:42
各区区間賞獲得選手
1区8㎞
近藤幸太郎(青山学院大③)23:41
2区5.8㎞
木付 琳(國學院大④)16:16
3区8.5㎞
P・ムルワ(創価大③)23:49
4区6.2㎞
石塚陽士(早稲田大①)18:40
5区6.4㎞
石田洸介(東洋大①)18:55
6区10.2㎞
Y・ヴィンセント(東京国際大③)29:21