女子5000mの木村、10000mの五島が世陸参加標準突破!男子5000mの遠藤、塩尻は惜しくも届かず!エディオンDCの結果とたけびしスタジアム2連戦総括

今年、日本の長距離界は自国開催の東京五輪で、マラソン男女の大迫傑(元nike)、一山麻緒(ワコール)女子10000mの廣中璃梨佳(日本郵政グループ)、男子3000m障害の三浦龍司(順天堂大)の4人、中距離種目1500mでの田中希実(豊田自動織機TC)を併せると都合5人の入賞者を出し、長期低落傾向にようやく歯止めをかけ、これまでの強化の取り組みは一定の成果を得たように見える。

しかし、その東京五輪そのものが1年遅れでの開催となった事も有り、ここで得た成果を次のパリ五輪で更に実りあるものにしていく為の新たな体制作りもその分遅れが生じ、強化に掛ける準備の時間も短くなっている。来年にはオレゴン世界陸上を控え、特に冬場に記録の出やすい長距離種目は、参加標準記録を突破する機会が次第に残り少なくなっていく中、関東では11月末の八王子ロングディスタンス、12月頭の日体大長距離競技会には男子の有力選手が多数参加し、日体大では駒澤大の田澤廉が10000mの参加標準記録突破を果たした。

そして関西でも世陸参加標準記録に挑戦する機会として12月10日、たけびしスタジアム京都に於いてエディオンディスタンスチャレンジが組まれ、男子5000m、女子5000m、10000mの有力選手達が標準突破を目指し力走した。

エディオンDC女子5000mでは2019年ドーハ世界陸上5000m代表の木村友香(資生堂)が、15分02秒48をマーク、15分10秒00の参加標準記録を突破した。
木村はユニバーサルエンタテイメント在籍時の2016年には1500mで日本選手権を制したスピードランナーで、同年12月には5000mでも15分18秒08まで持ちタイムを一気に伸ばし、一躍ロンドン世界陸上代表候補に名乗りを上げた。翌2017年は日本選手権に敗れ、代表を逃したが5000mの自己ベストを15分12秒47に更新、2019年は心機一転資生堂に移籍、日本選手権5000mで優勝を果たして念願の世界陸上代表の座を手に入れた。
ドーハ世界陸上で予選敗退以降は、ケガによる不振とコロナ禍が重なって2020年のトラックシーズンはほぼ棒に振り、今年に入ってからは1500mで4分17秒台をマークするなどスピードが戻りつつあったが、5000mの五輪代表争いに加われないままオリンピックイヤーが過ぎ去ろうとしていた。
心中期するところがあったのか、五輪後の全日本実業団陸上の5000mでは再び世界が視野に入る15分15秒70の好タイムをマーク、先月のプリンセス駅伝でもラストスパートで敗れはしたが、スタートからほぼ単独走でレースを進めながらそれまでの区間記録を上回る1区区間2位となるなど、かつての力が戻りつつあるようだった。
そして迎えた今大会のレースでは、同僚でPMを務めたJ・ジェプンゲティチが刻む1000m3分01秒のペースにも余裕を持って付く事が出来、3000mから4000mは3分05秒とラストに向けて溜めを作り、ジェプンゲティチがレースを離れた後は、K・タビタジェリ(三井住友海上)のラストスパートに突き放されはしたが、残り1000mを2分55秒、ラスト1周も68秒でまとめて15分切りまであと2秒に迫る快走だった。

既に5000mの参加標準を突破している田中希実(豊田自動織機TC)は1週前の日体大長距離競技会の5000mを走り、指導を受ける父、健智氏のレース後の「これが今年の締め括り」発言もあって欠場も予想されていたが、前日に東京で行われた陸連の表彰式に出席しながらその終了後に帰阪する強行軍ながらも、このレースに出場してきた。来春に大学卒業を控え、卒業論文をまとめるためにこれまで積んできたようなトレーニングは控えていると聞き及んでいるが、レースでは田中独特の力感こそないものの程よくリラックスしながら、木村の参加標準突破ペースに追走する姿からは余裕も感じられ、八分から九分程度の走りに終始したように見受けられた。
「ラストの200mで身体が動かなくなった」とは本人の弁だが、トップからハイトップに切り替えた様子は見られず、1着のタビタジェリのようにフルに力を出し切った訳でもなく15分04秒でゴールしている事はむしろ瞠目に値する。もしかしたら力みのない今日のような走りが、田中が新たに追及し始めた理想の走りへの第一歩、来季へ向けての新たな姿なのではないか、とも感じさせた。
3000mから4000mで一時脚を溜めて「休んだ」木村を後ろからさり気なくプッシュし、ラスト1周も先に仕掛けて木村を引っ張り、ラストスパートの「発射台」役を果たしたのは、さり気ない好アシストだった。

女子の10000mはPMを務めるM・アキドル(コモディイイダ)の作る1000m3分07秒の正確な参加標準突破ペースに、唯一の学生選手として出場した鈴木優花(大東大)が敢然と挑み、社会人二年目の五島莉乃(資生堂)、三井住友海上から移籍して1年目の岡本春美(ヤマダホールディングス)の若手二人が後に続いた。
3000mを過ぎた辺りから動きに硬さの見られた鈴木が遅れ始め、先頭集団はPMを含め五島、岡本の3人に。5000mの通過は15分34秒とアキドルの刻むペースは寸分の狂いもなく、理想的だ。五島、岡本の2人はアキドルのリズムにぴったりと「嵌った」状態でレースは進んで行く。
6000m手前で頑張っていた岡本がリズムを合わせ切れなくなって遅れを取り始め、標準突破は五島の残り4000mに託される事となった。
8000m手前でここまで良く引っ張ったアキドルがレースを離れ、真価の試される状況となったが、持ち味の腰の回転からスムーズに繰り出される軽快なピッチ走法は衰えを見せず、8000mからの1000mを3分08、ラストの1000mを3分04でしっかりとまとめて、31分10秒02の日本歴代6位(※翌日の関西実業団DTで拓殖大の不破聖衣来がこの記録を上回ったため、現在は7位)の素晴らしいタイムで見事に参加標準記録、31分22秒00を破ってみせた。
五島は先月のクイーンズ駅伝で難しいエース区間の5区10㎞を31分28秒で走り切り、それまでの区間記録を更新し、10000m日本記録保持者の新谷仁美(積水化学)を1秒抑える区間賞の大金星を挙げており、このレースで自信を掴んだことが今回の飛躍に繋がったのではないだろうか。終始堂々としたレース運びを披露した。

岡本は五島から遅れて単独走となりながらも大きく崩れる事無く、標準記録には届かなかったが31分41秒00で走り切った。

鈴木は序盤からやや力みの有る走りだったが、一度離されてから再び集団に取りつくなど、標準突破への執念が最も感じられた選手だった。この大会は世界陸上の参加標準記録突破というこれ以上ないはっきりと定められた目標を達成するために設けられた大会であり、そこに挑む者がなければ意味をなさない。結果は32分10秒50の3位と本人にとっては不本意に終わったかもしれないが、大会の意義を汲み取って挑戦する意思をきっぱりと示した鈴木の心意気と勇気には拍手を贈りたい。

男子の5000mはPMを務めたA・クルガトが1000mを2分40秒ペースを刻むが、そのままでは標準突破に届かない。3000m手前に来て動きに余裕が無く、引き切れないクルガトに変わって、M・サムウェルがペースアップを開始、八王子LD10000mで自己ベスト更新して意気上がる松枝博輝(富士通)が対応、塩尻和也(富士通)はその松枝とクルガトを躱してサムウェルを追い、遠藤日向(住友電工)が松枝の後方に付いた。2番手の塩尻は八王子LDから続いて動きに切れがあり、サムウェルのペースアップにも動きを変える事無くしっかりと合わせる事ができているが、松枝は3200m辺りから力みが見られるようになり、動きが重くなってきた。松枝を躱した遠藤も塩尻との間隔が少しづつ空き始め、アクションが大きくなっていた。
残り3周でサムウェルが塩尻に先頭を譲り、標準記録突破がぎりぎりで尚且つ体力的に厳しい局面で前を引っ張って行くしか道が無くなった。
遠藤は無理に前との間隔を詰めず、ラストスパートに備えた待機モードに完全に切り替え、乱れていた走りのリズムが戻ってきた。
ラスト1周を前に頑張らざるを得なかった塩尻に疲れの色が隠せなくなり、ここでタメを作ったサムウェルが一気のスパートで塩尻を瞬く間に突き放した。
塩尻は切り替える事が出来ず、元のペースを押していくのが精一杯の状況になり、完全にスパートモードに切り替えた遠藤が一気に塩尻との差を詰め始め、更にその後方では女子10000mの鈴木同様に唯一出場の大学生、砂岡拓磨(城西大学)が、竹澤健介(当時早稲田大、現大阪経済大学陸上競技部監督)が2007年にマークした13分19秒00の日本人学生記録更新を目指して、遠藤を上回る勢いで追い上げてきている。
最後はラスト1周を60秒で回ってきたサムウェルが13分11秒72でそのまま押し切り、粘る塩尻をゴール前で捉えた遠藤が日本歴代6位の13分16秒40で2着、塩尻が13分16秒53で続いたが、13分13秒50の世界陸上参加標準記録には及ばず、目の覚めるようなラストスパートを見せた砂岡も13分19秒96で、日本人学生新記録には届かなかった。

塩尻は八王子LD10000mの8000m過ぎの勝負所でPMの疲れを察知しながら、集団から抜け出しにかかるタイミングを見失い、ラスト勝負で敗れてしまった事を意識してか、中盤以降も攻めの走りを見せた。ラスト1周は脚が止まりかかったが、標準記録突破と言う結果が求められるレースで攻める姿勢を貫いた事は間違っていなかったのではないか。自身の課題と弱点を念頭に置きながら、克服していこうとする姿勢は随所に現れていたと思う。ゴールタイムは日本歴代7位に相当し、確実に走力は上がってきている。

遠藤は塩尻とは逆に、自身の持ち味が一番発揮できるレースの組み立てで挑んだ。ラストスパートの切れはいつものように素晴らしく、レースの中で腹を括って賭けに出る事が出来るのも遠藤ならではの長所だが、勝負所で先頭から間隔が開きすぎてしまう点はやはり勿体ないように思う。この走りでもラストにもう一段磨きを掛ければ、参加標準突破が出来るかもしれないが、視線を世界の舞台に移せば、トップクラスは一気に勝負を仕掛けてくるために先頭の展開はもっと速くなり、今のレースの進め方では少々厳しい。今後を見据えた場合、遠藤には発想の転換も求められる時が来るのではないだろうか。

砂岡は、箱根駅伝出場を逃した悔しさや、長距離選手としての意地が爆発したような走りだった。来春からはコニカミノルタに所属する事が決まっており、一冬越した春のトラックシーズンで、更なる成長が見られるかを楽しみにしたい。

12月10日、11日と開催されたエディオンDC、関西実業団DTのたけびしスタジアム京都2連戦では、「世界の舞台で互角以上に戦える」選手が、質、量ともに男子を凌ぐ女子に於いて、エディオンDCで復活を遂げた木村、飛躍を遂げた五島、関西実業団DTで30分45秒21の日本歴代2位を初の10000mで叩き出し、まだまだ伸びしろも感じさせる18歳の不破と3人が世界陸上参加標準記録を突破し、こうした選手の層は更に厚みを増した。
だがその一方で、トップ選手たちを追いかけるグループに属する選手で目立ったのはベテランの域に差し掛かってきたエディオンDC5000m4位の森智香子(積水化学)、関西実業団DTで単独走になりながら31分52秒43で不破に続く2位となった実業団2年目の若手佐藤成葉(資生堂)くらいで、特に高卒実業団の若手に勢いを感じる事が出来なかった点は今後の課題として挙げられるだろう。5000mで15分20秒前半、10000mで32分を切る選手の登場を待ちたい。

男子に目を向けると、この冬も10000m27分台を記録する選手が続出し、競技レベルの向上が感じられる中、この2連戦で唯一トップ選手が顔を揃えて行われたエディオンDCの5000mで、八王子LDと同様にまたももう一歩のところまで迫りながら参加標準記録突破選手は現れなかった。
判で押したように「あと少し」届かない結果が続いてくると、男子選手に足りないものは、「絶対にこのレースで決めて見せる」といった覚悟のようにも思えてくる。
折しもこの2連戦の前日に開催された陸連のアスレティックスアワードで優秀選手賞に輝いた三浦龍司、田中希実は、東京五輪で結果を残せた要因を問われて口を揃えてこういった。「怖気づくことなく、怯むこと無く積極的にいくという気持ちが持てるかのメンタル面」であると。

文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)

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エディオンディスタンスチャレンジin京都
女子5000m(上位8名)
①K・タビタジェリ(三井住友海上)15:00.68
②木村友香(資生堂)15:02.48※オレゴン世界陸上参加標準記録突破、日本歴代6位
③田中希実(豊田自動織機TC)15:04.10
④森智香子(積水化学)15:21.42
⑤A・ムカリ(京セラ)15:26.20
⑥川口桃佳(豊田自動織機)15:27.13
⑦井手彩乃(ワコール)15:27.98
⑧木村梨七(積水化学)15:29.36

男子5000m
①M・サムウェル(カネボウ)13:11.72
②遠藤日向(住友電工)13:16.40※日本歴代6位
③塩尻和也(富士通)13:16.53※日本歴代7位
④砂岡拓磨(城西大学)13:19.96
⑤松枝博輝(富士通)13:28.26
⑥C・ロキア(富士通)13:29.93
⑦キサイサ・R(カネボウ)13:30.08
⑧河村一輝(トーエネック)13:32.36

女子10000m
①五島莉乃(資生堂)31:10.02※オレゴン世界陸上参加標準記録突破、レース終了時日本歴代6位、現在7位
②岡本春美(ヤマダホールディングス)31:41.00
③鈴木優花(大東文化大)32:10.50
④筒井咲帆(ヤマダホールディングス)32:13.96
⑤岩出玲亜(東日本実業団)32:50.18
⑥小井戸涼(日立)32:50.28
⑦福良郁美(大塚製薬)32:52.40
⑧兼重志帆(GRlab)32:59.01

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