優勝回数、記録、順位など、数字に着目しながら振り返る、第98回箱根駅伝!

第98回東京箱根間往復大学駅伝競走は、「戦国駅伝」との前評判を覆し、前回4位で昨年11月の全日本大学では2位に終わっていた青山学院大学が、10時間43分42秒の大会新記録で2位の順天堂大学に10分51秒の大差を付け、2年振り6度目の総合優勝を果たした。この総合新記録の他、復路新記録、1区、9区、10区でも区間新記録が誕生した第98回大会を、記録、順位などの数字に着目しながら振り返ってみたい。

① 青山学院大6度目の総合優勝

6度目の総合優勝を果たした青山学院大は、併せて往路優勝、復路優勝も成し遂げており、往路は2年振り5度目、復路は2年連続7度目の制覇となった。
往路で優勝を飾った大会はいずれも総合優勝を果たしており、往復ともに優勝を飾ったのは93回大会以来5大会ぶり(因みに全大学で見ても5大会ぶり)で、青学大としても今回で4度目となり、日本大学、中央大学の9回、早稲田大学、日本体育大の5回に次ぐ歴代5位の偉業だ。
特に復路の強さは圧倒的で、初めて総合優勝を成し遂げた91回大会以降、8大会のうち7大会を制する物凄さ。往路優勝からの逃げ切り勝ちが多く、往路2位以下からの逆転優勝が第94回大会の1度きりのためか、「復路の青学」と言った呼ばれ方はされないが、かつて4年連続で7区を務めた小椋祐介(現ヤクルト)や8区で3度区間賞を獲得した下田裕太(現GMOインターネット)、今大会で言えばエース区間の2区経験者の岸本大紀(3年)を7区に、中村唯翔(3年)を9区に起用するなど主力を躊躇う事なく復路に回す事が出来る選手層の厚さにこそ、青学の真の強さが現れていると感じる。
また、今大会では区間賞なしで往路を制しているが、これは昨年の創価大学に続き2大会連続、青学大としては、往路では初めての出来事だった。
因みに今大会は3つの区間賞を獲得した復路では、昨年に区間賞なしの優勝をしている。

② 2位順天堂大14年振りの躍動

昭和の末期に総合4連覇を成し遂げ、平成に入ってからも10年代の初めに駒澤大と「紫紺対決」と呼ばれた死闘を繰り広げ、学生駅伝をリードしてきた順天堂大。
その後は長きに渡って低落傾向が続き、2年続けて本戦出場を逃す不振の底からは脱したものの、毎年のようにシード校争いの渦中に置かれ、上位争いにはなかなか加われずにいたが、今年は違った。
1区で17位と大きく出遅れてしまったが、2区に起用された東京五輪3000m障害代表の三浦龍司(2年)が順位こそ上げられなかったが前を行くチームの背中が見えるまでに差を縮めると、3区伊予田達弥(3年)の7人抜きの激走で10位に浮上、4区石井一希(2年)の区間2位の力走で7位と更に順位を上げ、5区四釜峻佑(3年)が5位にまで押し上げて往路を折り返し、復路は6区山下りの牧瀬圭斗、8区津田将希の4年生二人が区間賞を獲得する活躍をみせて「元祖山の神」今井正人(現トヨタ自動車九州)が降臨した第83大会総合優勝以来、14年振りの表彰台となる、総合2位に入り、強豪校復活を印象付けた。

③ 1位青山学院大と2位順天堂大との差、10分51秒

箱根駅伝の総合成績で1位と2位との間に10分以上の差が生じたのは、青山学院大が初の総合優勝を果たした第91回大会で2位駒澤大学に10分50秒の差を付けて以来7大会ぶりで、その時を1秒上回った。この10分51秒以上の差が開いた大会となると、平成を跳び越えた昭和63年、順天堂大の4連覇中の3連覇目に当たり、第2位大東文化大に17分9秒の差を付けた第64回大会まで遡らなければならない。
参考までにこの時代の順大の主力選手は、現那須拓陽高校陸上部総監督で、現役時代は富士通で活躍した鈴木賢一氏、ヤクルトで活躍し、ニトリ女子ランニングチーム監督を務める倉林俊彰氏、前順天堂大陸上部駅伝監督の仲村明氏、大東大はアトランタ五輪マラソン代表の実井謙二郎氏、ヤクルトで活躍した元大東大陸上部監督の只隈伸也氏ら懐かしい名前が並んでいる。

④ 中央大、10大会振りのシード権獲得

第89回大会での6区途中棄権で28大会続けて来たシード校の座を手放して以降、9年連続で予選会校に甘んじていたが、今大会で6位に入り、第88回大会の8位以来10大会ぶりにシード校に返り咲いた。
その間、91回大会では復路の最終鶴見中継所の時点で11位に2分32秒の差を付ける8位を走行しながら、アンカーが残り数キロというところで疲労骨折を発症し、最終的に19位に沈む悲運に見舞われ、また93回大会では第5回大会以来続けてきた最多連続出場記録を88回で途切れさせる屈辱も味わったが、古豪復活を託された藤原監督就任6年目にして、練習だけではなく、学生の生活習慣を改めるところから始めた地道な指導がようやく花開くこととなった。

⑤ 法政大が10区で逆転のシード権獲得

法政大学は復路最終の鶴見中継点で10位の帝京大と34秒差をつけられる11位での襷渡し、20.1kmの馬場先門の地点でも37秒と差を詰められず、善戦もここまでかと思われた矢先、8位を走行していた東海大のアンカーが低血糖を起こすアクシデントに見舞われて急激にペースダウン。残り1㎞を切ったところで東海大を捉えた法政大が逆転でシード権を獲得した。10区でのシード権逆転劇は96回大会で11位創価大が中央学院大との55秒差を逆転し、更に東洋大を捉えて9位になって以来2年振り。
箱根駅伝を象徴する明暗の分かれるシーンでも有るので頻繁に起こっているようなイメージが有るが、この10年では96回大会と、④の項目の中でも紹介した91回大会での中央大のアクシデントにより、鶴見中継点でシード圏内まで52秒差の11位だった山梨学院大が9位となった例、90回大会でシード圏内まで50秒差の11位だった大東文化大が、1分差の9位だった法政大を捉えた例の3回有ったのみ。
今回の東海大同様の8位からの転落は91回の中央大の1例だけで、いずれもアクシデント絡みという事になる。
尚、近年で最も10位と11位の差が僅かだったのは、今から11年前、日本体育大、青山学院大、國學院大、城西大の4チームが一団となって大手町に姿を現した第87回大会で、10位國學院大が11位城西大に付けた3秒差。9区終了時点で12位だった日体大と、11位だった國學院大が、8位の城西大、9位の帝京大を押し出した格好だった。

⑥ 中央大・吉居大和が1時間0分40秒の破格のタイムで1区区間新記録を更新

ここからは区間賞など個人の記録の話題。
中央大2年の吉居大和が第83回大会で当時東海大2年の佐藤悠基(現SGホールディングスグループ)の記録した15年間破られる事の無かった1時間1分6秒の区間記録を26秒更新する1時間0分40秒の大記録を打ち立てた。
1㎞平均を2分51秒で走破しており、このタイムをハーフマラソンに換算すると1時間00分5秒から6秒と村山謙太(当時駒澤大、現旭化成)が2014年の丸亀ハーフで記録した1時間0分50秒の日本人学生記録を大きく上回り、小椋祐介が2020年の丸亀ハーフで記録した1時間0分0秒に迫る日本歴代2位相当のタイムで走っている計算になる。
吉居は15.2㎞の蒲田の定点で1分18秒有った差を、最終的に39秒差にまで詰められているように最終盤でやや疲れが見えていたが、タイム的には余裕を持っての記録更新だった。
6㎞以降の残り15㎞は単独走になりながらの破格のタイムで潜在能力の高さを改めて示し、日本人選手による初のハーフ60分切り達成の第一候補に躍り出たと見て良いだろう。今年2月の丸亀ハーフに出場するのであれば大注目だ。

⑦ 青学大の中村唯翔が9区、中倉啓敦が10区でそれぞれ区間新記録

9区では青山学院大3年の中村唯翔が1時間7分15秒と、第84回大会で中央学院大の篠藤淳(当時4年、現山陽特殊製鋼)がマークした1時間8分1秒を46秒上回る区間新、同時に初の9区1時間7分台の達成となった。
中村は前回大会ではエース区間の2区を任されながら区間14位に沈んでおり、今大会では真裏の9区でその雪辱を果たした。

10区でも同じく3年の中倉啓敦が1時間7分50秒で10区初の1時間7分台をマークすると共に、96回大会で創価大の嶋津雄大(当時2年、現4年)が記録した1時間8分40秒を50秒上回り区間記録の更新となった。中倉も前年に10区を担って区間4位となっており、2度目の10区となった今大会では、総合記録に復路記録も更新となる、トリプル記録更新でゴールテープを切る事となった。
チームの復路記録と総合記録が掛かっていたとはいえ、走り始めから最後まで23km以上の単独走ながら些かの乱れも気の緩みも無く走り切る精神力の強さを見せた終盤2区間の二人の姿からも、青学大の底力が感じられた。

⑧ 区間新にならなかった大記録

3区では、第96回大会でY・ヴィンセント(当時東京国際大1年、現3年)が樹立した59分25秒の区間記録が余りにも凄すぎる為に記録更新とはならなかったが、1時間0分55秒で区間賞を獲得した丹所健(東京国際大3年)、1時間1分00秒で区間2位となった太田蒼生(青山学院大1年)、1時間1分19位で区間3位に入った伊豫田達弥(順天堂大3年)の3人が、96回大会で遠藤大地(当時帝京大2年、現4年)が記録した1時間1分23秒の日本人選手の区間最高記録を上回った。
特に区間賞の丹所は日本人選手初の3区での60分台で有り、隠れた大記録と言って差支えないだろう。
また、2区区間賞の田澤廉(駒澤大3年)は1時間5分台には届かなかったが、やはり好記録が相次いだ96回大会で相澤晃(当時東洋大4年、現旭化成)のマークした1時間5分57秒に次ぐ同区間の日本人選手歴代2位の記録となる1時間6分13秒で走り、オレゴン世界陸上10000mの参加標準記録を突破した学生ナンバーワンの実力を充分に発揮した。

⑨ 帝京大・細谷翔馬の2年連続5区区間賞

帝京大の5区を担った細谷翔馬(4年)が前年の97回大会に続く2大会連続の区間賞。85回大会から4年連続区間賞を獲得した柏原竜二(当時東洋大)以来の連続区間賞で、神野大地(当時青学大、現セルソース)、順大の三浦と共に東京五輪3000m代表となった青木涼真(当時法政大、現Honda)でも成し得なかった、これも隠れた快挙だ。

⑩ 3選手が4年連続同じ区間で出場

今大会で國學院大の1区を担った藤木宏太、国士館大の2区を担ったR・ヴィンセント、帝京大の3区を担った遠藤の3選手が同一区間で4年連続出場を達成。近年では、1区は第89回大会から第92回大会を走った荻野眞乃介(当時日本大)、潰滝大記(当時中央学院大、現富士通)、2区では第92回大会から第95回大会の塩尻和也(当時順天堂大、現富士通)、W・デレセ(当時拓殖大、現ひらまつ病院)、3区では第89回大会から第92回大会の塩谷桂大(当時中央学院大)に次ぐ偉業となった。
また、この3人を含めて、4年連続本戦出場を果たした選手は以下の10人

飯田貴之(青山学院)95回8区2位、96回5区2位、97回9区2位、98回4区3位

遠藤大地(帝京大)95回3区3位、96回3区2位、97回3区4位、98回3区4位

藤木宏太(國學院大)95回1区10位、96回1区2位、97回1区12位、98回1区6位

殿地琢朗(國學院大)95回8区12位、96回10区4位、97回5区8位、98回5区9位

鎌田航生(法政大)95回8区7位、96回2区18位、97回1区1位、98回2区9位

太田直希(早稲田大)95回8区10位、96回8区4位、97回2区13位、98回3区6位

中谷雄飛(早稲田大)95回1区4位、96回1区6位、97回3区6位、98回2区14位

千明龍之佑(早稲田大)95回3区10位、96回4区7位、97回8区5位、98回8区5位

鈴木聖人(明治大)95回1区13位、96回5区5位、97回5区9位、98回2区16位

R・ヴィンセント(国士館大)95回2区3位、96回2区4位、97回2区2位、98回2区2位

青学大の飯田は4年間全て異なる区間を任されながらいずれも3位以内と驚異的なユーティリティーぶりを発揮したが、今大会は4区で3位となり、4年間異なる区間で全て2位という珍記録を逃している。

⑪ ごぼう抜きランキング

今大会の個人ごぼう抜き人数ランキング(5人抜き以上)
①P・ムルワ(創価大3年)9人※2区

②R・ヴィンセント(国士館大4年)8人※2区

③P・オニエゴ(山梨学院大4年)7人※2区

③伊豫田達弥(順天堂大3年)7人※3区

③吉田 響(東海大1年)7人※5区

⑥山本歩夢(國學院大1年)6人※3区

⑥嶋津雄大(創価大4年)6人※4区

⑧平林清澄(國學院大1年)5人※9区

尚、復路一斉スタート組による時差スタート組の追い抜きはごぼう抜きに含めていない。
4区や9区でこれだけの人数の追い抜きが有るのは比較的珍しいが、それだけ総合中位辺りで混戦が続いていた事を物語っている。

⑫ 爪痕を残した選手たち

最後の項目ではチームとしては下位に留まったものの、個人としては区間上位に食い込んだり、連合チームで存在が光った爪痕を残した選手たちを紹介。

木村暁仁(専修大2年)1区4位 1時間1分24秒

小泉 謙(駿河台大3年)6区3位 58分47秒

工藤巧夢(中央学院大1年)6区4位 58分47秒(復路一斉スタート、同タイム着差あり)

中山雄太(学連・日本薬科大3年)1区7位相当 1時間1分41秒

竹井祐貴(学連・亜細亜大4年)9区6位相当 1時間9分03秒

諸星颯大(学連・育英大4年)10区5位相当 1時間9分12秒

特に学生連合で1区を務めた日本薬科大の中山の、吉居を追いかけて集団を引っ張った積極的な姿勢、専修大1区木村の強豪チームに一歩も引かず2位を争うスパート合戦に加わった勝負度胸には目を瞠った。小泉、工藤もチームが振るわない中復路で流れを変えようと懸命に走り、竹井、諸星も順位が付かない連合チームであってもしっかりと自分の役割を果たし、存在感を示す事が出来た。諸星のゴール時の笑顔がとても爽やかだった。

第98回東京箱根間往復大学駅伝は、青山学院大学の総合優勝で幕を閉じたが、東京五輪の代表となった三浦に続き、田澤廉、吉居大和ら学生トップ選手たちがオレゴン世界陸上の切符を掴み取り、陸上ファンがその活躍に胸を躍らせるような素晴らしい1年となる事を期待させる、夢を見させてくれるような大会でもあった。
学生たちの新たな戦いは、既に始まっている。

文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)

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第98回東京箱根間往復大学駅伝競走
総合順位(往復217.1㎞)
①青山学院大学 10:43:42※大会新
(往路:志貴、近藤、太田、飯田、若林、復路:高橋、岸本、佐藤、中村、中倉)
②順天堂大学 10:54:33
(平、三浦、伊豫田、石井、四釜、牧瀬、西澤、津田、野村、近藤)
③駒澤大学 10:54:57
(唐澤、田澤、安原、花尾、金子、佃、白鳥、鈴木、山野、青柿)
④東洋大学 10:54:59
⑤東京国際大学 10:55:14
⑥中央大学 10:55:44
⑦創価大学 10:56:30
⑧國學院大學 10:57:10
⑨帝京大学 10:58:06
⑩法政大学 10:58:46
※以上10校が第99回大会出場のシード権を獲得
⑪東海大学 10:59:38
⑫神奈川大学 11:00:00
⑬早稲田大学 11:00:03
⑭明治大学 11:00:28
⑮国士館大学 11:03:06
⑯中央学院大学 11:07:33
⑰日本体育大学 11:11:11
⑱山梨学院大学 11:11:21
⑲駿河台大学 11:13:42
⑳専修大学 11:15:09
OP関東学生連合 11:00:25※14位相当
(中山・日本薬科大、並木・東京農大、齋藤・立教大、村上・上武大、福谷・筑波大、鈴木・麗澤大、田島・慶應大、大野・大東文化大、竹井・亜細亜大、諸星・育英大)

区間賞
1区(21.3㎞)
吉居大和(中央大②)1:00:40 ※区間新
2区(23.1㎞)
田澤廉(駒澤大③)1:06:13
3区(21.4㎞)
丹所健(東京国際大③)1:00:55
4区(20.9㎞)
嶋津雄大(創価大④)1:01:08
5区(20.8㎞)
細谷翔馬(帝京大④)1:10:33
6区(20.8㎞)
牧瀬圭斗(順天堂大④)58:22
7区(21.3㎞)
岸本大紀(青山学院大③)1:02:39
8区(21.4㎞)
津田将希(順天堂大④)1:04:29
9区(23.1㎞)
中村唯翔(青山学院大③)1:07:15※区間新
10区(23.0㎞)
中倉啓敦(青山学院大③)1:07:50※区間新

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