皇后盃第40回全国都道府県対抗女子駅伝競走大会が、1月16日、たけびしスタジアム京都を発着点とする9区間42.195㎞のコースで行われる。昨年はコロナウィルス感染拡大の為に中止となっており、2年振りに中学生から社会人、プロランナーまで全国から都大路に集い、襷を繋ぎ覇を競う、今大会の注目選手、みどころに迫ってみたい。
注目選手の筆頭は何と言っても群馬から出場する不破聖衣来だ。昨年春に拓殖大に入学すると6月からトラックの記録がぐんぐん伸び始め、秋以降の活躍は更に目覚ましく、全日本大学駅伝や富士山駅伝では他選手をまったく寄せ付けないぶっちぎりの区間賞を獲得。12月に今大会の発着点でもあるたけびしスタジアムで行われた関西実業団ディスタンストライアルでも初のトラック10000mで、終始単独走だったにも拘らず30分45秒21の日本歴代2位をマークして、オレゴン世界陸上参加標準記録を軽々と突破、このタイムを出しながら記録を狙った調整を積んでいた訳では無かったというから怖れ入る。
今大会ではおそらくアンカーとして9区10㎞を担う事が予想され、ここでも青森の福士加代子(ワコール)が2004年の大会で記録した30分52秒の区間記録の更新をするような事になれば、現状でもやや過熱気味の各メディアからの注目もより一層高まるだろう。
石川から出場の五島莉乃(資生堂)も勢いがある。中央大学時代からその将来を嘱望され、資生堂に入社2年目で環境にも慣れたのかその実力が開花、不破がオレゴン世陸の参加標準を突破する1日前に同じたけびしで行われたエディオンディスタンスチャレンジの10000mで31分10秒02を記録し、堂々と世陸参加標準の突破を果たしている。不破同様にアンカーでの起用が予想され、タイムと共に何人の選手を抜いて、どれだけ順位を上げるのか、「ごぼう抜き記録」にも注目してみたい。
その五島と同様に、エディオンディスタンスチャレンジの5000mで15分02秒48をマークし、世界陸上の参加標準記録を突破した木村友香(資生堂)は福岡から代表に選ばれている。2019年にはドーハ世界陸上の5000mに出場し、東京五輪代表を目指すも故障による不振から代表争いに加わる事が出来ていなかったが、五輪後の秋以降に復調し、世陸標準を突破するまでに力を戻すどころか、スピード持久力は更に磨きが掛かり、精神面でも充実が見受けられる。今大会では福岡チームの一員として、勢いを付ける1区での起用が予想される。
昨夏の東京五輪の代表選手も、1500mで8位入賞を果たした田中希実(豊田自動織機TC)が兵庫から、10000m7位入賞の広中璃梨佳(JP日本郵政グループ)は長崎から、同じく10000m代表の安藤友香(ワコール)は京都から、3000m障害代表の山中柚乃(愛媛銀行)は愛媛から、そしてマラソンで8位に入賞した一山麻緒(ワコール)は鹿児島からそれぞれ代表に選ばれ、2022年のレースでの走り初めを迎える。自身の今後に向けての調整や、チームに貢献する走りだけでなく、中学生や高校生選手に将来への夢や目標への後押しとなる走りを披露し、その経験という襷を渡して行く立場でもある。
この大会でお馴染みのベテラン選手では、1月30日の大阪ハーフマラソンを以て引退する事を表明ている、アテネ・北京・ロンドン五輪トラック長距離代表でリオ五輪マラソン代表の福士が青森から代表に選ばれており、これが最後の駅伝での雄姿となる他、リオ五輪で福士と共にマラソンを走った伊藤舞(大塚製薬)が徳島の代表となっている。
一方で東京五輪10000m代表の新谷仁美(積水化学)やマラソン代表の鈴木亜由子(JP日本郵政グループ)のエントリーは無く、今大会に関しては各都道府県とも若手選手の抜擢が多い印象を受けた。そうした次世代を担う選手の中から不破に続くヒロイン候補の一人として宮城・仙台育英高校の3年生、米澤奈々香を挙げておきたい。昨年10月の日本陸上選手権1500mでは高校2年生ながら、優勝した田中希実に続く堂々の2位に入り、5000mで昨年12月にマークした15分31秒33は高校歴代6位で、実業団選手にも引けを取らない。宮城チームはここ数年主力としてアンカーを務めている佐藤早也伽(積水化学)が1月30日の大阪国際女子マラソンに出場するためエントリーから外れており、若手主体で挑む今大会はエース級の活躍を期待されているだろう。優勝を果たした全国高校駅伝では1区を任されており、同じコースを走る今回もチームを勢い付ける1区に起用される事が濃厚。同じ1区起用が予想される、田中、木村といった実力者を相手にどこまで力が通用するか楽しみだ。
優勝チームに下賜される皇后盃を巡っては、過去17度の優勝を誇り、今回も安藤の他、駅伝巧者の筒井咲穂(ヤマダHD)、福岡大では800m、1500mの中距離で活躍したワコール入社1年目のスピードランナー井手彩乃ら強力な実業団選手を擁し、村松結(立命館宇治高3年)らコース経験の豊富な高校生も揃う地元京都に、不破の他にもオレゴン世界陸上10000mの代表を狙う岡本春美(ヤマダHD)、スピードランナー樺澤和佳奈(資生堂)と実力者の揃う群馬、田中と後藤夢の豊田自動織機TC勢に加えて大西ひかり(JP日本郵政グループ)の社会人勢が強力なうえ、全国高校駅伝3位の須磨学園の選手が顔を揃える兵庫の三つ巴の争いと見るが、どのチームにとっても群馬の不破の存在は脅威の的で、京都は安藤、井出、兵庫は田中、後藤と前半区間での起用が見込まれる選手たちで主導権を握り、アンカーに繋ぐまでに最低でも1分、出来れば1分30秒以上の差で襷を渡したいところ。群馬は岡本、樺澤で流れを作った後の常盤高、健大高崎高の高校生選手たちが先頭の背中が見える範囲で踏み止まる事が出来るかが焦点になりそうだ。
一山がアンカーに起用されそうな鹿児島も、全国高校駅伝4位に入った神村学園を中心とする高校生が強く、優勝争いに加わる事が出来るかどうかの鍵を握るのは、その一山のコンディションが上向く事と、脇を固めるプリンセス駅伝1区4位と好走した兼友良夏(京セラ)、短い距離の区間を任されそうな野添佑莉(三井住友海上)の実業団選手二人の走りに懸っている。
廣中の控える長崎も有力だが、その廣中がクイーンズ駅伝以降、本来なら出場していたであろう多くのトップ選手が出場したトラックの競技会を欠場しており、万全な仕上がりを見せているのか一抹の不安が残る。状態が上向いていないようであれば、エディオンディスタンスチャレンジの5000mで15分21秒41の自己ベストをマークし、山陽女子ロードの10㎞を制するなどこの冬絶好調な森智香子(積水化学)にアンカーを譲り、他の区間に回るような事もあるかもしれない。本来の実力が発揮できる状態であれば、不破とのアンカー対決は非常に楽しみだ。
年明け以降、昨年の大会を中止に追い込んだコロナウィルスの感染状況が急速に悪化し、この大会の翌週に行われる予定だった全国都道府県男子駅伝は、開催地の広島県でコロナウィルスまん延防止等重点措置の対象地区となったため中止になっている。現在のところ、急遽大会中止になるような情報は伝わっていないが、全47チームの一人の選手も欠ける事無く、無事にレースが行われるよう願っている。
文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)
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