松田瑞生と佐藤早也伽の世界陸上代表争いに、MGC出場権を巡る闘いにも注目!第41回大阪国際女子マラソン

第41回大阪国際女子マラソンが1月30日、ヤンマースタジアム長居をスタートし、御堂筋難波交差点を折り返し、大阪城公園内を通って戻ってくる42.195㎞の市街地コースで開催される。
昨年はコロナウィルス感染拡大の影響で開催直前に長居公園内周回コースに変更されたため、市街地コースでの大会実施は2年振りとなる。
また、今大会は昨年に続き有力選手の招聘は見送られ、ペースメーカーも川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)、岩田勇治(三菱重工)、神野大地(セルソース)ら6名の男子選手が起用される。

パリ五輪マラソン代表選考を巡るMGCシリーズとして女子では最初に行われる今大会は、東京五輪補欠選手として、女子マラソンの開催日直前まで調整を続けていた松田瑞生(ダイハツ)、9月の全日本実業団陸上の5000mで15分08秒72をマークしオレゴン世界陸上参加標準を突破しながら、マラソンで代表を目指す意向を示している佐藤早也伽(積水化学)のマラソンで実績のある二人を中心に、昨年の大会で長居公園内周回という変則開催ながら2時間24分台の好タイムをマークして3位、4位と健闘した阿部有香里(しまむら)、上杉真穂(スターツ)、10000m31分36秒04の自己ベストを持つ萩原歩美(豊田自動織機)といった後に続く選手たちが、どこまで勝負に絡む事が出来るかが焦点となってくるだろう。

優勝候補の筆頭に挙げられる松田は、2018年の大阪国際女子マラソンで2時間22分44秒で優勝を果たす鮮烈なデビューを飾って以降、フルマラソンの戦績は5戦3勝、残暑の中行われた2019年のMGCこそ2時間29分51秒で4位に終わっているが、このレースを除けば前年9月のベルリンマラソンを含めた4戦は全て2時間23分以内で完走しており、抜群の安定感を誇っている。
インタビューなどの言動から陽性のキャラクターで、レースでも威勢よく勢いのまま走っているように思われがちだが、初マラソンの2018年の大阪国際女子ではレース中盤で早めの勝負に打って出た前田穂南(天満屋)を深追いせず、大阪城公園付近の28㎞からじわじわと追い上げを開始、31㎞付近で逆転すると一気にペースを上げて突き放したように、42.195㎞をトータルで捉え、自身の体力を測りながら勝負所を見極める、男子で言えば大迫傑のように冷静な自己分析に基づいてレースの組み立てが出来るタイプで、コンディションさえしっかりと整えてくれば大崩れは考え難い。
そのコンディションだが、少し気懸りなのが、フィジカルよりもメンタル面。
東京五輪でマラソン代表となる事に相当なこだわりを見せていた上に、走れない可能性が高かったにも拘らず、女子マラソン実施日の直前まで補欠選手として追い込んだ調整を続けていたのも、松田なりの東京五輪へのけじめだったかのか。今大会の目標を問われ、前回フルマラソンを走った昨年の名古屋ウィメンズマラソンの時と同様に「過去の自分を越える事」と答えているのはとても松田らしいが、反面気持ちが吹っ切れているのか心配な面もある。試練を乗り越えた新生松田瑞生の姿を、地元大阪で披露できるか。

積水化学の佐藤も初マラソンだった2020年の名古屋ウィメンズマラソンで2時間23分27秒の好記録をマークして頭角を現して以降、トラック5000m、10000mでも大幅に記録を伸ばし、着実に力を付けてきている。
2度目のフルマラソンとなった昨年の名古屋ウィメンズマラソンでは、2時間24分台に留まり、期待された自己記録の更新はならなかったが、猛烈な向い風に悩まされる中、優勝した松田とともにPMの刻む中間点通過が1時間10分23秒のハイペースに付いて行き、その後は単独走となりながらしっかり粘る事はできており、最後の5㎞で大きく失速してしまった初マラソン時からの改善は出来ていた。
昨年9月の全日本実業団陸上5000mでオレゴン世界陸上の標準記録を突破し、スピード面にはさらに磨きが掛かったが、その際に世界陸上ではマラソンで代表を目指す事を改めて宣言し、マラソンへの強いこだわりを伺わせた。再び対峙することになる松田にどこまで食らい付き、勝負を挑む事ができるのかは、後半までスピードを維持できるだけの、もう一段階上の体力が身に付いてきているかに懸っているだろう。

松田、佐藤に負けじと記者会見で日本陸連が定めたオレゴン世界選手権の派遣設定記録、2時間23分18秒を目標に掲げたのが上杉だ。5000m、10000mで目立った実績がある訳ではないが、フルマラソンにおいては積極果敢な攻めの走りを見せる選手で、2019年、2020年の名古屋ウィメンズマラソンでは自身のハーフマラソンの記録を大きく上回るペースの先頭集団に食ら付くレースを見せていた。
昨年の大阪国際女子では日本記録を目指した先頭集団には付かなかったが、5㎞を17分設定の第二集団のペースを30㎞まで維持し、2時間24分52秒で4位に入り今後の飛躍を期待させるだけのリザルトを一つ残した。
その僅か1か月後の名古屋ウィメンズでは、松田、佐藤らと共に先頭集団での勝負に挑み、結果的には2時間27分台と跳ね返されてしまったが、短い間隔のフルマラソンで、もう一段上のレベルを目指して挑戦をした向上心と心意気は評価出来るものであり、また得難い経験となっただろう。
12月の関西実業団DTの10000mを途中棄権しており、コンディション面が少し気懸りなところだ。

昨年の大会で上杉を上回る2時間24分41秒で3位に入った阿部は、東京五輪代表を争うMGC出場にあと2秒届かなかった2019年大会での無念を幾分なりとも晴らしたが、マラソン選手としてはここからが本当の勝負だ。
今大会では昨年のタイムを少しでも上回る事を目標に掲げているが、これはおそらくかなり控えめに言ったもので、今年の初めに箱根を制した青山学院大の練習に参加していることから、男子選手がPMを務める今大会への並々ならぬ意欲が窺える。強かなベテランの、粘りの走りに注目だ。

10000mで31分36秒04秒の好タイムを持つスピードランナーの萩原は、昨年の大会では第二集団にも付くことなく5㎞17分30秒ペースでレースを進め、後半に順位を押し上げて2時間26分15秒の5位で初マラソンを無難にまとめたが、そのポテンシャルから見れば若干の物足りなさが有った事は否めない。このレースのあとは故障も有って、予定したレースに出ることがなかなか出来ていなかった点に不安があるが、上位争いを演じて欲しい一人だ。

2時間28分を切った上位3位までと27分を切った6位までが獲得する、パリ五輪代表を争う第2期MGC出場権を巡っては、前回のMGC出場の権利を得ながら、先を見据えてドーハ世界陸上代表に転じた谷本観月(天満屋)、中野円花(岩谷産業)、池満綾乃(鹿児島銀行)の三選手にも注目したい。世界陸上に出場後にフルマラソンでなかなか結果を出せていないところもこの三人に共通しており、何とか復調のきっかけを掴みたいところだろう。

また、実業団では無く、クラブチームに所属している招待選手の山口遥(AC・KITA)、準招待選手の兼重志帆(GRlab関東)の実力も侮れない。この二人がMGCの出場権を得られれば、現在伸び悩んいる選手の多い実業団の若手選手達にとっても良い刺激となり、相乗効果によって男子に比べるとやや薄い女子マラソンの選手層に厚みが出てくる事も期待できるのではないだろうか。

川内や神野がその役割を担うペースの設定はまだ発表されていないが、日本記録更新を目指した昨年の1㎞3分18秒、5㎞を16分30秒のペースよりはやや遅い、5㎞を16分40秒くらいの設定となるのでは、と予想する。ペースメーカーがどこまでの距離を担当するかにも依るが、記録も狙いたい松田や佐藤にとっては、30㎞以降にペースアップをする事が出来れば昨年に一山麻緒(ワコール)がマークした2時間21分11秒の大会記録更新や、2時間20分台も見えてくる。

当日には同時スタートで大阪ハーフマラソンも行われ、日本女子長距離界にその足跡を刻んで来た福士加代子(ワコール)のラストレースとなる。三度転倒するなど苦しみ抜いた初マラソンの地を、競技者としての最後のレースの舞台に選んだところが、福士らしいように思える。

偉大な選手の引退に花を添える、日本女子長距離界の未来を託された選手たちの力走に期待したい。

文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)

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