西山雄介が世界陸上派遣標準を突破する2時間7分47秒の大会新でV!MGC出場権獲得は6名!初マラソンの若手が輝いた、第70回別府大分毎日マラソン

第70回別府大分毎日マラソン大会が2月6日、大分市うみたまご前をスタートし、大分市営陸上競技場にゴールする42.195㎞のコースで行われ、初マラソンの西山雄介(トヨタ自動車)がオレゴン世界陸上派遣設定記録(2時間7分53秒)を突破する、2時間7分47秒の大会新記録で優勝を飾り、代表に名乗りを上げた。10000mを中心とするトラックを主戦場としていたベテラン鎧坂哲哉(旭化成)が2度目のマラソンで従来の大会記録を上回る2時間7分55秒で2位、2時間8分20秒の自己ベストをマークした若手の藤曲寛人(トヨタ自動車九州)が3位に入った。36㎞手前で仕掛け、一時は独走かと思わせる健闘を見せた初マラソンの古賀淳紫(安川電機)が2時間8分30秒で4位と続き、2時間8分44秒の5位に相葉直樹(中電工)、2時間8分51秒で6位の中西亮貴(トーエネック)までの上位6名が既定のタイムと順位をクリアし、来年秋に開催されるパリ五輪マラソン代表選考会、MGCの出場権を獲得した。
2時間9分17秒で7位の赤崎暁(九電工)2時間9分56秒で8位に入った山口武(西鉄)ら初マラソンの若手の積極性が光った。

レースは別府市へと向かう最初の10㎞は風速5mとかなり強めの向い風の中最初の5㎞は15分11秒、次の5㎞が15分17秒と1㎞3分から3分2秒の設定ペースからはやや遅めの入りとなったが、亀島漁港を折り返し、大分市街へ向かい始めると追い風に乗り次の5㎞は14分50秒と序盤のペースはなかなか落ち付かない。
20㎞までを受け持つペースメーカーの照井明人(SUBARU)と、30㎞までを担当するJ・カランジャ(愛知製鋼)が最初の10㎞のペースを取り返そうとしたのかペースを落とさず、おそらくそれを嫌った第一集団の有力選手との間に距離が出来始める国内レースでは珍しい展開となったが、設楽悠太(Honda)、C・W・カマウ(武蔵野学院大)、N・キプリモ(日本薬科大)の残り3人のペースメーカーが集団の前で巧みにペースをコントロールしてレースを落ち着かせ、中間点は1時間3分39秒と速すぎもせず、遅すぎもせずの絶妙なタイムでの通過となり、初マラソンの若手が多い第一集団の選手たちにとっては、好記録も期待できる絶好の展開となってきた。

安定したペースメイクを見せた設楽とワンジクがレースを外れた25㎞辺りから有力選手にも苦しくなる選手が現れ始め、招待選手で8分台の記録を持つ細森大輔(YKK)小山裕太(トーエネック)、藤川拓也(中国電力)、2時間7分41秒と出場選手中2番目のベストタイムを持つ市山翼(小森コーポレーション)ら招待選手が次々と先頭集団から脱落、28㎞過ぎには期待の高かった青山学院大の飯田貴之が遅れ始めるなど徐々に優勝争いが絞られて行き、キプリモが離脱した30㎞地点で集団に残ったのは参加選手中1番のベストタイム2時間7分12秒を持つ大六野秀畝(旭化成)、鎧坂、藤曲、西山、別大と相性の良いベテランの兼実省伍(中国電力)、青学勢でただ一人残った宮坂大器、初マラソンの赤崎、中西、山口、古賀、伊勢翔吾(コニカミノルタ)、東京五輪マラソンの代表補欠となった橋本崚(GMOインターネットグループ)、昨年11月の8月に10000mの自己ベストを27分48秒26に伸ばして勢いのあるベテラン相葉の13人。

ここからの各選手の細かい駆け引きは非常に見応えが有った。 ペースメーカーが外れてからまず動きを見せたのが大六野。30㎞手前の弁天大橋の下りから徐々に集団の真ん中から前方に進出し、キプリモが役割を終えると入れ替わるように先頭でレースを引いてペースを上げ始める。実力者の橋本が篩い落とされ、大六野が先頭を鎧坂に譲ると、変わった鎧坂がペースを上げ、ここで学生では唯一実業団勢に食らい付いていた宮坂が離され始めた。
しばらく先頭を走った鎧坂がペースを緩め、手で合図を送って先頭を交代するように近くを走っていた西山に促したが、西山は歩道側に寄って鎧坂との横の間隔を開けてこれを拒否。二人の間に挟まれる格好となっていた中西がしばらく周囲を伺っていたが、他に前に出る選手がいないのを悟り、一度後方を確認してから意を決したように先頭を引き始めると、34㎞過ぎの橋の下りでこれまで集団の中盤に潜み、目立つ事の少なかった藤曲が勝負に出た。
西山はスパートの気配を察し、対応しかかったがタイミングが早いと見たかここは自重、赤崎が動きを一段切り替えて藤曲を追い、呼応するように鎧坂、相葉が続き、西山は相葉の後ろに取りついた。この揺さぶりでここまで健闘を見せていた伊勢、山口、兼実が集団から遅れ、35㎞手前の折り返しでは終始集団後方からレースを進めていた古賀が2番手に浮上、赤崎、秋葉、西山、鎧坂と隊列が続き、少し遅れて中西、大六野はここで完全に優勝争いから脱落した。

折り返しを過ぎた35㎞ではそれまで背中を押していた追い風が猛烈な向い風に変わり、行き切れなくなった藤曲に古賀と西山が追い付き、少し遅れて鎧坂、相葉、赤坂も集団に取りつき隊列は横長に。中西は集団との差を詰められない。ペースが落ち始めた36㎞手前の乙津川に懸る橋のところで古賀が一気にスパートを仕掛け、鎧坂が瞬時に対応を見せ、西山がそれに続いたが差はみるみるうちに拡がって行く。相葉、藤曲、赤崎も懸命に粘るが、追う事ができない。
36㎞の給水を取った古賀はもう一段ギアを上げて差を拡げ、ここで相葉、赤崎が脱落し、優勝争いは古賀、15m後方の鎧坂と西山、更に10m後方の藤曲の4人に絞られた。古賀の残り5㎞地点の通過が1時間52分20秒、昨年のびわ湖で作田将希(JR東日本)が記録した2時間7分42秒の初マラソン日本記録更新も見えてきたが、強い向かい風の中、ここまでのペースを維持できるかどうか。

単独走となった古賀もそれ以上は差を拡げる事が出来ず、向かい風に体力を削られたのか、38㎞辺りから追い上げる西山、鎧坂との差が少しづつ縮まり始め、39㎞過ぎには3人の集団に変わった。後方の藤曲は勢いが見られず、優勝が遠ざかって行ったように見える。
しばらく3人による膠着状態が続いたが、残り2㎞を切って西山がスパート、古賀はここで力尽き、追い縋る鎧坂を振り切ってその差を拡げ、決着は付いた。競技場に入り、ゴール手前で2度誇らしげに胸を2度叩き、刀を抜くように右手を斜めに付き上げ、ゴールテープを切った。

■ マラソンでの可能性を示した西山、鎧坂、藤曲、古賀

西山は初マラソンとは思えない落ち着いたレース運びを見せた。集団の中では終始歩道側の給水の取りやすいポジションに位置し、序盤は市山らと共に集団前方に付けていたが、10㎞をすぎて追い風に変わり、先頭のペースが上がって余裕が保てなくなったとみると無理をせず集団の後方に位置を下げ、中間点過ぎからは頃合いを見計らったように集団前方に進出していた。勝負どころの藤曲の揺さぶり、古賀のスパートにも即座に対応はせず、一度心を落ち着かせるように周囲の反応を見てから、ワンテンポタイミングを遅らせて、一気の加速を避け、スムーズに少しずつペースを上げて差を詰めた。動きを変えて一気に差を詰めることにより、却って体力を消耗することを避け、後に訪れる最後の勝負まで体力を残す事ができたところが、勝負の分かれ目だった。レースの流れを読む力にも長けており、抑制の効いたスマートな走りが出来る、頼もしい存在がまた一枚日本男子マラソン界に層の厚みを齎した。

2位の鎧坂もレースの流れに上手く乗り、時には先頭を引っ張る存在感を示しながら2時間8分を切り、トラックで培ったスピードがマラソンでも充分発揮できるところを見せ付けた。
PMが抜けた後にペースを落とさないよう、先頭を交代しながらレースを進めていく事を「仕向けた」あたり、ベテランならではのレースの巧者ぶりを見るとともに、記録への強いこだわりも感じられた。
MGC出場権を獲得し、本格的なマラソン転向ということになるのだろうが、本腰を入れてトレーニングを積んだ時にどこまで記録を伸ばしてくるのか、非常に楽しみだ。

藤曲は優勝を狙ったレースで3位と本人としては不本意なところもあるかもしれないが、昨年のびわ湖に続いての2時間8分台で纏めた安定感は誇って良い。勝負出来ずに終わった訳ではなく、勝負を懸けに行く事が出来たのも一つの成長で、こうした失敗を繰り返しながら、勝負所を見極める力が付いていくのもまたマラソンなのだろう。

最後の最後で脚が止まってしまったが、古賀もマラソン適性の高さを窺わせる大激走だった。肩を前後に揺さぶるようなダイナミックなランニングフォームに特徴が有り、その分スタミナが最後まで持つのかという疑問符も付けられていたのだが、いざレースが始まると集団の流れに上手く乗って、というよりは、終始集団の後方に位置してレースの流れに身を任せるように体力の消耗を避け、一回のスパートで勝負を決めに行ったレースの組み立てと勝負度胸はお見事の一言。先々の可能性を示すレースだった。

新たな芽の育ち、依然残る世界との差

パリ五輪を目指す最初のマラソンとなった昨年の福岡では日本人選手トップが細谷恭平(黒崎播磨)の2時間8分16秒に留まり、東京五輪に向けて右肩上がりだった日本男子長距離陣の勢いもやや落ち着いたかに思えたが、今年の別大マラソンは2名が7分台、4名が8分台を記録、しかもこのうち初マラソンが3名、全員がマラソン出場3回未満と経験の浅い選手の活躍が際立ち、新たな芽が育ってきている事が実感できる大会となった。

しかしこの裏には1㎞ペースが2分58秒だった福岡に比べ、3分から3分2秒と緩やかな設定となり、選手たちが無理をせずに流れに乗りやすかった事も好結果の要因として挙げられ、世界レベルのペースで後半もしっかりと走り切る選手を育てていくという課題は依然として残っている。
ワールドクラスへの階段を一つ登った、西山、鎧塚といった選手たちが更に上のレベルを目指し、続けて好結果を残してこそ、日本男子長距離界の進化と言えるのではないだろうか。好記録が続出した昨年のびわ湖マラソンで2時間9分切りを果たした27選手の中で、真価の問われる次のレースでそのタイムを上回ってきたのは、今大会の藤曲が初めてだったのだから。

文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)

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第70回別府大分毎日マラソン

①西山雄介(トヨタ自動車)2:07:47※大会新、世界陸上派遣設定記録突破、MGC出場権獲得

②鎧坂哲哉(旭化成)2:07:55※大会新、MGC出場権獲得

③藤曲寛人(トヨタ自動車九州)2:08:20※MGC出場権獲得

④古賀淳紫(安川電機)2:08:30※MGC出場権獲得

⑤相葉直紀(中電工)2:08:44※MGC出場権獲得

⑥中西亮貴(トーエネック)2:08:51※MGC出場権獲得

⑦赤崎 暁(九電工)2:09:17

⑧山口 武(西鉄)2:9:56

⑨兼実省伍(中国電力)2:10:02

⑩大六野秀畝(旭化成)2:10:11

⑪橋本崚(GMOインターネットグループ)2:11:21

⑫伊勢翔吾(コニカミノルタ)2:11:32

⑬北島寿典(安川電機)2:12:01

⑭宮坂大器(青山学院大学)2:12:09

⑮小山裕太(トーエネック)2:12:28

⑯横田俊吾(青山学院大学)2:12:41

⑰藤川拓也(中国電力)2:14:26

⑱鈴木 忠(スズキ)2:14:32

⑲江島峻太(三菱重工)2:14:52

⑳大山憲明(コニカミノルタ)2:14:52

20位以下の主な選手
㉒西久保遼(青山学院大)2:15:46、㉓吉村大輝(旭化成)2:15:58、㉗國行麗生(大塚製薬)2:18:03、㉜谷川智浩(コニカミノルタ)2:19:57、㉝飯田貴之(青山学院大)2:20:13、㊷川内鮮輝(Jaybird)2:22:12、57 稲田翔威(コモディイイダ)66 馬場祐輔 2:26:24(小森コーポレーション)110 細森大輔(YKK)2:32:36
※DNF 市山翼(小森コーポレーション)

視覚障がいマラソン
男子(3位まで)

①和田伸也(長瀬産業)2:26:17※T11クラス世界記録

②唐澤剣也(群馬社福事業団)2:28:26

③熊谷 豊(三井住友海上)2:34:06

女子(3位まで)

①道下美里(三井住友海上)2:57:20

②西村千香(岸和田健康クラブ)3:17:08

③金野由美子(JBMA)3:17:58

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