第105回日本陸上競技選手権大会クロスカントリー競走が2月26日、福岡・海の中道海浜公園を会場に開催される。男シニアの部10㎞の優勝者には5月7日に国立競技場で開催される第106回日本陸上競技選手権10000mの出場権が、女子8㎞優勝者には男子と同じ日本選手権10000mの出場権或いは6月9日から大阪・ヤンマースタジアム長居で行われる第106回日本陸上競技選手権の5000m出場権のいずれかが与えられる。今年の大会も、昨夏の東京五輪で活躍した選手、トラックでこの夏のオレゴン世界陸上代表を目指す選手、将来有望な学生選手など、男女の有力選手が多数エントリーし、ロードレースやトラックのスピードレースとは一味違う結果重視の駆け引き勝負が展開されそうだ。
東京五輪3000m障害代表の三浦龍司(順天堂大学)は昨年の男子シニア10㎞の覇者。残り1周からの松枝博輝(富士通)とのスパートの応酬を制した事は、その後に東京五輪代表を掴み取る際の大きな手応えとなったのではないだろうか。スピード持久力が高く、単独走でもで押して行く力が有る上に、そこからもう1段切り替えるスプリント力も有り、レース中の駆け引きにも惑わされずに捌く対応の上手さが有る。今期の目標はおそらく東京五輪7位入賞からどれだけメダルレベルに迫れるかにあると思われ、オレゴン世界陸上の代表になる事に留まらず、決勝での世界トップクラスとの勝負を見据えての、今年のクロスカントリー選手権出場ということだろう。箱根では三浦らしい走りは見せられなかったが、トラックシーズン開幕も近づき、どれほどの仕上がりを見せているかに注目したい。
リオ五輪3000m障害代表の塩尻和也(富士通)は東京五輪の代表を逃した後、昨年11月の八王子ロングディスタンスでは10000mで27分45秒18、12月のエディオンディスタンスチャレンジでは5000mで13分16秒53と立て続けに自己記録を更新。「本業」の3000m障害以外のトラック種目でも世界選手権代表を狙えるほどに走力、特にスピード面に磨きが掛かってきている。レース内容もペースが落ちて来たとみれば躊躇うことなく先頭を引っ張るなど、常にアグレッシブで、オレゴン世界陸上の長距離種目での代表へ向けて、競技に対する意識の変化が表れているように感じられる。このレースで良い手応えを得て、トラックシーズンに臨みたいところだ。
昨年の大会で三浦とのスプリント勝負に屈した東京五輪5000m代表の松枝も、八王子ロングディスタンスで10000mの自己ベストを27分42秒73まで伸ばし、この種目での世界陸上代表も視野に入りつつある。ニューイヤー駅伝1区でもトップから3秒差の3位と地力の高さを見せ、好調を維持していることも窺える。昨年同様、優勝争いのキーパーソンの一人だ。
松枝と同じく東京五輪5000m代表の坂東悠汰(富士通)は五輪本番での予選落ちの後、すぐさまTWOLAPSのミドルディスタンスサーキットの1マイルレースに出場するなど、五輪で得た教訓を糧に、競技への取り組みが変わってきたようだ。9月の実業団選手権で1500mに出場して以降は大きな大会に姿がなく、おそらく小さな故障があったものと思われるが、トラックシーズンに向けてコンディションが上向いて来ているか、注目してみたい。
こうしたオリンピック経験者を相手に、駒澤大に進学する事が明らかになっている高校生、佐藤圭汰(洛南高校)がどのような走りを見せてくれるかにも注目だ。1500mでは日本選手権で8位入賞、7月のホクレンディスタンスチャレンジで日本歴代3位となる3分37秒18を記録するなどすでに実業団選手と互角以上に渡り合っており、今まで手合わせの無かった代表クラスの選手たちとレースを共にする事で、どこまで能力が引き出されるのか楽しみだ。結果によっては、今はおぼろげに見えている世界陸上の代表の座がはっきりと視界に入ってくるような事もあるかもしれない。
三浦以外の学生陣では、先日の実業団ハーフで山野力が学生記録を更新、篠原倖太朗も上位に食い込み、状態の良さが目立った駒澤大学勢の唐澤拓海、安原太陽、出雲駅伝、全日本大学駅伝で区間賞を獲得しながら、箱根駅伝は欠場となった東洋大のスーパールーキー石田洸介といった選手が上位争いに加わってくるかどうか、楽しみにしたい。
■ 女子は田中、不破、萩谷が欠場 ニューヒロインの出現はあるか
女子シニア8㎞では東京五輪1500m8位入賞の田中希実(豊田自動織機TC)と、昨年秋以降ぐんぐん記録を伸ばし、10000mで世界陸上参加標準記録の突破も果たした伸び盛りの大学1年生、不破聖衣来(拓殖大)との直接対決の実現が期待されていたが、残念ながら両選手ともにこの大会を回避、昨年に田中を抑えてこの大会を制し、東京五輪5000m代表獲得へのきっかけを掴んだ萩谷楓(エディオン)もクイーンズ駅伝の転倒の影響からかエントリーが無く、レースの焦点は本命なき混戦から新たなヒロインがでてくるのかになった感が有る。
昨年7月のホクレンデイスタンスチャレンジの10000mで世界陸上の参加標準記録を突破を果たしている小林成美(名城大)は、その前の6月に不破との競り合いを制した学生個人選手権での5000mは後の語り草になりそうな名勝負だった。序盤は不破が引っ張り二人のマッチレースになると、4000m前から小林がペースを上げて不破の前にロングスパートで振り解こうと仕掛けるが、不破も離れないといった局面が続き、後ろに付いていた不破が残り1周で満を持し仕掛けて前に出るが小林も必死に食い下がり、スパートを被せてスプリントでの並走となり、残り30mで再逆転、15分33秒39の自己ベストをマークした。このレースでは中盤以降主導権を握りペースを上げて行くロングスパートを見せながら、不破のラストスパートをスプリントで切り返す離れ業を見せ、何より最後の最後まで諦める事のない勝負根性が光った。ロードシーズンに入ってからは、小林らしい走りがなかなか出来ていないが、5月の10000m日本選手権に向けて、そろそろコンディションを上げて行きたいところだ。
女子3000m障害で国内2番手の存在から一気に成長を見せて東京五輪代表の座を掴みとり、国際舞台の経験を積んだ山中柚乃(愛媛銀行)は、世界の壁に跳ね返されて力不足を認識、ただ代表として出場するだけでなく、世界のトップ選手と対等に勝負ができる走力を付ける為に、五輪後はトラック5000mやハーフマラソンといった長い距離のレースにも挑戦し、現状に満足せずに成長を続けようとする意志が窺える。ここまでの取り組みの成果をこの大会で発揮する事が出来れば、目標としている参加標準記録9分30秒を突破しての世界陸上代表も見えてくる。
そのほか、山中同様に3000m障害をメインとしているが、昨年暮れの山陽ハーフで日本人選手トップでゴールするなど活躍のフィールドを拡げて進境が見られるベテランの吉川侑美(ユニクロ)、2020年大会で萩谷を降して優勝を果たしているこちらも3000m障害の石澤ゆかり(日立)のクロカンでの勝負強さ、昨年5位入賞の川口桃佳(豊田自動織機)にも注目したい。
田中は足首の違和感で欠場との事だが、大事をとったのか、ここしばらくはそうした理由での欠場はなかっただけに、今後への影響が気懸りなところだ。
尚、当日は第37回U20日本陸上競技選手権大会クロスカントリー競走も同時開催となっており、男子は8㎞、女子は6㎞で競技が実施される。未来の三浦、田中を目指す、勢いのある高校生の出現に期待をしたい。
文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)
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