男子マラソンにまたも輝く新星が出現、その名も星岳!岡本、今井らベテランも奮戦!男子長距離の更なる充実を垣間見せた、第10回大阪マラソン・第77回びわ湖毎日マラソン統合大会

第10回大阪マラソン・第77回びわ湖毎日マラソン統合大会が2月27日、大阪府庁前をスタートし、大阪城公園内をゴールとする42.195㎞のコースで行われ、大卒社会人1年目の星岳(コニカミノルタ)が世界陸上派遣設定記録(2時間7分53秒)を上回り、初マラソン日本最高記録(※従来の記録は作田将希の2時間7分42秒・2021年びわ湖)も更新する2時間7分31秒で優勝を果たし、一躍世界陸上の代表候補に浮上した。
スタート時の気温12.4℃、心配された風もほぼ無風とコンディションにも恵まれ、2位には2時間7分42秒でマラソン2回目の山下一貴(三菱重工)が入り、2時間7分52秒の3位に初マラソンの浦野雄平(富士通)、2時間7分55秒で4位のベテラン、丸山文裕(旭化成)までが2時間8分切りを達成。5位に2時間8分04秒の岡本直己(中国電力)、6位も2時間8分12秒の今井正人(トヨタ自動車九州)共に37歳の大ベテラン二人が続き、ここまでの6人がパリ五輪マラソン代表を決めるMGCへの出場権を獲得。
また2時間8分49秒で9位に入ったプロランナー、川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)もこれまでMGCチャレンジシリーズで成績の良かった昨年12月の防府読売マラソンでの2時間10分11秒と併せた2本の平均が2時間9分30秒と規定の2時間10分00秒を切り、ワイルドカードでのMGC進出が決定した。
2時間8分38秒の自己ベストで7位となった山本憲二(マツダ)、初マラソンながら2時間8分48秒をマークした8位の武田凜太郎(ヤクルト)、2時間8分50秒で10位の村本一樹(住友電工)の3選手は、2時間9分を切りながら順位で規定を満たせず、今大会でのMGC出場権獲得はならなかった。

初マラソンながら期待の高かった野中優志(大阪ガス)は35㎞手前まで先頭集団に加わるも最後はやや疲れて2時間9分57秒で14位。昨年のびわ湖で初マラソンながら2時間8分13秒をマークし注目されていた土井大輔は2時間10分56秒の18位と2度目のマラソンの難しさを味わった。
元日本記録保持者の設楽悠太(Honda)は中間点を過ぎた辺りから集団から遅れ始めて2時間13分19秒で31位、30㎞からレースを動かした村山謙太(旭化成)は35㎞過ぎから大きく後退し、2時間17分51秒の48位でのゴール。
学生陣では箱根駅伝で学生連合の9区を担った竹井祐貴(亜細亜大学)が日本人学生歴代11位に当たる2時間10分57秒の19位と健闘、10000mで27分54秒06のベスト記録の有る中谷雄飛(早稲田大学)は先頭集団を走っていた23㎞地点でレースを終えた。

女子の部は序盤からベテランの堀江美里(シスメックス)の一人旅となり2時間32分10秒で制した。ハーフマラソンで1時間9分21秒の好タイムを持っていた初マラソンの鷲見梓沙(ユニバーサルエンターテインメント)は途中棄権。

自身の能力を弁えたスマートな走りが輝いた新星、星岳

先日の別大で西川雄介(トヨタ自動車が)が2時間7分47秒で初マラソン初優勝を飾るなど新勢力の台頭が目覚ましい国内男子マラソン界に有って、びわ湖マラソンとの統合大会として初の開催となった大阪マラソンでも、まさしくその名の通り、新星が一際強い輝きを放った。星岳、昨春帝京大を卒業し、コニカミノルタに入社した23歳のルーキーだ。
トラック10000mのベストタイムは28分14秒12、ハーフマラソンのベストタイムも1時間2分20秒と、一気に記録の水準が上がっている男子長距離界の中にあってはさほど目立つものではない。しかしながらロードに特化し、殊に箱根駅伝で渋太さを発揮してきた帝京大で揉まれながら、上級生が主力を成す事の多い同大学で2年時から駅伝メンバーに抜擢されて箱根10区で区間賞、3年時にはエース区間の2区で区間順位は9位ながら1時間7分29秒の好タイムで8位で引き継いだ襷を5位にまで浮上させるしっかりと自身の役割を果たす走りを見せるなど、実戦的な力が備わっていた。
大阪マラソンでも自身の長所と弱点を把握して、けして過信に陥らず、必要以上の無理はしない堅実な走りで30㎞までは体力を温存し、33㎞からの山下のペースアップに対応して浦野と3人での勝負になって以降も常に3番手に控えて様子を窺いながら、強かにチャンスが来るのを待ち続け、残り5㎞を目前に勝機が来たと踏んだのか、只一度の仕掛けでじわじわと山下、浦野を突き放した。
小柄な体格でも他の選手と渡り合うために、集団の中で上手くポジションを取って体力を温存する術を身に付けており、また、単独走で思うようにリズムをつかめなかった大学4年次での箱根2区の経験から、自身の走りの特性を見極めた上でのぎりぎりの勝負どころが残り5㎞の地点で、ここで引き離すことが出来れば単独走でもそれまでのリズムを持続できると見極めたこの判断が、優勝を手繰り寄せた。
長距離では自身の限界以上の能力を引き出す事は容易ではなく、むしろそれは稀であり、身の丈に合った確実な走りを心掛けた方が良い結果を産む確率が高まる、とでも言いた気な、星岳の42,195㎞のスマートな自己表現だった。

「2度目のマラソンは成功しない」ジンクスを破った山下一貴

山下は、初マラソンだった昨年のびわ湖で記録した2時間8分10秒を上回るタイムの2位で「マラソン2回目のジンクス」を吹き飛ばし、着実に力を付けている事を証明した。特に集団から飛び出していた村山を吸収した32㎞からレースの主導権を握り、集団を篩にかけた揺さぶりは鮮やかだった。惜しむらくは先頭集団が3人に絞られた36㎞過ぎで、浦野に先頭を譲ろうと声を掛けた際に潜んでいた集団の中のもう一人、星に勝負所と悟られてしまった辺りで、ここは少し若さが出てしまったかも知れない。しかしながらレースを動かしながらの自己記録更新、陸連の定めた世界陸上派遣標準記録突破と、内容、タイムともに進境著しく、男子長距離界の次世代エース争いをリードする存在となってきた。

初マラソンながら強かさを見せるも、40㎞以降に課題を残した浦野雄平

3位の浦野もタイムの上では世陸の派遣標準を突破する力走を見せた。20㎞までは集団中ほどで力を溜め、中間点過ぎから、PMの離脱に備えて集団の前の方に位置取りを変え、29㎞の上り坂では周囲の反応を見ながら先頭を窺う様子を見せながら、川内、村山の飛び出しには反応せずペースが落ちてきたところを、真っ先に追い始めた金森寛人(小森コーポレーション)を上手く利用しながら吸収するなど初マラソンとは思えない強かな面も見せた。ペースが落ちてしまった40㎞以降に課題を残したが、今後のマラソンでの可能性をしっかりと示した。

岡本直己、今井正人の大ベテランも奮戦、充実を感じさせる男子マラソン陣

こうした若手勢の活躍の中、4位には2016年、リオ五輪の代表が掛かっていたびわ湖で初マラソンながら30㎞過ぎで果敢に日本人先頭集団から飛び出しを見せ、2時間9分39秒の好記録を出しながら日本人4番手で代表を逃し、ゴール後目を赤くするまで泣きはらした丸山文裕がその時以来の自己記録更新となる力走を見せ、30㎞の川内、村山の飛び出しの後、1度は大きく集団から引き離された岡本直己が、集団から零れた選手を一人一人捉えながら走りのリズムを作り直し、37歳9か月にして2時間8分04秒と7分台にあと一歩に迫る国内史上最高齢での8分台を記録すると、その8秒後には、30㎞以降は常に歯を食いしばりながらの厳しい状況に陥りながら、マラソンでの堪えどころを熟知した走りで乗り越えた37歳10か月の今井正人が飛び込み、更に更新するなど、ベテラン勢も健在ぶりを見せつけた。こうした長期低迷に喘いでいた頃から日本の長距離界を支えて来た選手達が、記録が一気に向上し、競技レベルの底上げがなされつつ有るなかでも若手に劣らず活躍を見せる事で選手寿命が延びればそれだけ選手層も更に厚みを増し、今回の岡本、今井らの活躍に刺激を受ける選手もまた出てくるといった好循環に繋がるものと思われる。

大規模市民マラソンだった大阪マラソンと国内最古の歴史を誇ったびわ湖毎日マラソンの統合後初の大会は、新星の出現にベテランも意地を見せるなど、男子長距離界の更なる充実の可能性を垣間見せながら、新たな歴史の一歩を踏み出した。

文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)

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第10回大阪マラソン・第77回びわ湖毎日マラソン統合大会
男子
①星 岳 (コニカミノルタ)2:7:31
※大阪マラソン新、世界陸上派遣設定記録突破、MGC出場権獲得

②山下一貴(三菱重工)2:7:42
※大阪マラソン新、世界陸上派遣設定記録突破、MGC出場権獲得
③浦野雄平(富士通)2:7:52
※世界陸上派遣設定記録突破、MGC出場権獲得

④丸山文裕(旭化成)2:07:55
※MGC出場権獲得

⑤岡本直己(中国電力)2:08:04
※MGC出場権獲得

⑥今井正人(トヨタ自動車九州)2:08:12
※MGC出場権獲得

⑦山本憲二(マツダ)2:08:38

⑧武田凜太郎(ヤクルト)2:08:48

⑨川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)2:08:49
※ワイルドカードでMGC出場権獲得

⑩村本一樹(住友電工)2:08:50

⑪一色恭志(GMOインターネットグループ)2:09:30

⑫松村優樹(Honda)2:09:45

⑬平田幸四郎(SGホールディングス)2:09:57

⑭野中優志(大阪ガス)2:09:57

⑮青木 優(カネボウ)2:10:01

⑯金森寛人(小森コーポレーション)2:10:16

⑰畔上和弥(トヨタ自動車九州)2:10:53

⑱土井大輔(黒崎播磨)2:10:56

⑲竹井祐貴(亜細亜大学)2:10:57

⑳堤 悠生(JFEスチール)2:11:08

20位以降のの主な選手の結果

21)福田穣(NNランニングチーム)2:11:29、22)東瑞基(愛三工業)2:11:32、23)金子晃裕(コモディイイダ)2:11:39、24)押川裕貴(NTN)2:11:43、25)甲斐翔太(西鉄)2:12:22、26)谷原先嘉(大阪府警)2:12:36、27)口町亮(SUBARU)2:12:54、28)安井雄一(トヨタ自動車)2:12:58、30)延藤潤(マツダ)2:13:17、31)設楽悠太(Honda)2:13:19、32)J・ルンガル(中央発條)2:13:45、44)木滑良(三菱重工)2:17:00、47)古川大晃(東京大学)2:17:37、48)村山謙太(旭化成)2:17:51、53)山本浩之(コニカミノルタ)2:18:15、64)文元慧(カネボウ)2:19:55、 68)角出龍哉(愛知製鋼)2:21:10、74)上村和生(大塚製薬)2:22:10、89)S・バトオチル(三重陸協・モンゴル)2:24:27
DNF櫻岡駿(NTN)中谷雄飛(早稲田大)

女子
①堀江美里(シスメックス)2:32:10

②青木奈波(岩谷産業)2:36:28

③青山瑠衣(ユニバーサルエンターテイメント)2:39:45

DNF鷲見梓沙(ユニバーサルエンターテインメント)

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