キプチョゲが、コスゲイが東京を走る!男子は鈴木、井上、女子は一山、新谷らが世界の走りに挑む!高速決着必至の2021東京マラソンプレビュー

東京五輪金メダリスト、男子マラソン世界記録保持者のキプチョゲが、女子マラソン世界記録保持者のコスゲイがTOKYOを駆け抜ける!

東京マラソン2021が、コロナ禍による2度の延期を経て3月6日、東京都庁前をスタートし、東京駅を背に皇居を臨む、行幸通りに設けられたフィニッシュゲートをゴールとする42.195kmのコースで行われる。大迫傑が当時の日本記録を更新し、東京五輪代表の最後の切符を手にした2020年以来2年振りの開催で、海外から有力選手が招かれるのも、東京五輪を除けばその時以来だ。そして、今大会では、あのE・キプチョゲ(ケニア)の招聘が実現、長距離ファンの熱い眼差しが注がれ、記録への期待も高まっている。

今大会最大の注目選手キプチョゲ、記録への鍵はペース設定

今回のキプチョゲの招聘が実現した背景には、五輪のマラソン二連覇を達成し、競技者としての次の目標を前人未到のワールドマラソンメジャーズ完全制覇に定めた事がある。キプチョゲはこれまでベルリンマラソン、シカゴマラソン、ロンドンマラソンの3大会を制しており、残る東京、ボストン、ニューヨークシティーの3大会のうち、五輪金メダルを獲得した地、日本への感謝と、マラソン会場が東京から札幌に変更された経緯も有り、落胆した東京のファンのためにも、最初に走るべきレースとして東京を選択したようだ。

キプチョゲが参戦するとなるとやはり気になるのはキプチョゲ自身の持つ世界記録、2時間01分39秒の更新やさらにその上の、公認レースでは前人未到であるフルマラソン2時間切りも視野に入れているのかどうかなのだが、今のところキプチョゲサイドが大会側に、具体的なタイム設定の希望を申し入れた様子は伝わっていない。招待選手と共に招聘された海外からの3人のペースメーカーから、キプチョゲ専任の担当がピックアップされるのか、設定タイムがどのくらいになるのか、発表が待たれる。

キプチョゲの他にもレゲセ、ゲレメウら世界のトップランナーが集結、高速決着濃厚か

海外招待選手はキプチョゲの他にも、2019年、2020年の大会を制し、二代目ミスター東京マラソンとも評される(因みに初代はD・チュンバ)、世界歴代3位の2時間2分48秒のベストタイムを持つB・レゲセ(エチオピア)、大迫が最初に日本記録を更新した2018年シカゴマラソンで優勝したM・ファラー(イギリス)に次ぐ2位となり、2019年ドーハ世界陸上のマラソンでも銀メダル、世界歴代4位2時間2分55秒がベストタイムのM・ゲレメウ(エチオピア)、ドーハ世界陸上マラソン銅メダルのA・キプルト(ケニア)、ロンドン世界陸上銀メダルのT・トラ(エチオピア)、2020年のロンドンマラソンではキプチョゲを破る金星を挙げ、2016年でびわ湖を走り、日本でもファンの多いS・キタタ(エチオピア)など、ワールドマラソンメジャーズの格式に相応しく輝かしい実績を誇る正真正銘のワールドクラスの選手が揃う。ペース設定がどうあれ、2017年にW・キプサング(ケニア)がマークした大会記録更新は勿論、国内レース初の2時間2分台決着への期待も高まる。

世界陸上選考会の今大会、鈴木、井上らのペース選択は

このように東京マラソンの歴史を振り返って最強クラスのランナーが集結するなか、競技レベルの向上が続く国内選手達の力がどこまで通用するのか、第1集団で勝負を挑む選手が現れるのかといったところも今大会の注目となるだろう。国内招待選手に向けては、村山紘太(GMOインターネットグループ)、ポール・オニエゴ(山梨学院大学)の二人がPMを担い、おそらく今大会にも出場する鈴木健吾(富士通)が持つ2時間4分56秒を上回る事が可能な1㎞2分57秒から2分58秒のペースが設定されると予想するが、昨年暮れの福岡国際ではこの2分58秒ペースに挑んだ細谷恭平(黒崎播磨)、高久龍(ヤクルト)、定方俊樹(三菱重工)といった選手たちが、30㎞以降ペースを維持する事が適わなかった。現状でもかなりのハイペースをさらに上回る第一集団の超ハイペースに挑むことは、今大会が7月のオレゴン世界陸上の代表選考会ともなっている事から難しい選択になると思うが、世界のトップオブトップと共に走る事が出来るまたとない機会に、全く別のレースをしてしまうのは少々勿体なく思える。昨年10月にシカゴマラソンでハイペースに挑み、30㎞過ぎからのペースアップで突き放され、最後は疲れて2時間8分50秒の4位だった鈴木、常に世界との闘いを意識している井上大仁(三菱重工)、初マラソンの2020年別大で8分台、2度目のマラソンだった同年暮れの福岡国際では2時間7分05秒で優勝と順調にステップアップ、マラソンでは常に攻めの姿勢を前面に押し出している若手の吉田祐也(GMOインターネットグループ)辺りは性格的にも第1集団からレースを進める可能性があると見ている。

鈴木は1月のニューイヤー駅伝では調整途上といった内容だったが、先日の大阪マラソンでは、鈴木と同じメニューを練習で取り組んだという後輩の浦野雄平が2時間7分52秒の好タイムを出しており、この点から類推すれば鈴木自身のコンディションも上向いて来ているものと思われる。
井上は1月末の大阪ハーフを1時間1分14秒で優勝、本人としてはタイムに不満があったようだが、まず順調な仕上がり具合とみて良いだろう。
この二人に共通しているのは、勝負所で離されそうになった時に身体の動かし方に力みが入り過ぎているように見受けられところで、ペースを維持しようと遮二無二身体を動かしてしまう事が後半での体力の消耗を招いているように感じる。

ケニア・エチオピア勢が作り出す細かい上げ下げを伴いながらの超ハイペースのレース展開の中で結果を残して行くには、鈴木が挑戦したシカゴマラソンで前半に一度集団から遅れながら、集団が見える距離感で自身の走りを立て直し、30㎞手前で集団に追い付き最終的には2位となったリオ五輪銅メダリストのG・ラップ(アメリカ)や、2020年の東京でやはり1度集団から「敢えて」離れて自身のペースを守り、リズムが戻った30㎞手前から集団を追い上げて日本記録を更新した大迫のように、レース中の一つの局面に過剰に捉われることなく、42.195㎞を総合的にマネジメントできる能力が求められてくるだろう。

昨年のびわ湖で鈴木に次ぐ2時間6分26秒で2位に入った土方英和(Honda)も、その後9月にベルリンマラソンに挑み、中間点を1時間2分17秒で通過するハイペースについて行ったが、25㎞以降は失速し2時間11分台に終わっており、同じような課題を抱えている。今回はペース選択も含め、経験を踏まえた成長が見えてくるかに注目したい。

実力者、小椋、菊地、木村はコンディションが整うかが鍵

招待選手の小椋裕介(ヤクルト)、一般参加の菊池賢人(コニカミノルタ)、木村慎(Honda)の3人は2時間6分台後半から7分台前半の自己ベストを持つ実力者だが、小椋は昨年2時間6分51秒で走った後、疲労骨折を発症するなどで苦しみ、木村も2020年東京以降はレースから遠ざかり、昨年5月に札幌で行われた五輪テスト大会のハーフマラソンで日本人最上位に入って実力を示したが、その後は9月に1度5000mを走ったのみ、ステップレースとして臨んでくると思われた先月の実業団ハーフも共に欠場しており、2020年の東京、昨年のびわ湖と2走連続で7分台で走った菊地は実業団ハーフに出場したものの1時間5分台に留まっており、好走への鍵は、偏にコンディションをどこまで整えられているかに懸っている。

細谷、高久ら福岡国際出場組

福岡国際に出場しMGC出場権を既に手にしている、細谷、大塚翔平(九電工)、高久、上門にとっては、世界基準とも言える2分58秒ペースへの再挑戦となる。
最初の5㎞が下り基調、福岡より記録が出やすいと言われる東京で、30㎞以降踏ん張り切れなかった福岡と同じ轍を踏む訳にはいかないだろう。
この冬のマラソンシーズンで2度目のレースとなる事に関しても、東京五輪のマラソンで銀メダルを獲得した、B・アブディ(ベルギー)が9月に行われたアムステルダムマラソンで2時間3分36秒で優勝するなど、先述のシカゴマラソンのラップも併せて、五輪後に間髪置かずフルマラソンに出場する例が珍しくなく、年に2回から3回フルマラソンを走る事が世界基準になりつつある。スズキACの藤原新男子マラソンヘッドコーチは、NHKBS1で放送された川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)との対談の中で、この背景にはシューズの進化が考えられ、一つのレースを終えた後に残るダメージが軽減される事が関係していると指摘している。
こうした世界的な新しい波に乗り遅れないためにも、細谷、高久らには、福岡を上回る結果を示す事が望まれ、また当人達にとっても世界陸上代表への望みをつなぐ事にもなるだろう。

下田、聞谷、作田将らは6分台を

下田裕太(GMOインターネットグループ)、聞谷賢人(トヨタ紡織)、作田将希(JR東日本)、足羽純実(Honda)、といった7分台の自己ベストを持つ選手に加え、一昨年のびわ湖、福岡と立て続けに8分台をマークした作田直也(JR東日本)といった世界選手権代表を狙う若手にとっては、最低限別大優勝の西山雄介(トヨタ自動車)の2時間7分47秒、大阪優勝の星岳の2時間7分31秒というタイムは上回らなければならず目標ははっきりしており、2時間6分台を視野にいれた攻めの姿勢を見せてくれる筈だ。

MGC出場権獲得を狙う駒大OB勢、初マラソン組にベテラン、目指すは7分台

先月に行われた別大、大阪の両マラソンではともに、1レースの獲得枠一杯の6人のMGC出場権獲得者が出ており、特に大阪では、8分台を記録しながら順位でMGCに届かなかった選手が2名出ている。さらに好記録の続出が予想される東京マラソンで出場権を確実に手にするには、2時間7分台で走り切るほか、手立ては無さそうだ。
別大では西山、中西亮貴(トーエネック)が、大阪では山下一貴(三菱重工)が快走したように、このマラソンシーズンは駒澤大OBに勢いが有り、東京でも其田健也、片西景(ともにJR東日本)がMGC出場圏に届くのか注目したい。
また、これも活躍が目立つ初マラソンの選手からは、昨年11月の八王子ロングディスタンス10000mで27分44秒74、先月の実業団ハーフでは1時間00分43秒をマークし勢いのある城西大出身の荻久保寛也(ヤクルト)、柏原竜二(東洋大)以来の箱根駅伝5区山登り2年連続区間賞を獲得した細谷翔馬(帝京大)、大阪での岡本直己(中国電力)、今井のような「ベテラン激走枠」の選手として、やはり実業団ハーフで1時間00分46秒をマークして好調さが窺えるロンドン五輪5000m、10000m代表の佐藤悠基(SGホールディングスグループ)、2016年、リオ五輪選考の懸った東京マラソンで後方集団から追い上げ日本人選手トップでゴールした経験のある、荻久保と同じ城西大出身の高宮祐樹(ヤクルト)に期待をしたい。

女子もコスゲイ出場で大会新は必至、一山、新谷、どう挑む

女子も2時間14分04秒という途轍もない世界記録の保持者で、東京五輪銀メダリストのB・コスゲイ(ケニア)が参戦。他にも2時間17分57秒の自己記録を持つA・タヌイ(ケニア)、昨年のロンドンマラソンで2時間18分18秒を記録しているA・ベケレといった20分切りの自己ベストを持つ選手が招待され、2020年の前回大会でL・チェムタイサルピーター(イスラエル)がマークした、2時間17分45秒の大会記録の更新は必至の情勢だ。この世界レベルの争いの中に、東京五輪女子マラソン8位入賞の一山麻緒(ワコール)、10000m30分20秒58、ハーフマラソン1時間6分38秒の日本記録保持者で、2009年名古屋国際女子マラソン以来13年振りのフルマラソンとなる東京五輪10000m代表の新谷仁美(積水化学)がどれだけ食い下がる事が出来るのか興味が尽きない。一山、新谷とも東京五輪以降はレースに出場してはいるものの、決して本調子と言う訳ではなく、やはりどこまでコンディションを上げて来られているかで結果が違ってくるだろう。

東京の当日の天気は晴、最低気温は5℃ながら最高気温は14℃とやや高めの予報が出ており、気候コンディションはマラソン日和とはいかなさそうだが、私たちがかつて、国内レースでは見たことがないような高速決着のマラソンとなる可能性が男女共に非常に高く、スタート前からここまで胸の高鳴るマラソンレースというのも稀ではないだろうか。 3月6日9時10分、新宿・東京都庁に号砲が響き、決戦の火蓋が切って落とされる。

文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)

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