日本での開催は唯一となるアボット・ワールドマラソンメジャーズシリーズの一戦、東京マラソン2021が3月6日、新宿・東京都庁前をスタートし、東京駅前にゴールする42.195㎞のコースで行われ、男子は2時間1分39秒の世界記録保持者でリオ・東京二大会連続五輪マラソン金メダリストのE・キプチョゲ(ケニア)が、2017年にW・キプサングが樹立した2時間3分58秒の大会新を更新する2時間2分40秒の国内マラソン史上最速タイムをマークし、優勝を飾った。
ドーハ世界陸上銅メダリストのA・キプルト(ケニア)も従来の大会記録を大きく上回る2時間3分13秒の自己ベストで2位に入り、2017年ロンドン世界陸上銀メダリストのT・トラが2時間4分14秒で3位に続いた。
日本人選手最高の4位に入った鈴木健吾(富士通は)は、大迫傑(Nike)が2020年の前回大会で記録した2時間5分29秒の大会日本人選手最高記録を1秒更新する、自身の持つ2時間4分56秒に続く日本歴代2位に相当する2時間5分28秒と力走を見せ、世界陸上代表の座に大きく近付いた。フルマラソン3回目の其田健也(JR東日本)が2時間7分23秒で日本人選手2位の全体7位、湯澤舜(SDホールディングス)が2時間7分31秒の日本人3位、全体8位で続いた。
2時間7分55秒で日本人選手4位の聞谷賢人(トヨタ紡織)、2時間08分02秒で同5位となった土方英和(Honda)、2時間08分17秒で同6位に入ったベテランの佐藤悠基(SDホールディングス)までの今大会日本人選手上位6名がMGC出場権を獲得、更に2時間8分33秒をマークした定方俊樹(三菱重工)が福岡国際での2時間10分31秒との、2時間9分27秒の田口雅也(Honda)が同じく福岡国際での2時間9分36秒との平均タイムが2時間10分00秒を切り、ワイルドカードの規定によりMGCの出場権を獲得、一大会でのMGC出場権獲得者は過去最多の8名に上った。
女子は2時間14分04秒の世界記録保持者のB・コスゲイ(ケニア)が、L・チェムタイサルピーター(イスラエル)が2020年にマークした2時間17分45秒の大会記録を1分以上上回る2時間16分02秒の大会新記録で優勝し、銀メダルに終わった札幌開催の東京五輪女子マラソンの雪辱を、東京の地で果たした。2位には2時間17分58秒でA・ベケレ(エチオピア)が、3位に2時間18分18秒でG・ゲブレシラシエ(エチオピア)が入った。
また、2時間21分02秒でゴールした東京五輪女子マラソン8位入賞の一山麻緒(ワコール)が日本人トップの全体6位、東京五輪10000m代表で13年ぶりのフルマラソンだった新谷仁美(積水化学)が2時間21分17秒の全体7位でともに2時間23分18秒の世界陸上派遣設定記録を大きく上回り代表候補入りを果たし、2時間27分38秒で日本人選手3位、全体10位に入った森田香織(パナソニック)までの3選手がMGC出場権を獲得した。

■ キプチョゲの微笑み
36㎞を過ぎ、それまで健闘をみせていたキプルトが追走を諦めると、あとは一人旅となった。脱落していったトラやキプルト、25㎞過ぎまでレースを先導したペースメーカー達が序盤から額に汗が光っていた陽気の中、キプチョゲは汗一つ浮かべず、また表情を変える事もなく、精巧な走りのメカニズムには一切の乱れも感じられない。
40㎞を過ぎ、石畳の丸の内仲通に入りフィニッシュが近付くと僅かに口元を綻ばせ、表情は柔和な微笑みに変わった。
2時間2分40秒、世界記録の更新こそならなかったが自身3度目の2時間2分台、キプチョゲにしか成し得ない比類なき安定感を見せ付け、東京駅をバックにゴールテープを切った。
世界的なトップアスリートとして、人類がまだ誰も辿り着いていない境地を私たちに見せてくれるばかりでなく、ランニングを通じた健康作りは健全な精神と笑顔を齎し、自分が走る事でランニングを楽しむ人を世界中に増やし、人々を幸せにしたいと本気で望むキプチョゲは、東京での走る伝道を終え、「この世には問題を起こす人と、解決する人の二通りしかいません。ロシアのウクライナへの侵攻も、みんなで団結し、解決する人になりましょう」と訴えかけた。
■ 日本記録達成時にも見せなかった涙を流した鈴木健吾
サングラスを外すと、すでにその表情は感極まっているようだった。フィニッシュゲートに駆けこんだ鈴木健吾は、日本人選手で初めて2時間5分を突破した昨年のびわ湖毎日マラソンでも見せなかった、涙を流した。
「日本記録を出した後、とても苦しくて」ゴール後のインタビューでそう、吐露した。
重圧と闘いながら好記録で走り切り、日本記録保持者として恥ずかしくない姿を見せられた安堵感もあったのだろう。だが、その後に続けた「ここのところずっと状態が良くなくて。せっかくキプチョゲ選手が来てくれたのだから前の集団で勝負したかったけど、きっちりと世界陸上の代表を得る事を選びました」という言葉からは、世界のトップランナーに挑めなかった事への悔しさも、うっすらと滲んでいたように思われる。
しかし、そのように万全なコンディションには程遠い調整だったにも拘らず、自身の持つ日本記録更新に合わせて設定された2分57秒ペースの集団で、追走に苦労する選手が続出する中、ペースメーカーを務めた村山紘太(GMOインターネットG)、P・オニエゴ(山梨学院大)と一言二言言葉を交わし、更にペースを上げさせるなど走り始めてしまえば気迫を前面に漲らせ、村山が離脱した20㎞以降はオニエゴがいないも同然のように自らペースアップを図り、20㎞からの5㎞のスプリットをそれまでより10秒上げて、追い縋る吉田祐也(GMOインターネットG)、林奎介(GMOインターネットG)、井上大仁(三菱重工)の鈴木に勝負を挑んだ日本人三選手と、第一集団に付かなかったケニアのL・コリルを一気に引き離し、単独走となった。
30㎞までPMが付き、その後も37㎞まではS・カリウキ(戸上電機製作所)、土方英和と3人で隊列を作り、力を蓄える事ができた昨年のびわ湖と違い、自力のみでペースを作って行かなければならなくなっても25㎞からの5㎞も14分42秒とペースを持続、続く5㎞も14分53秒とペースの落ち込みは小幅に留めた。
びわ湖ではここからの5kmが14分40秒、40㎞からゴールまでを6分16秒と猛烈に速かったため、35㎞からの5㎞が15分08秒になり、びわ湖の40㎞の通過タイムから遅れた2秒を巻き返す事が適わなかったが、38㎞までは1㎞3分を切るペースを独力で維持し続けることが出来たレース内容とともに、異なるレースパターンで2時間4分台、5分台と結果を残せた幅広い対応力も非常に高く評価出来る。
涙と共に新たな一面を走りで示した鈴木が次に見据えるのは、今回挑む事が出来なかった、キプチョゲの背中を視界に捉える事だ。
文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)
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東京マラソン2021
男子
①E・キプチョゲ(ケニア)2:02:40※大会新
②A・キプルト(ケニア)2:03:13※大会新
③T・トラ(エチオピア)2:04:14
④鈴木健吾(富士通)2:05:28※世界陸上派遣標準記録突破、MGC出場権獲得
⑤S・キタタ(エチオピア)2:06:12
⑥L・コリル(ケニア)2:06:37
⑦其田健也(JR東日本)2:07:23※世界陸上派遣標準記録突破、MGC出場権獲得
⑧湯澤 舜(SGホールディングス)2:07:31※世界陸上派遣設定記録突破、MGC出場圏獲得
⑨聞谷賢人(トヨタ紡織)2:07:55※MGC出場圏獲得
⑩ギザエ・M(スズキ、ケニア)2:07:55
⑪土方英和(Honda)2:08:02※MGC出場圏獲得
⑫J・コリル(ケニア)2:08:04
⑬佐藤悠基(SGホールディングス)2:08:17※MGC出場圏獲得
⑭林 奎介(GMOインターネットG)2:08:21
⑮堀尾謙介(トヨタ自動車)2:08:25
⑯河合代二(トーエネック)2:08:31
⑰井上大仁(三菱重工)2:08:33
⑱定方俊樹(三菱重工)2:08:33※ワイルドカードでMGC出場権獲得
⑲下田裕太(GMOインターネットG)2:08:35
⑳久保和馬(西鉄)2:08:48
㉑富安 央(東京陸協)2:08:55
㉒小山直城(Honda)2:08:59
㉓細谷翔馬(帝京大学)2:09:18
㉔吉田祐也(GMOインターネットG)2:09:20
㉕田口雅也(Honda)2:09:27※ワイルドカードでMGC出場権獲得
㉖足羽純実(Honda)2:09:41
㉗松尾淳之介(NTT西日本)2:09:48
㉘監物稔浩(NTT西日本)2:10:29
㉙作田直也(JR東日本)2:10:43
㉚大津顕杜(トヨタ自動車九州)2:10:45
30位以降の主な選手
㉜上門大祐(大塚製薬)2:10:57、㉞高久 龍(ヤクルト)2:11:01、㉟田中飛鳥(RUNLIFE)2:11:09、㊱松本 稜(トヨタ自動車)2:11:23、㊲松尾良一(旭化成)2:11:49、㊳設楽啓太(日立物流)2:12:29、㊵宮脇千博(トヨタ自動車)2:12:41、44 作田将希(JR東日本)2:13:34、50 菊地賢人(コニカミノルタ)2:14:58、53 橋本隆光(小森コーポレーション)2:15:29、55 荻久保寛也(ヤクルト)2:15:43、56 細森大輔(YKK)2:15:44、57 片西 景(JR東日本)2:15:53、91 藤本拓(トヨタ自動車)2:22:54
①B・コスゲイ(ケニア)2:16:02※大会新
②A・ベケレ(エチオピア)2:17:58
③G・ゲブレシラシエ(エチオピア)2:18:18
④A・タヌイ(ケニア)2:18:42
⑤H・ゲブレキダン(エチオピア)2:19:10
⑥一山麻緒(ワコール)2:21:02※世界陸上派遣設定記録突破、MGC出場圏獲得
⑦新谷仁美(積水化学)2:21:17※世界陸上派遣設定記録突破、MGC出場圏獲得
⑧S・ホール(米国)2:22:56
⑨H・ベケレ(エチオピア)2:24:33
⑩森田香織(パナソニック)2:27:38※MGC出場圏獲得
⑪加世田梨花(ダイハツ)2:28:29
⑫下門美春(埼玉医科大学G)2:29:20
⑬兼重志帆(GRlab関東)2:29:26
⑭岡田 唯(大塚製薬)2:30:03
⑮水口 瞳(ユニクロ)2:32:47
⑯森川千明(TOKYO BAY RC)2:35:06
⑰澤畠朋美(埼玉陸協)2:36:08
⑱藤澤 舞(札幌エクセルAC)2:38:46
⑲関野 茜(コモディイイダ)2:39:39
⑳仲田光穂(千葉陸協)2:39:51
東京マラソン2021
車いすマラソン 男子
①M・フグ(スイス)1:22:16
②鈴木朋樹(トヨタ自動車)1:29:12
③西田宗城(バカラパシフィック)1:29:55
車いすマラソン 女子
①喜納 翼(琉球スポーツサポート)1:40:21
②土田和歌子(ウィルレイズ)1:44:58