ワールドクラスの走りを見せ付けたチェプンゲティチが大会新でV、3位安藤は世界陸上派遣標準記録を突破、MGCファイナリストは8名誕生!名古屋ウィメンズマラソン2022 結果

名古屋ウィメンズマラソン2022が3月13日に行われ、2年振りに招聘した海外招待選手の一人で2019年ドーハ世界陸上マラソン金メダリスト、ケニアのR・チェプンゲティチが2時間17分18秒の大会新で制覇した。同大会での海外選手の優勝は3年振り、2位に入ったイスラエルのL・C・サルピーターも従来の大会記録を更新する2時間18分45秒の好タイムをマークした。
日本人選手最上位は2時間22分22秒でゴールしたワコールの安藤友香で、日本陸連が定めた7月に開催されるオレゴン世界陸上の派遣設定記録2時間23分18秒を上回り、代表候補にその名を加えた。
東京五輪ファイナルチャレンジとなった2020年の大会で中間点過ぎまで先頭集団に加わる力走を見せた細田あいが、それ以来久々の、またダイハツからエディオンへ移籍後初のマラソンとなったが2時間24分26秒で日本人選手2位に入り、同3位には2時間25分02秒の日本学生記録を打ち立てた初マラソンの大東文化大、鈴木優花が続いた。
2時間25分15秒の大塚製薬・福良郁美、2時間25分56秒の日本郵政グループ・太田琴菜、2時間26分23秒のダイハツ・ 竹本香奈子までの日本人選手上位6名が順位とタイムによる規定でパリ五輪マラソン代表選考会となるMGCの出場権を獲得、また2時間27分03秒の千葉陸協所属のプロランナー岩出玲亜と、2時間27分52秒の大塚製薬・川内理江の二人も、1月の大阪国際女子マラソンとの二つのレースのタイムの平均が2時間28分00秒を切り、ワイルドカードでのMGC出場を勝ち取った。

チェプンゲティチが示した真のワールドクラスの強さ

真のワールドクラスの走りとは、ここまで次元が異なるものなのか。バンテリンドームナゴヤに真っ先に姿を現したチェプンゲティチの快走を見つめながら、感嘆の想いが沸き上がるのを禁じ得なかった。彼女の刻んだ42.195㎞の道程は、途方もない強さを伴ったパフォーマンスで溢れていた。

ケニア人ペースメーカーのS・バーソシオが先導する第一集団の入り5㎞の通過タイムは16分35秒、2時間19分台を目指せるペースでここに付いた日本の安藤、細田にとっては決して遅くはないペースだったのだが、ウォーミングアップは終わったとばかりにチェプンゲティチがペースを上げ、この早い段階ではさしもの2時間17分台の自己記録を持つサルピーターも付いていく事を見送り、近年の国内レースでは記憶にない序盤からペースメーカーを置き去りにしての独走劇が始まった。

10㎞までの5㎞のスプリットは16分09秒、次の5㎞は16分32秒と落としたが後続との差は開く一方、20㎞までの5㎞は16分12秒と再びペースを上げて、サルピーター、安藤、細田の追走集団との差を49秒まで拡大した。

追走集団では10㎞から15㎞を16分52秒とペースを上げる事が出来ないPMのバーソシオに業を煮やしたサルピーターが、15㎞手前から見切りを付けて追撃を開始、安藤、細田も続いたが、一気のペースアップに安藤と細田の間に2、3mほどの間隔が生じ、しばらくは懸命にその間隔を保っていた細田だったが、20㎞を目前にして付いて行くことが出来なくなり、20kmでは5秒の差が出来ていた。サルピーターと安藤のこの間の5㎞のスプリットは16分16秒まで上がっていた。

中間点を1時間9分03秒と、2時間17分台が望めるペースで通過したチェプンゲティチは次の5㎞を16分22秒とややペースを落とし、追うサルピーターは更にそのペースを上げて20㎞から25㎞を15分59秒と、解説の有森裕子氏にも初めて見たと言わしめる15分台にまでラップを上げた。これには2月の実業団ハーフで1時間8分13秒の自己記録をマークして好調が伝えられていた安藤も付いていく事が出来ずに離れ始めたが、先頭を走るチェプンゲティチとの距離は若干詰まってきた。

戦慄の勝負術

25㎞を過ぎるとチェプンゲティチはペースを上げられなくなってきたように感じられ、サルピーターの姿が次第に大きく迫ってくる。差は4秒と、二人が並ぶのは時間の問題となった30㎞地点、チェプンゲティチのスプリットは16分26秒だったが、サルピーターは16分03秒でカバー、勢いの差は歴然で追い付いてきたサルピーターの方に精神的にも分が有るように思われたが、チェプンゲティチは追いついたサルピーターに合わせて自身のペースを上げながら、決して前には出さない並走を続けた後、やや疲れの見えて来たサルピーターを再び突き放し始めた。

これこそがチェプンゲティチのワールドクラスの勝負術だった。20㎞以降、ペースが上がらなくなったのではなく、サルピーターに脚を使わせるためにおびき寄せ、自身は体力の温存を図ったのであり、これではサルピーターは釈迦の手の平の上で踊らされた孫悟空ではないか、という思いが過った一瞬、筆者の中で、戦慄が走った。チェプンゲティチは、2時間17分45秒の自己ベストを持つ、先日B・コスゲイ(ケニア)に破られるまで東京マラソンの大会記録保持者だったサルピーターを、全くの子供扱いにしたのだ。

それまでもペースが落ちても2時間18分台でゴールできようかというハイペースを刻みながら、30㎞からの5㎞を16分03秒、35㎞16分05秒でカバーし、自己記録には届かなかったものの2時間17分18秒の大会新記録は女子単独レースの記録としては世界歴代2位。序盤でペースメーカーを置き去りにして自身でペースを作りながらほぼ道中は一人旅、しかもゴール時の気温は22℃とほとんどの選手が激しく消耗して戻ってきた中で後半ハーフが速いネガティブスプリットとタイム以上の圧倒的な強さを感じさせたチェプンゲティチの走りは、正に異次元だった。

サルピーターのペースアップに挑んだ安藤の「覚悟」

チェプンゲティチに突き放されて以降は勝負を諦めた走りになったが、20㎞からの5㎞を15分59秒と驚異的なスプリットを記録するなど、サルピーターも流石と思わせる走りを随所にみせた。
そのサルピーターの背中を追い、離されれば消耗した上での長く険しい単独走のリスクが待ち受けている事を承知の上で、ワールドクラスと果敢に勝負に挑む姿勢を見せた安藤も立派だった。
世界陸上派遣標準記録のクリアだけを考えれば、自重して自分のペースを守りながらレースを進める選択肢も有ったと思うが、そうしなかったところに、チェプンゲティチ、サルピーターと17分台をベストに持つ選手の揃ったこのレースに臨んだ安藤の覚悟をみた。
世界との差は具体的にどういうところにあるものなのか、実際に挑戦をしなければその手掛かりを得る事も出来ないということを、この冬シーズンのマラソンに挑んだ誰よりも、安藤が理解しているのではないか、そう思わせるに充分な気迫の追走だった。
東京マラソンでは世界記録保持者のB・コスゲイが出場していながら、日本人選手は誰一人として同じ集団で勝負する事を選ばなかっただけに、安藤の果敢な姿勢は尚更価値の有るもので、2時間22分22秒というタイム以上の評価が出来る。

国内トップクラスを追う若手選手層に厚み

一昨年の大会で中間点過ぎまで先頭集団に付け、2時間26分34秒をマークする健闘を見せながらレース中に負った脚の肉離れで走る事もままならなくなり、今大会がその時以来のフルマラソンとなった細田も、中間点通過が1時間9分59秒と突っ込みながら後半も極端にペースを落とすことなく耐え抜き、2時間24分26秒でまとめ上げ、大東文化大学の学生として最初で最後のフルマラソンに挑んだ鈴木優花は30㎞手前から日本人選手を中心とする集団を抜け出して単独で細田を追い、2時間25分02秒の日本学生新記録を更新。鈴木と同じ5㎞17分ペースの集団でレースを進め後半も淡々と自身のペースを刻んで、一度は離された鈴木に13秒差まで迫ってゴールした福良郁美もマラソン適性の高さを改めて感じさせるなど、国内トップクラスを追いかける若手選手層にも厚みが増しつつある。

太田琴菜、竹本香奈子も順位でMGC出場権を獲特、1月の大阪国際女子に続き、短い間隔でのレースながらワイルドカードでのMGC出場権獲得となった岩出玲亜、川内理江を加え、今大会でMGC出場権を獲得した選手は計8名、女子のMGCファイナリストも総勢17名を数え、早くも前回の東京五輪代表選考のMGCの13人を上回った。MGCを根幹に据える長距離強化の取り組みが、女子においてもようやく効果を表し始めた事を感じさせながら、2022年の名古屋ウィメンズマラソンは幕を閉じた。

文/ATHLETE News編集部

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名古屋ウィメンズマラソン2022
①R・チェプンゲティチ(ケニア)2:17:18※大会新
②L・C・サルピーター(イスラエル)2:18:45※大会新
③安藤友香(ワコール)2:22:22※世界選手権派遣設定記録突破、MGC出場権獲得
④細田あい(エディオン)2:24:26※MGC出場権獲得
⑤鈴木優花(大東文化大)2:25:02※日本学生新、MGC出場権獲得
⑥E・ウェリングズ(オーストラリア)2:25:10
⑦福良郁美(大塚製薬)2:25:15※MGC出場権獲得
⑧太田琴菜(日本郵政G)2:25:56※MGC出場権獲得
⑨竹本香奈子(ダイハツ)2:26:23※MGC出場権獲得
⑩池田千晴(日立)2:26:50
⑪岩出玲亜(千葉陸協)2:27:03※ワイルドカードでMGC出場権獲得
⑫和久夢来(ユニバーサルエンターテインメント)2:27:16
⑬川内理江(大塚製薬)2:27:52※ワイルドカードでMGC出場権獲得
⑭足立由真(京セラ)2:28:28
⑮大西ひかり(日本郵政G)2:28:56
⑯田中華絵(第一生命G)2:30:01
⑰松田杏奈(デンソー)2:30:19
⑱佐藤奈々(スターツ)2:30:24
⑲渡邉桃子(天満屋)2:30:42
⑳西川真由(スターツ)2:31:32

20位以降の主な選手
㉑山口 遥(AC・KITA)2:31:35、㉓菊地優子(ホクレン)2:32:08、㉔池満綾乃(鹿児島銀行)2:32:38、㉕儀藤優花(肥後銀行)2:33:45、㉖清田真央(スズキ)2:34:04、㉙竹山楓菜(ダイハツ)2:35:23、㉚森田歩実(センコー)2:38:01、㉜大井千鶴(NARA-Xアスリーツ)2:39:32、㉞山ノ内みなみ 2:45:51
※S・ダイバー(オーストラリア)DNF

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