C・コールマン、L・ベンジャミン、K・ハリソンらトップアスリートが集結!、三浦龍司、田中希実には世界陸上への中間試験となる、セイコーゴールデングランプリ2022東京の展望

セイコーゴールデングランプリ陸上2022東京が5月8日、国立競技場を会場に行われる。今年の大会は2019年ドーハ世界陸上男子100m金メダリスト、アメリカのC・コールマン、東京五輪男子400mH銀メダリスト、アメリカのR・ベンジャミン、東京五輪女子100mH銀メダリスト、アメリカのK・ハリソン、同銅メダリスト、ジャマイカのM・タッパーらが来日、コロナ禍で途絶えていた海外トップアスリートの招聘が2019年以来3年ぶりに実現、東京五輪男子100m代表の小池祐貴、多田修平(共に住友電工)、東京五輪男子400mH代表で木南記念陸上で世界陸上参加標準記録を突破したばかりの黒川和樹(法政大)、東京五輪女子100mH日本代表で4月に日本記録を更新している青木益未(七十七銀行)、同じく100mH日本代表で前日本記録保持者の寺田明日香(ジャパンクリエイト)ら日本の精鋭達の力が、オレゴン世界陸上の開催を7月に控え、どこまで通用すのかを推し量る恰好の舞台となっている。また、WAのコンチネンタルツアーゴールドラベルの大会であり、着順によってWAランキングに高いポイントが付与されるため、ランキングで世界陸上の出場資格を得る目安であるターゲットナンバー近辺にランクされている選手たちにとっては高ポイントを得る事ができる数少ない機会でもある。
今大会で実施されるのは、男子トラック100m、400m、800m、110mH、400mH、3000m障害の6種目に男子フィールドが走高跳、走幅跳、やり投げの3種目、女子トラックが200m、1500m、100mHの3種目、女子フィールドが走幅跳、やり投げの計14種目。

男子100mは出雲陸上を10秒18で制した桐生祥秀(日本生命)の欠場が残念ではあるが、前述の通り小池、多田がコールマンに挑む。東京五輪で実現しなかったコールマンの来日は、陸上ファンにとっては堪えられないことだろう。小池は今季出場したレースでは条件にさほど恵まれなかった事もありさほどタイムが出ていないが、動き自体は悪くなく、勝負強さも発揮できている。コールマンに挑む今大会は世界陸上参加標準記録を突破する又とない好機で、ここまでのシーズンからもう一段階ギアを上げてもらいたい。
多田はシーズンオフにウエィトトレーニングに励むなど肉体改造に取り組んだようだが、今のところ走りに上手くマッチしていないのか、大会ごとの結果にばらつきが見られるのが気懸り。2017年の大会でロケットスタートで飛び出し、J・ガトリンを驚かせたように、コールマンを慌てさせたいところだ。
桐生欠場の穴を埋める選手の出現も望まれるところだが、5月3日の富山選手権で今季国内最高タイムの10秒17をマークした国立富山大学出身の福島聖(富山銀行)、4月の出雲陸上で10秒30の自己ベストで桐生、多田に続く3着に食い込んだこちらは名古屋大に在学中の本郷汰樹がその候補。
特に本郷はまだ粗削りながらスケールの大きい走りが昨年一気にタイムを伸ばしたデーデーブルーノ(ミズノ)によく似ており、ブレイクスルーに期待したい一人だ。

男子400mはウォルシュ・ジュリアン(富士通)が故障で戦列を離れている現在、ワールドクラスとの力の差を感じる種目ではあるが、既に出場権を得ている世界選手権のマイルリレーでは決勝進出を争う渦中の数か国に食い込んできており、木南記念で優勝を果たした佐藤風雅(那須環境)、東京五輪マイルリレーメンバーの佐藤拳太郎(富士通)、川端魁人(中京大クラブ)、伊東利来也(住友電工)ら45秒台中盤のPBを持つ選手たちが、M・ノーマン(アメリカ)を追うことで45秒台前半のタイムに突入してくれば、悲願のマイルリレー決勝進出と共に、個人種目での世界陸上出場も見えてくる。
中島佑気ジョセフ(東洋大)、岩崎立来(大阪体育大)の学生二人には45秒台突入で、この種目の選手層に厚みを齎してもらいたい。

昨年7月のホクレンDCで源裕貴(NTN)が川元奨(スズキ)の日本記録に並ぶ1分45秒75をマークして世界陸上の参加標準記録の1分45秒20の突破が見えてくると、刺激を受けた他の選手たちの記録も伸び始め、俄かに活気を帯びてきている男子800m。
日本記録保持者二人に加え、1分45秒85の自己ベストがある金子魅玖人(中央大)に、静岡国際のタイムレース決勝で出場日本人選手トップタイム1分46秒17をマークして勢いに乗る薄田健太郎(筑波大)、昨年に続き、今年に入ってからも大きく記録を伸ばしている四方悠瑚(宝塚市陸協)らが参加標準記録を上回る水準の自己記録を持つI・ジュウィット(アメリカ)、G・リアマンス(イギリス)をターゲットに一気の標準突破を目指す。

110mHでは東京五輪で決勝進出にあと一歩まで迫った泉谷駿介(住友電工)が欠場となるが、世界陸上参加標準記録13秒32を上回る、13秒28の自己ベストが有る村竹ラシッド(順天堂大)が出場。今季出場した日本学生個人選手権、織田記念陸上では強風に雨、低気温と天候に見放された感が有り、今大会が三度目の正直となるか注目される。自己ベスト13秒37を持つ石川周平(富士通)、3月に行われた世界室内選手権で準決勝に進んだ野本周成(愛媛陸協)にとっても、標準記録突破のチャンスだ。

400mHでは世界陸上参加標準記録の突破を果たした黒川が、東京五輪銀メダルのベンジャミンに挑む。ここでどこまで善戦できるか、差をどこまで抑えられるかが、世界の舞台でラウンドを勝ち抜くための試金石となってくる。木南記念での力走により、今大会は失うものは何もなく、自身の力を試すことが出来る貴重な場となったので、躊躇うことなく積極的に攻める姿が見てみたい。

男子3000m障害の目玉選手は東京五輪同種目で7位入賞を果たした三浦龍司(順天堂大)。桐生、泉谷に加え東京五輪走幅跳6位入賞の橋岡優輝(富士通)と注目の国内選手の欠場が相次いで発表された中、大会の主役とも言うべき存在だ。
更なる飛躍を遂げたい今季、これが3000m障害では初の実戦となるがここまで出場したトラックレース、金栗記念の1500mでは先日のゴールデンゲームスinのべおかで5000mの参加標準記録を突破した遠藤日向(住友電工)、織田記念の5000mでは東京五輪代表の松枝博輝(富士通)という、国内長距離選手の中でも名うてのゴールスプリントを持つ二人を後方から一気に差し切る爆発力を見せ、この面での成長を感じさせた。
東京五輪で発揮された、ケニア、モロッコ、エチオピアと言ったこの種目で世界をリードする選手たちにも一歩も引かずに付いていく事が出来るスピード持久力の高さに加え、ゴールスプリントにも磨きが掛かり、世界陸上へ向けての中間試験とも言える今大会でどんな回答を示すのか、非常に楽しみだ。
三浦と同じく東京五輪代表で、今季はアメリカに遠征し実戦を積んできた青木涼真(Honda)と同じく東京五輪代表のベテラン山口浩勢(愛三工業)は、三浦や東京五輪同種目オーストラリア代表のB・バッキンガムをターゲットに世界陸上参加標準記録の突破を果たしたい。このバッキンガムや力のあるケニア人実業団選手、P・キプラガットに先着できるかが、世界陸上のスタートに立てるか否かの一つの目安となるだろう。

男子フィールドに目を移すと、走幅跳で東京五輪6位入賞を果たした橋岡優輝(富士通)が欠場とここでも大会の主役とも言うべき選手が欠けてしまったが、自己ベストに8m14を持ち、今季日本学生個人、兵庫リレーカーニバルに連勝と安定感が増している吉田弘道(神崎郡陸協)に8mジャンプの期待が掛かる。走幅跳の東京五輪代表の城山正太郎(ゼンリン)、津波響樹(大塚製薬)と、東京五輪走高跳で決勝に進んだ戸邊直人(JAL)の3人は今季跳躍のメカニズムが狂ってしまったような印象で、結果を残せておらず、この辺りで自身の跳躍を取り戻すきっかけを掴んでもらいたいところ。

男子やり投はロンドン五輪代表のディーン元気が81m91を投げて木南記念を制し、今季好調。今大会も80mオーバーでWAランキングを確実に上昇させたい。東京五輪日本代表の小南拓人(そめQテクノロジィ)は今季まだ80mスローが無く、木南では力みが感じられ74m台の記録に留まっており、奮起に期待したい。

女子のトラック種目、200mは世界レベルと力の差がある種目だが、出場日本人選手中1番の自己記録のある鶴田玲美(南九州ファミリーマート)、この種目を得意とする斉藤愛美(大阪成蹊AC)、100mでタイムを伸ばしてきている青山華依(甲南大)の東京五輪4×100mリレーメンバーには、自己記録を更新する走りで、静岡国際を制しているC・ビーチャー(オーストラリア)や持ちタイムの良いL・アービー(アメリカ)との差を少しでも詰めてほしいところ。

女子1500mには東京五輪同種目で8位入賞を果たした田中希実(豊田自動織機)が登場。
今年は世界の舞台での8位から更に上位を目指し、五輪の経験を通してこの種目で自身にとって足りていないと痛感したスピード面を強化するために、世界陸上代表も視野に入れながら800mに力を入れ、更に400mの記録会にも出場している。
屋外トラックシーズンに入ってからは、800mを3本、5000mを2本、10000mも1本走っているが、昨年のこの時期に毎週のように走っていた1500mは1本のみ。
国内では良き競争相手であるH・エカラレ(豊田自動織機)に加え、オーストラリア、アメリカから4分4秒台、5秒台の記録を持つ選手が出場する今大会は、ギアを一段上げてくるだろう。
800mから10000mまでを満遍なく熟しながら強化を図ってきた試みがどの程度成果を表すのか、三浦同様に世界陸上への中間報告となる大会だ。

もう一人の五輪代表の卜部にとっては世界陸上の標準突破を目指すレースだ。
今季のシーズンベストは4分11秒98に留まっているが、国内レースでは自身の出力でレースを引っ張らなければならないところもあるので、東京五輪の予選でS・ハッサンの転倒に巻き込まれそうになりながら、4分7秒90と大きく自己記録を更新したように、ある程度速めの紛れのない展開になった方が力を発揮できるタイプなのかもしれない。力の有る海外選手のいる今大会はレースの流れに身を任せることも出来そうで、卜部にとっては大きなチャンスだろう。
田中とともにトレーニングに励み、着実に力を付けて来た後藤夢(豊田自動織機)、学生の道下美槻(立教大)、樫原沙紀(筑波大)の4分12秒、13秒台の自己ベストを持つ選手たちが4分10秒を切ってくれば、パリ五輪へ向けての楽しみが拡がる。

100mHも青木、寺田に標準記録突破の大チャンスがやってきた。特に青木が4月の北陸実業団選手権で打ち立てた12秒86の日本記録は予選でのもので、その日の1本目からこのレベルの記録を叩き出したことは世界大会でラウンドを勝ち抜くためには非常に重要で、当人も東京五輪の経験を踏まえ、ここを相当意識したものと思われる。その反面スタートからリードを奪えないとリズムに乗れず、織田記念のような競り合いになると力みが出てしまう意外な脆さも有り、ハリソンやタッパーと言った世界の超一流選手とのレースになる今大会で先行されても自身の走りに徹する事が出来るかが今後を占う試金石ともなる。「元」日本記録保持者となった寺田は今季初レースだが当然黙っている筈も無く、記録への好条件の揃う今大会では再びの日本記録更新のみならず、12秒7台に届くかどうかを期待してみたい。

女子フィールドの走幅跳は6m69を自己ベストに持つJ・トーマス(イギリス)が招かれ、ほぼ同じ自己ベスト、6m65を持つ秦澄美鈴(シバタ工業)が迎え撃つ。
4月の兵庫リレーカーニバルで6m60と自身2度目の6m50オーバーの決勝リザルトを残して今年も好調、6m50近辺の記録は安定して残しており国内では今や無敵。
本人は当然世界陸上参加標準記録、6m82越えを意識しているが、WAランキングでの出場に視点を移すと目安となるターゲットナンバーで出場圏近辺にいるライバルでもあるトーマスに好記録で勝ち切って、より高いポイントを獲得しておくことも大事なミッションだ。

女子やり投は東京五輪代表の北口榛花(JAL)がその決勝で痛めた脇腹の故障から復帰、木南記念では61m20を投げて優勝を飾り完全に復調してきた。ここまでの出遅れを取り戻すため、今大会も60mオーバーのビッグスローでの優勝が求められる。WAランキングで日本の女子選手をリードしている上田百寧(ゼンリン)はシーズン当初に60m32を投げて上々の滑り出しを見せていたが、その後の学生個人選手権、木南記念がやや不振に終わっており、立て直しに期待したい。この種目は昨年62m39をマークした武本紗栄(佐賀県スポーツ協会)が上田、北口と共にWAランキングでターゲットポイント圏内に位置し、2017年ロンドン世界陸上代表の斎藤真理菜(スズキ)や木南記念で自己記録となる59m37をマークした長麻尋(国士舘クラブ)も圏内に手が届くところまで迫ってきており、高ポイントを得られる今大会の結果が今後に重要な意味をもってくる。

昨年の東京五輪では実現しなかった、観客を動員しての国際的な陸上競技大会。国立競技場に詰めかける、この時を待ちわびていた陸上ファンの声援も、海外トップ選手に挑み、世界陸上参加標準記録の突破を目指す選手たちの大きな後押しになるだろう。

文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)

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