オレゴン世界陸上へのラストスパート第二弾!標準記録突破への最後のチャンス、布勢スプリント2022の展望!

世界陸上参加資格記録の最終期限が6月26日に迫り、既にナショナルチャンピオンシップが終了した日本に対し、海外では各種大会が活発に行われ、新たに参加標準記録を突破した選手も増え、前回大会優勝者などワイルドカードを含めた参加資格取得者を除く出場選手が決まるワールドランキングの変動も大きくなっている。

国内では中・長距離で世界陸上へのラストチャンスとなったホクレンディスタンスチャレンジ20周年大会が終了し、主要大会では男女100m、男子200m、男子300mの短距離種目男子110mHと女子100mHのスプリントハードル、男女走幅跳、男女の三段跳が実施される日本GPシリーズ、布勢スプリント2022を残すのみとなった。
そこで改めて布勢スプリントで世界陸上へのラストチャンスへ挑む選手たちを含む国内選手の現在置かれている状況を、世界陸上出場への目安としてWAが発表している最新のRoad to Oregon 2022 ランキングでおさらいをしておきたい。

■ 世界陸上内定者(2022年6月25日時点)

まず、布勢スプリントの実施種目以外の選手も含め、世界陸上代表に内定しているロード、競歩を除くトラック&フィールド種目の選手は以下の通り

男子100m サニブラウンアブデルハキーム(タンブルウィードTC)

男子5000m 遠藤日向(住友電工)

男子110mH 泉谷駿介(住友電工)、村竹ラシッド(順天堂大)

男子400mH 黒川和樹(法政大)

男子3000m障害 三浦龍司(順天堂大)、青木涼真(Honda)

男子走幅跳 橋岡優輝(富士通)

女子1500m 田中希実(豊田自動織機)

女子5000m 田中希実、廣中璃梨佳(日本郵政G)

女子10000m 廣中璃梨佳、五島莉乃(資生堂)

男子8名、女子3名となっている。

■ ターゲットナンバー圏内の選手(2022年6月25日時点)

そして最新のRoad to Oregon 2022 ランキングで出場の目安となるターゲットナンバーの圏内にいる選手は、

男子
100m(TN=48、1202p)
43)桐生祥秀(日本生命)1215p※日本選手権後に休養を表明

200m(56、1162p)
38)小池祐貴(住友電工)1203p
50)上山紘輝(住友電工)1172p

400m(TN=48、1177p)
36)佐藤風雅(那須環境)1195p
42)川端魁人(中京大クラブ)1189p
47)ウォルシュ・ジュリアン(富士通)1178p

400mH(TN=40、1196p)
39)豊田将樹(富士通)1196p

3000m障害(45、1162p)
40)山口浩勢(愛三工業)1196p
※楠康成(阿見AC)が1167p、潰滝大記(富士通)が1165pも日本人選手4、5番手

走高跳(TN=32、1161p)
16)真野友博(九電工)1225p
17)戸邉直人(JAL)1224p※故障により出場が難しい状況
25)赤松諒一(アワーズ)1180p

棒高跳(32、1201p)
30)山本聖途(トヨタ自動車)1204p
32)江島雅紀(富士通)1201p※故障により出場が難しい状況

やり投(TN=32、1139p)
19)ディーン元気(ミズノ)1201p

女子
1500m(TN=45、1166p)
45)卜部蘭(積水化学)1166p

100mH(40、1192p)
38)青木益未(七十七銀行)1194p
39)福部真子(日本建設工業)1193p

3000m障害(TN=45、1173p)
44)山中柚乃(愛媛銀行)1174p

走幅跳(32、1174p)
24)秦澄美鈴(シバタ工業)1199p

やり投(TN=32、1111p)
15)北口榛花(JAL)1247p
26)上田百寧(ゼンリン)1136p
となっている。

前回のランキング更新時から新たにTN圏内に入ってきたのは、6月18日にスペイン・マドリードの大会で45秒27をマークして3位となっていた男子400mのウォルシュ・ジュリアンの1名。しかしながら、女子400mHの宇都宮絵莉(長谷川体育施設、1166pで前回40位→43位)、3000m障害の吉村玲美(大東文化大、1168pで44位→49位)、やり投の武本紗栄(佐賀県スポーツ協会、1111pの32位→33位)の3名が残念ながら今回のランキングで圏外に順位を落としている。また男子400mHの豊田、女子1500mの卜部、3000m障害の山中の3人はTNぎりぎりの順位になっており、このまま出場圏内を維持できるか運を天にまかせる状況だ。同じくTNぎりぎりまで順位を下げている男子200mの上山、女子100mHの青木、福部は布勢スプリントにエントリーが有り、もちろん滑り込みでの参加標準突破を狙うが、最低限ポイントの上積みとランキングの上昇をしておきたいところだ。

この他、TN圏外だが、ボーダーラインと僅差に迫りかつ布勢スプリントにエントリーのある選手は、
男子110mH(TN=40、1210p)
41)石川周平(富士通)1207p、TNまで3p差
43位相当 高山峻野(ゼンリン)1203p、7p差
43位相当 野本周成(愛媛陸協)1203p、7p差

男子走幅跳(TN=32、1187p)
35)山川夏輝(佐賀県スポーツ協会)1179p、8p差
36)吉田弘道(神崎陸協)1178p、9p差

となっている。
110mHの石川がフィンランドで行われたコンチネンタルツアーシルバーラベルの大会で優勝し、ランキングで高山、野本を上回ったが、あと一歩TN圏内には届かなかった。

こうした状況を踏まえつつ、日本選手権で3位までに入った選手が標準記録を突破すればそのまま世界陸上代表に内定となる布勢スプリント2022で実施される各種目で、オレゴン行最終便のチケット獲得を目指すエントリー選手の顔ぶれを紹介するとともに、見どころに迫ってみたい。

男子100mはオレゴン世陸に向けて代表内定者がこれまでのところサニブラウンただ一人。このまま推移するとリオ五輪以降、ロンドン、ドーハの世陸、東京五輪と続けてきたフルエントリーが途絶えてしまうが、4×100mリレーを含めて世界の舞台で力を発揮し、実力、人気両面で日本の陸上界を引っ張ってきただけに、東京五輪後の退潮を感じさせてしまう結果となるのは避けたいところ。
東京五輪代表の小池祐貴(住友電工)、日本選手権で10秒10をマークして小池を抑え、サニブラウンに次ぐ2位となった坂井隆一郎(大阪ガス)、10秒16まで記録を伸ばし日本選手権で3着に食い込んだ期待の若手、柳田大輝(東洋大)が、昨年山縣亮太(セイコー)が9秒95の日本記録を打ち立てた鳥取で、短距離界の窮地を救えるかに注目したい。
小池のここまでのレーススケジュールがタイトなところは気になるが、裏を返せばこなせるだけの体力が十分に備わっているということだ。坂井は今季スタートの良さは抜群で、日本選手権では後半の落ち込みを最小限に抑えることが出来ており、柳田はまだ粗削りながら、走るたびにタイムを伸ばしてきた勢いに期待をしたい。
また今季は交通事故に見舞われる不運があったリオ五輪代表、ケンブリッジ飛鳥(nike)のエントリーもあり、出場すれば今季初となるレースで、今後に向けてどの程度コンディションが戻ってきているのか気になるところだ。

男子200mは日本選手権優勝でWAランキングをTN圏内に上げてきた上山の他、リオ五輪代表の飯塚翔太、シレジア世界リレー4×100mリレーで坂井、柳田とともに銀メダル獲得に貢献した鈴木涼太(スズキ)、エントリー選手中上山に次いで2番目にランキングが高い染谷佳大(大和ハウス)、早稲田大の三浦励央奈の5名が出場予定。
ランキングは染谷が64位、飯塚は65位、鈴木は68位相当となっているが、ボーダーラインまでのポイント差は染谷が14、飯塚が20、鈴木が22とやや開きが有り、ボーダーラインまで10ポイント差をつけて圏内にいる上山を含め、参加標準記録の20秒24を突破するのが代表を確実にする最善の道だ。

男子300mには世界陸上代表へ向けてあと一押しが欲しいウォルシュの他、日本選手権400m4位の中島佑気ジョセフ(東洋大)、5位の岩崎立来(大阪体育大)、東京五輪男子4×400mリレー代表の伊東利来也(住友電工)、ドーハ世陸で4×400mリレー、混合マイルの代表に選ばれながら出番のなかった河内光起(大阪ガス)の5名が出場を予定している。ウォルシュは故障などの影響も有り、ランキングスコアに組み込まれる4番目、5番目の記録がさほど高くなく、結果がポイントに反映される300mで自己記録である32秒45と同水準の記録で走ればランキングスコアを大幅に上昇させる事が出来る。海外遠征帰りでスケジュールは厳しいが、日本選手権直後の状況を考えれば再び巡ってきた大きなチャンスだ。
中島、岩崎の学生二人にとっては既に出場権を得ているマイルリレー、混合マイルで初の代表入りをアピールできる最後の機会となる。

男子110mHは既に代表に内定している村竹に、代表3枠目を目指し標準記録13秒32の突破を目指す石川、高山、野本に13秒41の自己記録を持つ藤井亮汰(三重県スポーツ協会)らがエントリー。村竹がここに出場してくる意図は、世陸への最終調整として、記録の出やすいと言われる鳥取で少しでも自己記録を更新して世界の強豪へ挑む手応えを得ておきたいものと考えられる。ポイントランキングでボーダーラインに迫り、3枠目を激しく競り合っている石川、高山、野本の3人は、この村竹に先着して優勝を果たさなければランキングの大幅なジャンプアップが見込めず、男子100m、200m同様に参加標準記録の突破が代表への条件となりそうで、予選から狙っていく攻めの姿勢も求められるだろう。

女子100mは日本選手権を13秒36で制し今季好調の君嶋愛梨沙(土木管理総合試験所)、2位に甘んじた東京五輪4×100mリレー代表の兒玉芽生(ミズノ)、日本選手権3位と復調してきた御家瀬緑(住友電工)、東京五輪4×100mリレーで1走の大役を務めた青山華依(甲南大)ら、出場権の有る4×100mリレーのメンバー争いの渦中にいる選手がエントリー、兒玉、君嶋の他にも11秒3台を出す選手が出てくれば、世陸本番も今以上に楽しみが出てくる。

女子100mHはポイントランキングでぎりぎり出場圏内に踏みとどまっている青木、福部の他、今季は世界陸上を目標とせず、その先を見据えながら長期スパンで競技に取り組んでいる東京五輪代表で前日本記録保持者の寺田明日香(ジャパンクリエイト)、日本選手権3位の田中佑美(富士通)、13秒00の自己記録を持つ鈴木美帆(長谷川体育施設)が出場を予定している。
ランキングが維持できるかが焦点の一つでもある青木と福部だが、実力者の寺田に阻まれて優勝を逃し、ポイントを伸ばすことが出来なかった場合が最悪のケースと言えよう。
やはり予選から参加標準記録を狙った積極的なレースが出来るかが大事になってくる。
世界に挑める選手が出るか出ないかで、13秒3台を記録する選手が増えて国内の競技力が向上しているこの種目のパリ五輪へ向けた今後の展望も、選手たちのモチベーションも大きく変わってくると思われ、東京五輪に出場した青木や、ここまで絶好調が維持できている福部には、良い流れを繋いでいく重要な役割も課せられている。
特に代表内定の掛かった日本選手権で本職の100mHに留まらず100mにも挑戦し、6レースを走った青木からは、目先の結果だけにこだわらずに本気で世界を目指し、そのために為すべきことは為すという並々ならぬ気迫が感じられる。

フィールド種目に目を移すと、男子走幅跳で世界陸上の代表に内定している橋岡の出場はないが、ポイントランキングで出場圏内に迫る山川と吉田、東京五輪代表の津波響樹(大塚製薬)、城山正太郎(ゼンリン)がエントリー。
山川は、5月の日大記録会でマークした8m00がランキングスコアに反映されて前週からランキングを上げ、ボーダーラインまで8p差に迫ってきた。ここから出場圏内までランキングを押し上げるためには8m06、9p差の吉田にとっては8m07を跳ぶ事が目安となるが、ともに8m14の自己ベストを持っており、標準記録の8m22も射程圏内だ。
この二人に加え、津波も日本選手権で追い風参考ながら久しぶりの8mオーバーとなる8m07を跳んで2位となり、公認でも8m01をマーク、ファウルとなった2回目の試技でも8m20を超えようかという大ジャンプを見せており、標準突破の可能性を感じさせてくれた。
もう一人の東京五輪代表、日本記録保持者の城山は一発大逆転での標準記録突破を狙うのみだ。

女子走幅跳で世陸出場圏内にいる秦澄美玲(シバタ工業)もこの大会にはエントリーせず、吉報を待つのみ。日本選手権3位の嶺村優(オリコ)、4位の木村美海(四国大)、今季6m20を跳んでいる小玉葵水(東海大北海道)の優勝争いとなりそうだ。

男子三段跳では17m00と標準記録にあと14㎝に迫る高専ジャンパー伊藤陸(近畿大工業高専)がラストチャンスに挑む。今季はここまで昨シーズンほどの出来にはないが、日本選手権では16m57まで記録を伸ばしてきており、更に状態が上げられているかどうか。

女子三段跳は世界レベルとはまだ開きがあるが、今季に入って森本麻里子(内田建設AC)、髙島真織子(九電工)が13m50近辺の国内としてはハイレベルな記録の応酬で各大会で優勝争いを繰り広げていたところに、日本選手権では13m46をマークした船田茜理(武庫川女子大)も加わり、非常に活気が出てきている。この3人が競い合い、さらにレベルを上げて行く事が出来れば、来年のブダペスト世界陸上でのポイントランキングでの出場が視界に入ってきそうだ。そのためにも今大会では3人揃って13m50オーバーでの優勝争いを期待したい。

7月15日開幕のオレゴン世界陸上へ向け、各国ともに最後のスパートが激しくなっている。昨年に行われた東京五輪のホスト国として、次のパリ五輪にも多くの選手を送り込み、新たな未来を切り開くための底力があるかが、今、試されている。

文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)

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