今年も好記録に期待!
真夏の夜の夢、2022Athlete Night Games in FUKUIのみどころ

「日本国内にも、ヨーロッパのようなファンと選手が一体となったナイター大会があればいいね」

第1回大会の発起人ともなった男子110mHの金井大旺(当時ミズノTC)、村島匠(当時福井県スポーツ協会)と福井の陸上関係者との何気ない会話がきっかけとなって動きだしたAthlete Night Games in FUKUIは、国内の陸上大会ではおそらく初となるクラウドファンディングを実施するなどして苦労がありながらも開催に漕ぎつけ、2019年8月17日、桐生祥秀が日本人選手初の10秒切り9秒98を記録した事から名が改められた福井9.98スタジアムに、その熱意に賛同したドーハ世界陸上出場を目指す国内トップアスリート達が多数集結した。

■ 第1回大会は男子走幅跳、110mH、女子100mHのターニングポイントだった

夕陽が傾きスタジアムが茜色に染まり始めた頃、ナショナルレコードチャレンジと銘打たれ17:20から始まった男子走幅跳で、橋岡優輝(当時日本大、現富士通)が一回目の試技で森長正樹が1992年より保持していた8m25の日本記録を更新する8m32のビッグジャンプでいきなり観衆を大きくどよめかせると、その僅か30分後、今度は城山正太郎(ゼンリン)まるで時間が止まったかのような滞空時間の長い美しいジャンプで誕生したばかりの日本記録を8m40に更新、好記録の応酬に会場は更にヒートアップ。
トラックレースでも女子100mHで寺田明日香(当時パソナグループ、現ジャパンクリエイト)が13秒00の日本タイ記録、続く男子110mHでは高山峻野(ゼンリン)が自身が7月の実学対抗でマークしたばかりの13秒30の日本記録を更に更新する13秒25を叩き出し、トラック、フィールドを合わせて3度の日本記録更新と一つの日本タイ記録が誕生、まさに選手、関係者、ファンが三位一体となった真夏の夜の夢は幕を閉じた。

その後男子走幅跳の橋岡、城山の二人はドーハ世界陸上の決勝に進出しそれぞれ8位、11位の成績を収めると橋岡は東京五輪では6位入賞。女子の100mHではこの年の9月、寺田が12秒97と日本人選手として初めて12秒台の記録を叩き出すとこの種目の選手たちの勢いに拍車が掛かり、東京五輪では寺田の他、木村文子(当時エディオン、引退)、青木益未(七十七銀行)と3人のフルエントリーを達成し、記録も先月のオレゴン世界陸上で福部真子(日本建設工業)が12秒82にまで伸ばし、男子110mHでもドーハ世界陸上では高山が、東京五輪では泉谷駿介(順天堂大)が決勝進出にあと一歩まで迫り、記録も昨年4月の織田記念で金井が13秒15に日本記録を更新すると、6月の日本選手権では泉谷が13秒06にまで伸ばすなど、ワールドクラスに引けをとらないところまでレベルアップし、これらの種目において第1回大会で一つの「壁」を突破した事が今日の陸上界の競技力向上に果たした役割は非常に大きかったと、今振り返れば言い切ることができるだろう。

■ 2022Athlete Night Games in FUKUI

そのAthlete Night Games in FUKUIが関係者の尽力により、今年も8月19日から二日間の日程で9.98スタジアムに於いて開催の運びとなり、トラックでは男女の100mと男子110mH、女子100mH、フィールドでは男女の走幅跳、男子やり投げの七つの実施種目に、男子100mの坂井隆一郎(大阪ガス)、男子やり投げのディーン元気ら先月に行われたオレゴン世界陸上代表選手15名を含む国内のトップアスリートが最終エントリーに名を連ねた。

男子トラック

男子100mには坂井の他、世界陸上男子4×100mリレーで2走を務めた鈴木涼太(スズキ)がエントリー。
坂井は世界陸上の予選で10秒12をマーク、決勝進出こそならなかったものの初めての世界の舞台でも力の有るところを見せており、この経験で培ったものを福井でどのような形で示してくれるのか楽しみなところ。
世界陸上で4×100mリレーのアンカーを担ったあと、コロンビア・カリで行われたU20世界陸上へと転戦し、男子100mで10秒15に自己記録を更新した柳田大輝(東洋大)や7月の京都選手権で10秒10を叩き出した和田遼(東洋大)の欠場は残念なところだが、今季は柳田、和田の他にも5月の富山県選手権で10秒17をマークした福島聖(富山銀行)のように一気に記録を伸ばしてきている選手もおり、そうした意味では誰が殻から飛び出してくるかわからない面白さもある。
世界陸上代表には届かなかったが、6月の布勢スプリントを10秒20で優勝を果たしたのに続き、先日の実学対抗を10秒20で制し安定感の出てきたデーデー・ブルーノ(SEIKO)や、やはり布勢スプリントの予選で10秒22をマークし、実学対抗でも2着に食い込んだ今季好調な伊藤孝太郎(東京ガスエコモ)がどこまで坂井に迫れるか、また一昨年の日本インカレで10秒14の好記録をマークしながら、その後故障もあって不振に陥っていた水久保漱至(第一酒造)も6月の布勢では10秒27と復調を感じさせる走りを見せており、更に予備予選から出場する世界陸上の200mで20秒27をマークした上山紘輝(住友電工)、同じく世界陸上の200m代表で100mでも10秒08の記録を持つベテランの飯塚翔太(ミズノ)の走りにも注目したい。

男子110mHはオレゴン世界選手権代表の村竹ラシッド(順天堂大)、石川周平(富士通)の前に、世界陸上参加標準記録を突破しながら惜しくも代表を逃した高山が迎え撃つ。
共に予選突破を果たせず悔しい結果となった村竹、石川に対し、高山は先日の実学対抗で13秒10と世界陸上決勝に当て嵌めても銅メダルに相当する堂々たる自己新記録をマークする強さを見せつけ、遂に故障による不振から完全復活を果たし目下のところ絶好調だ。
三人に共通して言えるのは、まだ明らかになっていない来年に開催されるブダペスト世界陸上の参加標準記録に匹敵する水準の記録を出して置きたいというところ。
オレゴン世陸の13秒32から更に記録が引き上げられることが考えられ、13秒2台の前半辺りが必要となってくるだろう。
現時点では記録の有効期間の発表もなされていないが、あるいは遡っての記録適用といったことがないとも限らず、今年の世界室内60mH代表の野本周成(愛媛陸協)、日本選手権4位の髙橋佑輔(北海道ハイテクAC)らとの競い合いの中での好記録を期待したい。
また、実学対抗で13秒44と一気に記録を伸ばしてきた、400mHでも活躍する豊田兼(慶応義塾大)がこの争いに加わってくるようであれば、来年の世界陸上やパリ五輪へ向けて男子110mHの選手層は更に厚みを増し、代表争いも激しくなっていくだろう。

女子トラック

女子100mは43秒33の日本記録をマークしたオレゴン世界陸上の4×100mリレーの2走を務めた君嶋愛梨沙(土木管理総合)と3走の兒玉芽生(ミズノ)が優勝争いの中心。
日本選手権、布勢スプリントではこの二人による大接戦が繰り広げられたが、二度とも君嶋が制しており、兒玉にとっては絶好のリベンジの機会と言えるだろう。
まだ権利は得られていないが、来年の世界リレーに出場してブダペスト世界陸上への出場権を獲得し、パリ五輪へと夢をつなげるためにも、オレゴンでアンカーを務めた御家瀬緑(住友電工)も含め、11秒3切りに期待したい。
記録が11秒2台に突入し、福島千里の持つ11秒21の日本記録に迫る事が出来て始めて、個人種目での世界陸上、五輪への代表も視界に入ってくる。

女子100mHでは日本記録を出してなお世界の壁に跳ね返された福部、4×100mリレーでは1走として日本記録の更新に貢献しながら、本職では十分に力を発揮したとは言い難かった青木の世界陸上代表二人が、次の目標へ向けてどのような再出発を見せるのかに注目したい。青木としては奪われた日本記録をすぐさま取り返したいところだろう。
また、7月の宮崎県選手権で13秒02をマークするなど今季好調のベテラン清山ちさと(いちご)、自己記録を13秒13まで伸ばしてきた中島ひとみ(長谷川体育施設)、今季学生トップタイムの13秒20を出している田中きよの(駿河台大)といった、代表二人を追いかける選手たちの12秒台突入にも期待をしたい。

男子フィールド

フィールドでは男子走幅跳に世界陸上代表の山川夏輝(佐賀県スポーツ協会)が出場する。山川は世界陸上では決勝進出を果たせなかったが、今季は5月のGGPで8m14をマークして優勝、日本選手権後の日本大学競技会でも8m17を跳ぶなど複数回にわたって8mオーバーを記録しており、はまった時の爆発力の大きさが魅力だが、求められるのは安定感だろう。
更に、再び世界に挑むためには3回目以内に8mを記録するための試合への入り方、集中の高め方も課題となってくる。この辺りをどれだけ意識して今大会に臨んでくるのか、一回目の跳躍に注目してみたい。
日本選手権前の時点では、ランキングでの世界陸上出場圏内に位置しながら最終的に出場ラインに届かなかった吉田弘道(神崎郡陸協)は、8月に入り、地元兵庫の記録会で8m12のセカンドベストをマークして、次の目標へ向けての新たな一歩を踏み出している。弟の正道(姫路商業高)がインターハイで優勝を果たしたのも良い刺激となっていると思われ、立て続けの8mオーバーを期待したいところ。
また第1回大会では一躍ヒーローとなった城山もエントリー、直後のドーハ世陸では決勝進出を果たしたものの、以降は代表となった東京五輪では予選落ち、今季に入ってからも8mオーバーの跳躍は出来ておらず、もう一度福井で初心に立ち返り、本来の姿を取り戻すきっかけを掴んでもらいたい。

男子のやり投はナショナルレコードチャレンジとして行われ、世界陸上決勝進出を果たすもトップ8にあと一歩及ばず9位となったディーン元気(ミズノ)、決勝進出を果たせなかった小椋健司(栃木県スポーツ協会)の二人のほか、リオ五輪代表の新井涼平(スズキ)も出場し、溝口和洋が記録した、1989年以降未だ破られていない87m60の日本記録更新を目指す。

女子フィールド

女子の走幅跳も悲願の世界陸上出場を果たしながら、決勝進出に届かなかった秦澄美鈴(シバタ工業)にとっては仕切り直しの一戦。
昨シーズンまでの反り跳びから、更に上の記録を目指してシザースを取り入れた今季は、その効果もあって6m60近辺を複数回記録するなど安定感が増してきていたが、世界の舞台ではその力を見せる事が出来ず涙を見せた。
今回の世界陸上はランキング上位での権利獲得で6m82の参加標準には届いておらず、更に水準が上がることが予想されるブダペスト世陸に向けて、まずは自己記録の6m65を更新し、池田久美子(当時スズキ)が2006年に記録した6m86に迫る記録を出しておきたい。
学生ナンバー1の力を持つ高良彩花(筑波大)は、ここ数年6m20から30辺りの記録で安定しているが、高校2年時から日本選手権を三連覇した頃の期待の高さからすれば物足りなさを感じてしまう。
学生ラストイヤーの総決算となる日本インカレを9月に控え、この福井で今までの殻を破るような結果を残せるかに注目だ。

今回のAthlete Night Games in FUKUIは、東京五輪と共に1年日程が後ろにずれ込む変則開催となったオレゴン世界陸上が終わり、次の目標である来年のブダペスト世界陸上、そして再来年のパリ五輪へ向けての最スタートと時期が重なった。第1回大会が、東京五輪へ向けての機運を一気に盛り上げたように、今大会でも次の舞台に繋がる記録が生まれるのか、一人の陸上ファンとして期待に胸を膨らませている。

文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)

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