北海道マラソン2022が8月28日、札幌市の大通公園西4丁目をスタートして新川通を折り返し、後半35㎞すぎには北海道大学キャンパス内を駆け抜けて大通公園に戻ってくる42.195㎞のコースで行われる。
東京から札幌にコースが変更され、また1年延期となった東京五輪マラソンの日程の関係も有って2019年以来3年ぶりの開催となる今大会は2024年パリ五輪代表を巡るMGCシリーズの一戦、また来年のブダペスト世界陸上代表に関わるJMCシリーズⅡ後半の初戦でも有り、男女ともパリ五輪マラソン代表選手の決まるMGC出場権を既に獲得している選手や、この大会でMGC出場権獲得やJMCポイントランキング上位進出を目指す有力ランナーが多数顔を揃え、好レースとなることが予想される。
今大会エントリー選手中、男子でMGC出場権を既に獲得しているのは、招待選手の高久龍(ヤクルト)、定方俊樹(三菱重工)、湯澤舜(SGH)。この3選手は来年秋に開催が予定されるMGC本番へ向け、国内では夏マラソンの最後の機会となる北海道で暑熱レースを経験し、他の選手より少しでもアドバンテージを得て置きたいという思いもあるだろう。
エントリー選手中トップタイム、2時間6分45秒を持つ高久は東京五輪の選考会となった第1回のMGCを経験しているが30㎞過ぎで途中棄権となっており、暑熱の中で行われるレースに対してのネガティブなイメージを払拭する事が求められるレースでもあるだろう。
2020年の東京で自己ベストを出して以降はパリ五輪代表を見据えて積極的にフルマラソンを走り、昨年はびわ湖、福岡国際でともに日本記録を目指すハイペースの中でレースを進めながら、後半も大きく崩れず8分台で踏みとどまるまずまずの結果を残してきたが、今年3月の東京マラソンでは2時間11分01秒と精彩を欠いた。
しかしながら直近では7月3日の函館ハーフを1時間3分20秒の5位とこの時期のハーフとしては上々のタイムでまとめており、ここへ向けての調整は順調のようで、これまでの実績から上位争いの中心と言って差し支えなさそうだ。
2時間7分05秒で持ちタイム3番手の定方俊樹は、昨年の福岡国際では30㎞過ぎまで上位争いを展開するも35㎞以降で粘れず2時間10分31秒の9位に終わりMGC出場権の獲得を逃したが、続く今年3月の東京では日本人上位争いに加われなかったものの2時間8分33秒をマーク、福岡と併せた2レースのタイムの平均が2時間10分00秒以内となりワイルドカードでのMGC出場権を掴み取ってきっちりと目的を果たした。
直近の函館ハーフでは1時間2分46秒で日本人トップの2位に入り高久に先着、調子も上向きで挑めそうな今回の北海道マラソンは、MGC本番に向けて更に実績を積み上げる意味でも重要な位置づけのレースと言えそうだ。
自身3度目のフルマラソンだった今年の東京で2時間7分31秒の日本人3位に入りMGCの出場権を獲得した湯澤は、MGC本番に向けて一本でも多くレースを走り、実戦経験を積んでいきたいところで、初マラソンを走った北海道はまさにうってつけのレース。函館ハーフは1時間3分53秒で13位だったが、悪くはないものの大きな強調材料とも言えず、今大会で上位に入って7分台の力が本物である事を再度示すことが出来るかに注目だ。
今大会でMGC出場権獲得を目指す招待選手は6分台の自己記録を持つ小椋裕介(ヤクルト)に、村本一樹(住友電工)、青木優(カネボウ)、市山翼(小森コーポレーション)の7分台をマークしている3名を併せた計4名。
1時間00分ちょうどのハーフマラソン日本記録保持者でもある小椋は、その記録をマークした2020年2月の実業団ハーフの勢いそのままに、直後に出場した東京マラソンで2時間7分23秒の好記録をマークすると、翌年のびわ湖では更に2時間6分51秒をマークするなど国内トップ選手の中にあってもフルマラソンでの安定感が際立ち、充実期に差し掛かっていると思われた。しかしその後は疲労骨折なども有って長期に渡って実戦から遠ざかる苦渋を経験。
函館ハーフでは1時間3分39秒の12位とまずまずの成績で復活への足掛かりを掴んでおり、ここからどの程度上積みが出来ているかが、MGC出場権獲得への鍵となるだろう。
地元の札幌山の手高校出身だが、初マラソンだった2018年の北海道では2時間29分台に終わり、女子優勝でMGC出場権を獲得した鈴木亜由子(JP日本郵政グループ)に抜かれていく様子が放送されてしまい、その時の走りから暑さは苦手にしているフシも感じられ、その克服が課題と思われる。
久々のフルマラソンとなるが、MGC本番までに挑戦できる機会は限られており、ラストチャンスまで追い込まれないうちに出場権を獲得しておきたいところだ。
追い込まれないうちに出場権を獲得しておきたいのは、昨年のびわ湖で7分台中盤の記録でゴールに雪崩れ込み、台頭してきた3人にも共通したところ。村本は長距離の強豪とは言い難い兵庫県立大学の出身ながら実業団入り後に着実に力を付け、昨年のびわ湖で2時間7分36秒の好タイムをマークしてからは、9月には2時間14分台に終わっているがベルリンマラソンに出場するなど、貪欲にレースに挑む姿勢が感じられる。
大阪マラソンでは2時間8分50秒で走りながらMGC出場権獲得はならず、今大会に賭ける意気込みは強いだろう。
昨年のびわ湖で2時間7分40秒をマークした青木は、昨年福岡では2時間20分台に終わり、続く今年の大阪では35㎞手前まで第一集団に加わりながら、その後粘り切る事が出来ず、最終的には村本に後塵を拝す2時間10分01秒に留まる非常に勿体ないレースでMGC出場権獲得を逃がしており、今大会がMGC出場権獲得へ3度目の正直となるか。
また市山は昨年びわ湖では第1PMの作るハイペースに25㎞過ぎまで食らい付き、遅れてからも粘り切って2時間7分41秒と、第2集団から追い上げた村本、青木に躱されはしたが、内容の濃いレースを見せていたのだが、MGC出場権獲得を目指して本命視されていた今年2月の別大では途中棄権に終わり、今大会が正念場だ。
一般参加選手も、やはり昨年のびわ湖で当時の初マラソン日本最高記録をマークした作田将希、一昨年のびわ湖、福岡で立て続けに8分台をマークした作田直也のJR東日本の「ダブル作田」に、2019年のMGC経験者で今年の東京マラソンでも2時間8分25秒をマーク、トヨタ自動車から九電工に移籍後初のフルマラソンとなる堀尾謙介、昨年びわ湖で2時間8分52秒、今年の東京で2時間8分21秒と進境著しい林奎介(GMO)、2月の東京で初マラソンながら2時間8分59秒をマークした小山直城(Honda)、母校の中央大学でコーチを務めながら現役選手として競技も続ける大石港与(トヨタ自動車)など2時間7分台、8分台の自己ベストを持ち、今大会でのMGC出場権獲得に照準を絞ってきた選手が目白押し。
なかでも林は一昨年のびわ湖では25㎞過ぎに一時はペースメーカーの前に出てレースを引っ張り、今年2月の東京マラソンでも、日本人集団から抜け出しにか掛かったこのレースで2時間5分台を記録した鈴木健吾(富士通)に食らい付くなど積極性が持ち味の選手で、今大会でも高久、定方とともにレース展開の鍵を握る存在となるだろう。
忘れてならないのは、2019年のMGCで5位の実績が有る橋本崚(GMO)だ。
持ちタイムは2時間9分29秒とスピード面ではやや分が悪いが、例年の北海道マラソンのような忍耐勝負のサバイバルレースになれば、第1回のMGCでも見せた暑さ耐性や、大迫傑(nike)、服部勇馬(トヨタ自動車)といった後に東京五輪代表となった格上の選手に一歩も引かず、真っ先に勝負を仕掛けていった度胸の良さが強みとなって生きてくる。
その他ダークホースとして今年2月の別大で30㎞過ぎまで先頭集団に付ける好走を見せた新鋭の山口武(西鉄)、伊勢翔吾(コニカミノルタ)、ベテランの兼実省伍(中国電力)、大阪マラソンで健闘した平田幸四郎(SGH)、金森寛人(小森コーポレーション)、2019年に開催された前回大会の優勝者で暑いレースでの粘り強さは実証済みの松本稜(トヨタ自動車)、1万メートル27分44秒74、ハーフマラソン1時間00分43秒の好記録を持つ荻久保寛也(ヤクルト)の名前を挙げて置きたい。
特に荻久保はトラック10000mでの成長が光っていた若手選手だが、ここにエントリーをしてきたからには10000mでは無く、本格的なマラソン転向でパリ五輪代表を目指す意思を示してきたものと思われ、注目だ。
今大会で男子選手がMGC出場権を獲得するためには、上位3名は2時間14分切りが、6位までであれば2時間12分切りが必要になり、PMを担う丸山竜也(トヨタ自動車)、村山謙太(旭化成)が後者のタイム設定でレースを引っ張るものと予想される。
8月の北海道でのレースだが実力者も揃い、上位6名に入れば自ずとタイムも付いてくるのではないだろうか。
スタート時の気温は23℃から25℃程度、湿度も50%から60%と予想されており、昨年に札幌で行われ、6位入賞の大迫傑(nike)が2時間10分41秒をマークした、東京五輪男子マラソンスタート時の気温26℃、湿度80%と比較すればコンディションには恵まれそうで、林や堀尾など、前回のフルマラソンで2時間8分台前半をマークしている選手は、2本平均でのMGC出場権が獲得出来るタイムに近い大迫の東京五輪のタイム越えを意識している事も考えられる。
女子は東京五輪代表の前田穂南(天満屋)、今年2月の大阪国際女子で2時間22分19秒をマークして2位に入り、MGC出場権を獲得した上杉真穂(スターツ)がコロナウィルスの陽性反応が出たことにより、また今年の名古屋ウィメンズで2時間26分50秒の自己記録をマークしながらMGC出場権獲得を逃し、今大会での獲得を目指していた池田千晴(日立)が故障により欠場することが明らかになっており、大阪国際女子で2時間23分05秒をマークして3位に入りMGC出場権を得た松下菜摘(天満屋)が一人抜きんでた存在となった。五輪代表の同僚、前田の胸を借り、パリ五輪を目指すライバルの上杉らと競い合いながら暑熱の中でもしっかりと好タイムをマークする、という予想された理想のレースプランは変更を余儀なくされるだろうが、一昨年の名古屋ウィメンズで見せたように単独走となっても後半も大崩れせずに押していきまとめる力を持つ選手であり、指導する武富豊監督は有力選手の欠場でモチベーションを失いかねない今回のレースの目標として、スタート時気温25℃と今大会の予想気温と同じくらいだった2019年のMGCでの前田の記録、2時間25分15秒を目標にと発破を掛けているかもしれない。
松下に続く2番手の存在で、今大会でのMGC獲得を目指すのが一般参加の女子最強市民ランナーとして知られる山口遥(AC・KITA)だ。自己ベストは2020年大阪国際女子での2時間26分35秒と実業団選手とも引けをとらない。2時間32分以内での上位3位、2時間30分以内での上位6位に入るだけの実力は充分に有しており、市民ランナーとしてMGCの出場権を獲得する快挙が今大会で実現する可能性は高いと見ている。
2019年のドーハ世界陸上の10000m代表、山ノ内みなみ(ラフィネ)の久々のフルマラソンにも注目したい。近年はトラックレースを走る事が多かったが、この選手も京セラに所属する以前は市民ランナーで、世陸代表にまで登り詰めた選手だ。
また視覚障がい者の部には東京パラリンピック男子フルマラソン銀メダリストの堀越信司(NTT西日本)、女子金メダリストの道下美里(三井住友海上)が招待されており、共に7月のホクレンディスタンチャレンジの5000mでは好調が伺えるレースを披露しており、道下は自身の持つ2時間54分13秒の世界記録更新を強く意識したレースを見せてくれるのではないだろうか。
スタートの号砲は8時半、大勢の市民ランナーとすれ違いながら、最初に大通公園に姿を現し、ゴールテープを切る選手は誰なのか、その決着の時は10時40分ごろとなりそうだ。
文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)
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