日本インカレ最終日となる大会三日目は、男子10000m競歩、男女の5000m、400mH、4×400mリレーなどのトラック種目、男子三段跳、女子砲丸投などの決勝種目が行われた。

男子10000m競歩決勝ではオレゴン世界陸上で8位に入賞した住所大翔(順天堂大大学院1年)が2位の萬壽春輝(順天堂大3年)に50秒余りの差をつける39分53秒61で圧勝、「世界で8番」の貫録を示し、3位にも立岩和大(順天堂大大学院1年)が入り順天堂大学勢の表彰台独占となった。
続いて行われた女子5000mは4月の学生個人選手権を制し、5月のゴールデンゲームズのべおかでは15分23秒30の自己記録をマークするなど今季好調の山本有真(名城大4年)が16分10秒17で優勝を果たし、男子5000mは昨年の90回大会覇者の近藤幸太郎(青山学院大4年)がJ・ムトゥク(山梨学院大1年)、L・カミナ(創価大2年)らケニア人留学生を抑えて13分50秒37で制し、二連覇を達成。2位には中西大翔(國學院大4年)が入った。
波乱となったのは男子400mH決勝。
東京五輪代表で、オレゴン世界陸上では準決勝進出を果たしていた黒川和樹(法政大3年)がバックストレート半ばまでは順調に飛ばしているように見えたがそこからスピードに乗ることが出来ずずるずると後退、序盤から黒川と競っていた豊田兼(慶応義塾大2年)が後続を引き離して最終コーナーを抜けてきたが、そこから猛然と追ってきた田中天智龍(早稲田大3年)が10台目のハードルを越えて豊田を逆転、49秒20で優勝を果たした。
田中は昨年までの自己記録が50秒49、今季春シーズンは調子が上がってこなかったが、8月27日に山梨・富士北麓で行われたワールドトライアルで49秒45をマークすると、今大会でも自己記録を更新、この夏の成長ぶりがひと際光り、来年のブダペスト世陸の有力な代表候補に浮上してきた。
2位に入った豊田も思い切った先行策から最後の直線はやや脚が止まったものの、それでも49秒76の自己記録をマークとポテンシャルの高さを窺わせる力走だった。
7位に終わった黒川は決勝のレース後、予選を走った後から体調不良があったことを明かしている。

女子800mは山口光(順天堂大4年)が2分06秒71で制し、男子800mは過去日本インカレを二度制している松本純弥(法政大4年)が追い縋る金子魅玖人(中央大3年)、山﨑優希(広島経済大4年)を振り切り1分48秒28で3度目の制覇となった。
女子200mは100mを制した青野朱李(山梨学院大4年)が、2010年に高橋萌木子(平成国際大)が樹立した23秒66の大会記録を更新する23秒44で優勝し短距離二冠を達成、充実の内容で学生生活最後のインカレを締め括り、男子200mは鵜沢飛羽(筑波大2年)が20秒54で制した。
フィールド種目では男子三段跳を安立雄斗(福岡大4年)が制し、大会初日に行われた走幅跳に続く二冠を達成、女子砲丸投では大野史佳(埼玉大4年)が15m62で三連覇、女子やり投は木村玲奈(新潟医療福祉大3年)が59m49と60mに迫る投擲で優勝を果たし、カリU20世界選手権6位の辻萌々子(九州共立大1年)は54m62で2位となった。
前日から二日間に渡って行われた女子七種競技は、田中友梨(至学館大3年)が制した。総合5506点は、2017年に山﨑有紀(当時九州共立大、現スズキ)、2018年にヘンプヒル恵(当時中央大、現アトレ)がマークした5550点の大会記録に迫る好記録で、今後は国内七種競技を引っ張るこの二人にどこまで迫ることができるのかに期待が高まる。

大会のフィナーレを飾る4×400mリレー、女子は立命館大学が3分38秒43で制し、男子は筑波大学がリレー巧者の早稲田大学、世界陸上の同種目でもアンカーを務めた中島佑気ジョセフを擁する東洋大学を抑え、3分04秒43の好タイムで優勝を果たし、リレー二種目制覇となった。
三日間の大会を通じてトラック種目では大会新記録が女子200mの青野のみと、対校戦であるが故の勝負重視の傾向が見られ、新たにブダペスト世界陸上の参加標準記録を突破する選手が現れなかったが、学生トップレベルの選手にとっては世界陸上やU20 世界選手権が終わって間もなくの時期だったことも重なり、致し方ない面もあったろう。そうした中でもきっちりと優勝を果たした男子400mの中島、男子110mHの村竹ラシッド(順天堂大3年)は、今後に向けてしっかりと存在感をアピール出来たのではないだろうか。
一方フィールド種目では女子走幅跳の髙良彩花(筑波大4年)、ハンマー投の村上来花(九州共立大1年)、円盤投の齋藤真希(東京女子体育大4年)、男子砲丸投の奥村仁志(国士館大4年)の4名が大会記録を更新。中でも投擲の三種目は世界との競技力にやや開きがあるが、若い世代の記録水準の向上は、2025年の東京世界陸上開催へ向けての明るい兆しと言えるだろう。
また、男子リレー二種目を制した筑波大学勢や女子砲丸投の国内トップ選手として活躍する埼玉大の大野ばかりでなく、男子走高跳優勝の山中駿(京都大学2年)、女子100mH5位の手塚麻衣(富山大3年)女子800m8位の長谷川 麻央(京都教育大1年)、男子400mH6位の田中塁(九州大4年)、男子200m6位の藤澤瑠唯(岩手大2年)ら国立大学勢の健闘が清々しく感じられた大会でもあった。
来年の1月から、世界陸連(WA)は現在のワールドランキング制度を刷新し、ワールドランキングコンペティション制度をスタートさせて世界陸上、五輪などの世界大会参加資格記録対象大会の厳格化を図る方向性を明らかにしている。
このワールドランキングコンペディションの基準を満たした大会での記録でなければ、ワールドランキングや世界大会の参加資格取得に必要な記録とは認められず、日本陸連も、日本インカレを各地区インカレなどともにワールドランキングコンペディションの承認を受けるために申請を出す方針を示している。
これまでとは異なり、大学や各地区陸連の競技会で出された記録はランキングの対象外となる公算が高く、日本インカレも勝負だけでなく、今以上に記録も求められる限られた大会の一つとなるかもしれない。
しかしながら、学生たちにとって日本インカレが学生生活の中にあって最大の目標とする大会であることに変わりはなく、仲間と共に練習に励み、母校の誇りを胸に戦う「青春の構図」を、また来年も目にすることが出来るだろう。
大会ピックアップ③
女子400mH、苦難を乗り越えて辿り着いた表彰台で有田安紗季が見せた笑顔

多くの選手たちにとって、高校から大学に進学する際に大きく環境が変わり、それはアスリートとしてはまだ線の細かった少年、少女の体格から大人へと成長していく過程とも重なり、それまでと同じように練習を積んでいても競技力の維持が難しくなっていたり、意識的であるとないとに関わらず、これまでに経験をした事のない困難に直面する時期でもあるだろう。雌伏の時間を費やした後、鮮やかに復活を遂げる選手もいれば、かつての輝きを取り戻すことなく競技を終える選手もいる。高校時代には無名ながら大学4年間で大きく成長し、トップに駆け上がる選手もいる。だが、様々に青春時代の蹉跌を経験するなかで、この日本インカレが選手たちの4年間という学生生活における大きな目標となっていることに疑いはないだろう。
女子400mHでは青山学院大学の4年生、有田安紗季が58秒42の自己ベストをマークし3位に入った。青山学院大学はご存じのように、男子長距離ブロックが原晋監督の指導のもと、箱根駅伝を始めとする学生三大駅伝で優勝を重ねる強豪校となっているが、短距離ブロックでも女子選手の強化に取り組んでいる。
滝川第二高校2年時、全国高校総体の400mHで8位、同年のえひめ国体でも4位に入賞する実績のあった有田も、舞台を大学に移しての更なる飛躍を期して入学した一人だっただろう。
しかしながらそこには同学年のライバルもいれば、実力者の上級生もいる。
1年時は環境変化に戸惑ったか、あるいは故障があったのか、得意の400mHも、並行して行っていた100mHでも結果を残せず、日本インカレの標準記録には及ばず、一種目最大3の出場枠を巡る争いに加わることも出来なかった。
上級生が卒業すれば、高校時代の実績を引っ提げて、力のある新入生が続々と加わってくる。
2年時には400mHからメイン種目を100mH一本に絞ると、ようやく秋から記録が出始めた。3年春の時点でも関東インカレの出場枠に入ることは出来なかったが、夏に入ると7月に地元兵庫県選手権の100mH決勝で自身初の14秒切りとなる13秒95をマーク、8月の東京選手権では13秒76で2位に入り、遂に日本インカレA標準記録の突破を果たし、翌月、大学生として初の全国舞台となった日本インカレ本番は準決勝に進出した。
そして学生ラストイヤーとして迎えた今季は、1年時以来となる400mHにも取り組み、6月の日体大記録会で59秒41をマークして日本インカレA標準を突破、7月の兵庫県選手権では58秒85と自己記録を更新。
そして学生生活最後の日本インカレでは、ここ2年ほどメイン種目としていた100mHこそ準決勝敗退となったものの、インターハイで7位となったかつての得意種目、400mHでは準決勝で組3着ながら59秒26とタイム上位で決勝進出を果たし、決勝ではインレーンからのスタートながらこの大会への強い思いを感じさせる必死の粘りで3位に入った。
決勝のタイム58秒42は今季学生ランキング5位、日本ランキングでも10位に相当し、有田のアスリートとしての将来を拓く力走となったのではないだろうか。
ついに辿り着いた表彰台で見せたはにかんだような笑顔からは、苦難にも決して諦めることなく地道にトレーニングを重ねてきた自身の4年間の不断の努力へのささやかな誇りが零れているように思えた。
文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)
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天皇賜盃 第91回日本学生陸上競技対校選手権大会
最終日の決勝結果(8位入賞まで)
トラック競技
男子10000m競歩決勝
①住所大翔(順天堂大M①)39:53.61
②萬壽春輝(順天堂大③)40:43.46
③立岩和大(順天堂大M①)40:43.63
④④吉川絢斗(東京学芸大③)40:57.01
⑤村手光樹(東京学芸大④)41:10.60
⑥濱西 諒(明治大④)41:47.46
⑦石田理人(東洋大③)42:44.95
⑧土屋温希(立命館大①)42:48.35

女子5000m決勝
①山本有真(名城大④)16:10.17
②村松 灯(立命館大②)16:14.81
③尾方唯莉(日本体育大②)16:15.54
④保坂晴子(日本体育大③)16:17.43
⑤小松優衣(松山大④)16:18.20
⑥永長里緒(大阪学院大②)16:20.86
⑦谷本七星(名城大②)16:21.99
⑧嶋田桃子(日本体育大②)16:23.04

男子5000m決勝
①近藤幸太郎(青山学院大④)13:50.37
②中西大翔(國學院大④)13:53.40
③J・ムトゥク (山梨学院大①)13:58.39
④吉居駿恭(中央大①)13:59.21
⑤L・カミナ(創価大②)13:59.72
⑥花岡寿哉(東海大①)13:59.73
⑦丹所 健(東京国際大④)14:04.05
⑧高槻芳照(東京農業大③)14:07.52
女子400mH決勝
①山本亜美(立命館大②)57.23
②松岡萌絵((中央大②)57.74
③有田安紗季(青山学院大④)58.42
④辻井美緒(大阪教育大④)58.48
⑤青木穂花(青山学院大③)59.11
⑥川村優佳(早稲田大③)59.20
⑦髙野七海(福岡大③)59.26
⑧益子芽里(中央大①)59.95
男子400mH決勝
①田中天智龍(早稲田大③)49.20
②豊田 兼(慶應義塾大②)49.76
③岡村州紘(日本大④)50.09
④陰山彩大(日本大④)50.23
⑤出口晴翔(順天堂大③)50.29
⑥田中 塁(九州大④)51.72
⑦黒川和樹(法政大③)55.41
⑧小野寺将太(順天堂大M①)1:50.32
女子800m決勝
①山口 光(順天堂大④)2:06.71
②ヒリアー紗璃苗(青山学院大③)2:07.71
③原 華澄(大阪体育大③)2:07.76
④渡辺 愛(園田学園女子大②)2:08.02
⑤窪 美咲(東大阪大③)2:09.03
⑥川島実桜(筑波大②)2:09.30
⑦細井衿菜(慶應義塾大④)2:10.27
⑧長谷川麻央(京都教育大①)2:11.49
男子800m決勝
①松本純弥(法政大④)1:48.28
②金子魅玖人(中央大③)1:48.49
③山﨑優希(広島経済大④)1:48.60
④松本 駿(関西大④)1:49.00
⑤石元潤樹(日本大②)1:49.09
⑥二見優輝(筑波大②)1:49.18
⑦前田陽向(環太平洋大①)1:50.52
⑧安倍優紀(東海大③)1:53.78
女子200m決勝(-0.2)
①青野朱李(山梨学院大④)23.44※大会新
②井戸アビゲイル風果(甲南大③)23.80
③森山静穂(福岡大③)23.94
④城戸優来(福岡大③)24.16
⑤奥野由萌(甲南大①)24.20
⑥田島美春(福岡大①)24.38
⑦三浦由奈(筑波大③)24.43
⑧安達茉鈴(園田学園女子大②)24.51
男子200m決勝(+1.6)
①鵜澤飛羽(筑波大②)20.54
②木村 稜(明治大③)20.61
③三浦励央奈(早稲田大④)20.76
④西 裕大(早稲田大③)20.77
⑤山路康太郎(法政大④)20.86[20.857]
⑥藤澤瑠唯(岩手大②)20.86[20.858]
⑦髙木 恒(近畿大④)21.01
⑧松井健斗(関西大②)21.16

女子4×400mリレー決勝
①立命館大学 3:38.43
(松尾、工藤、吉岡、山本)
②園田学園女子大学 3:39.23
(安藤、齊藤、昌、安達)
③中央大学 3:39.63
(高島、松岡、大島、佐藤)
④福岡大学 3:39.67
⑤青山学院大学 3:40.27
⑥法政大学 3:41.13
⑦日本体育大学 3:42.00
⑧甲南大学 3:43.17

男子4×400mリレー決勝
①筑波大学 3:04.43
(菅野、吉川、伊藤、今泉)
②早稲田大学 3:04.79
(眞々田、新上、藤好、竹内)
③東洋大学 3:04.86
(萩原、川上、新垣、中島)
④法政大学 3:06.31
⑤近畿大学 3:06.43
⑥駿河台大学 3:07.05
⑦城西大学 3:07.08
⑧順天堂大学 3:07.53
跳躍種目
男子三段跳決勝
①安立雄斗(福岡大④)16m31 +0.6
②伊藤 陸(近畿大工業高専S②)16m30 +1.0
③松下悠太郎(福岡大④)16m12 +1.3
④鈴木憲伸(明治大④)16m07 +0.4
⑤廣田麟太郎(日本大②)15m87 +0.8
⑥梅野真生(関西大②)15m87 +1.6
⑦外村直之(東京学芸大④)15m81 +1.2
⑧水野皓太(鹿屋体育大③)15m73 -0.4
投擲種目
女子やり投決勝
①木村玲奈(新潟医療福祉大③)59m49
②辻萌々子(九州共立大①)54m62
③平松委穂里(鹿屋体育大②)53m82
④兵藤秋穂(筑波大M①)53m23
⑤中村 怜(東大阪大②)52m95
⑥村上碧海(日本体育大①)52m52
⑦中村結香(九州共立大④)52m45
⑧河田菜緒(福岡大④)52m38
女子砲丸投決勝
①大野史佳(埼玉大④)15m62
②小山田芙由子(日本大④)15m53
③久保田亜由(九州共立大③)15m16
④廣島愛亜梨(日本大③)14m87
⑤大谷夏稀(福岡大④)14m37
⑥田中杏実(九州共立大①)14m11
⑦秋山愛莉(福岡大③)14m11
⑧岩本真波(大阪体育大③)13m89

混成競技女子七種競技 総合得点
①田中友梨(至学館大③)5506
②梶木菜々香(中央大④)5462
③松下美咲(中央大②)5277
④安達杏香(武庫川女子大M①)5038
⑤前田椎南(九州共立大③)5024
⑥濱口実玖(国士舘大③)4951
⑦水落らら(国士舘大④)4903
⑧竜門千佳(日本体育大④)4873
青学の有田さん、高3、大1で成績残せなかったのは、前十字靭帯断裂の影響ですね。
どん底から這い上がっての表彰台、素晴らしいです。