11月26日に町田ギオンスタジアムで2022八王子ロングディスタンスが行われた。
レースと共に一躍脚光を浴びる事になったのは、この日のためにオランダからレンタルで取り寄せたという、目標記録達成の為の秘密兵器、ペーシングライトではなかっただろうか。 競技場のトラック内周に沿って設置されたLEDライトが設定したペースに合わせて点滅し、更に複数のペースを色分けで点滅させる事も出来る視認性も抜群な優れ物で、選手たちも流れるように点滅するライトに動きを合わせ、あるいは目標として追いかけることによって、力を引き出されたのか、28分20秒に目標タイムが設定された男子10000m第4組では1着となった太田直希(ヤクルト)がペーシングライトの点滅より前で「貯金」を作り、そのまま押し切って28分06秒12と設定タイムを大きく上回り、続く5組でも梶谷瑠哉(SUBARU)、服部大暉(トヨタ紡織)、西山雄介(トヨタ自動車)らがライトに合わせるようにレースを進め、梶谷が残り3周で早めの仕掛けを見せると服部、西山も後を追って27分台に届くのではと期待を抱かせるレースを展開、最後は27分台に届かなかったものの服部が28分02秒22の自己新記録で日本人選手トップでゴールするなど多くの選手が設定タイムの28分10秒を上回り、その効果は上々だったと言えるだろう。

28分切り、27分台を目指すレースとなった第6組では、8000mで大きく先行したN・ワウエル(中国電力)を、麗澤大出身の難波天(トーエネック)がラスト1周のスパートで猛烈に追い上げて捉え切り27分48秒27の好記録をマーク、また27分50秒93でこの組4着の今江勇人(GMOインターネットグループ)も千葉大学大学院の出身、5組で日本人最先着となった愛知工業大出身の服部大暉と合わせ、箱根強豪校の出身ではない選手たちが実業団でスピードを磨き力を付け、結果を残した事は、男子長距離の選手層に更なる厚みを齎すことに繋がる大きな収穫と言えるだろう。

エントリーが明らかになった当初、目標タイムを27分30秒としていた最終7組は、ケニア人実業団選手に向けての27分15秒と、オレゴン世界陸上10000m代表田澤廉(駒澤大)が欠場となった日本人選手向けの27分40秒にペーシングライトの設定が分けられてスタート、ケニア人選手たちはゆったりとした入りになり、序盤は27分40秒ペースに合わせた縦長の隊列になり、ほとんどの日本人選手が後方に位置していた中、吉居大和(中央大)が唯一人、ケニア人選手の隊列の中ほどに位置取りしレースを進めた。
2000mを過ぎた辺りから満を持してB・キプランガット(SUBARU)がペースを上げ始めると、吉居大は少しづつポジションが下がり始め、ケニア人選手の集団と、ペースメーカーのJ・ディク(日立物流)が引っ張り、羽生拓矢(トヨタ紡織)、塩尻和也(富士通)、太田智樹(トヨタ自動車)らの日本人選手を中心とする集団が完全に分かれた頃には、この集団からも離されていった。
ケニア人選手の集団の5000m通過は13分39秒とまだ少し設定ペースには届かず、羽生を先頭とする日本人選手は13分49秒で設定の通り、ここから羽生がペースメーカーのディクの前に出て集団から抜け出し、ケニア人選手の集団から零れた選手を一人、また一人と拾い上げていく。
先頭争いはラスト1周でスパートをしたE・キプラガット(三菱重工)がブダペスト世界陸上参加標準記録の27分10秒00切りとなる27分07秒59の大会新記録で制し、終始積極的にレースを進めたB・キプランガットが27分09秒83で2着となった。
レース中盤以降ペースを上げた羽生は切れのある動きが落ちることなくラスト1周を26分27秒ほどで通過、当初の設定タイムの27分30秒を切る、27分27秒49と2015年に村山紘太(当時旭化成、現GMOインターネットグループ)が記録した日本人選手大会記録の27分29秒69を更新する日本歴代4位の記録でのゴールとなった。
大会を通して、6組からは7名、7組からは3名の、計10名が27分台の記録をマーク、昨年の20名には及ばなかったものの二けたの数字は維持し、また27分台をマークした選手中7人が自己ベストと一定の成果はあった。
しかしながら、羽生の頑張りはあったものの、ケニア人実業団選手との力の差を感じさせられたのも偽らざる事実だ。この日最終組で27分11秒52を記録し4位となったP・キプラガット(愛三工業)は、倉敷高校の出身で3000m障害では東京五輪7位入賞を果たした三浦龍司(順天堂大)の高校時代からの好敵手でもあり、言わば日本育ち。この選手の成長と三浦との力関係を考えれば、日本人トップ選手達にもう少しタイムが出ても不思議はないと思われる。
今回27分30秒設定だった最終組へのエントリーが途中棄権となった𠮷居、欠場した田澤、鈴木芽吹(駒澤大)、田村友佑(黒崎播磨)を合わせても10名に留まったが、まずここに挑戦する選手の人数を増やしていかなければならないだろう。
6組に出場し、27分52秒22で7着に入った西山和弥(トヨタ自動車)は27分48秒26の持ちタイムが有り、同じく6組で27分50秒64と自己記録を更新して3着となった岡本雄大(サンベルクス)は昨年の日本選手権で8位入賞の実績があり、もう一つ上のステージに挑戦しても良かったと思う。

その一方で、オレゴン世界陸上マラソン代表の西山雄は5組4位の28分02秒58のセカンドベスト、同じく世界陸上マラソン代表の星岳も同組5位の28分05秒48で自己新記録、この秋海外の高速レースに挑み、ベルリンマラソンで2時間7分56秒をマークした聞谷賢人(トヨタ紡織)は5組で28分15秒01、シカゴマラソンを2時間8分05秒で6位に入った細谷恭平(黒崎播磨)は6組で自身初の28分切りを果たす27分54秒83と共に自己ベスト更新、また10月にミネアポリスで行われたツインシティーズマラソンを2時間11分28秒でゴールし海外マラソン初優勝を飾った吉田祐也(GMOインターネトグループ)も6組で27分51秒26の自己記録と、来年9月のパリ五輪代表を争うMGCに出場権を持つ選手達が世界の舞台や海外レースを経験したことで刺激を受け、貪欲に上のレベルを目指し、更にスピードに磨きを掛けるために10000mにチャレンジし、結果を残した事は非常に頼もしい。
今回の八王子ロングディスタンスの結果が、年明けにも走る事になるであろうフルマラソン、そしてMGCにどう結び付いて行くのか、楽しみと期待が一層膨らむ事となった。
文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)
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2022八王子ロングディスタンス結果
男子10000m1組 上位8名
①米井翔也(JR東日本)29:02.64
②松本 葵(大塚製薬)29:09.91
③多久和能広(ホシザキ)29:36.73
④曽根雅文(JR東日本)29:40.77
⑤三垣貴史(日置市役所)29:41.85
⑥大久保陸人(コモディイイダ)29:41.85
⑦蟹沢淳平(トヨタ紡織)29:51.48
⑧吉野貴大(JR東日本)29:51.73
男子10000m2組 上位8名
①木榑杏祐(埼玉医科大学G)28:41.30
②内田健太(埼玉医科大学G)28:44.11
③三代和弥(戸上電機製作所)28:45.16
④吉原遼太郎(愛知製鋼)28:47.80
⑤上門大祐(大塚製薬)28:47.98
⑥東 遊馬(九電工)28:53.38
⑦河村知樹(トヨタ紡織)28:58.30
⑧富安 央(愛三工業)29:00.12
男子10000m3組 上位8名
①西 研人(大阪ガス)28:19.72
②小野田勇次(トヨタ紡織)28:25.13
③片西 景(JR東日本)28:29.11
④武藤健太(JR東日本)28:29.50
⑤三須健乃介(JR東日本)28:29.80
⑥樋口大介(中央発條)28:32.96
⑦橋本尚斗(大塚製薬)28:33.22
⑧奈良凌介(ヤクルト)28:34.11

男子10000m4組 上位8名
①太田直希(ヤクルト)28:06.12
②鎌田航生(ヤクルト)28:28.05
③向 晃平(マツダ)28:28.57
④坂田昌駿(NTN)28:35.17
⑤西山凌平(トヨタ紡織)28:35.78
⑥蜂須賀源(コニカミノルタ)28:36.21
⑦松村和樹(愛知製鋼)28:36.29
⑧東 瑞基(愛三工業)28:37.52
男子10000m5組 28分30秒切りまで
①Y・ビヤゼン(ひらまつ病院)28:02.08
②服部大暉(トヨタ紡織)28:02.22
③梶谷瑠哉(SUBARU)28:02.27
④西山雄介(トヨタ自動車)28:02.58
⑤星 岳(コニカミノルタ)28:05.48
⑥風岡永吉(JFEスチール)28:07.73
⑦D・ミティ(中電工)28:11.99
⑧L・カミナ(創価大学)28:12.89
⑨聞谷賢人(トヨタ紡織)28:15.01
⑩土井大輔(黒崎播磨)28:19.48
⑪米満 怜(コニカミノルタ)28:20.41
⑫林田洋翔(三菱重工)28:24.66
⑬山口浩勢(愛三工業)28:27.13
⑭佐藤敏也(トヨタ自動車)28:27.76
⑮小松巧弥(NTT西日本)28:28.17
⑯西川雄一朗(住友電工 )28:28.26

男子10000m6組 28分30秒切りまで
①難波 天(トーエネック)27:48.27
②N・ワウエル(中国電力)27:48.93
③岡本雄大(サンベルクス)27:50.64
④今江勇人(GMOインターネットG)27:50.93
⑤吉田祐也(GMOインターネットG)27:51.26
⑥菊地駿弥(中国電力)27:51.64
⑦西山和弥(トヨタ自動車)27:52.22
⑧P・クイラ(JR東日本)27:52.91
⑨細谷恭平(黒崎播磨)27:54.83
⑩キプセラム・W(コモディイイダ)27:56.32
⑪村山紘太(GMOインターネットG) 28:00.71
⑫A・キプチルチル(コモディイイダ )28:02.53
⑬鈴木勝彦(SUBARU)28:03.89
⑭A・チェロノ(トヨタ自動車)28:05.19
⑮吉居駿恭(中央大学)28:06.27
⑯丸山竜也(トヨタ自動車)28:07.68
⑰森山真伍(YKK)28:13.23
⑱中村大聖(ヤクルト)28:13.61
⑲石原翔太郎(東海大学)28:13.78
⑳野中優志(大阪ガス)(28:22.48)
㉑田中秀幸(トヨタ自動車)28:23.94
㉒潰滝大記(富士通)28:24.17
㉓阿部弘輝(住友電工)28:24.73
㉔照井明人(SUBARU)28:25.21
㉕茂木圭次郎(旭化成)28:29.30

男子10000m7組 ※上位8名まで大会新
①E・キプラガット(三菱重工)27:07.59
②キプランガット・B(SUBARU)27:09.83
③マサイ・S(Kao)27:10.06
④P・キプラガット(愛三工業)27:11.52
⑤E・ケイタニー(トヨタ紡織)27:11.88
⑥S・キプロノ(黒崎播磨)27:14.76
⑦C・ムワンギ(中国電力)27:15.58
⑧J・ムオキ(コニカミノルタ)27:21.13
以下出場日本人選手結果
⑫羽生拓矢(トヨタ紡織)27:27.49※日本歴代4位、日本人選手大会最高記録
⑱太田智樹(トヨタ自動車)27:47.76
㉑塩尻和也(富士通)27:49.88
㉘栃木 渡(日立物流)28:19.71
㉙横手 健(富士通)28:22.86
㉚牟田祐樹(日立物流)28:55.67
DNF 吉居大和(中央大)
※DNS田沢廉、鈴木芽吹(駒澤大学)、田村友佑(黒崎播磨)