川内優輝が4年ぶり5度目の優勝を目指す防府読売、新たな歴史を刻む福岡国際マラソンで日本人選手の優勝はなるか!第53回防府読売マラソン、2022福岡国際マラソンの展望

12月4日、パリ五輪マラソン代表選考に関わるMGCシリーズの第53回防府読売マラソンと、2022福岡国際マラソンの二大会が同日に行われる。主要マラソン大会の日程が重なるのは非常に珍しいが、例年12月の第1日曜日に開催されていた福岡国際マラソンが昨年の大会を以て終了となる事が発表されたため、第3日曜日に開催されていた防府読売マラソンが日程を繰り上げたところ、その後福岡国際マラソンが関係者の尽力により新たなメインスポンサーを獲得して存続することが決まったことで生じたものと思われる。10時40分にスタートが切られる防府読売マラソン、12時10分スタートの福岡国際マラソンの見どころを探っていく。

防府読売マラソン

先にスタートを切る防府読売マラソンは、JMCシリーズのグレードが昨年のG2からG1 に格上げされたことに伴い、MGC出場権を得るための条件が福岡国際マラソン等と同じ日本人選手上位3位までにゴールした場合2時間10分00秒以内、上位6位までのゴールであった場合は2時間9分00秒以内を記録することに改められた。ソルトアリーナ防府(防府市体育館)を出発点とし、航空自衛隊防府南基地前を折り返し、キリンレモンスタジアムにゴールとする42.195km、25㎞で行きの植松跨線橋、折り返した後の33㎞地点で再び植松跨線橋を越え、39㎞には三田尻大橋と中盤から終盤にかけて三度の大きなアップダウンのコースに招待選手も含め約80名のエリートランナーがエントリーしている。

2時間7分台を2度記録するなど招待選手中最速の2時間7分20秒の自己記録のある菊地賢人(メイクス陸上部)はコンディションが整わず欠場となり、出場予定選手の持ちタイム1位でレースを迎えるのは百戦錬磨の川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)だ。
昨年のびわ湖毎日マラソンで2時間7分27秒と2013年以来8年ぶりに自己記録を更新、今年に入って大阪マラソンで2時間8分49秒で9位に入り、昨年の防府で記録した2時間10分11秒と合わせた2レースの平均タイムが2時間10分00秒を切り、ワイルドカードで2大会連続となるMGC出場権を獲得。35歳となった今年も存在感の高さを示していたが、7月に出場したオーストラリアのゴールドコーストマラソンでは途中故障に見舞われ4時間をかけて何とか完走、この秋も先月13日に招待選手として出場した松本マラソンでふくらはぎに痙攣を起すアクシデントがあり、その翌週に行われた上尾シティハーフでは患部を気遣いながらの走りで1時間7分台、先週の小江戸川越ハーフではやや回復して1時間5分13秒を記録したが、フルマラソンで優勝を争えるまでコンディションを上げる事ができているかがレースの一つのポイントとなるだろう。

市山翼(小森コーポレーション)も昨年のびわ湖で2時間7分41秒をマークした有力選手の一人。MGC出場権獲得を目指し今年2月の別大と8月の北海道マラソンに出場したが、別大は途中棄権、北海道マラソンは2時間17分03秒で19位と振るわず、三度目の挑戦に賭ける。好走したびわ湖では序盤から1㎞2分58秒ペースで進む先頭集団に食らい付き、25㎞を過ぎて集団から遅れてからも単独走になりながら粘り抜く内容の伴ったレースを見せていただけに復調が望まれる。

実績という点で言えば、東京五輪代表選考会となった前回のMGCで暑さの厳しい条件の中、優勝した中村匠吾(富士通)、代表となった服部勇馬(トヨタ自動車)、大迫傑(nike)ら先頭集団に食らい付き、39㎞付近では後に日本記録を樹立した鈴木健吾(富士通)を篩い落とすスパートを敢行するなど見せ場を作って5位に入り、補欠代表選手となった橋本崚(GMOインターネット)も負けていない。
直前まで準備をしていた東京五輪以降初めてのフルマラソンだった昨年のびわ湖では、MGCで先着していた鈴木が2時間4分56秒で優勝果たした中、自身は珍しく2時間22分台と大きく崩れ、悔しさを味わった。
今年に入って2月の別大は2時間11分21秒で11位、8月の北海道マラソンは2時間14分08秒で10位と、上位争いには加わりながら終盤粘り切れずMGC出場権を未だ手にしていない。
そうしたもどかしさの中、この大会に向けては先週に行われた八王子ロングディスタンスで10000mに出場して刺激を入れている。
この最終調整の試みを好結果につなげる事が出来るのかに注目したい。

その他、カネボウから移籍後長きに渡り黒崎播磨の駅伝チームを支え、主力の座を台頭してきた細谷恭平や土井大輔に譲った後、昨年のびわ湖で2時間8分35秒をマークしてマラソンで花開いたいぶし銀の35歳坪内淳一、強風と雨に見舞われた一昨年のびわ湖で初マラソンながら2時間9分18秒の好記録をマークした山本翔馬(NTT西日本)も上位争いに加わる力は充分で、また前回のMGCを巡ってドイツにまで渡り、ハンブルグマラソンでラストチャンスに挑みながら届かなかった清谷匠(中国電力)も悲願のMGC出場権獲得に賭ける。

また一般参加では今年2月の大阪マラソンで2時間10分53秒をマークしている畔上和弥(トヨタ自動車)が2時間9分7秒以内でゴールすれば、日本人選手6位以降でも、対象期間中の2レース平均が2時間10分00秒以内となりワイルドカードでMGCの出場権獲得となる。

ペースメーカーは鈴木が日本記録をマークした昨年のびわ湖で35㎞過ぎまで先頭を引っ張り優勝争いを演じたS・カリウキ(戸上電機製作所)や昨年の覇者D・ニャイロ(NTT西日本)ら4人が配される手厚い布陣となった。昨年は1㎞3分4秒ペースでレースが進んだが、JMCシリーズのグレードが格上げされた事により、東京マラソンなどと同じく2分58秒ペースとなるのか、或いは昨年と同じようなペース配分となるのか、レースを大きく左右するため注目しておきたい。

福岡国際マラソン

昨年までの歴史を引き継ぎ、新たなメインスポンサーを迎えて改めて新たな歴史を刻む福岡国際マラソンは12時10分のスタート。平和台陸上競技場をスタートし、福岡市西南部を周回、32㎞の香推交差点を折り返し平和台に戻ってくる42.195㎞のコースで行われる。前半の別府大橋や後半で2度に渡り通過する名島橋で小幅なアップダウンがあるものの概ね平坦なコースだが残り1㎞過ぎ、平和台陸上競技場手前のなだらかな上り坂が意外な難所で、ここでペースをがくんと落としてしまう選手も多く見られる。
MGC出場権を目指す国内有力選手に加え今年は2019年大会以来3年ぶりに海外からの選手招待が実現し、優勝争いの中心も海外勢になると見ている。

持ちタイムが良いのは2時間4分48秒の自己ベストを持つ2015年北京世界陸上マラソン銀メダリスト、福岡では2016年大会を制しているY・ツェガエ(エチオピア)になるが、近年は強調できるリザルトを残しておらず、2011年の大邱世界陸上を制し実績ナンバー1のA・キルイ(ケニア)は2020年のスペイン・バレンシアマラソンで2時間05分05秒をマークしたが今年既に40歳。日本でもお馴染みの二人に変わる優勝候補筆頭として、自己ベストは2時間6分58秒、東京五輪マラソン13位、今年の世界陸上では2時間7分59秒をマークして11位になるなどPMが付かず地力の要求される国際舞台で健闘を見せているM・テファリ(イスラエル)を推したい。また、昨年のアムステルダムマラソンで2時間6分05秒で8位となっているK・ケター(ケニア)、やはり昨年のアイントホーフェンマラソンを2時間6分32秒で制したS・トー(ケニア)のオランダのマラソン大会で良績を残した二人も不気味な存在。昨年の福岡を制した国内実業団組のM・ギザエ(スズキ・ケニア)、国士館大出身でハーフマラソン59分51秒のスピードがある初マラソンのR・ヴィンセント(スズキ・ケニア)、フルマラソンの持ちタイムは2時間9分52秒だが、一昨年の丸亀ハーフで60分ちょうどの日本記録をマークした小椋祐介(ヤクルト)に競り勝ち、59分57秒で優勝しているB・ロビンソン(オーストラリア)も日本人選手の強力なライバルとなりそうだ。

この海外招待選手たちを迎え討つ日本人選手の筆頭格に、村山謙太(旭化成)を挙げたい。日本長距離界の大器と呼ばれて久しい村山だが、駒澤大学時代からの駅伝での華々しい活躍から比べると、ここまでのマラソンでの結果は、ベストタイムが2019年のベルリンで記録した2時間8分56秒と些か物足りかもしれない。
前回のMGCも出場権を獲得できず、東京五輪出場は敵わなかった。
今年の2月の大阪マラソンではPMが外れた30㎞以降も先頭集団に加わり積極的な走りを見せていたものの、35㎞過ぎに集団から後退すると、37㎞辺りで脚部に痙攣が起こったのか立ち止まってしまうアクシデントもあり最終的には2時間17分51秒に終わったが、久々に見せ場のある、マラソンでも遂に覚醒かと思わせたレースだった。
10月16日に行われた東京レガシーハーフマラソンでは、オレゴン世界陸上代表の西川雄介(トヨタ自動車)らを抑えて日本人選手トップの1時間2分14秒でゴールして存在感を示している。今年の福岡で眠れる大器がいよいよ目覚めるか期待をしたい。

河合代二(トーエネック)は10000mで日本歴代10位の27分34秒86を記録しているスピードランナーで、このタイムは前マラソン日本記録保持者の大迫傑(Nike)や元マラソン日本記録保持者の高岡寿成(カネボウ)よりも速い。
マラソンでも前回のMGCに出場して13位、今年の東京マラソンでは、2時間5分28秒をマークして日本人選手トップでゴールした鈴木を追い掛ける集団でレースを進め、2時間8分31秒の自己記録をマーク。
前回のMGC出場権を得た2019年のびわ湖では2度集団から離されながらまた集団に追いつく気持ちの強さを見せたように、トラックレースでもマラソンでも調子の如何を問わず気迫を押し出して積極的なレースをするタイプで、その反面後半に体力を残せなくなる事もしばしばあるが、長距離選手としては遅咲きの部類で爆発力もあり、更に記録を伸ばす要素も残っているのではと思わせる選手だ。

宮脇千博、大石港与のトヨタ自動車のベテラン二人がこの秋健在ぶりを見せている。宮脇は2月の東京マラソンこそ2時間12分41秒に終わったが、7月の函館ハーフでは1時間3分22秒で7位に入る力走を見せ、11月16日に行われた中部実業団駅伝では区間記録を更新、この大会に向けて調子が上がってきている。設楽悠汰(Honda)が2時間6分11秒の当時の日本記録をマークした2018年の東京マラソンでは2時間8分45秒で日本人4位に入りMGC出場権を獲得、翌年のMGCでは途中棄権に終わっているだけに、二度目のMGC出場権獲得への思いも強いのではないだろうか。

大石港与は2月の実業団ハーフで1時間1分25秒の自己ベストをマーク、4月から中央大学のコーチを務めながら自身も競技を行っているが、学生への指導が刺激となっているのか、5月の仙台ハーフでは1時間2分36秒で日本人選手2位に入り、10月には中部実業団選手権10000mで27分57秒32と2017年以来の27分台をマークするなど好調だ。
フルマラソンは2時間8分52秒をマークした2020年の東京マラソン以来久々となるが、これまで堅実な走りで大きく崩れることなく走り切っており、今回も日本人上位争いに加わってくるだろう。

若手では赤崎暁(九電工)、細谷翔馬(天童市役所)の二人に注目。赤崎は今年の別大で2時間9分17秒、細谷も帝京大4年生だった今年の東京マラソンで2時間9分18秒と健闘を見せ、共にレース中盤では集団を引っ張る場面もあり、初マラソンながら積極的な走りを見せたところも、途中8分台でのゴールも見えていただけに35㎞以降の走りに課題を残したところも共通している。二度目のマラソンは初マラソンより難しいと言われるが、飛躍を期待したい伸び代のある選手だ。

久保和馬(西鉄)は昨年のびわ湖で初マラソンながら2時間8分53秒をマーク、その後12月の福岡でMGC出場権獲得に挑んだが途中棄権と無念の結果となった。しかしながら今年の東京マラソンでは2時間8分48秒で2度目の8分台をマークときっちり立て直し、マラソンでのセンスの高さを見せている。
ここ福岡で昨年のリベンジとなるMGC出場権獲得を果たしたい。

また今年の4月に10000mで27分48秒22をマークするなど近年はトラックレースでの活躍が光る市田孝(旭化成)の2019年福岡以来のフルマラソンにも注目したい。この間トラックでのスピードに磨きがかかったのは勿論、昨年2月の実業団ハーフでは1時間00分19の自己ベストをマークしており、マラソンでも通用するポテンシャルは充分持っている。

MGC出場権獲得へは防府読売と同じく日本人選手1位から3位までは2時間10分切り、4位から6位の場合2時間9分切りが条件となるが、対象期間中の2レースの平均が2時間10分切りとなるワイルドカードの条件で照らし合わせると、招待選手では河合が2時間11分29秒、久保が2時間11分12秒、赤崎が2時間10分43秒、細谷が2時間10分42秒以内で、一般参加選手では、今年の東京マラソンで2時間9分48秒をマークした松尾淳之介(NTT西日本)が2時間10分12秒、大阪マラソンで2時間9分57秒をマークした平田幸四郎(SGホールディングス)が2時間10分03秒、昨年の防府読売で2時間10分48秒をマークした飛松佑輔(日置市役所)が2時間9分12秒、7月のゴールドコーストマラソンを2時間10分55秒で制した福田穣(NN Running Team)が2時間9分05秒、今年の東京で2時間10分58秒をマークした秋山清仁(愛知製鋼)が2時間9分02秒以内でゴールすれば、日本人順位6位以降であった場合でもMGCの出場権を手にできる。

PMは今年の東京で日本人集団の先導を担ったP・オニエゴ(富士山の銘水)ら5人で、昨年は第1ペーサーが1㎞2分58秒に設定されたが、選手が30㎞までペースを維持できていなかっただけに今年はどうなるか。1㎞3分ペースで進み、PMの外れる30㎞以降で海外勢がペースを上げ、村山ら日本人選手がどこまで食らい付いて行けるかという展開を予想している。

第53回防府読売マラソン、2022福岡国際を通じ何人の新たなMGC出場権獲得者が現れるのか、また記録の観点から言えば現在日本選手で2時間7分台をマークした選手は9月のベルリンマラソンで2時間7分50秒をマークした丸山竜也(トヨタ自動車)まで48人となっており、50人まで届くのかにも注目をしてみたい。12月4日は午前中から二つのマラソンが楽しめる、長距離ファンにとっては堪えられない一日となりそうだ。

文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)

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