この秋の海外マラソンの結果を振り返り、冬のマラソンシーズンの展望をする 女子編

この秋WMMシリーズなど海外マラソンに挑戦した選手の結果をまとめて振り返る、男子編に続き今回は女子編。

9月25日 ベルリンマラソン

7)加世田梨花(ダイハツ)2:21:55※日本歴代11位、MGC出場権獲得
8)鈴木亜由子(日本郵政グループ)2:22:02※日本歴代12位、MGC出場権獲得
9)佐藤早也伽(積水化学)2:22:13※日本歴代14位
17)阿部有香里(しまむら)2:25:17
19)大西ひかり(日本郵政グループ)2:25:54※MGC出場権獲得
20)竹本香奈子(ダイハツ)2:28:15

好記録続出となったベルリンマラソンで、入りの5㎞を当時の世界歴代3位となった2時間15分37秒で優勝を果たしたT・アセファ(エチオピア)、初マラソンながら2時間18分00秒の好タイムで2位となった国内実業団のスターツに所属するR・ワンジル(ケニア)といった選手たちで形成された先頭集団の16分22秒に続く16分33秒で通過と積極的な姿勢を見せたのは佐藤。次の5㎞で16分44秒にペースを落ち着かせて以降はこれを維持して中間点を1時間10分20秒と2時間20分台も見えるタイムで通過、25㎞からの5㎞は17分01秒とややタイムが落ち、後方から追ってきた加世田、鈴木に捉えられたが遅れることなく35㎞まで踏ん張った。
35㎞からの5㎞で突き放されて日本人3番手でのゴールとなったが、一山麻緒(当時ワコール、現資生堂)が2時間20分29秒をマークしてしばらく停滞していた日本女子マラソン界の記録の底上げと後の活性化を齎した2020年の名古屋ウィメンズで、30㎞過ぎまで先頭集団に食らい付く力走で2時間23分27秒の好タイムでゴールした初マラソン以降の2度のフルマラソンでは、その後トラックレースで見せた成長からするとやや物足りない結果に終わっていたが、加世田、鈴木の二人に振り切られたとは言え、課題であった後半のタイムの落ち込みも大幅に改善し、今後に期待の大きく膨らむ内容の濃いレースだった。

日本人選手トップとなった加世田は鈴木ら3人の集団で最初の5㎞を16分53秒で通過、エンジンが温まると次の5㎞は16分37秒にペースアップ、ここからは5㎞16分40秒から16分48秒の安定したペースを30㎞まで刻み中間点の通過タイムは1時間10分33秒。30㎞からはややペースを落とし35㎞までの5㎞は16分57秒、この間に先行していた佐藤を吸収して日本人3人の並走体制となり、35㎞以降もペースを維持して鈴木、佐藤を突き放して2時間21分55秒の当時の日本歴代10位のタイムでゴールした。やや唐突な挑戦のように感じられた今年3月の東京での初マラソンは2時間28分29秒の11位、MGCの出場権を得られる日本人3位以内での2時間28分00秒切りを大きく上回るペースで一山、新谷仁美(積水化学)に続く日本人選手三番手で順調にレースを進めたが、ペースの落ちてきた30㎞以降35㎞までに森田香織(パナソニック)に抜かれ、35㎞からの5㎞で18分58秒と大きくタイムを落としてMGC出場権獲得を逃し、フルマラソンの洗礼を浴びた。以降はトラックスピード強化のため7月のホクレンDGシリーズを転戦、網走大会の10000mで31分49秒29のセカンドベストをマークすると千歳大会では5000mで15分15秒03と自己ベストを更新しており、そうした2度目のマラソンへ向けての計画的な準備が大幅な自己記録更新となる2時間24分00秒以内のワイルドカード規定でのMGC獲得へと実を結んだ。名城大卒社会人2年目とまだ若く今後の伸びしろも充分、気が付けばダイハツの先輩である松田瑞生の背中がぐっと近づいてきた。

鈴木は2時間33分14秒で19位だった東京五輪以来のフルマラソン、なお且つ初マラソンの北海道からMGC、東京五輪とこれまで3度のマラソンはいずれも夏場のレースで、いわゆる高速レースは初の挑戦であったが、加世田の後塵を拝したものの2時間22分02秒のゴールでMGC出場権獲得と実力を示した。これまでの自己ベストが初マラソンでマークした2時間28分32秒、大幅自己記録更新で国内トップ選手として他のトップ選手に見劣りのしない記録を一つ作ったが、MGCまでに記録更新に挑戦するのか、準備に専念をして直行するのか、過去に大きな故障があった選手だけに今後の動向に注目したい。

阿部、大西、竹本の3人は序盤から共に集団を形成し、最初の5㎞を17分05秒で通過、15㎞を過ぎて竹本が遅れ始め、阿部、大西の並走に。25㎞からの5㎞で阿部が一度は遅れたが、35㎞までには追い付いてさらに引き離し、日本人選手4番手でのゴールとなった。
大西は初マラソンとなった今年の名古屋ウィメンズでマークした2時間28分56秒を3分ほど更新する自己新記録で二レース平均2時間28分00秒以内のワイルドカード規定を満たし、MGC出場権を獲得した。須磨学園高校卒3年目と加世田よりさらに若い選手が、順調な成長ぶりを見せた。

10月2日 ロンドンマラソン

9)細田あい(エディオン)2:21:42※日本歴代8位
19)藤澤 舞(札幌エクセルAC)2:41:40
DNF 岩出玲亜(当時千葉陸協、現デンソー)

ケニア、エチオピア勢らの集団が入りの5㎞を16分01秒で通過するハイペースのレースとなった中、細田は16分25秒で通過、次の5㎞は17分05秒と一旦ペースが落ち着いたが、そこからは15㎞までを16分39秒、20㎞までを16分39秒と再びペースアップしてそれを維持、中間点を1時間10分16秒と2時間20分台中盤のペースで通過して記録への期待を抱かせた。
25㎞からの5㎞も16分44秒で押して行き、30㎞からの5㎞も16分53秒と16分台を維持、35㎞からの5㎞で17分10秒掛ったがペースの落ち込みを最小限にまとめて日本歴代8位の2時間21分42秒でゴールした。
2019年名古屋ウィメンズでの初マラソン以降すべてのマラソンでで海外選手を含むハイペースの先頭集団からレースを進め、走る度に離されるまでの距離を伸ばして自己記録を更新してきたが、近年では加世田同様に夏場はホクレンDCを転戦し、今年6月の日本陸上選手権の5000mでは15分23秒49で6位となるなどスピード面でも成長を見せていた。課題の後半のタイムの落ち込みも克服し、パリ五輪代表候補に名乗りを上げる力走となった。

岩出は10㎞までは細田と共にレースを進めたが15㎞までには遅れ始め、25㎞を過ぎて足の痛みのためリタイアとなった。

19位の藤澤は100㎞などウルトラマラソンで活躍している選手だ。

11月6日 ニューヨークシティマラソン

17)上杉真穂(スターツ)2:32:56

上杉はペースメーカーの付かないレースは初経験ながら序盤は国内レースと同様に集団前方に位置を取ったのだが、最初の5㎞を17分15秒、次の5㎞も17分10秒とゆったりしたペースだった事も有り、位置取りが前のため、先頭に押し出される場面も見られた。トップ選手たちの駆け引きが有る中でも順調にレースを進めていたように見受けられたが、15㎞では集団最後方に下がり、20㎞までには遅れ始めた。ハーフの通過は1時間12分36秒、先頭との差を18秒に留めていたが、駆け引きの中で消耗があったのか単独走となっても粘る事の出来た国内レースのようにはいかず、20㎞からの5㎞を18分25秒と大きく落とした。25㎞からの5㎞は少しタイムを持ち直したが以降もペースアップは出来ず、2時間32分56秒の17位と海外トップ選手の壁に跳ね返された。しかしながらこのレースでペースメーカーのいない駆け引きの伴うレースを経験できたことは、MGCでは同様にペースメーカーを置かれないことを考えれば貴重な財産となっただろう。実際に得られた体感を通して対策を講じ、レースを組み立てる事が出来れば大きなアドバンテージと成り得る。

このように女子では3大会に、ウルトラマラソンが主戦場の藤澤を除いてパリ五輪代表を目指す9名が挑戦し、新たなMGCファイナリストが3名を数え、2時間21分台が2名、2時間22分台前半も2名と第一人者の一山、松田、新谷の後を追うレベルの記録も生まれており、選手層のボトムアップはされたが鈴木健吾(富士通)や大迫傑(Nike)に対抗し得る選手がなかなか現れない男子に比べ、国内トップ層の充実という大きな成果があったと言える。

その一方でこの好記録ラッシュを手放しで喜んでばかりいられる状況にはなく、この3大会で日本人選手の順位は最も高かった加世田が2時間21分台を記録してさえ7位止まりだったのに対し、海外勢ではベルリンで4名、ロンドンで6名が2時間20分を切り、また日本人選手の出場がなかったシカゴでは今年の名古屋ウィメンズで圧倒的な走りを見せたドーハ世界陸上金メダリストのR・チェプンゲティチ(ケニア)が世界歴代2位となる2時間14分18秒をマーク、12月4日にはスペインのバレンシアマラソンでもA・ベリソ(エチオピアが)が2時間14分58秒で、2時間16分49秒の初マラソン世界記録をマークしたオレゴン世界陸上金メダリストで10000m世界記録保持者のG・ギエイ(エチオピア)を破るなど7人が2時間20分を切っており、2020年に一山が2時間20分台をマークして一度は縮まりかけたかに思われた世界の背中はまた遠ざかろうとしている。

パリ五輪へ向けてその代表選考会となるMGCを来年秋に控え、既に新谷が1月のヒューストンマラソンへの出場を表明しているが、東京五輪8位入賞の一山、オレゴン世界陸上代表の松田、2時間35分28秒で33位となった東京五輪以来マラソンへの出場が無く、未だMGCへの出場権を手にしていない前田穂南(天満屋)の動向や、加世田、細田、佐藤らがこの秋に大幅に記録を伸ばし成長を遂げた今、一山、松田、前田と競り合って野口みずきの持つ2時間19分12秒の日本記録の更新を目指す機会がおとずれるのか、またここに挙げた選手以外にも新たな代表候補選手が現れるのかが、この冬のマラソンシーズンの焦点となるだろう。

文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)

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『防府読売マラソン、福岡国際マラソン直前!まずはこの秋の海外マラソンを振り返り、MGCシリーズの現状をおさらいしてみる』

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