第71回別府大分毎日マラソン大会が2月5日、大分市のうみたまご前をスタートし、別府市へ向かい、別府市亀川漁港前を引き返し大分市内に戻り、三佐田交差点前を折り返し、ジェイリーススタジアムをゴールとする42,195㎞のコースで行われる。一昨年はコロナ禍で開催中止、昨年は国内選手のみの参加となったが、今年は3年ぶりに海外選手の招待が実現、大会史上初めて2時間7分台が記録された昨年を上回る好レースとなる事が期待される。今大会ブダペスト世界陸上男子マラソン代表選考競技会として行われ、代表を目指す選手にとっては日本陸連の定めた派遣設定記録、2時間7分39秒の突破が候補選手入りの条件となる。またMGCチャレンジの指定レースでも有り、パリ五輪代表を目指すMGC出場権獲得を目指す選手たちの争いも注目される。
国内招待選手で優勝争いの中心となるのは丸山竜也(トヨタ自動車)か。
昨年9月のベルリンマラソンでは中間点を1時間04分05秒で通過した後、1㎞3分を切るペースに上げ、20㎞からの5㎞を14分59秒、30㎞までの5㎞も14分57秒と14分台で刻んで行き、35㎞までの5㎞は15分10秒でカバー、40㎞までの5㎞で15分24秒にペースを落としたが、ラスト2.195㎞は全参加選手中三番目の6分33秒にペースを上げて、後半ハーフは1時間3分45秒と、前半より後半が速いネガティブスプリットで2時間07分50秒をマークして8位に入賞した。初めてサブテンをマークした2020年の防府読売マラソンでも、40㎞以降を6分14秒でカバーしており、好調時のラストスパートは世界に通用するレベルで、そこまでに至るペースの違いはあるが、鈴木健吾(富士通)が日本記録を樹立した2021年のびわ湖毎日マラソンで記録した40㎞以降のタイム、6分16秒を2秒凌いでいる。その2021年のびわ湖では1㎞3分で刻む第2集団からも10㎞手前で遅れて2時間11分台に終わっており、前半のハイペースに合わせられるかが好走のカギとなる。
丸山を追う筆頭格は聞谷賢人(トヨタ紡織)。ベルリンマラソンでは後半追い上げてきた丸山の後塵を拝したが、自身3度目の2時間8分切りとなる2時間7分56秒で9位となっており、この3度の8分切りは4度記録している高岡寿成陸連強化委員会長距離担当シニアディレクター、3度で並ぶ大迫傑(nike)、設楽悠太(Honda)、に次ぐ4人目で、また初マラソンでサブテンをマークした2年前の別大以降、サブテンを逃したのは初の海外マラソンだった2021年9月のウィーンマラソンでの1回のみと、ハイレベルな安定感を誇っている。2021年びわ湖で記録した2時間7分26秒の自己記録を上回るタイムでの優勝で、10月に控えるMGCへ向けて箔を付けておきたい。
参加選手中最速タイム、2時間6分51秒を誇るのは小椋裕介(ヤクルト)。その自己記録をマークした2021年のびわ湖では25㎞からの井上大仁(三菱重工)の飛び出しには自重し、追走集団から離されたがしっかりと自身のペースを維持し、集団から零れた選手を一人一人交わしていく味の有るレースを見せ、またその前年の東京五輪ファイナルチャレンジだった東京マラソンでも、日本人選手トップの大迫を追う集団から離されてからも粘って数人抜き返し、2時間7分23秒でゴールしており、ハーフマラソン1時間0分00秒の日本記録を持つスピードと、後半に残り距離と自身の消耗度を冷静に測りながらレースを組み立てる事の出来るインテリジェンスを併せ持ったランナーだ。
フルマラソン2戦連続8分切りと真価を見せ始めたところで疲労骨折を負い、長くレースから離れていたが、結果は奮わなかったものの昨年8月に北海道マラソンを走って42.195㎞を走る間隔を取り戻しているものと思われ、ニューイヤー駅伝では6区6位と好走しており、復活を賭けるレースに上り調子で臨む事になりそうだ。
もう一人、このレースにフルマラソンでの復活を賭けているのが木村慎(honda)。明治大時代より将来はマラソン向きとの評価を受けていたが、自身3度目のフルマラソンとなった2020年の東京マラソンで2時間7分20秒の好タイムで存在感を示して以降は故障がちで、2021年の東京五輪テスト大会となった札幌マラソンフェスティバルのハーフマラソンで日本人選手トップの3位、昨年5月の仙台国際ハーフで5位などハーフマラソンでは度々好結果を残したが、マラソン復帰にまでは至っていなかった。
ロードでの勝負強さは折り紙付きで、直近ではニューイヤー駅伝でアンカーの7区で区間2位と小椋同様に調子を上げてきている。
復活へのカギはフルマラソンを走り切る脚力を取り戻すだけの準備を積むことが出来たか否かにあるだろう。
一般参加選手では昨年の大会で初マラソンながら35㎞手前まで優勝争いに加わり、2時間8分51秒で6位に入りMGC出場権を獲得した中西亮貴も、その後初の海外マラソンとなった10月のシカゴマラソンでも2時間9分59秒とサブテンをマークして力を示しており、また北海道マラソンでは夏マラソンにも関わらず20㎞からの5㎞で14分56秒と驚異的なペースアップを見せ、そのまま2時間10分49秒で優勝を飾ったL・ムセンビ(東京国際大)も爆発力が有り、初マラソンとなるが、各大会でペースメーカーを担って好記録を生むペースを肌で知る、リオ五輪10000m代表の村山紘太(GMOインターネットグループ)の3人も侮れない存在だ。
海外招待選手は2020年の優勝者で2時間7分15秒の自己記録を持つH・サハリ(モロッコ)、自己記録2時間7分38秒でオレゴン世界陸上にも出場しているI・ハッサン(ジプチ)、フルマラソンは2時間7分46秒ながらハーフマラソンでは59分16秒とスピードがあるD・キプチュンバ(ケニア)の3人。
特にサハリはオレゴン世界陸上で昨年の優勝者である西山雄介(トヨタ自動車)と互角の勝負を演じ、2時間8分45秒で14位となっており、この選手に勝てるか否かで世界のマラソン界での位置づけを推し量る事が出来そうだ。
この大会でMGC出場権獲得を目指す選手では、2時間7分36秒を持つ村本一樹(住友電工)が昨年の大阪マラソンで2時間8分51秒をマークしており、2時間11分09秒以内に走れば2レース平均2時間10分切りが条件のワイルドカード規定により出場権を獲得できる他、同条件では2021年の福岡国際で2時間9分14秒をマークしている二岡康平(中電工)が2時間10分46秒以内、2時間7分41秒の自己記録を持ち、昨年12月の防府読売で2時間9分43秒の市山翼(小森コーポレーション)が2時間10分17秒以内、昨年の大会で2時間10分09秒で9位となった兼実省伍(中国電力)が2時間9分51秒以内、大阪マラソンで2時間10分16秒をマークした金森寛人(小森コーポレーション)が2時間9分44秒以内、かつて2020年のびわ湖毎日マラソンで2時間8分59秒、同年の福岡国際マラソンで2時間8分21秒と2戦連続で8分台をマークした実力者の作田直也(JR東日本)も昨年の東京で2時間10分43秒を記録しており2時間9分17秒以内にゴールすればMGC出場権獲得となる。
また、国内招待選手で2時間8分15秒の自己記録を持つ大津顕杜(トヨタ自動車九州)、一般参加では2020年の大会で2時間8分53秒で4位となっている別大巧者の小山司(SUBARU)、10000m27分48秒22、ハーフマラソン1時間0分19秒の記録を持つスピードランナーの市田孝(旭化成)といった選手達は、日本人選手1位から3位までであれば2時間10分00秒以内、4位から6位であれば2時間9分00秒以内の順位とタイムの条件か、2時間8分00秒以内のワイルドカード規定でのMGC出場権獲得を目指す事になる。
その他、昨年の大会を経験し、そこからの上積みが期待される横田俊吾、西久保遼に2022年の箱根駅伝で1区を務めた新チームの主将、志貴勇斗の青山学院勢や今年の箱根駅伝9区2位の緒方貴典(創価大)、10区区間賞の西澤侑真(順天堂大)ら学生選手の奮闘にも注目だ。
昨年の大会では3位となった藤曲寛人(トヨタ自動車九州)が34㎞地点で集団を振り落とし、4位となった古賀淳紫(安川電機)も35kmで折り返してからの36㎞手前で突き放しに掛かり一時は独走態勢に入るなど、行き、帰りの違いはあれど、共に乙津川に架かる三海橋で仕掛けを行っており、短い間隔で往復するこの橋が今年もレースの行方を左右する一つの勝負所になるとみる。
また、例年35㎞で折り返して以降は向かい風に悩まされる事が多く、風向きや強さもタイム、勝負に大きく影響してくる。
海外招待選手と国内有力選手の実力が拮抗しており、30㎞でC・ワンジク(武蔵野学院大)らペースメーカーがレースを離れる段階で、先頭集団に残る選手が多くなれば、優勝タイムが上振れする可能性も高くなるだろう。日本人選手による2時間6分台での優勝で、瀬古利彦日本陸連強化委員会マラソン強化戦略プロジェクトリーダーもご満悦のレースとなるのか、ともあれ見応えのあるレースとなる事に、疑いを差し挟む余地はなさそうだ。
文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)
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