男子は大迫傑が優勝争いに加わるか、MGCチャレンジシリーズ最後の指定大会でチャンスを物にできるのは!?女子は一山、松田、細田が新谷に続く2時間20分切りを目指す!そして日本記録の更新は!?東京マラソン2023の展望

世界最高峰のマラソンレースシリーズであるワールドマラソンメジャーズの一戦、東京マラソン2023が3月5日、新宿・東京都庁前をスタートし、東京駅前・行幸通りをフィニッシュ地点とする42.195㎞のコースで行われる。今年の大会は昨年の優勝者、E・キプチョゲ(ケニア)のようなビッグネームの招待こそないが、男子は2時間3分36秒の自己ベストを持つS・レマ(エチオピア)を筆頭に、B・コエチ(ケニア)、S・キッサ(ウガンダ)ら2時間4分台を持つ海外選手が6名、加えて昨年10月のアムステルダムマラソンを2時間4分49秒で制し、現在WAランキング13位と14位のレマを上回るT・ゲタチュウ(エチオピア)が一般参加選手としてエントリーに名を連ね、女子も昨年の大会で2時間17分58秒で2位となったA・ベケレ、かつてはスターツに所属し、昨年9月のベルリンマラソンでは2時間18分00秒で2位となったR・ワンジル(ケニア)ら2時間17分台、18分台の自己ベストを持つ選手が6名招待され、ハイレベルなレースとなる事が予想される。
こうした強力な海外勢を相手に、男子では大迫傑(nike)、土方英和(旭化成)、細谷恭平(黒崎播磨)、井上大仁(三菱重工)といった5分台、6分台の自己ベストを持つ国内招待選手がどう挑むのか、優勝争いに加わり、今回は残念ながら欠場となった鈴木健吾(富士通)の持つ2時間4分56秒を更新することが出来るか、女子も一山麻緒(資生堂)、松田瑞生(ダイハツ)が1月のヒューストンマラソンで2時間19分24秒を記録した新谷仁美(積水化学)に続いて2時間20分切りを果たし、野口みずきの持つ2時間19分12秒の日本記録に迫れるか、また昨年のロンドンマラソンで2時間21分42秒の自己ベストをマークした細田あい(エディオン)がこの二人の争いに割って入る事ができるかが焦点となる。
また、男子は2021年12月に始まったパリ五輪代表選考会MGCへの出場権の懸るMGCチャレンジシリーズの最後の指定大会となっており、新たに何名の選手が出場権を獲得するかに加えて、2月26日に行われた大阪マラソンでは西山和弥(トヨタ自動車)が2時間6分45秒、池田耀平(kao)が2時間6分53秒と従来の初マラソン日本最高記録を上回る2時間6分台の力走を見せており、二人に続く新たな若手選手の台頭にも期待が懸る。

男子のペース設定と、第1ペーサーの集団に加わる国内選手の顔ぶれは?

昨年の男子はキプチョゲが世界記録を目指すレースとなったため、これに対応した第1ペースメーカーと、国内選手向けに1㎞2分58秒に設定された第2ペースメーカーが用意され、日本人選手トップとなった鈴木を含む日本人選手は第1ペースメーカーのグループでレースを進める事がなかったが、東京マラソンレースディレクターの早野忠昭は、「今大会は2時間4分30秒のフィニッシュを目指すペース設定とする」と明言しており、おそらく1㎞2分56秒、2分57秒の5㎞換算14分40秒~45秒の第1ペースメーカーと、1㎞2分59秒~3分00秒の5㎞を14分55秒~15分00の第2ペースメーカーと、昨年よりは少し落としたタイム設定になるものと思われる。
2018年にワールドマラソンメジャーズの一つ、シカゴマラソンで2時間5分50秒の当時の日本記録で3位となった実績がある大迫や、2時間6分台を2度記録している井上は、過去に5㎞14分45秒ほどで推移するレースの経験は有り、第1ペースメーカーのグループでレースを進めるものと思われる。
2021年のびわ湖で2時間6分26秒をマークした際に2分58秒ペースでレースを進めた土方、同じレースで1㎞3分ペースを刻み続け、2時間6分35秒でゴールした細谷も自己記録更新以上の結果を求めるのであれば、このグループからレースを進める事が必須の条件となるだろう。昨年は鈴木の25㎞からのペースアップに対応を試みたものの振り切られてしまった2020年福岡国際マラソン覇者の吉田祐也(GMOインターネット)はその経験を活かし、昨年の大会での2時間7分23秒の好走を糧として、9月のベルリンマラソンで自己記録を2時間7分14秒に更新した其田健也(JR東日本)はもう一段階上のレベルを目指して、第1集団に加わって欲しい。井上、土方、細谷、吉田、其田の各選手はいずれも残り5㎞の走りに課題があり、プレスカンファレンスでもそれぞれ語っていたように、30㎞までをいかに効率よく走る事が出来るかが35㎞以降も海外勢と渡り合えるかどうかのカギとなる。レマやキッサから離されるような事があっても、オレゴン世界陸上で2時間7分9秒で4位となったC・レビンス(カナダ)や、設楽悠太が2時間6分11秒で当時の日本記録をマークした2018年の大会当時はまだ2時間9分台のランナーで、東京五輪で11位となった後、昨年のパリマラソンで2時間6分55秒をマークしたM・エルアラビ(モロッコ)ら競い合う事が出来そうなライバル選手の存在も有り、今後の国際大会を見据えて、こうした選手には先着をしておきたい。

既にMGC出場権を獲得している一般参加組では、2時間6分台の自己記録を持つ高久龍(ヤクルト)に加え、湯澤舜(SGH、山下一貴(三菱重工)、藤曲寛人(トヨタ自動車九州)、古賀淳紫(安川電機)、久保和馬(西鉄)といった昨年台頭してきた選手達が、第1ペースメーカーで勝負をするのか、日本人選手向けのペースメーカーのグループで自重をするのかも注目となるところ。西鉄の久保は、別大で津田将希、大阪では山口武と同僚が好結果をのこしており、チームの勢いは追い風になるだろう。

男子優勝争いに、大迫が加わるか!?

優勝候補の筆頭は勿論最もベストタイムが良く、2021年のロンドンマラソンで優勝の実績もあるレマとなるが、直近2レースの結果が昨年4月のボストンマラソンが途中棄権、10月のロンドンマラソンが2時間7分26秒で7位とそれほど芳しくない。
2時間4分51秒で3位となった2020年の東京での4位大迫との差は38秒。
大迫は東京五輪後の一時引退から昨年11月のニューヨークシティマラソンで復帰を果たして以来、2度目のフルマラソンで実践感覚が取り戻せているようなら、この差を逆転する可能性も充分出てくる。
むしろなぜか招待選手とならなかったゲタチュウには、アムステルダムマラソン優勝の勢いが有り、より手強い相手となるかもしれない。

MGCへ、二本平均のワイルドカード規定で出場権獲得が狙える選手達

MGC出場権を巡っては、まずこのレースで2レース平均10分切り以内のワイルドカード規定で出場権獲得の権利がある選手の顔ぶれを見ていきたい。

堀尾謙介(九電工)2時間11分35秒 ※2時間8分25秒・2022東京
山本憲二(マツダ)2時間11分22秒 ※2時間8分38秒・2022大阪
富安 央(愛三工業)2時間11分05秒 ※2時間8分55秒・2022東京
小山直城(Honda)2時間11分01秒 ※2時間8分59秒・2022東京
二岡康平(中電工)2時間10分46秒 ※2時間9分15秒・2021福岡
細谷翔馬(天童市役所)2時間10分42秒 ※2時間9分18秒・2022東京
國行麗生(大塚製薬)2時間10分39秒 ※2時間9分21秒・2022防府読売
足羽純実(Honda)2時間10分19秒 ※2時間9分41秒・2022東京
松村優輝(Honda)2時間10分15秒 ※2時間9分45秒・2022大阪
高田康暉(住友電工)2時間10分45秒 ※2時間9分45秒・2022福岡国際
松尾淳之介(NTT西日本)2時間10分12秒 ※2時間9分48秒・2022東京
野中優志(トヨタ自動車)2時間10分03秒 ※2時間9分57秒・2022大阪
金森寛人(小森コーポレーション)2時間9分44秒 ※2時間10分16秒・2022大阪
小森稜太(NTN)2時間9分12秒 ※2時間10分48秒・2022東京
福田 穣(NNランニングチーム)2時間9分05秒 ※2時間10分55秒・2022ゴールドコースト
内田健太(埼玉医科大学グループ)2時間8分41秒 ※2時間11分19秒・2022ヒューストン
大迫 傑(nike)2時間8分29秒 ※2時間11分31秒・2022ニューヨークシティ
金子晃裕(コモディイイダ)2時間8分21秒 ※2時間11分39秒 2022大阪

実は大迫も今大会でMGC出場権獲得を目指す選手の一人だが、普通に走れば2時間8分00秒以内のワイルドカード規定で出場権を得るものと考えて、2時間7分台のベストタイムを持つ足羽、2時間8分台のベストタイムを持つ堀尾、山本、富安、小山辺りは、コンディションさえきっちり整っていればこの必要タイムで走る事はさほど難しくないと思われ、ラストチャンスの心理的重圧に打ち勝てるかが鍵だろう。
昨年のベルリンで14秒届かなかった松村、24秒届かなかった野中、更に昨年暮れの防府で2時間9分21秒でゴールをしながら3位まで9秒届かなかった國行辺りはあと僅かのところでMGC出場権獲得を逃しているだけに、先週行われた大阪マラソンでの畔上和弥(トヨタ自動車)のように、序盤から積極的な入りを見せてくるものと思われる。
昨年の大阪では31㎞付近で一度は先頭集団を引っ張る場面のあった金森や、福岡国際で粘りの走りでサブテンをマークした高田も力を付けており、NTNの小森、コモディイイダの金子に関しては、小森が辻野恭平、金子が横田佳介と共に同僚が大阪マラソンで積極的に先頭集団に食らい付いて好結果をのこしており、マラソンに向けてのチーム全体の仕上がりの良さが感じられる。

2時間8分00秒以内を目指す選手達

こうしたレース平均10分切り以内のワイルドカード規定で出場権獲得の権利がある選手を除いた「ラストチャンス」に賭ける選手達にとっては、既にMGC出場権を獲得している力の有るランナーが多くエントリーをしている事も有り、順位を確保すること自体ハードルも高く、実質的には2時間8分00秒以内のワイルドカード規定のクリアを目指すタイムレースになると考えた方が良さそうで、かつての日本記録保持者の設楽雄太、東京五輪マラソン代表の中村匠吾(富士通)、そして今大会が初マラソンとなる選手たちが該当する。
設楽、中村はここ2年程故障などにより精彩を欠いているが、日本男子長距離界がパリ五輪で入賞以上の成績を収めるために競技力の底上げを企るうえで、若手の目標となる存在としてまだまだ頑張ってもらいたい選手であり、今大会での復活に期待したい。

大阪マラソンの西山、池田に続け!初マラソンの選手達

また初マラソン組では、ハーフマラソンで1時間00分38秒の記録を持つ中山顕(Honda)、トラック10000mで27分台のスピードランナー、岡本雄大(サンベルクス)、大池達也(トヨタ紡織)に、大阪マラソンでの西山、池田に続く快走が期待され、学生ではハーフマラソン自己ベスト1時間00分40秒の元学生記録保持者、山野力(駒澤大)、箱根予選会上位の常連、中山雄太(日本薬科大)、箱根駅伝で2度区間賞を獲得している嶋津雄大(創価大)が、2月の別大マラソンで横田俊吾がマークした2時間7分47秒の日本学生記録の更新を目指す。

女子は、一山、松田、細田が2時間20分切りで新谷に続けるか

女子のレースでもヒューストンでの新谷仁美に続く2時間20分切りを目標とするのであれば、海外招待選手の集団で走る事が最低限必要となってくるが、プレスカンファレスで涙を見せたという一山の心理面や、1月の奥球磨ロードレースのハーフマラソンで優勝したものの、タイムは1時間12分34秒と一山クラスの選手のフルマラソン前のステップレースとしてはタイムがやや物足りない印象もあり、コンディション面も少し気懸りだ。
ここまでの間に上積みが出来ていないようなら、今回はMGCに向けて長期ビジョンの取り組みの一環と割り切って挑ませるといった選択肢を採ることもあるのではないだろうか。

オレゴン世界陸上代表の松田は、9位と入賞まであと一歩だった事に加え、新谷が自身に先んじて2時間19分台をマークするなど、負けず嫌いな選手だけにこのレースを前に燃える要素が揃いすぎるくらいに揃っているだろう。
かつての同僚で、実は同学年の細田が自身の記録に迫って来ているのも刺激となっている筈で、そうしたこもごもを力に変え、ゴール後には弾ける笑顔で威勢の良い松田節が飛び出すかもしれない。

細田は貧血や故障など苦労も多かったが、一昨年辺りから5000m、10000mのトラックスピードが付いてこれまで以上に力を発揮し始め、昨年のロンドンマラソンで遂に花を咲かせた。
一山、松田と並ぶ現役国内女子マラソン選手3強の一角、新谷が今のところパリ五輪を目指す考えがないと表明し、代表争いの椅子に一つ空席が出来た状況だが、先行きは不透明な点も有る。回り道の末に巡ってきた五輪代表のチャンスだけに、空いた席に収まるのではなく、一山、松田と互角以上に渡り合って二人の席を押し退ける、それだけの力を持っている事をアピールできる絶好の舞台となるだろう。

日本記録更新の条件は

男女のレースとも、海外選手と共に先頭集団でレースを進め、後半も優勝争いの輪の中に残る事が出来れば、それぞれの日本記録を更新する芽も生じてくる。
勝負どころの30㎞までいかに効率の良い走りで後半のスピードアップに対応する力を温存できるかが、成否を分けるものと考える。

サプライズを起す選手の登場にも期待

東京マラソンに先立って行われた大阪マラソンでは、数々の好記録が残されたが、日本体育大時代に箱根駅伝を始め三大駅伝出場の経験がなく、卒業後に所属したラフィネも廃部となって小森コーポレーションに拾われた、これまでほぼ無名に近かった大﨑遼が2時間8分30分でゴールする驚きも有ったが、こうした選手が現れた事は、現在の男子長距離界の充実を何よりも端的に示している。
誰が、いつ、どこで好記録を出しても不思議ではなく、コンディションが整い、条件が揃えば実業団、大学に所属している多くの選手にその可能性が有るようにさえ思われる。
この東京マラソンでも、これまでの実績は乏しくとも、黙々と努力を重ねてきた選手が開花する場面を見る事ができるかもしれない。

文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)

記事への感想お待ちしております!twitterもやっています。是非フォローおねがいします!(https://twitter.com/ATHLETE__news

コメントを残す

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。
search previous next tag category expand menu location phone mail time cart zoom edit close