チェプンゲティチが40㎞以上を一人旅、2時間18分08秒で大会連覇!東京五輪代表の鈴木亜由子が2時間21分52秒で日本人トップ、前田穂南は2時間22分32秒の自己新でMGCへ!名古屋ウィメンズマラソン2023の結果

名古屋ウィメンズマラソン2023が3月12日に行われ、前年の大会を2時間17分18秒の大会記録で制したケニアのR・チェプンゲティチが、スタート直後の2㎞地点から設定ペースを大幅に上回るハイペースで飛ばす独走となり、気温の上がった終盤にややペースを落としたものの2時間18分08秒で二連覇を果たし、フルマラソン世界歴代2位の実力を見せつけた。

日本勢のトップは25㎞過ぎからペースアップを開始し、30㎞手前で2位集団から抜け出した東京五輪代表で愛知出身、日本郵政グループの鈴木亜由子で、2時間21分52秒の自己記録で2位、地元の大声援に結果で応えた。同じく東京五輪代表で天満屋の前田穂南が2時間22分32秒の自己記録で3位となった。故障や新型コロナウィルス感染等も有り、東京五輪以来久々のフルマラソンだったが、30㎞手前で2位争いから遅れて以降も力強い走りで順位を3位まで押し上げてゴールし、MGC出場権を獲得した。

4位には2時間24分05秒で中国の張徳順が入り、1月の大阪国際女子マラソンで4位に入ったスターツの上杉真穂が2時間24分16秒で日本勢3番手の5位、大東文化大4年生だった昨年の大会で日本学生記録をマークした第一生命の鈴木優花が2時間25分46秒で6位、JMCシリーズ成績上位で既にMGC出場権を手にしているユニバーサルエンターテインメントの和久夢来が2時間25分58秒の自己記録で7位と続いた。日本人選手6番手の9位でゴールした大塚製薬の棚池穂乃香は、2時間27分30秒と2時間27分00秒以内のMGCチャレンジ指定大会の規定に届かず、この大会でのMGC出場権獲得を逃し、今大会でMGC進出を決めた選手は前田1名に留まった。2019年ドーハ世界陸上8位、既にMGC出場権のある天満屋の谷本観月は2時間29分56秒の13位、同じくドーハ世界陸上マラソン代表で鹿児島銀行の池満綾乃は2時間33分29秒の22位でMGC出場権獲得はならなかった。また2016年リオ五輪マラソン代表でこの大会が現役ラストレースとなった大塚製薬の伊藤舞は、2時間44分36秒の35位で長きに渡る競技生活をに終止符を打った。

女子単独レース世界最高記録に挑んだチェプンゲティチ
昨年は7㎞付近まで日本人選手を含む先頭集団のペースに「付き合った」チェプンゲティチは、今年のレースでは2㎞付近で慣らし運転はここまでとばかりに、2017年のロンドンマラソンでケニアのM・ケイタニーがマークした2時間17分01秒の女子単独レース世界最高記録更新を目指す本気モードに突入、前半ハーフを1時間8分47秒で通過するなど30㎞までは快調にレースを進めた。しかしながら、昨年は追ってきたイスラエルのL・C・サルピーターを引き付けるために25㎞から35㎞まで意識してペースを落とし、その「溜め」を35㎞以降の爆発的なロングスパートに繋げたが、今大会では序盤に体力の温存をせず早めに飛び出したうえ、以降競う相手のいない一人旅を続けながら最後までペースを維持し続ける事はさしものチェプンゲティチでもやや厳しかったか、女子単独レースの世界最高記録や自身が昨年作った大会記録の更新には及ばなかった。それでも、国内の女子単独レースでは唯一のWAプラチナラベルの大会にディフェンディングチャンピオンとして招かれた自身の役割を認識し、ライバルのいない難しいレースであろうと目標を設定し、達成に向けて挑戦する姿勢を示してくれた辺り、流石は世界のトップランナーの一人で有り、日本の選手達も学ぶところも多かったのではないだろうか。

鈴木亜由子と前田穂南の東京五輪代表組がMGCへ向け、コンディション面の不安を払拭
2位となった鈴木亜由子以下、日本の選手達がチェプンゲティチとは「全く別のレース」を進める事になったのは、昨年に2位グループからサルピーターとともに抜け出して、20㎞からの5㎞はチェプンゲティチを上回るハイペースで追い掛けたワコールの安藤友香やエディオンの細田あいが、30㎞以降の終盤でペースを大きく落としていた点や、今大会がMGCチャレンジ指定大会の最終戦で、MGC出場権獲得を目標とする選手が多かったことを考え併せれば、現状では現実的で已む得ない選択だったと言えるだろう。
そうした中でも、かつて大きな故障に見舞われ、充分な走り込みをする事が難しかった鈴木亜由子が昨年秋のベルリンに続く自己記録更新でフルマラソンでの安定感と逞しさが増し、東京五輪前から悪化していた足底部の痛みや、新型コロナウィルスへの感染などで構想通りの練習や大会出場が出来ず、MGC出場権を獲得できていなかった前田穂南も久々のマラソンながら22分台で自己記録更新と、東京五輪以降様々な不安を抱えていた実力者たちのコンディションが上向き、MGCへ向けて更に上積みも期待できそうな結果を残した事に、日本の女子長距離の強化に携わる関係者も胸を撫でおろしているところもあるのではないだろうか。その一方で、1月の大阪国際女子で2時間23分18秒のブダペスト世界陸上派遣設定記録に届かず、追試として今大会に挑戦した上杉真穂、MGC出場権獲得を目指し、上杉同様に大阪国際女子からの連続参戦となった、棚池穂乃香、センコーの竹山楓菜、ヤマダホールディングスの筒井咲帆らが、挑戦する姿勢は示しながらも、その結果を手にする事が出来なかった事は残念だった。

五輪代表組と他の選手、日本勢と海外勢から感じる力の差
女子の長距離部門の強化担当者もパリ五輪へ向けてここまでさまざまに競技力向上に手を尽くしてきたと思うが、大阪国際女子でMGC出場権を得た日立の池田千晴、昨年の大会で日本学生記録をマークした鈴木優花がもう一段の成長を結果で示すことが出来なかった事も含めて、選手やその指導者の取り組みへの後押しをする舞台設定が実情に即したものであったのかどうか、目標と現実が掛け離れたものではなかったかなど、今後検証すべきところも多々有りそうだ。

最低限の目標、と周囲の関係者、或いは我々メディアが選手に向けて口にするのは容易いが、その反面、その言葉を耳にした瞬間から、選手に掛かる精神的な重圧も相当なものになると思われる。しかしながらそれは乗り越えていかなければならない課題でもあり、過程においても、レースの中に有っても苦しみながら重圧を跳ね返し、結果を手にしてきたのが今大会に出場した選手で言えば、鈴木亜由子、前田穂南であり、二人のような勝負強さや精神的な逞しさを持つ新たな選手が育ってきていない事は、東京五輪が1年延期となり取り組みの期間が短くなった点や、コロナ禍が長引き、海外でレースに出場しての強化を図り難かった点があるにせよ、少しもどかしく感じられる。

ともあれ、MGCチャレンジ指定大会の締め括りとなる名古屋ウィメンズマラソン2023は終わった。

世界に目を転じると、昨年1年間で2時間19分を切った選手は27人を数え、コスゲイやチェプンゲティチの二人が抜きんでていた女子マラソンの記録水準が一気に上がり、勢力図も変わりつつある。
東京五輪後に直面した困難を乗り越えて、アスリートとして更に成熟度を高めた鈴木亜由子と前田穂南にとっても、他の日本選手にとってもパリ五輪まで残された時間は多くはないが、MGCを含め、世界と対等に挑む力を身に着けるための闘いは続いて行く。

文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)

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3/12
名古屋ウィメンズマラソン
1)R・チェプンゲティチ(ケニア)2:18:08
2)鈴木亜由子(日本郵政グループ)2:21:52※ブダペスト世界陸上派遣設定記録突破
3)前田穂南(天満屋)2:22:32※MGC出場権獲得、ブダペスト世界陸上派遣設定記録突破
4)張 徳順(中国)2:24:05
5)上杉真穂(スターツ)2:24:16
6)鈴木優花(第一生命グループ)2:25:46
7)和久夢来(ユニバーサルエンターテインメント)2:25:58
8)李 芷萱(中国)2:26:28
9)棚池穂乃香(大塚製薬)2:27:30
10)I・バットドイル(オーストラリア)2:27:54
11)筒井咲帆(ヤマダホールディングス)2:28:45
12)清田真央(スズキAC)2:29:20
13)谷本観月(天満屋)2:29:56
14)池田千晴(日立)2:30:23
15)光恒悠里(十八親和銀行)2:31:26
16)西川真由(スターツ)2:31:44
17)S・パガーノ(アメリカ)2:32:05
18)E・ウェリングズ(オーストラリア)2:32:09
19)張 新艶(中国)2:32:19
20)竹山楓菜(センコー)2:32:20
21)枚田茉優(ワコール)2:32:48
22)佐藤奈々(スターツ)2:33:15
23)池満綾乃(鹿児島銀行)2:33:29
24)S・クライン(オーストラリア)2:33:51
25)小井戸涼(日立)2:33:52
26)松田杏奈(三井住友海上)2:35:09
27)西谷沙綾(大塚製薬)2:35:26
28)チェ・ジュンユン(韓国)2:36:13
29)森田歩実(センコー)2:36:59
30)関谷夏希(第一生命グループ)2:37:55

30位以降の主な選手
31)藤澤 舞(札幌エクセルAC)2:39:26、34)松村幸栄(コモディイイダ)2:43:16、35)伊藤 舞(大塚製薬)2:44:36、36)西原加純(シスメックス)2:44:56、38)青山瑠衣(ユニバーサルエンターテインメント)2:47:33、68)山賀瑞穂(大東文化大)2:56:01

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