男子3000m障害ダイヤモンドリーグファイナリスト、三浦龍司は1500mに登場、女子は田中希実が1500mでプロ転向表明後初レース!第31回金栗記念選抜陸上中長距離大会2023プレビュー

いよいよ本格的な屋外トラックシーズンの幕開けだ。
日本グランプリシリーズグレード2、第31回金栗記念選抜陸上中長距離大会2023が熊本、えがお健康スタジアムにて開催される。グランプリレースとして男女の1500m、5000m、10000mが行われる4月初旬の中・長距離特化の競技会として恒例の本大会は、それぞれの課題を持って冬期練習に取り組んだ選手達の成果や成長、また開催が入学、入社式シーズンと重なる事も有り、学生、社会人共に新たな所属で臨む初の大会となる選手も多く、シーズンへの意気込みや思いの丈が見て取れる大会でも有る。加えて、パリ五輪を来年に控え、代表争いにも大きく関わってくるアジア陸上選手権が7月に、8月にはブダペスト世界選手権が控えており、世界の舞台への飛躍を目指す国内トップ選手が多く顔を揃えており、今シーズンからグレード制が導入されて加盟大会も増え、装いも新たにスタートする日本グランプリシリーズの初戦にふさわしい華やかな顔ぶれが揃った。

三浦龍司(順天堂大)2022 織田記念

男子1500mの注目は、やはり東京五輪3000m障害7位入賞の三浦龍司(順天堂大)の参戦という事になるだろう。
昨年はその「本職」の3000m障害では、7月のオレゴン世界陸上の予選で着取りが出来ず、決勝進出を逃してしまったが、その後8月には世界のトップアスリートが集うダイヤモンドリーグのローザンヌ大会で4位に入賞してシリーズチャンピオンを決めるダイヤモンドリーグファイナルへの出場を決めると、9月に行われたファイナルでも4位に入る健闘を見せた。今大会は箱根駅伝などのロードやクロスカントリーなど三浦にとっては距離の長いレースが多い冬期を終え、その中でも世界の舞台で表彰台を目指すために必要なスピードに磨きを掛ける事が出来たのかが問われる事となるだろう。
昨年の大会では後にオレゴン世界陸上5000m代表となった遠藤日向(住友電工)に爆発的なラストスパートで競り勝ち、3分36秒59の当時の日本歴代2位の記録をマークしており、これを上回る走りを見せる事が出来れば、今季世界の舞台での更なる飛躍の期待が一層高まるだろう。
エントリーリストに名前の有った今年2月のアジア室内選手権同種目の金メダリスト、飯澤千翔(住友電工)は残念ながら欠場となったが、そのアジア室内で飯澤の金メダルをアシストする力走の有った荒井七海(Honda)や、一昨年は3分35秒42の日本記録を叩き出すなど、走れば優勝の高い安定感を見せながら昨年は故障で出遅れ、復帰後も好不調の波が大きかった河村一輝(トーエネック)、今季既にニュージーランドの屋外大会で優勝を飾っている勝負強い館澤亨次(DeNA)といった選手たちにとっては、昨年に続き専門外の三浦の後塵を拝す訳にはいかず、この種目のエキスパートとしての沽券を掛けて臨んでくるだろう。国内の屋外シーズン早々から意地のぶつかり合う好レースとなりそうな気配が漂う。

男子5000mは、東京五輪同種目代表の坂東悠太(富士通)、2月の日本選手権クロスカントリーで三浦を降して優勝を飾り調子の良さが伺える塩尻和也(富士通)、昨年11月の八王子ロングディスタンス10000mで日本歴代4位の27分27秒49をマークし、飛躍を遂げた羽生拓矢(トヨタ紡織)が最終6組のスタートとなり、トラック10000m26分55秒の自己記録を持つB・コエチ(九電工)、5000m13分10秒41の自己記録を持つK・ベンソン(SUBARU)らケニア人選手らの力を借り、世界陸上参加標準記録の13分7秒00にどこまで迫れるかが注目となるが、最低限13分20秒を切らなければ、世界選手権へ向けての視界は開けてこない。
また、昨年のU20世界選手権5000m11位の佐藤圭汰(駒澤大)、7位入賞でこの春順天堂大に進んで初のレースとなる吉岡大翔の若手有望株の力がどこまで通用するのかも楽しみの一つだ。
この最終組を占う上で、鈴木芽吹(駒澤大)、鈴木塁人(SGホールディングス)、吉居大和(中央大)、塩澤稀夕(富士通)といった実力者が顔を揃える一つ前の5組のタイムの出方もチェックしておきたい。

男子10000mは2月の香川丸亀ハーフで1時間0分08秒の日本歴代3位の記録を叩き出した太田智樹(トヨタ自動車)、1時間00分11秒の日本歴代4位に続いた篠原倖太朗(駒澤大)の二人が、トラックシーズンに入っても勢いが持続出来ていれば記録も楽しみになってくる。
また、マラソンのベテランの佐藤悠基(SGホールディングス)、岡本直己(中国電力)、大石港与(トヨタ自動車)に、2時間7分台4度と安定感抜群の聞谷賢人(トヨタ紡織)、昨年成長を示した丸山竜也(トヨタ自動車)のMGC組は、本番へ向けてスピード強化の一環としての出場と思われるが、その調整ぶりも注目となる。

女子の注目選手は、豊田自動車を退職し、New Balanceのプロ契約選手として新たなスタートを切る田中希実だ。
昨年は、東京五輪での1500m8位入賞が精神的な重圧となっているように見受けられる場面もあり、オレゴン世界陸上では1500mで決勝進出を果たせなかったが、800mでも代表となり、東京五輪で跳ね返された5000mでは決勝進出を果たすなど、世界に挑む姿勢はぶれていなかった。
今大会では1500m、5000mの二種目にエントリーが有ったが、1500mに絞っての出場となった。
この冬は世界クロスカントリー選手権女子10㎞ではケニア、エチオピア、ウガンダ勢に続き、この三ヶ国を除く国々の選手では最先着となる14位に入る進境を見せている。
2019年のドーハ世界陸上の5000mで初の世界大会代表となって以降、止まることなく国内の中長距離を引っ張り続けていることによる心身の疲労は少なからずあるものと思われるが、パリ五輪を来年に控えて更なる高みを目指し、実業団入り後僅か1年でプロ選手となることを選んだところに、新たなシーズンを迎え、より一層競技に打ち込む並々ならぬ決意が現れている。
元同僚のH・エカラレ(豊田自動織機)や、T・ムッソーニ(ダイソー)といったこの種目を得意とするケニア人実業団選手の出場が無い中、どのようにレースを作り、タイムを出してくるのかが一つの焦点となるだろう。
1500mには田中の他、東京五輪、オレゴン世界陸上同種目代表の卜部蘭(積水化学)、今季より名城大から積水化学に進んだ、昨年5000mで進境を示した山本有真、豊田自動織機からユニクロに移籍をした後藤夢、昨年3000m障害で一気に記録を伸ばした西出優月(ダイハツ)が2組、東京五輪、オレゴン世界陸上代表の山中柚乃(愛媛銀行)が1組からのスタートとなっている。

5000mは田中や、エントリーの有ったMGCファイナリストの一人、佐藤早也伽(積水化学)の回避でメンバーがやや小粒な印象となったが、この冬の駅伝シーズンでは全国都道府県対抗女子駅伝の2区4㎞で区間賞を獲得するなど絶好調だった渡邊菜々美(パナソニック)が3組目に出場、15分28秒41の自己ベスト更新を期待したい。同じく3組には1月の大阪国際マラソンで4位、先月の名古屋ウィメンズマラソンを5位で走り終えたばかりの上杉真穂(スターツ)、2組には大阪国際マラソンで復活を果たした前田彩里(ダイハツ)のMGC組や、2017年のロンドン世界陸上代表で積水化学移籍2年目の今季に復活を賭ける鍋島莉奈の走りにも注目しておきたい。

10000mはエントリー選手自体が少ないが、この種目のリザルトはないものの5000mは15分11秒09、、ハーフマラソンは1時間7分56秒の自己記録を持つO・D・ニャボケ(ユー・エス・イー)に、先月のまつえレディースハーフを制した中村優希(パナソニック)、九電工期待の若手林田美咲、トラックでもロードでも序盤は先頭集団に位置を取る積極的なレースを見せる川村楓(岩谷産業)らがどこまで食らい付けるかがみどころとなるだろう。

女子の中長距離に関しては、マラソンの一山麻緒(資生堂)、新谷仁美(積水化学)、松田瑞生(ダイハツ)、トラック種目の田中、廣中璃梨佳(日本郵政グループ)らトップクラスは世界大会入賞の実績や、それを争うだけの実力を有しているが、その層は決して厚い訳ではなく、近い将来、例えばパリ五輪以降に田中や廣中、10000mで30分台の自己記録のある不破聖衣来(拓殖大)らがマラソンに転向するような事があれば、トラック長距離の人材は現状では若干心もとない。
マラソンでは1月の大阪国際女子マラソンでMGC出場権を獲得した𠮷川侑美(ユニクロ)のような遅咲きで花を咲かせる例もあるので、トラック種目においても若手、ベテランを問わず、自己記録を大きく更新する選手、5000mであればまず15分30秒を切る選手が多く現れるような大会となる事を期待したい。

文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)

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