2023日本学生陸上競技個人選手権大会が、神奈川県平塚市のレモンガススタジアムをメイン会場として(ハンマー投げの会場は同市の東海大学湘南校舎陸上競技場となる)行われる。
昨年代表が決定しながら今年に開催が延期された第31回ワールドユニバーシティゲームズ中国・成都大会の選考競技会を兼ねる今年の大会の注目として真っ先に挙げたいのは東京五輪代表でオレゴン世界陸上では準決勝に進んだ黒川和樹(法政大)、昨年9月の日本インカレでは疲れの色が濃かったとはいえその黒川を降して49秒20の自己記録で優勝を飾り、翌10月の日本グランプリ新潟大会では48秒台が目前に迫る49秒07に記録を押し上げた田中天智龍(早稲田大)がエントリーしている男子400mHだ。
男子400mHは黒川、田中の優勝争いに今季好調の山科が加わるか

黒川は日本インカレの敗北が余程悔しかったのか、今季は3月17日の関東学蓮春季オープンで平場の400mに出場し刺激を入れたあと、400mHの初戦となった4月2日の東京六大学対校戦で早くも49秒35をマークして調子の良さを見せており、田中へのリベンジと共に、自己記録の48秒89を上回る、今年8月に行われる世界陸上参加標準記録の48秒70の突破へ準備も整っている。
田中は3月17日の関東学連春季オープンで黒川に先んじて400mHに出場し、50秒17をマーク、4月2日の六大学対校戦では黒川との直接対決も予想されたなか、対校戦ではなく実業団選手も出場する同種目のオープン競技を選択し、50秒61のタイムながら手堅く1位でゴールとまずまずの走りを見せている。
加えて、昨年まで大きな舞台での実績はなかったものの、10月に行われた日本グランプリ最終戦の田島直人記念のタイムレース決勝で50秒28の自己記録をマークして組1着、別組で出場した黒川のタイムを上回り総合3位に食い込んだ山科真之介(神戸大)が、これで自信を付けたのか、今季初戦となった3月16日の関西学連記録会で50秒33と自己記録に迫ると、4月4日の兵庫インカレで49秒台突入となる49秒61をマークと更に成長を見せており、二人の争いに待ったを掛ける勢いだ。
他にも49秒31の自己記録を持つ陰山彩大、49秒85の岡村州紘の日本大の院生コンビに、自己記録が同じ49秒77の出口晴翔(順天堂大)と井之上駿太(法政大)、黒川、陰山、出口、岡村がこぞって49秒台をマークした昨年の関東インカレの際にはSNS上で感嘆のため息をもらしていた栗林隼正(立命館大)も10月の日本グランプリ新潟大会では自身も49秒台が目前となる50秒08を記録したように力を付けてきている。
予選から着順争いが激しくなりそうで、決勝も学生レベルに留まらないハイレベルなレースとなる可能性が高い。

男子110mHはオレゴン世界陸上代表で、今年3月初旬にオーストラリアで行われたシドニートラッククラシックで13秒25をマークし、ブダペスト世界陸上参加標準記録を突破した村竹ラシッド(順天堂大)が激化が予想される世界陸上代表争いに備えるためか今大会への出場を回避。
変わって注目を集めそうなのが、昨年のオールスターナイト陸上で13秒44の学生歴代3位の好タイムをマークして2着に入った豊田兼(慶應義塾大)だ。
豊田は400mで45秒92の自己ベストを持ち、400mHにおいても昨年の日本インカレで49秒76をマークして田中に次ぐ2位となったマルチハードラーでもあるが、今大会では110mH一本に絞ってエントリーをしてきたところに意気込みの程が伺える。
今季はまだ110mHでの出場はないが、400mHでは東京六大学対校戦で50秒00で黒川に次ぐ2着に入っており、更にコンディションが上がって110mHでも自己ベストで13秒3台に入ってくるようであればこの種目でも世界選手権代表が狙えるポジションとなり、今後400mHと秤にかけてどちらの種目をメインとしていくのか、という贅沢な悩みを抱える事になるかもしれない。
100mはオレゴン世界リレー4×100mリレーでアンカーを務めた柳田大輝(東洋大)がアメリカ遠征を行っていて今大会への出場を見送っており、10秒21と持ちタイムトップの河田航典(立教大)、昨年の日本インカレ100m覇者の宇野勝翔(順天堂大)、昨年の日本インカレ200mで優勝を果たし、今大会ではニ冠を狙い100mにもエントリーしてきた鵜沢飛羽(筑波大)を中心に混戦が予想される。

その他の男子トラック種目ではオレゴン世界陸上のマイルリレーでアンカーを務め4位入賞に貢献し、4月16日の日本グランプリ出雲陸上の300mで2位にとなっている中島佑気ジョセフ(東洋大)は、4月22日に国立競技場で行われる日本グランプリグレード2のTOKYO Spring Challenge 2023の400mへのエントリーを行い、今大会の出場はないが昨年の日本選手権で46秒05をマークして中島に先着する3位に入り、世界陸上マイルリレー代表入りを確実なものとしながら事情により辞退することとなったメルドラムアラン(東京農業大)、4月2日の六大学対校戦で46秒11の好タイムを今季既にマークしている地主直央(法政大)による45秒台を巡る争いの期待が高まる400m、昨年8月にコロンビア・カリで行われたU20世界選手権で7位入賞を果たし、エントリー選手中トップの13分22秒99の自己ベストがある注目のルーキー吉岡大翔(順天堂大)と、13分29秒21を持つ石原翔太郎(東海大)の13分30秒切りの二人に、4月8日の金栗記念の10000mで27分43秒13の日本人学生歴代4位の好タイムをマークした昨年の覇者、篠原倖太朗(駒澤大)も出場に踏み切ってくればかつてない高いレベルでの優勝争いも有り得る5000mにも注目だ。

フィールド種目では昨年10月、シーズン終了間際の日本大学記録会で8m11mを跳び、8mジャンパーの仲間入りを果たした走幅跳の鳥海勇斗(日本大)が再び8mオーバーを記録するようなら、ユニバ代表に留まらず、ブダペスト世界陸上代表も見えてくる。
投擲種目でも4月15日に行われた中京大学記録会で自身初の80mオーバー、日本学生歴代4位となる80m09のビッグスローを投じたやり投げの巌優作(筑波大)と、4月1日の九州共立大記録会で自己記録を77m95に伸ばした鈴木凜(九州共立大)も競い合って更に記録を更新出来れば、鳥海同様に世界陸上代表への期待も膨らんで来るだろう。
また、昨年の大会で1年生ながら18m42を投じて優勝を果たした砲丸投のアツオビン・ジェイソン(福岡大)が、あと43cmに迫っている日本記録の更新なるかにも注目したい。
女子の最注目は三段跳の船田

女子の最注目選手は三段跳の船田茜理(武庫川女子大大学院)だ。昨年の8月のトワイライトゲームズでそれまでの自己記録13m46を35㎝更新し、当時の日本歴代2位となる13m81をマーク。その直後にドイツの大会で森本麻里子(内田建設)が13m82を跳んだことにより歴代2位と現役トップの座を明け渡し、10月には自身も出場していた田島記念で森本に更に2㎝記録を伸ばす13m84㎝を目の前で跳ばれてしまったが、今年に入り4月15日に福岡で行われた朝日記録会で13m56と13m50オーバーを果たした髙島真織子(九電工)を含めた、1999年に花岡麻帆(当時三英社)が14m04の日本記録以来の14mオーバー、そして日本記録更新を巡る三つ巴の激しい戦いのさなかにいる。世界陸上参加標準記録は14m52とこの日本記録を跳んでも尚開きがあるように思われるが、WAから発表されているランキング、Road to Budapest 23での出場権獲得に目を向ければ、まだ国内、海外ともに試合数も少なく、参加標準記録を突破する選手が多数出てくることが予想されるので流動的ではあるが、現在のところライバルの森本はアジア室内陸上での銀メダル獲得により1144ポイントで出場の目安となるターゲットナンバー36位以内の21位、船田もボーダーラインの1100ポイントにあと14点に迫る40位と出場権獲得が見える位置に付けており、資格記録の期限である7月30日まで一戦一戦が非常に重要となっている。森本、髙島との今年最初の直接対決が予想される4月29日の織田記念を前に、13m50オーバーのビッグジャンプで弾みを付けておきたい。
女子トラック400mHの山本亜美(立命館大)も現在Road to Budapest 23のランキングでターゲットナンバー40のところ32番手に付けており、世界陸上出場の可能性が出て来ている。三段跳同様今後参加標準記録を突破する選手が増えるため見通しは立て難いが、セイコーGGPや日本選手権など順位ポイントの高い大会で自己ベストの56秒38を上回る記録、可能であれば55秒台まで伸ばしていければ出場圏内をキープする可能性も高まるだろう。4月2日に行われた京都インカレでは58秒46とまずまずのタイムで1着となっており、そのタイムを上回っての優勝が最低限のノルマとなる。昨年のこの大会で山本を降し、関東インカレで57秒96に自己記録を伸ばした青木穂花(青山学院大)が手強い。

女子100mHは昨年の日本選手権準決勝で自己記録13秒20をマークして決勝進出を果たし、6位に入賞した田中きよの(駿河台大)の力が一歩抜きんでており、優位は揺るがない。
昨年の大会で2位となった13秒38の自己記録を持つ手塚麻衣(富山大)、13秒32の自己記録を持ちながら昨年はなかなか調子が上がってこなかった島野真生(日本体育大)、今季既に4月8日に行われた桜記念東西対校スプリントカップで13秒59をマークし好調の長崎さゆり(青山学院大)らがどこまで田中に迫れるかが見どころとなりそうだ。
女子100mは昨年の関東インカレ女王でグランプリの水戸招待も制している、11秒55の自己ベストを持つ三浦由奈(筑波大)、日本インカレ2位の石堂陽奈(環太平洋大)、同3位の城戸優来(福岡大)の争いに、11秒47と11秒5を切る自己ベストを持ち、本番での出場こそ敵わなかったが一昨年には東京五輪の4×100m代表となった石川優(青山学院大)が昨年後半の故障から復帰し、ここに加わってきそうだ。
石川は桜記念東西対校スプリントカップの100mで11秒73、200mで24秒17をマークして共に青野朱李(NDソフト)に次ぐ2着となっており完全復調も間近だ。
4月16日の出雲陸上で連覇を果たしたばかりの三浦愛華(園田学園女子大)も力を付けているが、雨の中気温も13℃と厳しい気象コンディションでのレースの後だけに、フィジカル面が気懸りだ。
1500mは日本学生記録の4分12秒72を持つ道下美槻(立教大)、4分13秒82で同3位の樫原沙紀(筑波大)、4分15秒72で6位の柳樂あずみ(名城大)の学生歴代トップテンに入る3人の他、小暮真緒(順天堂大)、米澤奈々香(名城大)、澤井柚葉(筑波大)、正司瑠奈(環太平洋大)も4分20秒を切る自己ベストが有り、レベルが高い。
学生記録を更新となる4分10秒切りに期待をしたい。

女子長距離では、5000m、10000mの両種目にエントリーの有る北川星瑠(大阪芸術大)に3月の日本学生ハーフを制した勢いが有り、トラックシーズンでもその勢いが持続出来るのかに注目したい。
10000mには昨年11月の学連10000m記録挑戦会で32分30秒を切る32分27秒29をマークした村松灯(立命館大)32分27秒40をマークした永長里緒(大阪学院大)も優勝をするだけの力を持っている。
女子の投擲種目では、ハンマー投げで2021年にアメリカから日本への国籍変更が認められたジョイ・マッカーサー(NMFA)が4月8日にロサンゼルスで行われた競技会で2004年アテネ五輪代表の室伏由佳が持っていたそれまでの日本記録67m77mを2m以上更新し69m89としたばかりだが、国内でも村上来花(九州共立大)が4月1日の九州共立大記録会で65m33の日本学生記録を樹立。村上が今大会で更に記録を更新できるかに期待が懸る。
また、男女の10000m競歩は、男子は向井大賀(九州共立大)、女子は杉林歩(大阪大)の力が他選手から頭一つ抜けている。
男女の混成種目、男子十種競技は日本インカレを二連覇中の川元莉々輝(立命館大)が自己記録7286点の更新を目指し、昨年まで鹿屋体育大で競技を行い自己ベストは6947点、この4月に筑波大学の大学院に進学した荒岡秀伍がそれを追い、女子は秋の日本インカレを5506点で制した田中友梨(至学館大)が昨年の大会では社会人ながら大卒1年目でユニバ代表を目指して出場した大玉華鈴(日体大SMG横浜)に届かず果たせなかった優勝を狙う。
気温の低かった先週末とは打って変わって大会中は好天に恵まれそうで、ユニバ代表を巡る力の籠った好勝負と共に、出場する各選手の自己記録更新を目指す思い切ったレース、跳躍、投擲に期待をしたい。
文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)
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