男子100mは山縣亮太の復帰戦!世代交代を迫る若手の台頭はあるかオレゴン世界陸上銅メダル、女子やり投北口榛花の今季初戦、女子三段跳の森本麻里子、船田茜理、髙島真織子の三つ巴の争いにも注目!第57回織田幹雄記念国際陸上競技大会のみどころ

2023年のゴールデンウィークが目前となったが、陸上界もこの期間中は日本グランプリシリーズの注目の大会が目白押し。その第一弾となる日本グランプリシリーズグレード1、第57回織田幹雄記念国際陸上競技大会が4月29日にエディオンスタジアム広島において行われる。WAコンチネンタルツアーのブロンズラベルの大会であり、世界陸上やパリ五輪出場に大きくかかわる世界ランキングに反映される獲得ポイントも大きい事も有り、今大会には国内トップ選手のみならず、アジア、オセアニアといった近隣諸国の強豪選手も招待された。実施されるグランプリ種目は男女100m、1500m、5000m、3000m障害、三段跳、やり投げに男子の110mH、棒高跳、女子の100mH、走高跳の男子8種目、女子8種目の計16種目となっている。

男子100mは山縣が右ひざ手術から注目の復帰戦、世代交代を迫る若手の台頭に期待

まず注目となるのは陸上トラック種目の花形、男子100mだ。今大会は2021年10月以来の実戦復帰を迎える日本記録保持者、山縣亮太(SEIKO)の存在が大きい。2022年シーズンは前年の国体後に受けた右ひざ手術後のメンテナンスに充てて全休、当初復帰戦となるはずだった4月2日の六大学対校戦の200mはふくらはぎの違和感で欠場となり、地元広島で開催される今大会までその時期がずれこんだ。競技に対し独自の哲学を持ち、トレーニングや実践へのプロセスもこれまでの経験に培われた独特のスタイルを確立しているが、これまで故障を抱えながらも勝負の懸るシーズンにはその度に鮮やかな復活劇を見せてきた。ベテランに差し掛かり、これまで同様の姿を見せる事ができるのか、パリ五輪へと繋がるタイ・パタヤで行われるアジア陸上選手権やブダペスト世界陸上の代表選考会となる6月の日本選手権で勝利を掴む為の第一歩を注視したい。

山縣と共に長年日本の男子スプリントを引っ張ってきた桐生祥秀(日本生命)も昨年はオレゴン世界陸上代表を目指しながら敗れた日本選手権以降を休養に充てた。3月にオーストラリアで100mの実戦を2度挟み、先週に国立競技場で行われた日本グランプリシリーズグレード2、TOKYO Spring Challenge 2023の200mで山縣より一足早く国内のトラックシーンに復帰、追い風0.7mで行われた予選を20秒83で走り終えると、決勝では向かい風0.7mながら20秒88で1着と、本人的には決して満足していないだろうが、今後に充分な手応えを得られるレースとなっただろう。久々の国内レースを走った後で、更にコンディションが上がってきているのか、楽しみだ。

桐生や山縣が完全復活となれば、男子スプリント陣にとってこれほど頼もしいことはないが、将来に目を向けた時、若手選手たちにとってこの二人はそろそろ乗り越えていかなければならない、立ちはだかる壁とも言うべき存在だろう。
二人に世代交代を迫る期待を担う一番手の存在は昨夏のオレゴン世界陸上4×100m予選でアンカーを担った栁田大輝(東洋大)だ。
まさかの失格に終わった世界陸上予選の後はタイトなスケジュールながらコロンビアのカリで行われたU20世界選手権へと転戦し、個人種目の男子100m準決勝で10秒15の自己記録をマークして決勝に進出、決勝では10秒24で6位入賞を果たし、4×100mリレーではここでもアンカーを担い1着チームの失格による繰り上げながら金メダル獲得を果たした。
今季は更なる成長を期してアメリカ遠征を敢行して経験を積んだ。
これまでは昨年6月の日本選手権で3着に食い込み、最終戦の国体を制すなど要所では勝負強さや安定感を見せてきたが、その反面先述したように持ちタイムは10秒15と突き抜けたものではなく、スプリント界の次期エースの座を確固たるものにするためにも、早いタイミングで10秒0台に突入する事が望まれる。

名古屋大学の大学院生だった昨年、4月の吉岡記念で3位となって俄かに注目を集めたが、その後は故障もあって日本選手権の出場を逃し、9月の日本インカレも本調子には遠かったが、シーズン最終盤になって10月の田島記念でグランプリシリーズ初制覇、肌寒くなってからの11月、エコパトラックゲームズで10秒12をマークし、飛躍の予感を感じさせつつシーズンを締めくくっていた本郷汰樹(オノテック)も期待の若手の一人。
また昨シーズンを通して常に上位争いに顔を出し、自力強化が見られた伊藤孝太郎(東京ガスエコモ)、先週の学生個人選手権では準決勝から非常に切れの有る走りを見せ、決勝では10秒23で2位となった中村彰太(東洋大)。この時期としては動きが良く、注目しておきたい。

その他、本職の200mでスピードに乗る感覚を掴む為に、今季はここまで100mに注力している感のあるベテラン飯塚翔太(ミズノ)、先週の吉岡記念では大幅に出遅れながら後半の猛烈な追い上げで総合2位に入った、爆発力のあるデーデーブルーノ(SEIKO)、福岡大時代の昨年8月、ほぼ無名の存在ながら記録会で10秒11を叩き出した後、日本インカレでは3位入り、今季初戦吉岡記念は気温も低く、また向かい風も有りタイムは10秒54と平凡なタイムだったが、そこからの上積みが期待される原田 暁(北九州RIC)、今季初戦の吉岡記念では10秒56とまだ本来の走りには遠く、今大会でも予備予選のSEIKOチャレンジからのスタートとなった多田修平(住友電工)、2018年ジャカルタアジア大会の200mで小池祐貴(住友電工)と激しい金メダル争いを演じた台湾の楊俊瀚のエントリーがあり、誰が勝ち上がっても決勝は好レースが期待出来そうだ。

女子は北口出場のやり投、女子三段跳は森本、船田、髙島が日本記録に迫れるか

女子の種目では昨年夏のオレゴン世界陸上で銅メダルを獲得、選りすぐりの世界最高峰のトップ選手が出場するダイヤモンドリーグでも2勝を挙げてシリーズ優勝者を決めるダイヤモンドリーグファイナルに進出しここでも3位となった北口榛花(JAL)の出場するやり投、13m80オーバーの自己記録を持つ森本麻里子(内田建設AC)、船田茜理(武庫川女子大)今月15日に行われた記録会で自己記録を13m56まで伸ばしてきた髙島真織子(九電工)の「三強」が今季初めて顔を揃える三段跳に注目だ。

女子やり投は先述の通り日本の陸上界の歴史に新たな1ページを書き加える圧巻の活躍を見せた北口が今季国内初戦でどのような投擲を見せるのかも勿論だが、武本 紗栄(佐賀県スポーツ協会)も北口と共に決勝に進み11位、上田百寧(ゼンリン)直前の脚の故障で不振に追わったが予選を経験するなど世界陸上ではフルエントリーを果たしており、北口の後に続く選手のレベルも高く、更には大卒2年目の長麻尋(国士館クラブ)も世界ランキングで世界陸上出場が狙える位置に付けており、また昨年の国体で2018年の日本選手権以来久々の60mオーバーとなる60m81を投じた2017年ロンドン世界陸上代表の斎藤真理菜(スズキ)が復活傾向にあり、2019年のドーハ世界陸上以降故障に悩まされる事の多かった佐藤友佳(ニコニコのり)も今季初戦の中京大競技会で58m66と上々の滑り出しをみせており、こうしたベテラン選手が加わって今後激化しそうな世界陸上代表を巡る争いからも目が離せなくなりそうだ。

女子三段跳はドイツに拠点を移した森本が昨季10月、シーズン最終戦となった田島記念で13m84に自己記録を伸ばすなど一段と成長を示し、今年に入ってからもヨーロッパのインドアシリーズ、チェコのオストラヴァでの室内競技会で13m53を跳んで2位に入ると、カザフスタンで行われたアジア室内選手権でも13m66で2位となるなど安定して力を発揮、世界ランキングでも世界陸上出場への目安となるターゲットナンバー36以内の31位と、出場圏内に突入している。

昨年の8月のトワイライトゲームズで森本に先駆けて13m80オーバーとなる13m81を跳んだのが船田だ。
今季初戦の兵庫インカレは追い風2.5mで非公認ながらも13m35とまずまずの滑り出しを見せていたが、先週の学生個人選手権では気温が余り上がらなかったコンディションも影響してか追い風2.5mで12m96と13mに届かず、本領発揮には至らなかったものの優勝を飾り、ユニバーシティゲームズ代表を内定させた。
今季序盤の目標を一つ達成し、心理的重圧からも解放される今大会は、動きも変わってくるのではないだろうか。

高島は昨シーズン中盤辺りから13m40近辺を安定して記録しながらなかなか13m50に届かず、森本、船田から遅れを取ったかたちになっていたが、今シーズン初戦の博多の森で行われた朝日記録会でいきなり13m56を記録し、追撃態勢に入った。
この三人に13m82の自己記録を持つオーストラリアのK・キューバが加わり、国内大会としては高いレベルで競い合う中で、いよいよ1999年に花岡麻帆(三英社)がマークした14m04越えが見えてくるのか、期待が高まる。

110mHなど、100m以外の男子種目の見どころは

この他男子の110mHは昨年のオールスターナイト陸上で13秒10を叩き出した高山峻野(ゼンリン)、3月にオーストラリアで行われたシドニートラッククラシックで13秒25をマークした村竹ラシッド(順天堂大)の争いに、昨年に世界陸上の舞台を経験し、今年に入ってヨーロッパの室内シリーズから屋外シーズンに入ったオーストラリアへと転戦する意欲的な姿勢を示している石川周平(富士通)、昨年の世界室内陸上で準決勝進出を果たした野本周成(愛媛陸協)が加わり、更にメイン種目は400mH、村竹が不出場ではあったが先週の学生個人選手権を制した豊田兼(慶應大)が上位に割って入るのかが注目となるだろう。

1500mは金栗記念、兵庫リレーカーニバルと今季グランプリシリーズ2戦2勝と勝負強さと好調さを見せている館澤亨次(DeNA)が世界陸上代表を見据え、記録を狙ったもうワンランク上の走りが出来るかに注目したい。ここでも金栗記念や兵庫リレカ同様、河村一輝(トーエネック)、荒井七海(Honda)の新旧日本記録保持者、今季好調の高橋佑輔(北海道大)に加え、3分37秒36の自己記録を持つ実力者の森田佳祐(SUBARU)がライバルとなりそうだ。

5000mにはオレゴン世界陸上代表の遠藤日向(住友電工)のエントリーがあるが、昨年にそのオレゴン世界陸上の参加標準記録を突破したゴールデンゲームズinのべおかも5月4日に控えており、今大会に出場してくるかどうかは微妙な状況。東京五輪3000m障害7位で、昨シーズンはオレゴン世界陸上では決勝進出を逃したものの、ダイヤモンドリーグファイナルに進出し4位に食い込む健闘を見せた三浦龍司(順天堂大)もここにエントリーしてきており、金栗記念の1500mに続き、メイン種目の3000m障害での今季初戦へ向けて総合的な走力強化に余念がないが、5000mでも13分20秒を切るだけのスピードは充分備えていると見ている。今季はここまで余り調子が上がってきていないが、東京五輪代表の坂東悠汰(富士通)としては、そう簡単に三浦の後塵を拝す訳にはいかないだろう。金栗記念で13分30秒12にまとめた佐藤 圭汰(駒澤大)、金栗記念では佐藤と同組で13分56秒34に留まり、持っている力からすれば大学初戦で力を発揮したとは言い難かった吉岡大翔(順天堂大)の学生二人には、活きの良いレースを見せて欲しい。

3000m障害は、東京五輪、オレゴン世界陸上代表で、この冬もアメリカで武者修行を行った青木涼真(Honda)に、兵庫リレカの2000m障害ではその青木に先行し、あわや逃げ切りかという大激戦を演じてみせた萩野太成が、高校時代から3000m障害における三浦のライバルで、10000mでも27分11秒18の自己記録をマークするなど走力が高まっているP・キプラガット(愛三工業)との勝負に挑む。

フィールド種目ではオレゴン世界陸上でトップエイト進出に迫る9位となったディーン元気(ミズノ)、オレゴンで初の世界の舞台を経験した小椋健司(栃木県スポーツ協会)昨年のAthlete Night Games in FUKUIで雨の中82m99を投じ、長きに渡る故障による不振から脱出の気配を示した鈴木涼平(SUZUKI)と実力者が揃った男子やり投で、80mオーバーのビッグスローを期待。また今季77m95に自己記録を伸ばしている学生の鈴木 凜(九州共立大)は、今大会の出場はないが、今季80m09を投じ、また先週の学生個人選手権では苦杯を喫することとなった同じ学生の巌優作(筑波大)を意識し、更に自己記録を伸ばすことが出来るかにも注目したい。

三段跳ではインドから17mジャンパーのA・ナランゴリンを迎え、16m75の自己ベストを持つ池畠旭佳瑠(駿河台大AC)、昨年の日本インカレチャンピオンの安立雄斗(福岡大)らが胸を借り、また棒高跳では五輪ロンドン、リオ、東京の五輪三大会代表の山本聖途(トヨタ自動車)、5m70の自己記録を持つ竹川倖生(丸元産業)屋外での記録は5m60だが、室内では5m70を跳んでいる石川拓磨(東京海上日動)が5m81となっているブダペスト世界陸上参加標準記録の突破を目指す。

女子もやり投、三段跳の他にもみどころが沢山

女子の100mでは昨シーズンに11秒24の日本歴代2位となる自己記録をマークした兒玉芽生(ミズノ)が登場、昨年はオレゴン世界陸上代表選考の懸る6月の日本選手選手権に合わせてじわじわと調子を上げて行った感が有ったが、今季初戦でどのような走りを見せるのか、昨年幾度となく好勝負を演じたライバルの君嶋愛梨沙 (土木管理総合)との顔合わせも有り、楽しみだ。その君嶋は3月のシドニートラッククラシックで順位は6着ながら既に11秒48で走っており、好調さを窺わせている。海外選手では11秒17の自己記録を持つS・ダリウス(リベリア)が強力だ。

100mHは昨年のオレゴン世界陸上の準決勝で12秒82の日本新記録をマークし、9月の全日本実業団で12秒73に更新と大躍進を果たした福部真子(日本建設工業)が、既に世界陸上参加標準記録を突破している事も有って今季はここまでやや余裕を持たった調整となっているが、今季2戦目となる今大会には、2月のアジア室内選手権60mHで金メダルを獲得したライバルの青木益未(七十七銀行)、昨シーズンをほぼ休養に充てた元日本記録保持者のベテラン寺田明日香(ジャパンクリエイト)が待ち構えており、今大会ではギアを上げてくるか。この3人を追う立場にある選手も、青木と共にアジア室内代表に選ばれ、4位に入賞した清山ちさと(いちご)、昨年の日本選手権の準決勝で13秒09の好タイムをマークしながら決勝を棄権し世界陸上代表選考の舞台に上がることが出来なかった紫村仁美(リタジャパン)、今季すでに13秒12の自己記録に迫る13秒19をオーストラリアのブリスベントラッククラシックで記録した田中佑美(富士通)、昨シーズン最終戦の田島記念で13秒17で2位となり台頭してきた大松由季(CDL)、国体で13秒22をマークした大村美香(南国殖産)、そして先週の学生個人選手権の準決勝で13秒22の大会新記録を打ち立てた本田怜(順天堂大)と、実力者やベテラン、若手を問わず勢いのある選手がずらりと顔を揃えており、予選から激しいレースとなる事が予想される。

1500mでは東京五輪、オレゴン世界陸上代表の卜部蘭(積水化学)に、昨年に世界ランキングでの世界陸上出場に迫るほどの成長を示し、10月に新潟で行われた日本グランプリシリーズのAthletics Challenge Cup 2022では当時同僚だった東京五輪8位入賞でオレゴン世界陸上代表の田中希実に土を付け、今年の金栗記念でも再び撃破し実力を証明した後藤夢(ユニクロ)、学生個人選手権で悲願の学生全国タイトルを獲得した樫原沙紀(筑波大)、4分12秒72の日本学生記録保持者、道下美槻(立教大)と力のある選手がエントリーに名を連ね、好勝負は必至だ。

3000m障害は東京五輪、オレゴン世界陸上の同種目代表の山中柚乃(愛媛銀行)今大会では5000mに回ったが、ドーハ、オレゴンの二大会連続世界陸上代表の吉村玲美(クレーマージャパン)、その吉村に昨年の日本選手権で先着している西出優月(ダイハツ)、西山未奈美(三井住友海上)がエントリーしており、日本選手権の前哨戦と言った趣だ。吉村が9分39秒86、西出が9分38秒95、西山が9分39秒28と揃って自己記録を9分30秒台に乗せ、早狩美紀(京都光華AC)が2008年にマークした日本記録更新も見えてきたが、世界陸上の参加標準記録は9分30秒00から9分23秒00へと一気に水準が7秒も上がり、正念場の年となっている。今大会で勝利を収め、日本選手権に弾みを付ける事が出来るのは誰か、またオーストラリアから招かれた、9分41秒52の資格記録を持つG・ウィンクカップにもきっちりと先着を果たしておきたい。

5000mでは名城大から積水化学に進んだ山本有真、資生堂から三井住友海上に移籍して心機一転、先週のTOKYO Spring Challenge 2023では国内では実施が珍しい2マイルのトラックレースで1着となった樺沢和佳奈のレースぶりに注目したい。

走高跳は昨年に自己記録を1m84に上げ、今年3月の沖縄の記録会で1m85と更に更新している高橋渚(メイスンワーク)が、室内記録ながら1m90を跳んでいるオーストラリアの18歳、E・ショウとの競り合いに持ち込んでの更なる自己記録更新を期待したい。

この時期はまだ天候が不安定なところもあり、記録の出方は気候コンディションによって大きく左右されるが、ここまで縷々述べてきたようにこれだけの選手が揃えば、今年の織田記念ではどの種目も見応えのある勝負が展開されることは請け合いだ。

文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)

記事への感想お待ちしております!twitterもやっています。是非フォローおねがいします!(https://twitter.com/ATHLETE__news

コメントを残す

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。
search previous next tag category expand menu location phone mail time cart zoom edit close