暦も5月に入り、3日からのゴールデンウィーク後半に合わせて陸上界でも5月3日に静岡国際陸上、5月4日にゴールデンゲームズinのべおか、5月5日に水戸招待、5月6日から二日間にわたって行われる木南道孝記念と連日日本グランプリシリーズの日程が組まれている。ここでは男女の世界陸上10000m代表選手選考会が組み入れられた5月4日のゴールデンゲームズinのべおかの見どころについて触れていくことにする。
ゴールデンゲームズ女子10000mは廣中の世界陸上内定なるかが最大の注目点

5月4日に延岡市西階陸上競技場で行われるゴールデンゲームズinのべおかでは、前述のとおりブダペスト世界陸上の選考競技会として男女の10000mが実施されるが、これまでのところ、男子が27分10秒00、女子が30分40秒00と、東京五輪、オレゴン世界陸上と比べ、より水準が厳しくなった標準記録を突破しているのは昨年のオレゴン世界陸上で30分39秒71を記録している女子の廣中璃梨佳(日本郵政グループ)のみで、男子は一人も突破者が現れていない状況だ。廣中は今大会で3位以内に入れば代表に内定、廣中を除く男女の各選手がこの大会で代表を得るには、3位以内に入ることに加え、世界陸上参加標準記録の突破が必要となる。
その廣中がエントリーしている女子10000mは総勢9名と、ブダペスト世界陸上、バンコクアジア陸上選手権の選考競技会にもかかわらず、昨年同時期にオレゴン世界陸上代表選考会として静岡で行われた日本選手権の出場者18人から半減となる少人数でのレースとなることはこの種目の将来を考えるうえでも残念なことだ。今大会では昨年11月に行われた八王子LDでも導入された、設定ペースを光の点滅で示すウェーブライトが導入され、世界陸上参加標準記録と同じ30分40秒00に設定される。この設定ペースでレースを進めていくのは、廣中、五島莉乃(資生堂)の昨年のオレゴン世界陸上10000m代表の二人に、2019年ドーハ世界陸上5000m代表の木村友香(資生堂)になると思われ、実質世界陸上代表争いはこの三人に絞られているといっても過言ではないだろう。
廣中の懸念は体調面
廣中は5000mの決勝で14分52秒94をマークして9位に入り、10000mで7位入賞を果たした東京五輪の激走の後、駅伝などのロードの大会には出場していたが、貧血などの体調不安もあり、トラックシーズンに入ってからぶっつけ本番のかたちで挑むことになった昨年の日本選手権で31分30秒34のタイムで優勝を果たしてオレゴン世界陸上の代表に選ばれ、本番では連続入賞こそ逃したものの30分39秒71の日本歴代2位の好タイムで12位と内容のあるレースを見せた。その後も1500mや5000mで国内の競技会に出場し、タイムこそ出ていなかったものの体調面の問題は解消されているように思われた。しかしながら今年に入り例年出場していた全国女子駅伝の出場はなく、調整段階とは言いながら、2月に出場したアジア室内陸上選手権の3000mでは4位と表彰台を逃し、その後は代表に選ばれていた世界クロスカントリー選手権の出場を辞退と、この冬はこれまでの疲労の蓄積もあり、コンディションが思うように上がってこなかったところもあったのではないだろうか。実力的には疑問符を付ける余地はまったくない選手だが、昨年の再現ができるかどうかは、体調面に不安なく、2月の時点からコンディションが上向いてきているかに懸かっている。

二大会連続代表を目指す五島は参加標準突破も必要
五島は中央大時代から将来を嘱望される選手だったが、資生堂に進んで2年目の2021年の秋ごろからタイムが急速に伸びて結果が出始め、その年の暮れのエディオンディスタンスチャレンジで31分10秒02をマークしてオレゴン世界陸上の標準記録を突破すると、翌年の日本選手権10000mで3位に入り代表に内定。本番では32分08秒68で19位と力を出し切れなかったが、貴重な経験を積み、アスリートとしてのステップアップを果たした。今年に入って2月末にスペインで10㎞ロードレースに出場、10000mではロードレースでもトラックレースと同様に30分40秒を切れば世界陸上への出場資格が得られるのだが、そこには及ばなかったものの30分55秒とあと15秒に迫る好タイムでゴールし、この時点ですでにかなり状態が良かったものと推察され、ここからの上積みも期待できる。廣中と異なり、標準記録を突破できていない五島は順位のクリアと共に、記録を意識する必要もあり、積極的に主導権を奪いに行くのは五島ではないだろうか。
ダークホースはドーハ世界陸上5000m代表の木村
木村は2019年の世界陸上5000m代表で、1500mでも2016年の日本選手権を制し、昨年にはスピード練習の一環として出場したホクレンDC士別大会で4分09秒79と、日本人女子選手として木村も含めて6人のみの4分10秒切りを果たしている。東京五輪は5000mで代表を目指していたがコロナ禍で1年延期となったその間の故障による不振もあって、2021年6月の五輪最終選考会となった日本選手権に間に合わなかった。その後秋には復調、12月のエディオンDCの5000mでは15分02秒48と14分台が目前となる自己ベストでオレゴン世界陸上参加標準記録の突破を果たしたが、翌年6月の代表選考会となった日本選手権では11位に終わり、二度目の世界選手権代表はならなかった。トラック10000mは経験自体が少なく、リザルトは昨年10月の平成国際大記録会でマークした31分51秒05が残るのみだが、駅伝等のロードレースでは同距離をこなしてきており、五島と共に出場した今年2月のスペインでの10㎞ロードでは31分01秒と30分台に迫る記録を残してこの距離でも能力の高さを見せており、代表候補のダークホース的存在と言える。
また女子10000mにはブダペスト世界陸上のマラソン代表に選ばれた加世田梨花(ダイハツ)もエントリーしており、本番へ向けての調整がどの程度進んでいるのかに注目したい。

男子の設定ペースは参加標準記録に及ばない27分55秒
男子のレースはウェーブライトの設定は27分55秒と発表されており、ここまで参加標準記録を突破した選手がいない中でなぜこのタイム設定となったのか疑問も残るが、この設定では後半のペースアップがあっても参加標準に届く水準にまで上げきることは難しいと思われ、まずは上位争いを優先し、その後蒸し暑くなる日本国内より記録を出すことに適した海外レースに、資格記録の期限ぎりぎりまで挑戦させる、という意図が長距離強化委員のなかにあるのかもしれない。
それはともかくとして、女子とは異なり、男子はタイムより勝負重視のレースとなりそうな雲行きとなったのは確かだ。
昨年の世界陸上10000m代表の伊藤達彦(Honda)は今大会では5000mに回っており、有力選手は伊藤に同じくオレゴン世界陸上代表の田澤廉(トヨタ自動車)、昨年の八王子LDで27分27秒49の好タイムをマークした羽生拓矢(トヨタ紡織)、4月の金栗記念で27分42秒49で日本人トップの3位に入った太田智樹(トヨタ自動車)のエントリーが有り、上位争いの中心になると見る。
男子は田澤、羽生、太田智の争いに、塩尻が割って入るか
田澤にとって初の二大世界大会出場となった昨年のオレゴン世界陸上は28分24秒25の20位、以降はその疲れもあったか、ロードシーズンに入ってからの駅伝では所属する駒澤大学は学生駅伝三冠を果たしたものの、優勝への貢献はともかく、個人としては出雲駅伝や箱根駅伝の区間賞を逃しているように例年と比べればやや物足りない結果に終わっていた。しかし3月に入ると10000mの世界陸上参加標準記録の突破を目指しロサンゼルスで行われたアメリカ代表クラスの選手も出場する長距離競技会、The ten に出場し、標準突破はならなかったものの27分28秒04の自身のセカンドベストを記録、調子は上向いてきている。
羽生は八千代松陰高校時代からその将来性を高く評価されていた一方で故障も多く、東海大学では期待されながら箱根駅伝を走ることができなかったが、トヨタ紡織に入社してからは、雑念を振り払い、日々のトレーニングに集中することを心掛け、2年目の2021年から徐々に結果が出始め、3年目に才能が花開いた。
数々の故障を乗り越え、ようやく国内トップクラスに追い付いてきた選手だけに、巡ってきた世界陸上代表へのチャンスを掴み取って欲しいが、6区区間賞と力走したニューイヤー駅伝以降レースに姿がなく、直近にエントリーのあった金栗記念の5000mも欠場となっている点は気懸りだ。
太田は羽生が好記録をマークした八王子LDで27分47秒76をマークしてからぐんぐんと調子を上げ、2月に行われた香川丸亀国際ハーフマラソンでは1時間00分08秒の日本歴代3位の好タイムをマークするなどロードシーズンは絶好調、4月となってからも金栗記念で終盤自らレースを動かしながら先述の通り27分42秒72で3位と内容的にも高く評価できるレースをしており、男子長距離では今最も勢いが感じられる選手の一人だ。
10000mの自己記録も27分33秒13と田澤、羽生に次ぐエントリーのある日本人選手では3番手で、勿論優勝候補の一角を占める存在だ。
ここにもう一人、太田と並び好調さが伺える塩尻和也(富士通)も優勝争いに加わってくるか。塩尻は2016年のリオ五輪で代表となった3000m障害をメインに5000mでも13分16秒53で日本歴代7位、10000mも27分45秒18の自己ベストを持っている。
世界陸上はおそらく5000mでの代表を目指しているものと思うが、金栗記念では10000mを走った太田同様に、中盤以降先頭に立ち、自らレースの主導権を握りながらラストも粘り切り、13分26秒03でケニア人選手の間に割って入る4位となっており、状態の良さが伺え、10000mでも上位争いに顔を出しても全く不思議ではない。
展開のカギを握るのは鎧坂か
鎧坂哲也(旭化成)、河合代二(トーエネック)はおそらく出場権を獲得したMGCへ向けてのスピード強化の一環としての出場と思われるが、10000mでも27分30秒台中盤の記録を持つ実力者でも有り、中盤辺りでレース展開のカギを握る存在になるのではないだろうか。
タイムを狙っていくのなら、PMを務めるR・ケモイ(愛三工業)の後ろの位置を交代で担っていくのが理想だが、5000mから6000m辺りで日本人選手同士で牽制があってペースが緩むようであれば、鎧坂はこれを嫌って、PMとの距離を詰めるような動きを見せることも多い。
優勝を争う有力選手たちとどの様に関わっていくかがレースの行方を左右することもあるかもしれない。

女子5000mは有力選手不在、若手の台頭に期待
ゴールデンゲームズではグランプリレースとして男女の5000mも行われる。女子は田中希実(New Balance)ら世界選手権代表を目指す選手のエントリーは無く、金栗記念や兵庫リレーカーニバルで好走を見せている、兼友良夏(京セラ)、中村優希(パナソニック)、信櫻空(パナソニック)ら実業団の若手選手や、学生個人選手権の10000mを制した山崎りさ(日本体育大)、米澤奈々香(名城大)ら学生選手に15分30秒切りを期待したい。
男子5000mは遠藤が二大会連続代表を目指し、参加標準記録突破を狙う
男子は昨年のこの大会で13分10秒69でオレゴン世界陸上の参加標準記録を突破し、その後の日本選手権を制して代表となった遠藤日向(住友電工)がB組にエントリー、ブダペスト世界陸上の参加標準記録は13分07秒00に跳ね上がったが、昨年の大会の再現を狙う。今季は4月23日の日体大記録会の5000mで13分34秒02で走っており、コンディションに問題はなさそうで、昨年はシーズンインのレースでの標準突破だったので2戦目の今大会は勝負勘、レース勘においても心配はなく、13分05秒となるウェーブライトの点滅にどこまで付いていけるのか楽しみだ。B組には遠藤の他、伊藤達彦、10000m27分31秒27の自己ベストがある清水歓太(SUBARU)、金栗記念の10000mで日本人学生歴代4位となる27分43秒13をマークして好調さが伺える篠原倖太朗(駒澤大)もエントリーしている。伊藤が今大会で10000mではなく5000mにエントリーしてきた意図が掴みにくく、今シーズンにどういった路線を歩んでいくのかが不透明だが、清水や篠原は遠藤同様に参加標準記録を目指してのエントリーと思われる。
文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)
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