ゴールデンウィーク期間中に開催される日本グランプリシリーズの締めくくりとなる、木南道孝記念陸上競技大会が5月6日から二日間の日程で、大阪市のヤンマースタジアム長居を舞台に行われる。
男子十種競技、女子七種競技の混成種目がグランプリシーズ中唯一実施され、また混成種目に加え、男女の100m、400m、800m、400mH、走幅跳、やり投に男子の200m、1500m、110mH、棒高跳、女子の100mH、3000m障害、三段跳、円盤投の計22種目の実施されるグランプリシリーズ最大規模の大会でもある。高速トラックとの定評もある長居での日本グランプリシリーズ最高ランクのグレード1で、また得られるランキングポイントの高いWAコンチネンタルツアーブロンズラベルの大会とあって、実施各種目には多くの国内のトップアスリートに加え、海外からの招待選手がエントリーしている。

男子十種競技には、ロンドン、リオデジャネイロの二大会連続五輪代表、この種目の日本の第一人者の右代啓祐(国士舘クラブ)のほか、昨年のこの大会での2位をステップに、6月の日本選手権・混成競技でも2位となって表彰台に上った片山和也(烏城塗装工業)、昨年の大会は3位、日本選手権も3位と安定した力を発揮した田上駿(陸上物語)がエントリーしている。
日本の混成競技を引っ張ってきた右代啓祐も今年の7月には37歳。スピードの要求される競技ではかつてのようなスコアを残すことはさすがに厳しいのかと思わせる事も少なくないが、国内では苦手としている選手が多い投擲種目で見せるパワーと技術は健在だ。
二日間を通して体をメンテナンスしながら一種目、一種目に最善を尽くそうとする姿勢はアスリートの鑑で、まだまだ後輩たちに範を示し続けて欲しい。
片山、田上はともに穴の少ないオールラウンダーで、安定感がある。片山は100mとやり投、田上は走幅跳と1500mが他の選手に長じ、ここで順位を上げてくる印象だ。
共に6月に控える日本選手権混成競技の制覇へ向けて弾みを付けたい大会だろう。
この3人と台湾からの招待選手、王晨佑による優勝争いが濃厚だ。

女子七種競技は、今年2月のアジア室内選手権で3位となった山﨑有紀(スズキ)、大けがを幾度も乗り越えてきたヘンプヒル恵(アトレ)の国内の女子混成をリードする二人を、年々力をつけてきた大玉華鈴(日体大SMG)、熱田心(岡山陸協)、昨秋の日本インカレと先月の学生個人選手権を制した田中友梨(至学館大)が追いかけてきおり、昨年優勝のヘンプヒルと2位の山﨑の優勝争いとともに、若手三選手が二人にどこまで迫る事ができるかも注目だ。
ヘンプヒルはアジア室内の代表に選ばれていたが足の故障で辞退しており、両ひざの大けがから復活してからも古傷の再発の不安とも向き合いながらの競技が続いているが、昨年は成し遂げられなかった5907点の自己ベスト更新、そしてライバルである山﨑と共に、その山﨑が2021年にメイクした日本記録5975点、さらには日本人選手初となる6000点を視野に入れて臨みたい。
ブダペスト世界選手権の参加標準記録は6480点と現状ではヘンプヒル、山﨑共に少し厳しいが、悲願のパリ五輪出場へ目を向ければ、6月の日本選手権で優勝し、アジア選手権やアジア大会の代表となって大きなポイントを獲得することができれば、ランキングでの出場があるいは視界に入ってくるかもしれない。その意味ではランキングでの下地を作る大事な一戦ともいえる。
若手の大玉は走高跳、熱田は走幅跳で高得点を得るだけの能力があり、学生の田中はどの種目も安定して力を発揮するタイプだ。
特に大玉は1種目めの100mHの競技力も高く、2種目めの走高跳と合わせてスタートダッシュをかけてリードを奪う事ができればそのあとの展開が面白くなりそうだ。
トラック種目に目を向けると、男子100mは先月の出雲陸上を制した坂井隆一郎(大阪ガス)が優勝候補の筆頭で、気候コンディションが良ければ10秒0台では走ってもらいたいところ。
桐生祥秀(日本生命)は悪コンディションとなった織田記念では5位に留まったが、一戦ごとにレース内容は良くなってきている。
多田修平(住友電工)はなかなか調子が上がらず、予備予選からのスタートとなった織田記念では本線に進むことも適わず、自信喪失気味のようだ。
世界選手権の代表選考会となる日本選手権まで残り1か月といよいよ追い込まれてきたが、奮起に期待をしたい。
また、リオ五輪4×100mリレーでアンカーを担い、銀メダル獲得に貢献したケンブリッジ飛鳥も大阪陸協の招待でエントリー、出場すれば2021年8月以来の実戦で、往時の力を再び見せることができるのか注目したい。
200mは静岡国際で世界陸上参加標準記録の20秒16を上まわる20秒10でゴールしながら追い風2.6mと非公認となり幻となった標準突破に、鵜澤飛羽(筑波大)が再び挑む。鵜澤に敗れたとはいえ、オレゴン世界陸上代表の、上山紘輝(住友電工)、飯塚翔太(ミズノ)、加えて水久保漱至(第一酒造)の3人も予選からよく動けており、今回もレベルの高い激戦が予想され、記録の期待も高まっている。

400mも、静岡国際で東京五輪マイルリレーメンバーの佐藤拳太郎(富士通)45秒31の好記録をマークして世界陸上参加標準記録の45秒00の突破が現実のものとなりそうなところまで来ている。その静岡ではひとつ前の組を走った佐藤拳を更に上回ろうかというペースで前半に突っ込み、後半はやや脚が止まったが45秒46の自己ベストでまとめたオレゴン世界陸上マイルリレー4位のメンバー、中島佑気ジョセフ(東洋大)、佐藤拳と同組で45秒74の今泉堅貴(筑波大)、佐藤拳と同じく東京五輪マイルリレーメンバーで、中島と同じ組を45秒85で走った伊東利来也(住友電工)、同組で45秒95と学生個人選手権から二戦連続の45秒台となった地主直央(法政大)と5人が45秒台を記録するなど、選手層も一気に厚くなってきており、昨年に抜群の安定感を見せていた佐藤風雅(大阪ガス)の巻き返しも含め、高野進以来の44秒台もけして夢ではない。
800mでも静岡国際優勝の根本が1分46秒78、今シーズンの800メートル初レースとなった昨年大活躍の薄田健太郎(DeNA)が1分46秒97と1分46秒台をマークし好調さが伺え、日本記録保持者の川元奨(スズキ)、自己記録1分45秒85を持つ金子魅玖人も静岡での雪辱を期しているものと思われ、今大会も激しいレースとなる事は必至の情勢だ。更にもう一人の日本記録保持者、源裕貴(NTN)は静岡ではペースメーカーを務め、600mまでではあったが学生時代の切れのある走りが戻ってきていたように窺われ、優勝争いに加わってくれば1分45秒台の可能性が更に高まる。

110mHは東京五輪、オレゴン世界陸上でともに準決勝まで進んだ泉谷駿介(住友電工)が今季初戦を迎える。ここまでエントリーしていた大会はあったがいずれも回避しており、すでに世界陸上の参加標準記録を突破しているが、日本選手権を一か月後に控え、コンディション面は気になるところ。、初の代表となったオレゴン世界陸上では予選で跳ね返された石川周平(富士通)は、織田記念で東京五輪代表の高山峻野(ゼンリン)を降して優勝を果たした後も引き締まった表情を変えることなく、今年は競技に対する覚悟が変わってきたような印象を受けた。高山に続き泉谷を倒し、この種目4人目の標準突破がなるか、期待も大きい。
400mHも静岡国際のタイムレースで1組スタートとなり、ノーマークの存在だった創部初年度のノジマに所属する児玉悠作が48秒台に肉薄する49秒01の好タイムで総合優勝を果たし、また、ノングランプリのBレースでの出場となった学生個人選手権優勝の小川大輝(東洋大)50秒を切る49秒65をマークと大きく自己記録を更新する選手が現れ、トップレベルの選手層が益々厚くなってきており、黒川和樹(法政大)、岸本鷹幸(富士通)といえどもうかうかとはしていられなくなってきた。
黒川、岸本が勢いのある選手たちを抑え、尚且つ標準記録の48秒70に届くかどうかを注目したい。
フィールドでは男子走幅跳に、オレゴン世界陸上代表の山川夏輝(佐賀県スポーツ協会)、昨年8mジャンパーの仲間入りを果たした鳥海勇斗(日本大)、東京五輪代表の城山正太郎(ゼンリン)、津波響樹(大塚製薬)ら6人の国内8mジャンパーに、資格記録8m11のオーストラリアのH・フレインら海外招待選手も加わり、ハイレベルな戦いとなりそうだ。中でも近年は不振の城山の持つ日本記録8m40はワールドクラスの記録でもあるので、もう一度輝きを取り戻してもらいたい。

女子の注目は雨の織田記念で福部真子(日本建設工業)、青木益未(七十七銀行)の新旧日本記録保持者を抑え、12秒97で日本人選手4人目の12秒台突入を果たした田中佑美(富士通)がさらに記録を更新することができるかに注目だ。
福部も予選ではこの日最速タイムの12秒95をマークしたが、決勝では苦杯を喫するかたちとなり、日本記録保持者として二度は負けられないだろう。
決勝は出場を回避したが、東京五輪代表の寺田明日香も予選を13秒04とまずまずの走りをみせており、田中、福部、寺田の3人によるハイレベルな優勝争いが展開されるだろう。
この3人に続く存在としては柴村仁美(リタジャパン)、清山ちさと(いちご)が安定した力を発揮しており、中島ひとみ(長谷川体育施設)も今季好調、残る2枠の決勝進出を巡っては、大松由季(CDL)、鈴木美帆(長谷川体育施設)、田中きよの(駿河台大)、芝田愛花(エディオン)らで大混戦となりそうだ。
女子100mは昨年日本歴代2位の11秒24をマークした兒玉芽生(ミズノ)の調子が上がっていないのが気になるところ。もともとスロースターターで、昨年も静岡国際から6月の日本選手権への過程で実戦がなく、ぶっつけで間に合わせていたのだが、それでも曲がりなりにも4月はレースをこなすことは出来ていたので、本数自体が少ない今季は実戦不足の不安もある。今大会を挟み、どれほどコンディションを上げていけるかどうか。
現時点では昨年に兒玉と幾度となく好勝負を繰り広げた君嶋愛梨沙(土木管理総合)の仕上がりが良い。
800mの塩見綾乃(岩谷産業は)静岡国際のタイムレースで総合4位、世界ランキングで世界陸上に出場できる可能性がある位置につけており、今大会ではランキングを上げるためにきっちりと優勝を果たしたい。静岡で2分4秒93をマークした好調の池崎愛里(センコー)が強敵だ。
400mHの宇都宮絵莉(長谷川体育施設)、山本亜美(立命館大)も世界ランキングでの世界陸上出場の可能性が有り、、静岡国際では宇都宮が前半から飛ばしたが、終盤に脚が止まり、山本も宇都宮やこのレースで1着となった青木穂花(青山学院大)の積極的なレースに序盤から遅れ気味でやや慌てたのか、持ち味のラストでらしさが見られず組2着、総合4位と「取りこぼし」てしまった。ともに56秒台で優勝し、ポイントの上乗せを図りたいところ。
織田記念の3000m障害では積極的な姿勢を見せた西出優月(ダイハツ)だったが、中盤でオーストラリアのG・ウィンカップに突き放され、終盤をまとめ切ることができなかった。西山未奈美(三井住友海上)は西出を捉えた後は粘りの走りで10分を切ったが、ペースをあげたわけではなかった優勝のウィンカップには10秒ほど差をつけられた。
終盤で大きく遅れたドーハ、オレゴン二大会連続世界陸上代表の吉村玲美(クレーマージャパン)合わせた日本勢3人が、今大会で再び相まみえるウィンカップへの雪辱を果たせるか、というレースになる。
若い3人にとって、今季3000m障害初レースとなるベテラン森智香子(積水化学)の存在は頼もしいだろう。

女子の三段跳は、織田記念で森本麻里子(内田建設AC)と高島真織子(九電工)が13m60の応酬となるハイレベルな争いを繰り広げた。
ともに3回目以降も攻め続けたため、ファウルが多くなったが、好調ぶりが感じられたうえに、お互いを強く意識しており、更に記録が伸びていきそうな雰囲気が出てきている。
14mに迫れるか、そして織田記念では二人の争いに加われなかった船田茜理(武庫川女子大)が今大会では意地を見せられるのかも見どころの一つだ。
女子やり投は織田記念で64m50を投じて優勝し、トラック&フィールド種目でのブダペスト世界陸上代表内定第1号となった北口榛花(JAL)がさらに大きな投擲を見せることが出来るのか、また同じく織田記念で62m07を投げ2位に入った今季好調の2017年ロンドン世界陸上代表、斉藤真理菜(スズキ)が63m80の標準記録に届くのかにも注目したい。
4月の日本グランプリシリーズは天候に恵まれることも少なく、記録もなかなか伸びてこなかったが、5月に入ると気温もほどよくなり、記録面でも上向いてきている。
やはり記録を後押しする天候が最終日まで持つのかも、大きな関心事になってくる。
文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)
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