今年のゴールデンウィークの後半、陸上界では5月3日の第38回静岡国際陸上競技大会を皮切りに、5月4日には第34回ゴールデンゲームズinのべおか、5日には2023水戸招待陸上、そして6日、7日と二日間にわたり第10回木南道孝記念陸上競技大会と連日に渡り日本グランプリシリーズの大会が開催された。
取り分け5月4日のゴールデンゲームズは男女の10000mのブダペスト世界陸上代表選考会を兼ねて行われ、男女のエントリー選手中ただ一人世界陸上参加標準記録を破っており、この大会で3位以内でゴールすれば代表内定となる女子10000mの廣中璃梨佳(日本郵政グループ)に注目が集まっていたが、32分11秒15の4位に終わった。
気温21.4℃ながら湿度は81%と高く、選手にとっては蒸し暑さを感じるコンディションの中、出場8名と少人数でスタートを切ったレースは、この日採用されたペースを視認できるウェーブライトが世界陸上参加標準記録と同じ30分40秒に設定され、スタート直後からこのペース通りにレースをすすめる木村友香、五島莉乃、高島由香(資生堂)、加世田梨花(ダイハツ)、廣中の5名と、このペースを速いと見て避けた選手たちとの二つに分かれレースは進行。
2000m手前でまず資生堂の高島が遅れ始めたが、先頭集団がウェーブライトの設定ペースを維持できなくなってきた2000m過ぎに早くも木村、五島、加世田の3人と廣中との間に3m~4mの差が付き始めた。
廣中がこの微妙な間隔を詰められないものの離されずという周回が2、3周ほど続いたが、序盤先頭を引っ張った木村が3000mを過ぎて一気に遅れ、先頭は五島、加世田の二人、10mほどの差を保つ廣中、さらに10mの差で木村の隊列に変わった。
調子が上がらないものの、このまま3位を保てればとういう廣中は、5000mを15分39秒で通過した先頭の二人から8秒差と粘り、被っていた帽子をかなぐり捨てて懸命に前を追う様子も見られた。
7000m手前では木村が遅れて以降先頭でレースを進めていた五島のペースが上がらないと見た加世田が代わって先頭に立つと、ここに五島が付くことが出来なくなり、前の二人から12秒差の3番手をキープしていた廣中も、気付けば後方の集団から抜け出してきた小海遥(第一生命グループ)に差を詰められていた。
7600m地点で加世田と五島、五島から廣中の差が拡がりつつある一方で、廣中と小海の差は5秒に縮まり、8000m地点で追いつかれた。加世田も五島を突き放しつつあり、レースの焦点はここから廣中が粘ることが出来るかに絞られた。
廣中は納得のいくコンディションでこのレースに挑むことができていないのはこの時点ですでに明らかだったが、それでも代表内定ラインの3位を賭けて、小海との差を数メートルに留めつつ、2位を走る五島との差を詰めていたが、ラスト1周でペースを上げる五島、小海に対し廣中にそれだけの体力が残っていなかった。
加世田が31分49秒56で1着、五島は小海に激しく詰め寄られたが何とか残し、31分59秒00で2着、小海が32分01秒83で3着に入り、小海から10秒余り遅れた32分11秒15の4着で廣中のゴールとなった。
レース後廣中は今年2月からアキレス腱痛に悩まされ本格的な練習復帰も4月以降にずれ込んでいたことを明かしている

優勝を果たした加世田はマラソンでブダペスト世界陸上の代表に選ばれており、本番に向けてスピード強化を図っていく中でここまでマラソンで培ってきた体力が、湿度の高い中でトラック10000mの参加標準記録突破を目指し序盤からハイペースとなり、一人、また一人と集団から選手が脱落していくサバイバルレースを生き残る上での大きな武器となった。
途中ペースは落ちたものの最後まで切れのある動きは出来ており、またトラック長距離の国内トップクラスを相手に一歩も引かずに結果にもこだわりを見せて勝負を仕掛けた辺り世界陸上へ向けてのモチベーションの高さも感じられ、今後が非常に楽しみだ。
2着の五島、3着の小海も世界陸上の参加標準記録突破は果たせず、代表内定とはならず。
優勝の加世田はマラソン代表が既定路線だが、五島、小海は今後、国内外のレースで30分40秒の参加標準記録を破るか、あるいはWAランキング上位での出場資格が得られれば、優先的に代表に選ばれる。
廣中は優先順位は下がったものの他に標準記録を突破する選手がいない状況は変わらず、有力な代表候補であることに変わりはない。
今後は5000mの代表も視野に入れながら日本選手権での優勝と、参加標準記録の突破を目指すものと思われる。調整にかけられる時間は決して多くはないが、まずはしっかりと能力を発揮できるコンディションを取り戻してもらいたい。

男子の10000mはウェーブライトのペースが27分55秒に設定された事により、これまで突破した選手のいない参加標準記録を目指すレースとはならず、WAランキング等で参加資格が得られた際の優先順位をまず決めておくといった色合いの強いレースとなった。
ペースメーカーのR・ケモイ(愛三工業)がレースを外れた後、オレゴン世界陸上10000m代表の田澤廉(トヨタ自動車)、リオ五輪3000m障害代表の塩尻和也(富士通)、杭州アジア大会マラソン代表が決まっている池田耀平(Kao)、千葉大大学院の出身で話題となった今江勇人(GMOグループ)に先頭集団が絞られると、8000m過ぎにペースアップを開始した、今年3月にロサンゼルスで行われたThe Tenの10000mで27分28秒04の好タイムで走っている田澤がまず池田を、次いで今江を篩い落とし、金栗記念の5000mで日本人選手トップになるなど今季好調の塩尻との一騎打ちに。
ロングスパートで更に塩尻を突き放したい田澤だったが、塩尻はきっちりと対応を見せて決定打を許さない。
塩尻は残り3周で間合いを図りながら逆に田澤の前に出ると、残り1周手前でスパート、田澤を引き離し27分46秒82で優勝を果たした。
2位には27分51秒21で田澤が入り、3位の今江が27分55秒82でここまでが27分台、金栗記念の10000mで27分42秒49をマークしていた太田智樹(トヨタ自動車)が池田をかわし4位でゴールしたが、28分00秒47と僅かに27分台に届かず、終盤まで先頭集団で粘った池田が28分09秒10で5位となった。
レース後のインタビューで塩尻は今後は日本選手権の5000mを目標に勝負のレースではしっかりと結果をだしていくと語り、SEIKOゴールデングランプリの3000mをステップに日本選手権の5000mに向かうことが濃厚だ。
ブダペスト世界陸上の参加標準記録の突破を目標にウェーブライトが13分05秒に設定された男子5000mB組は、エントリーのあった昨年のオレゴン世界陸上代表の遠藤日向(住友電工)が欠場。東京五輪、オレゴン世界陸上10000m代表の伊藤達彦が日本人選手最上位となる13分17秒65の12位でゴールした。伊藤は今後、パリ五輪選考会となる12月に予定されている日本選手権10000mで26分台を記録して標準記録を突破することを最大の目標に、春シーズンは5000mでスピードを磨き、6月の日本選手権の優勝を目指していく。
女子の5000mは、B組に出場した東京五輪、オレゴン世界陸上代表の山中柚乃(愛媛銀行)が15分33秒42の自己ベストで1着となった。長期計画で来年に3000m障害のパリ五輪参加標準記録、9分23秒00秒の突破を果たすことを目指し、今年はフラットレースで総合的な走力を上げる事に主眼を置いるという。またA組では山﨑りさ(日本体育大)が15分31秒39で日本人選手トップの4位となり、優勝を果たした4月の学生個人選手権に続き、着実に力をつけてきている事が感じられた。
今大会では代表内定が確実視されていた女子の廣中がコンディション不良で力を発揮できず、10000mは男女ともに内定者はなし、5000mでも男女ともに標準記録を突破する選手がいなかった。
男子の10000mでは世界陸上代表を目指すと公言している田澤が今回の結果でWAランキングでの出場ラインに届くかも微妙な状況で、昨年の日本選手権10000mの後、3位までに入った相澤晃(旭化成)、伊藤達彦(Honda)、市田孝(旭化成)が6月にオランダの大会で参加標準記録の突破を目指して追試を行ったように、資格記録の期限までに再挑戦があるのか、また、女子10000mの五島や小海も同様の挑戦があるのかが、今後の焦点となりそうだ。
文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)
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以上です
日本グランプリシリーズグレード3
第34回ゴールデンゲームズinのべおか
各組上位8名
男子5000mJ組
1)陳内紫音(小林高)14:27.09
2)齊藤莉樹(鹿児島城西高)14:29.85
3)正岡優翔(熊本工業高)14:32.90
4)櫨元優馬(鹿児島城西高)14:33.55
5)田中楓人(熊本工業高)14:37.80
6)山田真生(旭化成)14:51.00
7)飯田ケビン(小林高)14:52.02
8)宮下十碧(鹿児島実業高)14:53.73
男子5000mI組
1)上村直也(ひらまつ病院)14:07.53
2)水野夢大(九州学院高)14:13.72
3)花谷そら(福岡大)14:16.19
4)牟田凜太(鎮西学院高)14:16.37
5)中田千太郎(立命館大)14:19.24
6)藤本祐輔(小林高)14:21.90
7)片山拓海(ひらまつ病院)14:22.53
8)山瀬美大(熊本工業高)14:23.48
男子5000mH組
1)永戸 聖(ひらまつ病院)14:04.76
2)河野琉威(トヨタ自動車九州)14:05.39
3)福谷颯太(黒崎播磨)14:08.88
4)前田義弘(黒崎播磨)14:09.18
5)國安広人(立教大)14:13.46
6)古川大晃(東京大)14:13.52
7)尾形拓海(武蔵野学院大)14:16.15
8)三代和弥(戸上電機製作所)14:18.06
男子5000mG組
1)佐藤慎巴(セキノ興産)13:47.71
2)川田裕也(SUBARU)13:48.80
3)山﨑諒介(戸上電機製作所)13:50.47
4)綱島辰弥(YKK)13:52.73
5)大森太楽(中国電力)13:55.20
6)原田凌輔(メイクス)13:55.55
7)岡田開成(洛南高)13:55.62
8)田村友伸(黒崎播磨)13:56.47
女子5000mC組
1)金丸芽生(宮崎銀行)16:10.63
2)黒田 澪(京セラ)16:12.82
3)豊田由希(愛媛銀行)16:14.10
4)北原芽依(十八親和銀行)16:15.93
5)藤丸 結(十八親和銀行)16:17.31
6)市原梨花(宮崎銀行)16:18.49
7)立山莉緒(宮崎銀行)16:25.64
8)光恒悠里(十八親和銀行)16:27.49
男子5000mF組
1)目良隼人(三菱重工)13:53.24
2)加藤風磨(安川電機)13:54.33
3)小田部真也(黒崎播磨)13:54.78
4)佐々木守(愛知製鋼)13:55.08
5)山本羅生(立教大)13:55.57
6)井川龍人(旭化成)13:56.37
7)宮木快盛(大塚製薬)13:57.46
8)改木悠真(トヨタ自動車九州)13:58.32
男子5000mE組
1)松岡竜矢(Kao)13:39.00
2)中村大聖(ヤクルト)13:40.48
3)大城義己((トヨタ自動車九州)13:40.98
4)米井翔也(JR東日本東京)13:43.89※同着
4)石塚陽士(早稲田大)13:43.89※同着
6)藤曲寛人(トヨタ自動車九州)13:44.00
7)小林 青(マツダ)13:51.45
8)杉山魁声(Kao)東京13:51.77
女子5000mB組
1)山中柚乃(愛媛銀行)15:33.42
2)髙橋優菜(しまむら)15:56.74
3)石松愛朱加(名城大)15:57.40
4)棚池穂乃香(大塚製薬)16:07.34
5)佐々木瑠衣(日立)16:08.62
6)原田紗希(名城大宮崎)16:10.62
7)西田留衣(肥後銀行)16:14.06
8)池内彩乃(デンソー)16:24.70
男子5000mD組
1)横田玖磨(トヨタ自動車九州)13:31.60
2)上野裕一郎(セントポールクラブ)13:32.36
3)中村信一郎(九電工)13:35.02
4)森凪也(Honda)13:35.45
5)M・ダンカン(専大熊本高)13:37.10
6)D・シュンゲヤ(麗澤大)13:38.04
7)N・キプリモ(戸上電機製作所)13:38.61
8)米満 怜(コニカミノルタ)13’41″20
男子5000mC組
1)A・マイナ(トヨタ自動車九州)13:12.26
2)E・キプチルチル(SGホールディングス)13:15.54
3)カマウ・C(NTN)13:16.91
4)M・ムイル(JR東日本)13:18.19
5)キプランガット・D(JFEスチール)13:19.00
6)A・ベット(東京国際大)13:23.83
7)S・サイモン(中央発條)13:24.40
8)モソップ・H(マツダ)13:24.57
男子5000mB組
1)R・エティーリ(東京国際大)13:00.07※大会新
2)B・コエチ(九電工)13:00.38※大会新
3)E・キプラガット13:00.90※大会新
4)テモイ・マイケル(GMO)13:01.48※大会新
5)B・キプランガット(SUBARU)13:02.74※大会新
6)Y・ヴィンセント(スズキ)13:13.12
7)R・キムニャン(ロジスティード)13:13.25
8)S・ワイザカ(ヤクルト)13:13.45
※日本人選手の結果
12)伊藤達彦(Honda)13:17.65
16)鈴木芽吹(駒澤大)13:28.25
17)清水歓太(SUBARU)13:30.83
18)篠原倖太朗(駒澤大)13:36.15
19)吉居大和(中央大)13:39.07
21)小袖英人(Honda)13:54.17
23)中野翔太(中央大)14:05.95
女子5000mA組
1)J・ジュディ(資生堂)15:06.52
2)J・ニーヴァ(パナソニック)15:09.83
3)O・D・ニャボケ(ユー・エス・イー)15:11.25
4)山﨑りさ(日本体育大)15:31.39
5)D・ブルカ(デンソー)15:31.95
6)林田美咲(九電工)15:33.12
7)下田平渚(センコー)15:35.72
8)大森菜月(ダイハツ)15:36.18
男子5000mA組
1)吉居駿恭(中央大)13:27.33
2)荻久保寛也(ひらまつ病院)13:30.13
3)梶原有高(コモディイイダ)13:30.56
4)服部弾馬(NTT西日本)13:37.98
5)塩澤稀夕(富士通)13:41.89
6)平 和真(Kao)13:42.14
7)長嶋幸宝(旭化成)13:42.41
8)長谷川柊(Kao)13:42.45
女子10000m
1)加世田梨花(ダイハツ)31:49.56
2)五島莉乃(資生堂)31:59.00
3)小海 遥(第一生命グループ)32:01.83
4)廣中璃梨佳(日本郵政グループ)32:11.15
5)川口桃佳(ユニクロ)32:22.88
6)逸木和香菜(九電工)32:34.62
7)高島由香(資生堂)32:36.87
8)木村友香(資生堂)32:55.90
男子10000m
1)塩尻和也(富士通)27:46.82
2)田澤 廉(トヨタ自動車)27:51.21
3)今江勇(GMOインターネット)27:55.82
4)太田智樹(トヨタ自動車)28:00.47
5)池田耀平(Kao)28:09.10
6)鎧坂哲哉(旭化成)28:10.19
7)茂木圭次郎(旭化成)28:11.75
8)丸山竜也(トヨタ自動車)28:14.91