やり投では北口に続く代表争いが激戦に、女子100mHのハイレベルな争いの結末は!第107回日本陸上競技選手権の注目ポイント女子編

6月1日から始まる第107回日本陸上選手権で女子の再注目種目は、すでに北口榛花(JAL)が代表に内定しているが、その北口の他にも世界陸上で決勝進出が狙える有力選手が犇めく女子やり投だろう。
北口に引っ張られるように、昨年前半は上田百寧(ゼンリン)、武本紗栄(Team SSP)の北口とほぼ同年齢の若手選手が成長を見せ、オレゴン世界陸上に代表を3人送り込む快挙を成し遂げたが、その世界陸上本番では北口が銅メダルを獲得する躍進を遂げた事により、2017年の世界陸上代表だった斎藤真理菜(スズキ)が奮起、昨年の最終戦となった国体で60m81と久々に60mオーバーを記録して北口に次ぐ2位に入ると、今季は2戦目の織田記念で自身のセカンドベストとなる62m07をマーク、続く木南記念でも61m63を記録と、ブダペスト世界陸上の参加標準記録の63m80にこそ届いていないものの、世界陸上出場資格に関わるWAランキング、Road to Budapest 23で日本人選手の2番手となる17位に浮上するなど目下絶好調。
昨年まで59m台までは幾度か記録していたが、なかなか60mの壁を破ることができていなかった大卒2年目で上田、武本と同世代の長麻尋(国士舘クラブ)も木南記念では61m10と遂に大台に乗せ、今季やや調子のあがっていない武本を抜き、WAランキングで日本人選手3番手の20位に躍り出るなど競技レベルが上がると共に、北口に次ぐ2番手、3番手を巡る争いも激化している。
更に日本人4番手ながらWAランキングでは出場圏内に相当するポイントを、大きな故障もなく大会出場を継続することでこつこつと積み重ねてきた久世生宝(コンドーテック)に加え、オレゴン世界陸上で決勝に進出した武本、昨年のU20世界陸上で6位入賞の辻萌々子(九州共立大)もWAランキングでの世界陸上出場圏内に位置しており、今大会で3位までに入れば代表への望みを以降の大会に繋ぐことができる。
オレゴンでは直前の肉離れを押して出場し本来の力を発揮できなかった上田もようやく故障が癒え、GGPでは60m54をマークして巻き返してきており、今大会でも同様の投擲で上位に入れば良い順位でランキング入りしてくることも考えられ、2019年のドーハ世界陸上代表で、今季は出遅れ気味の佐藤友佳(ニコニコのり)がこの大会に調子を合わせ、上位争いに割って入るような事があれば、残り二つの代表の椅子を巡る7名の争いとなり、そのなかからどの選手が3位以内を確保出来るのか、日本陸上選手権史上屈指の好勝負が繰り広げられるのは必至の情勢だ。

今大会の結果によって、開催国の特別枠を用いた2007年の大阪大会を除き、世界陸上に初めて代表選手を送り込める可能性が高まる三段跳にも注目したい。WAランキングで21位と好位置につける森本麻里子(内田建設AC)は、世界陸上出場への安全圏内に近づきつつあるが、より確実なものとするために、自己記録の13m84以上での優勝を目指したいところ。日本人選手WAランキング2番手の髙島真織子(九電工)は、現在のところ僅かに出場圏内に届いていないが、今季は4月の朝日記録会で自己ベストの13m56を記録すると2週間後の織田記念で13m64、5月に入ると木南記念で13m75と3戦続けて自己ベストを更新、続く九州実業団選手権でも自己ベスト更新こそならなかったものの13m72を記録する好調ぶりを見せており、今大会では自身のその好調のさなかにあっても壁として立ちはだかる森本越えを成し遂げて優勝を手にし、WAランキングのジャンプアップを果たしたい。昨年8月のトワイライトゲームズで、森本、髙島に先駆けて13m81の好記録をマークし、国内女子三段跳トップ選手の記録水準向上のきっかけを作った船田茜理(武庫川女子大)は今季ここまで昨年ほどの勢いを見せることができていないが、それでも織田記念では13m40をマークしており、日本選手権の大舞台で今季先行を許している二人を追いかけ、自己記録に迫るジャンプを見せてくれる事を期待したい。また、長らく破られていない花岡麻帆の持つ14m04の日本記録更新が、この3人による三つ巴の戦いから成し遂げられることも願っている。

長らく破られていない日本記録更新がありそうなのは、走幅跳びも同様だ。オレゴン世界陸上代表の秦澄美鈴(シバタ工業)が静岡国際で6m75を記録し、ブダペスト世界陸上参加標準記録にあと10㎝、池田久美子の持つ日本記録にあと12㎝と迫ってきた。
続くGGPでは6m48に留まってどちらの達成もならなかったが、ファウルとなった試技では、7mに迫ろうかという跳躍も見せており、大記録の達成はもはや時間の問題とも思わせた。ここまで来たのであれば、日本選手権という大一番で、参加標準記録の突破と日本記録更新を一挙に成し遂げる姿が見てみたい。
WAランキングで日本人選手2番手に付ける髙良彩花(JAL)はランキングでの世界選手権出場のボーダーラインの1140点まであと27点の1113点となっている。自己記録6m50を上回る跳躍で秦に勝ち、このラインに迫っていきたい。

女子円盤投の郡菜々佳(新潟アルビレックスRC)と齋藤真希(東海大)も、現在はWAランキングの出場圏外に押し出されているが、ボーダーラインまでのポイント差は郡があと5点、齋藤があと8点と、今大会で好記録を出して3位までの上位に食い込めば、再び出場圏内に入ってくることも可能で、後は残された期限の中でどれだけポイントを重ねることが出来るかが、世界選手権出場への道を開くこととなる。

女子ハンマー投では、日本国籍を取得したJ・マッカーサー(南カリフォルニア大)の日本選手権初出場や、今季日本歴代5位となる65m33をマークした村上来花(九州共立大)が更に自己記録を伸ばせるかに注目だ。
マッカーサーは南カリフォルニア大の学生でアメリカに拠点を置くが、今季は3度の大会出場で69m台が2度とこの3戦でのポイントの平均は1091点で、ランキングに反映される既定の5戦に届かないため参考に過ぎないが、女子ハンマー投のボーダーラインの1064点を上回っている。
日本選手権で3位以内に入り、あともう一戦、同等の記録を資格記録の期限となる7月30日までに残すことができれば、世界陸上出場圏内に飛び込んでくる可能性がある。
村上は現時点でランキングでの世界陸上出場のボーダーラインまで60点ほどの開きがあり、ブダペスト世界陸上代表の座を射止めるのは厳しい情勢だが、来年のパリ五輪へと繋がる投擲を見せてもらいたい。

女子棒高跳で今年4月に4m41の日本記録をマークした諸田実咲(アットホーム)、女子走高跳でWAランキング日本人選手トップの高橋渚(メイスンワーク)も村上同様にランキングでの世界陸上出場へはポイントに開きがあり、諸田にとっては日本記録の更なる更新、高橋にとっては1m85の自己記録を更新することで、パリ五輪への足場固めとなる大会とすることが重要となるだろう。但し、諸田は現在のランキングに4m41の日本記録分のポイントが反映されていないので、この記録の申請が通り、なおかつこの日本選手権でも同レベルの記録で優勝を飾れば一気にランキングが浮上し、世界陸上出場圏のボーダーラインに迫る可能性は残されている。

トラックに目を向けると、最も世界陸上の代表争いが熱く、冷酷な結果を受け止めなければならない選手が出てくるのが100mHだ。
オレゴン世界陸上で準決勝に進み12秒82の日本記録を樹立、帰国後の全日本実業団選手権で12秒73に日本記録を更新し、12秒78の世界陸上参加標準記録を突破した福部真子(日本建設工業)が3位以内で世界陸上代表に内定となるが、その福部を含め、WAランキングで23位と福部を除く最上位に付けている今季成長著しい田中佑美(富士通)、オレゴン世界陸上では福部とともに準決勝に進み、今年のアジア室内選手権の60mHで金メダルを獲得したWAランキング25位の青木益未(七十七銀行)、ランキングでは日本人選手4番手ながら世界選手権出場のボーダーラインをポイントで上回る、GGPで日本選手5人目の12秒台となる12秒96をマークした清山ちさと(いちご)、そしてそのGGPで今季日本人選手最速タイムの12秒86の自己記録をマークした東京五輪代表の寺田明日香(ジャパンクリエイト)の有力選手5人のうち2人にブダペストへの道が事実上潰えてしまうことになる。
新たな参加標準記録突破選手が現れて今大会で内定選手3人が埋まることを期待する一方で、それは勝つ者もいれば敗れ去る者もいる、スポーツの持つ非常な現実を目撃することに他ならず、激戦の目撃者となる事への興奮と、その時が訪れることへの怖れにも似た気分のアンビバレントな感情に襲われていることを告白せざるを得ない。

女子5000mではオレゴン世界選手権で決勝に進出した田中希実(New Balance)と、東京五輪で決勝に進み、この種目の日本記録となる14分52秒84で9位となった廣中璃梨佳(日本郵政グループ)の二人が14分57秒00の世界陸上参加標準記録を突破して3位以内に入り、代表内定を得ることが出来るかが最大の焦点となる。
田中、廣中ともに酷暑の東京五輪を経験しており、14分57秒00は暑さのある中でも決して出せない記録ではないが、特に廣中は、アキレス腱の痛みのために冬季練習が充分に積めず、すでに参加標準記録を突破して挑んだ5月4日のゴールデンゲームズでの10000m代表選考会では4位に終わって代表内定を逃しており、体調面での懸念が残る。
一方の田中は、4月下旬から5月上旬にかけてアメリカでの高地トレーニングに励み、ほぼひと月ぶりの国内大会出場となったGGPではスローペースでけん制しあうレース展開から一転、ラスト1周でアメリカ、オーストラリア、欧州から招かれたライバル選手も寄せ付けない見事なスパートを見せて勝利を飾っており、この大会へ向けてギアを上げてきた印象だ。この二人に、現在WAランキングで25位と世界選手権出場圏内に位置する山本有真(積水化学)がどこまで食い下がることができるかにも注目だ。二人に挑みながら、世界選手権へと通じる3位以内を確保したい。
昨年暮れからトラック、ロードで力を示した渡邊菜々美(パナソニック)、樺沢和佳奈(三井住友海上)も好タイムで3位以内に入れば、山本と立場を逆転することも可能で、世界陸上出場へのチャンスが来ていると言える。
ブダペスト世界陸上のマラソン代表に選ばれ、ゴールデンゲームズの10000m世界陸上代表選考会では廣中を抑えて優勝を果たした加世田梨花(ダイハツ)が、このレースでも上位争いを左右するジョーカー的な存在となりそうだ。

田中は1500mにもエントリーがあり、ここでも4分03秒50の参加標準記録を突破出来るかが注目となりそうだ。
この田中がWAランキングでは26位となっているほか、昨年まで盟友的存在だった後藤夢(ユニクロ)が28位と中位辺りに付け、学生の樫原沙紀(筑波大)も47位と出場枠56名のボーダーライン近くながら出場圏内に入っている。
樫原は3位以内を確保することもさることながら、4分13秒82の自己記録を更新し、出来れば4分10秒を切るくらいのタイムでランキングを押し上げておきたいところ。
後藤も4分9秒41の自己記録辺りの記録を出せれば、ランキングでの出場の安全圏内が見えてきそうだ。
尚、東京五輪、オレゴン世界陸上同種目代表の卜部蘭(積水化学)は欠場することが発表されている。

女子3000m障害は、東京五輪、オレゴン世界陸上代表の山中柚乃(愛媛銀行)が今季は1500mや5000mでの走力を上げることに専念するため、今大会でのこの種目へのエントリーを見送ったが、昨年の日本選手権で9分38秒95の好タイムで山中に迫る2位となった西出優月(ダイハツ)が、先週までのWAランキングで世界陸上の出場選手枠が36のボーダーラインまであと15点の次点、同じく昨年の日本選手権9分39秒28と好走している西山未奈美(三井住友海上)も24点差と、今大会の結果次第で出場圏内に届く可能性のある位置にいたが、5月30日付に更新された最新のランキングではボーダーラインが上がり西出があと23点、西山があと32点とやや厳しくなり、今大会で世界陸上出場圏内に届きそうなのは、昨年のレベルまでコンデションを上げ、優勝を果たしたどちらか一方となりそうだ。
今大会の結果によってWAのランキングで出場圏内の36位内に入っていれば、アジア陸上選手権に代表として派遣される可能性が高まり、出場して上位に入ることが出来れば獲得する順位ポイントが高く、世界陸上出場への可能性も一気に膨らんでくる。
西出、西山ともに一歩も譲れない日本選手権となるだろう。
今季9分56秒15をマークするなど好調な森智香子(積水化学)は、山中が東京五輪代表を決定づけた2021年の日本選手権で、タイムが落ち始める1000mから先頭を引っ張り、結果的に山中の体力の消耗を軽減することとなった好アシストを見せており、今大会でも結果を大きく左右するキーパーソンとなるかもしれない。

その他、400mHでは宇都宮絵莉(長谷川体育施設)がボーダーライン40位のところ36位、山本亜美(立命館大)が1点差の37位、梅原紗月(住友電工)が40位とぎりぎりのところでWAランキングの出場圏内に僅差で踏み留まっており、出来る限り良いタイムでゴールすることもさることながら、互いの順位もランキング変動に大きく左右することになるシビアな戦いとなる。ブダペストに望みを繋ぐためには、56秒台が必須だ。

800mの塩見綾乃(岩谷産業)も出場枠56人中WAランキング51位とボーダーライン付近ながら出場圏内を保っている。
今季は3月にオーストラリアで行われたブリスベントラッククラシックこそ2分04秒06で5位に入り、シーズン序盤としてはその後に期待の持てる内容だったのだが、国内のGPシリーズでは勝ち切れず、ポイントを上げることがなかなか出来なかった。
この日本選手権では勝ち切ることと共に、世界陸上出場圏内をキープするために、高校時代の2017年に記録した、2分02秒57の自己記録更新をしてポイントを積み上げることも求められる。

女子100mでは現役最速タイムの11秒24を持つ兒玉芽生(ミズノ)、今季国内最速タイム11秒53を記録した三浦愛華(園田学園女子大)が欠場となったのは残念だが、WAランキングでボーダーラインの48位まであと13点となっている君嶋愛梨沙(土木管理総合)が出場する。今季復調してきている東京五輪4×100mリレー代表の石川優(青山学院大)や、オレゴン世界陸上で4×100mリレーを共に走った御家瀬緑(住友電工)らがライバルとなるが、11秒36の自己記録を上回る11秒2台で優勝を果たし、世界陸上への出場圏内に突入したいところだ。

女子400mの久保山晴菜もボーダーラインの48位まで20点。自己記録の53秒07を更新する52秒台で優勝して手が届くかどうかというところだ。

久保山に限らず、どの選手もパリ五輪へと目を向けた時には、アジア選手権で高いポイントを得ておくことは、代表争いにおいて大きなアドバンテージとなってくる。
WAランキングで世界選手権出場へのボーダーライン付近に位置する選手は、この日本選手権では世界選手権代表に絡む3位以内を確保するに留まらず、アジア選手権代表への条件の一つになっている今大会を終えてWAランキングで世界陸上出場圏内をキープしているか、そこに突入して尚且つ、優勝か、悪くとも各国出場枠である2位までに入り、代表として戦うだけの力が備わっていることをアピールしておく必要がある。

ブダペスト世界陸上だけでなく、パリ五輪代表へ向けての長い戦いの幕もまた、第107回日本陸上選手権を舞台に切って落とされる。

第107回日本陸上競技選手権 男子編

文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)

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