ブダペスト世界陸上代表選考会を兼ね、パリ五輪へ向けても重要な意味を持つ、第107回日本陸上競技選手権がいよいよ開幕!世界陸上代表を巡る状況と大会の注目ポイント男子編

第107回日本陸上競技選手権大会が、6月1日より4日間の日程で大阪・ヤンマースタジアムを会場に開催される。
今年の大会は8月19日よりハンガリー・ブダペストで行われる世界陸上選手権の代表選考会を兼ねており、今大会で3位までに入り、7月30日の資格記録の期限までに参加標準記録を突破するか、同日付の世界ランク上位選手に与えられる出場資格を得ることができれば、代表選手に選出される。
但し、昨年のオレゴン世界陸上で8位入賞以上の成績を収めた女子やり投3位の北口榛花(JAL)に関しては、4月に行われた織田記念で64m50を投じ、オレゴン世界陸上入賞選手による2023年1月1日以降の参加標準記録突破の選考規定によりブダペスト世界陸上代表に内定しており、男子100m7位のサニブラウン・アブドルハキーム(タンブルウッドTC)が10秒00の、男子走高跳8位の真野友博(九電工)が2m32の世界陸上参加標準記録を今大会で突破すれば、順位にかかわらず規定により即時代表内定となる。

上記3人とは別に、今大会で3位までに入れば世界選手権の代表が内定する、すでに世界陸上の参加標準記録を突破している選手をまとめると、

男子
110mH(13秒28)
泉谷俊介(住友電工)13秒07※2023年5月セイコーゴールデングランプリ
高山峻野(ゼンリン)13秒10※2022年7月オールスターナイト陸上
村竹ラシッド(順天堂大)13秒25※2023年3月オーストラリア・シドニー・トラック・クラシック
3000m障害(8分15秒00)
三浦龍司(順天堂大)8分12秒65※2022年9月スイス・ダイヤモンドリーグファイナル
走幅跳(8m25)
吉田弘道(神崎郡陸協)8m26※2023年セイコーゴールデングランプリ
女子
100mH(12秒78)
福部真子(日本建設工業)12秒73

の男子5名、女子1名の計6名となるが、男子110mHの村竹は織田記念で負った脚の故障が癒えず残念ながら今大会は欠場となった。

また世界陸上の資格記録の対象期間となる昨年7月31日以降のWAランキング、Road to Budapest 23において、各種目に設定された出場枠以内に位置している選手を挙げると、

男子100m(出場枠48)
26)坂井隆一郎(大阪ガス)1225点、48)本郷汰樹(オノテック)1174点

男子200m(48)
28)鵜澤飛羽(筑波大)1192点、39)飯塚翔太(ミズノ)1165点、45)上山紘輝(住友電工)1158点
※46位相当 水久保漱至(第一酒造)1153点

男子400m(48)
29)中島佑気ジョセフ(東洋大)1220点、41)今泉堅貴(筑波大)1156点44)地主直央(法政大)1147点
※45位相当 佐藤風雅(ミズノ)1146点、※47位相当 伊東利来也(住友電工)1143点

男子800m(56)
48)薄田健太郎(DeNA)1123点、52)金子魅玖人(中央大)1119点

男子1500m(56)
35)飯澤千翔(住友電工)1141点、44)館澤亨次(DeNA)1123点、49)河村一輝(トーエネック)1106点
※53位相当 才記壮人(富士山の銘水)1100点、56位相当 高橋佑輔(北海道大)1081点

男子5000m(42)
23)坂東悠汰(富士通)1160点、25)佐藤圭汰(駒澤大)1151点、33)池田耀平(Kao)1124点
※36位相当 鈴木塁人(SGホールディングス)1118点、36位相当 松枝博輝(富士通)1114点、42位相当 吉居駿恭(中央大)1097点、42位相当 吉岡大翔(順天堂大)1096点

男子110mH(40)
※18位相当 石川周平(富士通)1245点、30位相当 石田トーマス東(勝浦ゴルフ倶楽部)1188点、33位相当 横地大雅(Team SSP)1181点、39位相当 徳岡凌(KAGOTANI)1163点

男子400mH(40)
23)岸本鷹幸(富士通)1203点、25)黒川和樹(法政大)1199点、26)児玉悠作(ノジマ)1196点
※27位相当 筒江海斗(スポーツテクノ和光)1187点、29位相当 田中天智龍(早稲田大)1181点、32位相当 山本竜大(SEKI A.C)1158点、39位相当 豊田兼(慶應義塾大)1146点

男子3000m障害(36)
15)青木凉真(Honda)1177点、30)菖蒲敦司(早稲田大)1106点
※31位相当 砂田晟弥(プレス工業)1105点、32位相当 滋野聖也(プレス工業)1091点

男子走高跳(36)
11)赤松諒一(アワーズ)1222点、15)真野友博(九電工)1211点、25)瀬古優斗(滋賀陸協)1171点

男子棒高跳(36)
28)山本聖途(トヨタ自動車)1157点

男子走幅跳(36)
36)山川夏輝(Team SSP)1160点

男子やり投(36)
13)ディーン元気(ミズノ)1193点、18)小椋健司(エイジェックススポーツマネージメント)1140点、19)﨑山雄太(愛媛陸協)1126点、
※23位相当 新井凉平(スズキ)1116点、※31位相当 坂本達哉(THROWING LABO)1085点

女子800m(56)
47)塩見綾乃(岩谷産業)1137点、56)田中希実(New Balance)1103点

女子1500m(56)
26)田中希実(New Balance)1190点、28)後藤 夢(ユニクロ)1156点、47)樫原沙紀(筑波大)1077点
※49位相当 道下美槻(立教大)1072点

5000m(42)
19)田中希実(New Balance)1204点、24)廣中璃梨佳(日本郵政グループ)1151点
25)山本有真(積水化学)1147点
※34位相当 渡邊菜々美(パナソニック)1126点、34位相当 樺沢和佳奈(三井住友海上)1126点、36位相当 下田平渚(センコー)1112点、36位相当 吉川侑美(ユニクロ)1108点、39位相当 山ノ内みなみ(しまむら)1102点、41位相当 川口桃佳(ユニクロ)1092点、41位相当 林田美咲(九電工)1090点、41位相当 信櫻空(パナソニック)1089点、42位相当 小坂井智絵(日本郵政グループ)1086点、42位相当 内藤早紀子(パナソニック)1084点、42位相当 岡本晴美(ヤマダホールディングス)

女子100mH(40)
23)田中佑美(富士通)1226点、25)青木益未(七十七銀行)1220点
※28位相当 清山ちさと(いちご)1190点、37位相当 寺田明日香(ジャパンクリエイト)1164点

女子400mH(40)
33)宇都宮絵莉(長谷川体育施設)1116点、34)山本亜美(立命館大)1115点、37)梅原紗月(住友電工)1106点
※40位相当 伊藤明子(セレスポ)1091点、40位相当 川村優佳(早稲田大)1089点

女子走幅跳(36)
19)秦澄美鈴(シバタ工業)1207点

女子三段跳(36)
21)森本麻里子(内田建設AC)1158点

女子やり投(36)
17)斉藤真理菜(スズキ)1134点、20)長 麻尋(国士舘クラブ)1110点
※26位相当 久世生宝(コンドーテック)1054点、26位相当 武本紗栄(Team SSP)1047点、30位相当 辻萌々子(九州共立大)1036点
となっている。

整理するとポイントによる世界陸上出場圏内にランクされ、各国に与えられる各種目の出場枠3番手までに入っている選手は男子29名、女子15名、国内4番手以降ながらランキング上では世界陸上出場のボーダーラインの選手より高いポイントを得ており、日本選手権で3位までに入り、資格記録の締め切りの7月30日付で出場資格を得られる順位にいれば代表に選ばれる可能性の残る選手が、すでに3枠が参加標準記録突破選手で埋まっている男子の110mHの石川ら、男子20名、女子19名ということになる。

更に現在世界ランクがボーダーラインに迫っており、今大会の結果によっては出場圏内に突入する可能性のある選手を挙げると、

男子100m(48位のポイント1174点)
柳田大輝(東洋大)1173点※あと1点、小池祐貴(住友電工)1170点※あと4点

男子400m(48位のポイント1133点)
岩崎立来(三重県スポーツ協会)1122点※あと11点

男子800m(56位のポイント1114点)
松本純弥(FAJ)1101点※あと13点

男子1500m(56位のポイント1078点)
飯島陸斗(阿見AC)1078点※ボーダーと同ポイント

男子5000m(42位のポイント1095点)
吉井大和(中央大)1089点※あと6点、塩澤稀夕(富士通)1081点※あと14点

男子110mH(40位のポイント1156点)
豊田 兼(慶應義塾大)1156点※ボーダーと同ポイント

男子400mH(40位のポイント1144点)
出口晴翔(順天堂大)1140点※あと4点、山内大夢(東邦銀行)1135点※あと9点、川越広弥(JAWS)1132点※あと12点

男子ハンマー投(36位のポイント1095点)
柏村亮太(ヤマダホールディングス)1091点※あと4点

女子100m(48位のポイント1146点)
君嶋愛梨沙(度棒管理総合)1143点※あと3点

女子400m(48位のポイント1136点)
久保山晴菜(今村病院)1125点※あと11点

女子400mH(40位のポイント1087点)
松岡萌絵(中央大)1083点※あと3点、横田華恋(KAGOTANI)1079点※あと8点、青木穂花(青山学院大)1076点※あと11点

女子3000m障害(36位のポイント1137点)
西出優月(ダイハツ)1122点※あと15点、西山未奈美(三井住友海上)1113点※あと24点

女子三段跳(36位のポイント1106点)
髙島真織子(九電工)1098点※あと8点、船田茜理(武庫川女子大)1095点※あと11点

女子円盤投(36位のポイント1026点)
郡菜々佳(新潟アルビレックスRC)1021点※あと5点、齋藤真希(東海大)1019点※あと8点

女子やり投(36位のポイント1018点)
佐藤友佳(ニコニコのり)1010点※あと8点

の男子12名、女子12名がいる。
女子3000m障害に関しては他の種目と比べボーダーラインまでのポイントに開きがあるが、ランキングに反映されるレース数が3と少なく、順位で得られるポイントが高い日本選手権で上位に入ればポイントアップの可能性は高いと考えらる。

以上のように現時点で世界陸上代表への可能性のある選手は多数に上るが、ヨーロッパではこれからがナイター陸上など競技会のハイシーズンとなり、また各国のナショナルチャンピオンシップも今後行われるために、参加標準記録を突破する選手が増え、ボーダーラインのポイントは現状からかなりの上振れが予想されるなど流動的側面は多々あり、まず参加標準記録を突破することが一番だが、代表選考要項においてより優先とされている、今大会で3位以内に入らなければ、世界陸上代表の可能性がごく僅かに萎んでしまうのが厳しいところだ。

更に加えると、今年の日本選手権は、パリ五輪の資格記録期間に入ってくる7月12日からタイ・バンコクで行われる第25回アジア陸上選手権、ブダペスト世界陸上後の9月23日から中国・杭州で行われる第19回アジア競技会の代表選手選考会も兼ねており、パリ五輪代表を見据え、上位に入れば高い順位ポイントが得られる両大会の各種目の代表枠「2」に食い込んでいくことも重要であり、特に7月に迫るアジア選手権の代表は、日本選手権終了直後の世界ランキングで世界陸上の出場圏内に入っていることが条件の一つになっており、例年以上に上位を巡る争いが白熱するだろう。

以上の点を踏まえつつ、第107回日本陸上選手権の各種目のみどころを追っていくことにする。

男子100mにはサニブラウンがエントリー、今期は4月にアメリカ・ルイジアナ州のバトンルージュで行われた競技会で追い風参考の10秒13を記録しているのが唯一のリザルトとなっている。ここからコンディションが上がっているかどうかがカギとなるが、世界陸上参加標準記録の10秒00を突破すれば即代表内定となるため、いきなり全開の走りを見せる可能性もあり、予選からも目が離せない。日本選手権初の9秒台決着や、山縣亮太(SEIKO)の持つ9秒95の日本記録更新の期待もかかる。
先日のセイコーGGPの予選で10秒08をマークした坂井隆一郎は、サニブラウンと競り合いに持ち込んで標準記録を突破し、日本人選手5人目の9秒台を期待したい。
現在世界ランキングでの出場圏内に入っている本郷汰樹や、それに迫っている柳田大輝、小池祐貴にとっては個人種目での世界陸上出場のためには、3位以内に入っておくことが絶対の条件になる。
4×100mリレーは世界陸上の出場権を獲得出来ておらず、アジア選手権などどこかの場面で世界ランク16位以内の好記録をマークしておく必要があるが、そのリレーの代表となるためには今大会で4位には入っておきたい。
4月の学生個人選手権を10秒19で制した井上直紀(早稲田大)、オレゴン世界陸上4×100mリレー代表の鈴木涼太(スズキ)、東京五輪4×100mリレー代表のデーデー・ブルーノ(SEIKO)らはこの争いに加わっていきたいところだ。

男子200mは静岡国際陸上で20秒10を記録しながら追い風のため参考記録となり、参加標準記録の突破とならなかった鵜澤飛羽の大一番での「走り直し」がなるかに注目だ。
鵜澤は昨年秋に日本インカレを制して以降の成長には目を瞠るものがあり、今期の勢いから考えれば可能性は充分だ。
飯塚翔太は今季はここまで100mを中心に実戦を踏んできており、動き自体は悪くない。ベテランのここ一番での勝負強さは他の選手にとっては要注意だ。
オレゴン世界陸上で準決勝に進んだ上山はシーズン当初こそ昨シーズンの勢いが感じられなかったが、静岡国際では鵜澤に次ぐ2位に入り調子は上向きだ。
世界ランキングでその上山に迫り、激しい日本人選手3位争いを繰り広げている水久保は、何としても上山に順位で上回って3位以内を確保したい。
その他、静岡国際の予選で20秒58をマークした西裕大(早稲田大)に、予備予選からの出場となりそうだが、東日本実業団選手権で20秒65をマークした山路康太郎(サイバー・ネット・コミュニケーションズ)、関西インカレで同じく20秒65をマークした松井健斗(関西大)は直近の大会を制した勢いが感じられ、上位争いに加わってきそうだ。

男子400mはこの種目のエース格のウォルシュ・ジュリアン(富士通)、東京五輪4×400mリレーの予選で第1走を務め、今期45秒75を2度マークするなど昨年の不振から復調してきていた伊東利来也が欠場となったが、45秒31の今季国内最速タイムを叩き出している佐藤拳太郎(富士通)、昨年の世界選手権の4×400mでアンカーを務めた後、自己記録を佐藤拳太郎と並ぶ45秒31まで伸ばした心境著しい中島に、今期出遅れていたオレゴン世界陸上で準決勝に進んだ佐藤風雅もセイコーGGPで45秒52をマークするなどきっちりと仕上げてきており、バルセロナ五輪8位入賞の高野進が1991年8月の東京世界陸上で記録して以来、日本人選手二人目となる45秒切りや、その高野の持つ44秒78の日本記録更新への期待も高まっている。
中島と同様に学生の今泉、地主もそれぞれ自己ベストを45秒65、45秒76に伸ばしてきており、4×400mリレー代表を巡る争いも注目で、ここには静岡国際で45秒95をマークした小渕瑞樹(登利平AC)も加わってくるだろう。
更に今期46秒03をマークしている井上大地(日本大)、46秒07をマークしている吉津拓歩(ジーケーライン)、昨年の日本選手権で46秒05をマークし3位に入ったメルドラムアラン(東京農業大)など45秒台が目前に迫っている選手もおり、決勝進出に向けても予選から気の抜けない激しい争いが待ち構えている。

800mでは薄田健太郎と金子魅玖人の二人が現在のところWAランキングでの世界陸上出場圏内に付けているが、この種目では力のあるヨーロッパ勢がこれからシーズンの佳境に入るため、それぞれ48位、52位とボーダーライン近辺から今大会で得られるポイントを上積みし、どれほどランクアップ出来るかが、出場権獲得へのカギとなってくる。
1分44秒70と日本記録の1分45秒75を1秒上回る水準の参加標準記録を突破できれば無論言うことなしだが、3位以内に入ることを優先しても、日本選手権が終わった段階のWAランキングで世界陸上出場圏内をキープ出来ていれば、アジア陸上選手権の代表に選ばれる可能性が有り、代表となればそこで高ポイントの獲得や、参加標準記録突破を目指すことも出来るようになる。今後の競技人生を占う重要な大会となるだろう。

1500mではWAランキングでの出場圏内に位置し、ボーダーラインまでも20人ほどの余裕があった飯島千翔(住友電工)が故障により今大会を欠場となったのがいかにも勿体ないが、館澤亨次、河村一輝の二人に、800mの薄田や金子と状況がほぼ同様となるが、世界選手権の代表の可能性が出てきている。まずは今大会で3着以内の世界選手権の選考基準を満たすことが最優先だが、ランキングを上昇させることも考慮して、最低限3分40秒を切っておきたいところだ。

5000mは現在のところWAランキングで出場圏内の最上位にいる東京五輪同種目代表の坂東悠汰(富士通)が今季ここまでやや奮っておらず、むしろ昨年の7月31日の資格記録の有効期日の開始日からの既定のレース数に満たないためにランキングに入ってきていない、昨年のオレゴン世界陸上同種目代表の遠藤日向(住友電工)や、今季同種目のトップタイムの13分17秒65を記録している東京五輪10000m、オレゴン世界陸上10000m代表の伊藤達彦(Honda)、今季好調のリオ五輪3000m障害代表、塩尻和也(富士通)らの実力者が、参加標準記録の13分07秒00を目指していくレースになるものと考える。
この実力者たちが世界陸上代表内定を目指す上でキーポイントとなりそうなのが、ここにエントリーしてきた大迫傑(nike)の存在で、東京五輪マラソンで6位に入賞し、パリ五輪へのMGC出場権も獲得、5000mでも13分08秒40の日本記録を保持する大迫が5000mでも本来の力を発揮できるくらいに仕上げて来ていれば、好記録を目指す上では頼もしくもあり、同時に3位以内に入るためには越えなくてはならない高い壁となると言うことも出来るだろう。

男子110mHにはGGPで13秒07の今季世界2位の記録を叩き出した泉谷と、昨年8月のオールスターナイト陸上で13秒10をマークした高山峻野の二人に3位以内に入って世界陸上代表内定への期待が高まっているが、今季は2月の初めからヨーロッパ室内ツアーに参戦した後、3月には屋外シーズンが始まったオーストラリアに転戦する意欲的な姿勢を見せた石川周平が、村竹が欠場となった今大会で、参加標準記録を突破して決勝で3位以内に入り、代表の座を射止めることが出来るのかにも注目したい。今季安定して上位に好走している石田トーマス東にも、代表入りのチャンスが来ている。

日本男子陸上界伝統の種目の一つである400mHは、東京五輪、オレゴン世界陸上代表の黒川和樹や、昨年の日本インカレで49秒07をマークして黒川を破った田中天智龍がここまでのところ力を出し切れずに48秒70の世界陸上参加標準記録を突破出来ておらず、その一方で、昨年まで注目度が高いとは言えなかった児玉悠作が5月の静岡国際で49秒01をマークすると、GGPでは48秒77参加標準記録突破にあと一歩まで迫り、学生個人選手権を制した小川大輝(東洋大)は関東インカレで49秒60に記録を伸ばすし、関西インカレでも栗林隼正(立命館大)が49秒65をマークするなど新興勢力も台頭。
ロンドン五輪代表で昨年オレゴン世界陸上代表に返り咲いたベテランの岸本鷹幸は3月にオーストラリアで行われたブリスベントラッククラシックを制し、筒江海斗(スポーツテクノ和光)もGGPでは49秒35をマーク、東京五輪代表の山内大夢も昨年の不振からは抜け出しており、日本選手権の優勝争いも、3位以内を目指す争いも大激戦となりそうだ。
その他にも関西インカレ2部を制した山科真之介(神戸大)や、中井脩太(大東文化大)、出口晴翔(順天堂大)、豊田兼(慶應義塾大)も今季49秒台をマークしており、予選から標準記録を突破するくらいの覚悟を持って走らなければ、決勝進出も覚束ないくらいに競技水準が上がってきており、その中から誰が日本選手権の栄冠を手にするのか、この種目も予選から目の離せないレースが続く事になるだろう。

3000m障害はすでに参加標準記録を突破している三浦の代表内定に注目が集まるほか、東京五輪、オレゴン世界選手権代表、青木凉真の標準記録突破にも期待したい。
世界ランキングで日本人3番手で出場圏内の30位に付けている菖蒲敦司は4番手の砂田晟弥とは1点差であり、その下を見てもボーダーラインまでけして余裕がある訳ではなく、自己ベストの8分31秒92よりもう一段階上の、8分20秒台前半の記録を出すことが望まれる。

フィールド種目ではまず、走り高跳の真野友博(九電工)が参加標準記録の2m32をクリアし、世界陸上代表内定なるか、アジア室内陸上を制し、ランキングではその真野を上回って出場安全圏に入りつつある赤松諒一が3位以内を確定させて世界陸上の連続代表に近付き、標準記録の突破に挑戦できるのかに注目だ。

棒高跳ではベテランの山本が世界陸上の出場圏内にいるが、ボーダーラインまで余裕がある訳ではなく、また今季は大会によって出来、不出来の波が大きく、安定した跳躍を求めたいところ。

走幅跳では、セイコーGGPで8m26と参加標準記録を1㎝上回った吉田弘道(神崎郡陸協)の動向とともに、東京五輪6位入賞で、オレゴン世界陸上では10位に留まった橋岡優輝(富士通)が標準記録を突破出来るかに注目が集まりそうだ。
今季から一段上のレベルを目指し、改善に着手し始めた助走がまだ安定していない橋岡だが、GGPの6回目では数センチのファウルながら8m50に届こうかという大ジャンプも見せており、踏切さえしっかり合えば「8m25」という数字はクリアしてくれるだろう。
吉田はアルバイト生活を始めてまで続けることを選んだ陸上競技人生で、今後もそうは訪れないであろうビッグチャンスが目の前に有り、是が非でも3位以内を逃したくないところ。重圧もかかるだろうが、序盤の3回を無難に乗り切りたい。
東京五輪代表の城山正太郎(ゼンリン)、津波響樹(大塚製薬)は、GGPで城山が7m94、津波が7m95と一時の不振を脱しつつあり、やはりその実力は侮れない。

三段跳で日本勢の世界ランキングの最上位は池畠旭佳瑠(駿河台大AC)だが、ランキングでの出場圏までは20点の開きがある。
自己ベストの16m85を上回る17m00を目指し、一歩でもこのラインに近付きたいところ。

投擲種目は、砲丸投と円盤投の世界陸上代表選手輩出が厳しい状況となっているが、砲丸投は昨年にアツオビンジェイソン(福岡大)や奥村仁志(センコー)が18m台を投げているように若い世代も台頭してきており、19mに迫るような投擲で世界への足懸りを掴んでほしいところ。円盤投は今季、堤雄司(ALSOK群馬)の持つ62m59の日本記録まであと7㎝に迫る62m52を記録した幸長慎一(四国大AC)に注目したい。

ハンマー投は柏村亮太が世界ランキングでの出場圏内まであと4ポイントと手の届きそうな位置まで来ており、まずは今大会で70mオーバーでの優勝を果たしてポイントを加算し、今大会後のランキングでの世界陸上出場圏内に入ることができれば、アジア選手権代表となる可能性も生じ、7月末の資格期限までにボーダーラインが上がっても、アジア選手権でポイントが加算出来ていれば、世界陸上の出場圏内に踏み止まる事も充分に考えられる。

やり投は昨年のオレゴン世界陸上代表のディーン元気、小椋健司に加え、木南記念で83m54と目の醒めるような投擲を見せた﨑山雄太(愛媛陸協)の3人が現在世界ランキングでの出場圏内に付けており、まずはこの大会で3位以内に入って、今後の標準記録突破や、ランキングでの出場資格獲得を目指したい。今季80m09を投じた巖 優作(筑波大)、3位以内に入って今後に望みを繋げたい一人だろう。

ここに挙げた選手の中から世界陸上代表に内定するのは何名になるのか非常に楽しみであり、またいずれのメディアからも名前の挙がらなかった選手から、いきなり参加標準記録を突破して代表の座を掴み取る選手が現れないとも限らず、そうした想定以上のドラマが起こるのもスポーツの常であり、一つ一つのレース、競技の齎す興奮と感激に触れる四日間となりそうだ。

女子の見どころについては稿を改めたい。

第107回日本陸上競技選手権 女子編

文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)

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