先のブダペスト世界陸上選手権では男子100mでサニブラウン アブデル ハキーム(東レ)が6位とオレゴン大会に続く二大会連続入賞を果たし、柳田大輝(東洋大)も個人種目初出場ながら準決勝進出、男子4×100mリレーでもメダル獲得こそならなかったが37秒81で5位入賞と一定の成果を得た日本男子スプリント陣。世界陸上代表組の他にも今月29日より陸上競技の始まるアジア大会代表の桐生祥秀(日本生命)や、6月の日本選手権終了後、7月にはANG福井を制し復調してきた多田修二(住友電工)、来年のパリ五輪での代表復帰を目指し、大会に出場しながら調整を続ける山縣亮太(セイコー)ら国際大会の実績豊富な重鎮クラスや、シレジア世界リレーなどで代表経験のある鈴木涼太(スズキ)、今期10秒10にまで自己記録を伸ばした東田旺洋(関彰商事)の実力者も控え、また、サブに回り出場には至らなかったが世界陸上4×100mリレー代表に選ばれた水久保漱至(第一酒造)、ロンドンダイヤモンドリーグにリレーメンバーとして派遣された本郷汰樹(オノテック)、アジア大会の4×100mリレー代表の宇野勝翔(順天堂大)ら「新興勢力」も台頭し、選手層は更に厚みを増してきた感がある。
パリ五輪の個人種目代表、リレーメンバー争いは今後激化の一途を辿る事が予想されるが、こうした国内の争いの輪の中に加わってきそうな「新興勢力」の一人が大上直起(仙台大)だ。
岩手の久慈東高校時代の自己ベストは11秒05と10秒台にも届かない選手だったが、仙台大入学後、少しづつ力を付け、大学3年次の2020年に10秒55まで自己記録を伸ばすと翌2021年6月の日本学生個人選手権で全国デビューを果たし4位に入賞、続く日本選手権でも初出場ながら準決勝に進出、7月に行われた実学対抗では10秒35で3位となり台頭の兆しを見せ始めた。その秋の日本インカレで決勝進出を逃して以降はやや停滞し、大学院に進んだ昨年の日本インカレも決勝進出には届かなかったが、11月に栃木の佐野で行われた競技会で10秒37を記録し、復調の気配を感じさせながらシーズンを締め括っていた。
そして今年に入って100m初戦の学生個人選手権は10秒41で6位に入賞、5月の仙台大記録会で10秒27に自己記録を更新、日本選手権では決勝進出を果たせなかったが、7月2日に行われた岩手県選手権の100mで追い風2.6mの参考記録ながら10秒06の好タイムで優勝を飾ってからは、翌週の南部記念を2.1mの追い風参考も10秒23で日本グランプリシリーズ初制覇、続くANG福井では多田に敗れはしたものの、自身初の10秒1台に突入する10秒15をマークして2着に入るなど、強豪犇めく男子スプリント陣の中にあっても勢いが際立つ成長株となった。

そして、8月26日に岩手・北上総合運動公園陸上競技場で行われた、第50回東北総合体育大会、東北陸上競技選手権の100mでは10秒29の大会新記録で圧勝、東北チャンピオンの座をものにした。向かい風1mできっちりと10秒2台を出して勝ち切った事の意義は大きく、存在感は高まるばかりだ。
その大上のこの秋の大目標は、何といっても日本インカレということになるだろう。アジアチャンピオンとして世界陸上を戦った柳田はエントリーこそあるものの、国際大会の連戦が続いたため回避の可能性も無くは無いが、出場に踏み切れば、やはり大本命だ。10秒19の自己記録を持つ井上直紀(早稲田大)、10秒23を持っている 中村彰太(東洋大)のワールドユニバーシティーゲームズ代表組に、アジア大会を控える宇野もエントリーと柳田の他にも実力者が揃った。
高校時代は平凡な選手に過ぎなかったが、遅咲きの才能が開花し始めたみちのくチャンピオンは、アジアチャンピオンを破っての全国大会制覇という下克上を成し遂げる事が出来るのか。
9月14日に開幕する日本インカレは、大上がパリ五輪代表候補として本格的に名乗りを上げるための試金石と言えそうだ。
文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)
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第50回東北総合体育大会陸上競技
男子100m(-1.0)
1)大上直起(仙台大)10.29
2)伊藤 輝(ミクロン精密)10.57
3)菅野凌平(いわき光洋高)10.63
4)佐々木琢磨(仙台大TC)10.64
5)星 颯人(仙台一高)10.78
6)中塩和幸(秋田大)10.80
7)米森裕一朗(秋田陸協)10.87
8)木村光一郎(秋田商業高)10.89
大上の高校時代の練習場所逃す多くは、久慈川河川敷のコンクリート上でした。また、一月生まれであり、相対年齢効果もあり、10秒台には届かなかったという面もあります。