女子はワールドユニバーシティーゲームズ三段跳代表の船田茜理、世界陸上400mH代表の山本亜美に注目!第92回日本学生陸上競技対校選手権大会の展望 女子編

天皇賜盃第92回日本学生陸上競技対校選手権大会のみどころの男子編に続き、今回は女子編。

女子で最初に名前を挙げて置きたいのが、三段跳の船田茜理(武庫川女子大)だ。
この種目では、森本麻里子(内田建設AC)が、1999年に花岡麻帆(当時三英社)が14m04を記録して以来途絶えていた14mオーバーとなる14m16で日本記録を更新、今年に入り自己記録を13m82まで伸ばした髙島真織子(九電工)とともにWAランキングで世界陸上に出場を果たし、本番では世界の壁に跳ね返され、決勝進出はならなかったが、日本の女子陸上界の歴史に新たな一歩を刻み込んだ。
この新たな一歩への起爆剤となったのが、昨年の8月に行われたトワイライトゲームズで船田が記録した、13m81だった。
この時、ドイツに遠征中だった森本は船田のビッグジャンプから2週間後の大会で13m82と船田の記録を1㎝上回る当時の自己記録をマークすると帰国後の10月に行われた田島記念では13m84に記録を更新し、14mジャンプへの足場を築いたことが、今年6月の日本選手権での大記録に繋がった。
きっかけを作った船田も今季のシーズンベストはハイレベルとなった日本選手権での13m54とこれまでの基準からすれば決して悪くはないのだが、世界陸上代表となった森本、髙島にやや水を開けられた感は否めない。
代表となったワールドユニバーシティゲームズでも13m23で8位入賞を果たしたが、本来の力を出し切ったとは言い難いく、昨年後半の勢いがやや萎んできている印象なので、日本インカレでは昨年のトワイライトで見せた爆発的な跳躍の再現を期待したい。

アジア選手権は57秒80で銅メダル、ユニバでは予選、準決勝、決勝と57秒台を3本揃える安定感で57秒19で5位入賞を果たし、その遠征先でWAからの世界陸上へのインヴィテーションが届き、この夏の国際大会三連戦で皆勤を果たしたのは、400mHの山本亜美(立命館大)。国内の大会では序盤は抑え気味に入り、中盤以降追い上げるレースを得意としてきたが、国際大会では前半に置いて行かれてしまうと上位に絡めずに終わってしまう可能性が高いため、世界陸上の予選では序盤から攻めの走りを展開、57秒76で8位と結果は伴わなかったが、前半からスピードに乗っていった点については一定の手応えを得ていたように感じられた。
世界の舞台では57秒台では勝負が出来ず、自身のベスト記録の56秒05くらいの記録が予選の一本目から求められるが、世界陸上出場を経た今大会でそうした点を意識した走りが出来るのか、予選から注目したい。
57秒台の決着になれば、山本より一足早く後半型から前半型への転向を図ってタイムも57秒48まで伸ばしてきた青木穂花(青山学院大)にもチャンスが出てくる。
5月に行われた静岡国際のタイムレースを58秒12の自己記録で制した実力者の川村優佳(早稲田大)は、卒業後に競技を継続しないことを明かしており、ラストインカレは57秒台の自己記録という有終の美で飾りたいところだろう。
今季はまだ57秒台を記録していないが、昨年はU20 世界陸上の代表にも選ばれ、57秒57を自己記録に持つ松岡萌絵(中央大)、好不調の波は有るが、今年の日本選手権では57秒84の自己記録で5位と健闘した工藤芽衣(立命館大)も上位争いに加わる力は有している。

女子1500mの樫原沙紀(筑波大)はユニバで4分18秒57で5位に入る健闘を見せた。
国内レースでは、前半はポジション争いで転倒に巻き込まれないことを優先しているのか後方に控えるレースが多い選手で、勝負どころでは多少強引に外目を回って位置取りを上げても上位争いに加わることが出来ているが、それがよりレベルの高い国際大会では通用しないことも理解しており、ユニバの決勝では積極的にレースを進める度胸の良さ、後半は粘り切るレースに転じる対応力の高さを持ち合わせてるのが樫原の良いところだ。
ロングスパートにも持ち味があるが、更に上を目指し、すぐに田中希実(New Balance)の域にとは言わないまでも、東京五輪代表の卜部蘭(積水化学)、ブダペスト世界陸上代表の後藤夢(ユニクロ)の代表クラスに追い付いていくためには、4分10秒を切るスピードも必要となってくる。
4分14秒88の日本学生記録を持ち、今年の学生個人選手権で3位に敗れて大粒の涙を止められなかった同学年の道下美槻(立教大)は実力の拮抗した良きライバルで、二人で競い合い、4分10秒を切ることが出来れば理想的だ。
4分16秒87の自己ベストを持つ小暮真緒(順天堂大)、国内GP大会やホクレンDCなどでPMを担いながら力を付けてきた正司瑠奈(環太平洋大)も上位争いに加わってくるだろう。

円盤投では東京女子体育大時代から3度日本インカレを制し、東海大の大学院へと転じた斎藤真希が三連覇に挑む。
アジア選手権では54m19で4位に入賞、400mHの山本亜美と同じように、54m38で8位入賞を果たしたユニバの期間中に、WAからの世界陸上へのインヴィテーションを受け、世界陸上出場と三大会を皆勤も、世界陸上では予選通過ラインが自己記録の57m43を大きく上回る61m31、自身は53m20で予選落ちと、現状では世界陸上に出場することはできても、予選通過ラインは遠く、上位選手との力の差を痛感したことだろう。
その差を埋めていくのは簡単ではないが、3回目までに自己記録に近い投擲をする事を意識し、コンスタントにそれが出来るように力を付けていく必要があるだろう。
この日本インカレで、自己記録更新での三連覇達成となるかに注目したい。

女子の七種競技では、ユニバの代表となり、六種目終了時点まで自己記録更新ペースで競技を進めながら、最終種目の800mでインレーンに侵入する反則があったとみなされ、総合4670点の22位に終わった田中友梨(至学館大)がその無念をすべて日本インカレに叩きつける。

その他の種目はトラックの100mから、この種目のユニバ代表の石川優(青山学院大)、三浦由奈(筑波大)、200m代表の三浦愛華(園田学園女子大)の3人に、国内グランプリシリーズ出場で力を蓄えた岡根和奏、藏重みう、奥野由萌の甲南大学勢の力が拮抗し、混戦が予想される。石川と三浦愛華は故障上がりでユニバに挑んでおり、コンディション面は気になるところ。田路遥香(中央大)、城戸優来(福岡大)も上位争いに加わってくるか。

200mはユニバ代表の井戸アビゲイル風果(甲南大)と400mでも優勝候補に挙がる児島柚月(立命館大)、森山静穂(福岡大)の争いか、持ちタイムの良い田島美春、100mにもエントリーのある城戸(共に福岡大)も侮れない。

400mは昨年の大会を制した森山、今年の個人選手権優勝の児島、日本選手権で3位となった安達茉鈴(園田学園女子大)の争い。特に安達は9月2日の近畿選手権では100mに出場し、11秒67の好記録で優勝するほどスピード面に磨きが掛かっており、それがロングスプリントにどう生かされるのか、楽しみだ。

800mは日本選手権で2位に食い込んだ渡辺愛(園田学園女子大)が7月のホクレンDCで2分3秒75の好タイムをマークするなど、力を伸ばしてきた。樫原は800mでも昨年の日本選手権で3位に入った実力があり、今年はユニバ出場後の8月の記録会で自己記録の2分5秒64をマークしている。今年の学生個人選手権を制した長谷川麻央(京都教育大)も2分5秒65と持ちタイムも上位で、昨年の大会で2位、今年の個人選手権も2位、関東インカレでは悲願の初優勝と各大会で成績が安定しているヒリアー紗璃苗(青山学院大)と共に優勝候補の一角だ。

5000mは大東文化大のケニア人留学生、S・ワンジルの力が一枚抜けているが、ユニバで3位と表彰台に登った山﨑りさ(順天堂大)や、15分31秒63のPBを持つ米澤 奈々香(名城大)がどこまで食らいついていけるかがポイントの一つ。

10000mもワンジルに日本人選手が挑む構図で、ユニバのハーフマラソンで金メダルを獲得した北川星瑠(大阪芸術大)の粘りに期待をしたい。

女子100mHは学生個人選手権優勝の伊藤彩香(福岡大)や同じく2位の本田怜(順天堂大)が今季大幅に自己記録を更新したが、日本選手権を見る限り、寺田明日香(ジャパンクリエイト)や福部真子(日本建設工業)ら国内トップ選手との差はまだまだ感じられた。
やはりこうした選手に近付いていくには、決勝から逆算して予選の走り方を想定するだけでなく、予選の一本目から自己記録を目指す準備を常にしておく事が求められるのだろう。
伊藤はユニバの代表となったが、14秒18で7着と本来の出来ではなく、コンディション面が気懸り。
春シーズンは出遅れていた昨年大会のチャンピオン、田中きよの(駿河台大)は13秒20のベストタイムと昨年の日本選手権6位入賞の経験があり、コンディションが戻っていれば、もちろん優勝候補に挙がってくる。

女子3000m障害は昨年まで圧巻の強さを見せていた吉村玲美(大東文化大からクレーマージャパン)のような大本命は見当たらず、学生個人選手権を制した川瀬真由(大東文化大)、昨年大会と今年の関東インカレを制している齋藤みう(日本体育大)、関東インカレ2位の山田桃愛(玉川大)、関西インカレを制した山下彩菜(大阪学院大)らの実力が拮抗しており、混戦となりそうだ。優勝争いだけでなく、タイムも9分台を目指して競り合ってもらいたい。

フィールド種目に目を移すと女子走高跳も飛び抜けた記録を持つ選手はなく、伊藤楓(日本体育大)、諸隈あやね(日本女子体育大)、和田真琉(大阪体育大)、細田弥々(日本体育大)、八重樫澄佳(筑波大)らによる、場合によってはジャンプオフや試技数勝負にもつれ込む大激戦が予想される。

棒高跳は日本選手権3位でアジア選手権7位入賞の台信愛(日本体育大)が優勝争いの中心だが、昨年の大会と今年の学生個人選手権で2位となり、関西インカレでは優勝を果たした大坂谷明里(園田学園女子大)は各大会で見せる抜群の安定感で対抗する。

走幅跳は直近の8月27の四国選手権で6m30の自己記録をマークした木村美海(四国大)が優勝候補の筆頭。布勢スプリントで2.1mの追い風参考ながら6m41をマークしたことが自信につながっているのかもしれない。日本選手権でも6m22で5位に入っており、6m20台を安定して記録出来ている。南部記念を6m13で制した中尾優花(福岡大)や布勢スプリントで自己ベストの6m11をマークして3位となった北田莉亜(関西学院大)は今季複数回6mを記録するなど好調で、木村を追いかける存在だ。

女子砲丸投げは大学院生の大野史佳(筑波大)が埼玉大学2年時の2020年からの四連覇の偉業に挑む。今季15m14を投げている久保田亜由(九州共立大)が偉業阻止の第一候補か。

ハンマー投はアジア選手権では3位となって表彰台に登り、ユニバでも6位に入賞した村上来花(九州共立大)が他選手を圧する実績と実力を誇り、有利は揺るがない。65m33の自己記録を更新できるかが注目ポイントだ。

ブダペスト世界陸上で北口榛花が金メダルを獲得したやり投では、昨年の大会を59m49で制した木村玲奈(新潟医療福祉大)や 57m86の自己記録を持つ辻萌々子(九州共立大)が次代を担う存在だが、今シーズンの木村はベスト記録が55m46とけして調子が良い訳ではない。関西インカレを56m57で制した篠田佳奈(京都大)や4月の学生個人選手権で56m16を投じて優勝した大学院生の兵藤秋穂(筑波大)にもチャンスはある。

女子10000m競歩は順当であればユニバの20km競歩で6位入賞、ブダペスト世界陸上20km競歩で30位となった柳井綾音(立命館大)とアジア選手権4位の内藤未唯の争いだが、特に柳井は真夏に短いスパンで20kmの国際大会を2度歩く過酷な日程を消化しており、疲労を持ち越していないかが心配な点だ。ベストコンディションではないとなると、学生個人で優勝している山岸芽生(中京大)や2位となった杉林歩(大阪大)、西日本インカレを制した下岡仁美(同志社大)にもチャンスは出てくる。

暦は9月半ばに入っても残暑は厳しく、開催地の熊谷では最高気温34℃が予想されている。現4年生はコロナウィルスの感染拡大防止による活動停止期間の真っただ中に入学してきた世代であり、昨年までの丸3年間は何らかの感染対策を余儀なくされるなか、努力を重ね、競技を続けてきた選手たちでもある。
よりよいパフォーマンスを発揮して、悔いの残らない日本インカレとなることを願っている。

文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)

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