男子は世界陸上で結果を残した100mの柳田大輝、400mの中島佑気ジョセフ、400mHの黒川和樹、ダイヤモンドリーグで爪痕を残した村竹ラシッドの及ぼす波及効果に注目!第92回日本学生陸上競技対校選手権大会の展望

学生陸上の祭典、天皇賜盃第92回日本学生陸上競技対校選手権大会が、9月14日より四日間の日程で、埼玉県熊谷市の熊谷スポーツ文化公園陸上競技場にて行われる。パリオリンピック開幕まで1年を切り、アジア選手権やワールドユニバーシティーゲームズ、ブダペスト世界陸上などの国際大会を経験した選手や、この大会後の9月29日より陸上競技が行われるアジア大会を控える選手が数多く顔を揃え、また惜しくも代表の選考から漏れリベンジを誓う選手や、関東学連や関西学連の伝統的に強さを誇る陸上強豪校ではない地域の大学の選手も台頭してきており、学生陸上界の裾野の広がりと共に、競技力の向上が感じられ、例年にも増して各種目での熱い戦いが繰り広げられそうだ。

中でも第一に挙げたい注目種目は、アジア選手権決勝で10秒02をマークして優勝を遂げ、ブダペスト世界陸上でも準決勝進出を果たした柳田大輝(東洋大)がエントリーしている男子100mだ。
柳田は6月の日本選手権から7月のアジア選手権、そして先月のブダペスト世界陸上と勝負の大会が続き、アスリートとしての経験値を高めた一方で、その代償としてフィジカルにおいてもメンタルにおいても相当な疲労もある事は想像に難くない。
しかしながら今や学生陸上界を牽引していくだけでなく、男子スプリント勢の主軸の一人となった柳田がここに出場することで記録の水準は上がり、他の選手に及ぼすポジティブな影響は非常に大きいだろう。
またパリ五輪の参加標準記録、10秒00をこの大会で突破できるかも注目点の一つ。
9秒台に突入することがあれば、学生としては2017年大会で日本人選手初の9秒台となる9秒98の大会記録を打ち立てた桐生祥秀(当時東洋大、現日本生命)以来となる。

この柳田を追うのが、今年4月の学生個人選手権を制しワールドユニバーシティゲームズの代表となった井上直紀(早稲田大)、井上と共にユニバを経験した中村彰太(東洋大)、昨年のチャンピオンで今年は日本選手権200mで2位と激走し、大会後に行われるアジア大会のリレー代表に選ばれている宇野勝翔(順天堂大)、7月の南部記念で日本グランプリシリーズを初制覇、続くAthlete NightGames inFUKUI2023でも10秒15をマークし、多田修平(住友電工)に続く2着にはいった大上直起(仙台大)ら。
井上は予選を突破できず、中村は準決勝敗退と、共にユニバでは力を示せず無念の結果に終わっており、今大会は復調をアピールする場と言えるだろう。
宇野は春先からの、大上はこの夏好調の勢いで柳田に迫りたい。
また、日本選手権の準決勝で10秒24の自己記録を叩き出して決勝に進出し7位に入った灰玉平侑吾(八戸学院大)の大舞台での強さも侮れない。
こうした選手たちが柳田に引っ張られ、10秒1台前半から10秒0台で走ることが出来れば、パリ五輪へ向けて、男子スプリント陣の選手層が更に厚みを増すことになる。
そして、世界陸上の200mで準決勝進出を果たした鵜澤飛羽(筑波大)も100mにエントリー、大会後に控えるアジア大会でメイン種目の200mの代表となっており、おそらく今季のここまでの疲労の蓄積などを考慮し、調整を主眼としているものと考えられるが、後半に強い鵜澤がレースに加わることで、他の選手にどういった「化学反応」が起こるのかは楽しみなところだ。

選手層に厚みが出てきている点で負けていないのが男子400m。
ブダペスト世界陸上で佐藤拳太郎(富士通)が予選で44秒77と、高野進氏が長きに渡って保持していた日本記録を更新し、準決勝で佐藤風雅(ミズノ)が44秒88で続いた事が記憶に新しいが、もう一人の代表、中島佑気ジョセフ(東洋大)が今大会にエントリー。
昨年のオレゴン世界陸上のマイルリレーのメンバーとしてメダルにあと一歩に迫る4位入賞に貢献し、帰国直後の実学対抗で自身初の45秒台となる45秒72で優勝を果たすと、その後も成長は止まらず、今期は日本選手権を45秒15の好タイムで制し、初の世界陸上個人種目代表に。世界陸上本番前の7月にはヨーロッパ各地の大会を転戦、初出場のダイヤモンドリーグストックホルム大会では46秒21の8着と跳ね返されたが、スペインのマドリードで行われたコンチネンタルツアーの大会では45秒12の自己記録で1着。学生陸上界に留まらず、日本のロングスプリントのエース格として臨んだ世界陸上本番でも予選突破を果たし、準決勝では45秒04まで自己記録を伸ばして決勝進出に際どく迫りながら、日本代表選手のなかでは唯一44秒台に届かず、この数字には並々ならぬこだわりがあるだろう。
世界陸上の後は二度目となるダイヤモンドリーグの中国・厦門大会に出場し45秒19の7着だったが、疲れを感じさせることなく、最終コーナーを抜ける辺りでは3着争いに加わるかと思わせたほどで、内容は決して悪くなく、今大会でも日本記録更新を狙い、前半から果敢な攻めのレースを見せてくれそうだ。

一方今季シーズン早々の4月の学生個人選手権の準決勝で自身初、今季国内大会でも最初の45秒台となる45秒98をマークし、その後の男子ロングスプリントの好記録ラッシュの起爆剤となった、ユニバ代表で世界陸上ではマイルリレーの第一走者を務めた地主直央(法政大)がエントリーを見送っているのは残念だが、地主同様に今季力を付け、日本選手権で45秒54をマークして4位に入ってユニバ代表となり、出場は果たせなかったが世界陸上マイルリレー代表に名を連ねた今泉堅貴(筑波大)が、どこまで中島に対抗できるのかにも注目だ。
日本中がコロナ禍に覆われた2020年、様々な対策を施しながら開催にこぎつけた日本インカレで、後に東京五輪マイルリレー代表となる伊東利来也(当時早稲田大、三菱マティリアルを経て現住友電工)との激しい競り合いを制し45秒83で優勝を果たした実力者の井上大地(日本大)も今年の静岡国際で46秒03と久々に好タイムをマークして復調を感じさせており、加えて今年の日本選手権でも3位となった昨年同様に前半から積極的な走りを見せ、46秒00で6着でゴールしたメルドラムアラン(東京農業大)、7月末の田島記念で46秒12をマークし3着に入った川北脩斗(びわこ成蹊スポーツ大)、6月の日本選手権で8位入賞を果たしてた林申雅(筑波大)らにも、中島を追いかける事により、45秒台突入が期待される。
今季春シーズンには故障があったが、一昨年の大会を制し、昨年はU20世界陸上代表となった友田真隆(東京理科大)の復調にも期待をしたい。

この夏、世界に名を売った、という点で世界陸上代表勢に引けを取らないのが、男子110mHの村竹ラシッド(順天堂大)だ。今季は4月の織田記念で脚を痛め、アジア選手権、世界陸上代表の選考会となった日本陸上選手権には間に合わず、参加標準記録を突破していながら世界陸上の代表を逃したが、故障からの復帰第一戦となったANG福井で13秒18をマークしてパリ五輪参加標準記録を突破すると、9月2日のダイヤモンドリーグ厦門大会でも13秒19で5位に入賞と、初出場ながらワールドクラスの中に入っても見劣りしない実力を見せつけた。村竹も学生陸上界の中にあってその存在感は大きく、出場することにより、その背中を追う選手達の記録が引き上げられる相乗効果も期待される。7月のユニバーシアードの予選で13秒29とパリ五輪参加標準記録にあと0秒02に迫り、決勝で更新こそならなかったが日本選手団に金メダルを齎した豊田兼(慶應義塾大)は、本人がこだわりを見せる400mHに照準を絞ったためこの種目には名前がないが、豊田と共にユニバ代表となり8位入賞を果たした宮﨑 匠(中央大)、7月にベルギーの国際大会で自己記録の13秒57をマークして2位入った小池綾(こいけりょう・法政大)、5月の関東インカレでは13秒66で宮﨑を破り優勝を果たしている池田海(早稲田大)らがどこまで記録を伸ばしてくるかにも注目をしたい。

今年の春シーズンに49秒台を記録する選手が続出し、非常に活気のあった400mH。その中にあってなかなか本来の力が発揮できず、日本選手権では決勝進出も逃し、一時は世界陸上出場も危ぶまれた東京五輪、オレゴン世界陸上代表の黒川和樹(法政大)だったが、世界陸上へのラストチャンスとなった田島記念で50秒11とやや物足りないタイムながらも優勝を果たしてWAランキングを上げて世界陸上代表の切符を掴むと、本番ではそれまでの不振から一転して予選から48秒71とパリ五輪参加標準記録まであと0秒01に迫る好記録で予選を突破、準決勝でも中盤までアメリカのベンジャミンやブラジルのドスサントスと遜色のない積極的な走りを見せ、最後の直線でも必死の追い上げで3着に際どく迫り、48秒58で4着と決勝進出はならなかったが、きっちりとパリ五輪参加標準記録の突破を手土産に持ち日本に帰ってきた。この黒川の世界の舞台での活躍には、今年4月の学生個人選手権を皮切りに関東インカレ、日本選手権を次々と制する勝負強さを発揮しながら世界陸上代表には届かなかった小川大輝(東洋大)や、関西インカレを45秒45の好記録で制した栗林隼正(立命館大)、日本選手権の予選で49秒52の自己記録をマークしながら決勝では6着に終わった出口晴翔(順天堂大)、今年4月4日の兵庫インカレで49秒61の好記録をマークした山科真一郎(神戸大)、そして110mHでユニバ金メダルの実力者でありながら、400mHにも強いこだわりを見せる豊田といった選手たちも当然刺激を受けているものと思われ、また直近では8月27日の町田スプリントでは金本昌樹(早稲田大)も49秒27の好記録をマークしており、49秒台に留まらず、今期国内大会ではGGPで児玉悠作(ノジマ)が記録した48秒77のみとなっている48秒台突入への期待も膨らむ。また、昨年の大会で黒川を抑え、49秒20で優勝し、10月のAthletics Challenge Cupでは49秒07と48秒台に近付きながら、今シーズンはここまで昨年度のような走りを見せることが出来ていない田中天智龍(早稲田大)も、復調を果たしてこの争いに加わって欲しい選手の一人だ。

世界陸上男子3000m障害で6位に入賞した三浦龍司(順天堂大)は、5000mにのみエントリーをしているが、ダイヤモンドリーグファイナルへの進出が決まっており、日程の重なる今大会はキャンセルだろう。5000mは持ちタイム1位の13分22秒99を持つ吉岡大翔(順天堂大)が、L・カミナ(創価大)、M・ゴッドフリー(駿河台大)の実力のあるケニア人留学生を相手にどのようなレースを見せるのか、楽しみにしたい。
また3000m障害は三浦に加え、ユニバで8分40秒84をマークして銅メダルを獲得した菖蒲敦司(早稲田大)、8分27秒80の自己記録を持つ小原響、今年6月に韓国・醴泉で行われたU20アジア選手権を8分39秒83で制した黒田朝日の青山学院勢といった実力者もここを回避しており、昨年の大会を制した大吉優亮(帝京大)、今年の学生個人選手権3位の村尾雄己(順天堂大)、同3位の花谷そら(福岡大学)を中心に混戦が予想される。
もう一つのトラック長距離種目、10000mは27分06秒88の日本学生記録を持つR・エティーリ(東京国際大)らケニア人留学生が圧倒的に強い。昨年の大会で関東学連勢を抑え切った亀田仁一路(関西大)の二年連続日本人選手最先着を、関東学連勢が阻むことが出来るかが、優勝争いにも増して興味の対象となりそうだ。

その他のトラック種目に目を移すと、鵜澤が回避した200mにはユニバで20秒43で銀メダルを獲得した西裕大、同8位に入賞した稲毛碧の早稲田大学勢に、アジア大会4×100mリレー代表の宇野、東京五輪マイルリレー代表で、今期は南部記念の200mを20秒67で制すなど故障から復調してきた鈴木碧斗(東洋大)、関西インカレ王者の松井 健斗(関西大)らが絡む混戦模様と見ている。昨年6位の藤澤瑠唯(岩手大)も直近の東北大会を制し調子を上げてきており、侮れない。

800mは7月のアジア選手権では決勝進出に届かなかったが、金子魅玖人(中央大)がやはり優勝候補の筆頭だ。1分45秒85の日本歴代3位の自己記録を持つが、この大会との相性は余り良くなく、学生ラストイヤーで初制覇を目指す。今季の学生SBランキング1位の1分46秒78を5月の静岡国際でマークした大学院生の根本大輝(順天堂大)は6月の日本選手権を回避しており、金子に対抗するには体調次第か。九州インカレを制した佐藤主理(鹿屋体育大)は7月のホクレンDCで好走を見せており、上位争いに加わりそうだ。

1500mは日本選手権で3分38秒69の好タイムをマークして2位となり、代表に選ばれたアジア選手権でも3分42秒04で2位と好走した大学院生の高橋佑輔(北海道大)、ユニバ代表の高村比呂飛(日本体育大)が、10000mを走る全日本大学駅伝の予選会最終組で規格外の強さをみせていたA・ベット(東京国際大)に挑む。

跳躍種目に移り、まず男子走高跳は、7月の田島記念で2m23の自己記録をマークした山中駿(京都大)が他選手を一歩リードし、棒高跳ではアジア選手権とユニバではともに4位と健闘しながら、世界陸上では記録なしに終わった柄澤智哉(日本体育大)にとって、今大会がその悔しさを晴らす絶好の機会となる。昨年コロンビアで行われたU20世界陸上代表で、今年の日本選手権で3位に入った原口篤志(東大阪大)も力を付けている。

走幅跳は昨年に8m11をマークした鳥海勇斗(日本大)の今年のベストが7m64と本調子から遠く、8m03をマークした藤原孝輝(東洋大)も今年のリザルトがなく、共にコンディション面が懸念材料だ。
直近の8月20日の関東選手権を7m95で制した作家弥希(駿河台大)が現在の勢いから優勝候補の筆頭で、7m63と記録は平凡ながら、日本グランプリシリーズの富士北麓ワールドトライアルを制した北川凱(東海大)は、その後に東海選手権も7m58で優勝を果たしており、勝負強さに注目をしてみたい。

三段跳は、ブダペスト世界陸上で池畠旭佳瑠(駿河台大AC)がこの種目の日本人選手としては2017年ロンドン大会の山本凌雅(当時順天堂大、現JAL)以来の出場を果たしたが、続く選手も現れてほしい。
U20 アジア選手権で16m38を跳び金メダルを獲得した宮尾真仁(東洋大)はその筆頭候補だ。
昨年の大会を16m31で制している安立雄斗(福岡大)は大学院生となった今季はここまで16mを記録出来ておらず、復調が待たれる。

投擲種目の男子砲丸投では18m42の自己記録を持つアツオビンジェイソン(福岡大)がやはり注目の存在。故障も多く、今季の記録はここまで17m62に留まっているが、体調さえ万全なら本来19mも目指せる逸材だ。

円盤投は55m41と今季学生でただ一人55mオーバーを記録している昨年の覇者山下航生(九州共立大)、4月の学生個人選手権を制した北原博企(新潟医療福祉大)、昨年の大会で山下に次ぐ2位となった飛川龍雅(東海大)三つ巴の争いが濃厚。

ハンマー投はアジア選手権で71m80で3位となった福田翔大(日本大)と70m49の自己記録を持つ小田航平(九州共立大)の二人が70mスローワー。
ブダペスト世界陸上の決勝進出ラインとなる12位の記録は74m56と、世界レベルを見ても記録の停滞が感じられる種目でもあり、伸び盛りの福田、小田にとってはその差を縮めるチャンスと言うことができる。
まずは自己記録の更新となる72m台を目指してもらいたい。

やり投は今季4月に行われた記録会で80m09をマークし、 ユニバで5位に入賞した巖優作(筑波大)、ユニバで自己記録となる78m41を投じ、巌を上回りメダルまであと一歩の4位入賞を果たした鈴木凜(九州共立大)の二人に、80mオーバーのビッグスローの期待が高まる。
世界選手権では入賞を期待されたディーン元気(ミズノ)がまさかの予選落ちとなり、国内トップ選手を突き上げる勢いのある若手選手の台頭が望まれている。
自己ベスト75m61の中村竜成(国士舘大)、75m48の山田隼人(九州共立大)の75mオーバーのPBがある二人もその候補だ。

男子10000m競歩はユニバの20km競歩で銀メダルの萬壽春輝、同5位入賞の立岩和大の順天堂大勢に、同じくユニバ20km競歩8位入賞の吉川絢斗(東京学芸大)の3名の争いに、トラック10000m競歩の持ちタイムが良い向井大賀(九州共立大)が割って入れるかが焦点となりそうだ。

十種競技でも世界陸上代表となった丸山優真(住友電工)が15位と奮闘を見せており、後に続く学生選手が現れる事を期待したい。自己ベスト7286点の川元莉々輝(立命館大)、日本選手権混成で自己記録の7282点をマークして3位となり表彰台に登った大学院生の前川斉幸(中京大)がその候補となるだろう。

男子の展望だけで相当の分量を費やしたので、女子の注目種目、選手は別稿にてお届けしたい。

文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)

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