男子は桐生、山縣、多田が顔を揃える100m、女子は寺田、田中佑美、福部が競う100mHに注目、ダイヤモンドリーグファイナル帰りの泉谷、田中希実の出場は!?第71回全日本実業団対抗陸上競技選手権大会プレビュー

第72回全日本実業団選手権が9月22日から三日間の日程で、岐阜市の岐阜メモリアルセンター長良川競技場にて開催される。今年は8月に行われたブダペスト世界陸上と、今大会の直後に開幕する杭州アジア大会の狭間に日程が組まれ、長距離選手にとってもパリ五輪マラソン代表選考会、MGCの直前であり、両国際大会の代表選手やMGCに出場する選手はエントリーはしていても欠場となることが有り得るが、今季前半に故障などで出遅れ、代表選考会に間に合わなかった選手や、来年のパリ五輪へ向けてじっくりと調整をしている実力者のエントリーが有り、目の離せない大会と言えるだろう。

男子は100mベテラン勢の仕上がりに注目

上述の通り特にアジア大会の代表選手は今大会の回避もあり得る中で、男子100m代表の桐生祥秀(日本生命)は今大会出場を明言している選手の一人だ。
今季は5月の木南記念の予選で2020年以来3年ぶりの10秒0台となる10秒03をマークするも、その2週間後のセイコーGGPの予選で脚を負傷し、日本選手権に間に合わなかったもののアジア大会の代表には選出された。
実戦は負傷したGGP以来となるが、アジア大会本番を前にレースの感覚を取り戻すための出場と思われる。
予選一本のみか、決勝まで走るかは判然としないが、どのくらい仕上がってきているのか、気懸りでもあり楽しみでもある。

リオ五輪では桐生と共に4×100mリレーのメンバーとして銀メダル獲得に貢献し、日本中の陸上ファンを沸かせた山縣亮太(SEIKO)は、パリ五輪へ向けて2年計画で調整をしていくことを選択、今季は日本選手権には出場せず、世界陸上などの国際大会の代表戦線には加わらなかったが、6月末の布勢スプリントの100mでは10秒29、8月末には栃木県の佐野市で行われたSANOトワイライトゲームズで10秒22と、少しづつコンディションを上げてきている。
シーズン終了を前に10秒1台を出し、手応えを得て来年のオリンピックイヤーを迎えたいところだろう。

2019年のドーハ世界陸上の4×100mリレーで銅メダル獲得に貢献した多田修平(住友電工)は、今季序盤の不調で、世界陸上代表争いに絡めず、悔しい思いをした一人。
日本選手権出場を見送った後、布勢スプリントで10秒21、7月末のANGでは10秒10、その翌週に行われた富士北麓ワールドトライアルでは予選で10秒13と夏場にきて復調してきた。
更に調子を上げて10秒00のパリ五輪参加標準記録を狙えるコンディションまで来ているのか、期待をしたい。

男子100mでは、国際大会の実績が豊富なこの3人の他、山縣が出場したSANOトワイライトゲームズで10秒10まで自己ベストを上げて優勝を果たした東田旺洋(関彰商事)、日本選手権では100mで4位、200mでは3位に入り、世界陸上の4×100mリレーの代表に選ばれ、出番には恵まれなかったがバックアップメンバーとして準備を続けた水久保漱至(第一酒造)も虎視眈々と優勝を狙っている。
桐生や多田を抑え、10秒0台での優勝となれば、個人種目でも、リレーメンバーとしてもパリ五輪有力候補として浮上することになるだろう。

この他の男子のトラック種目では、200mに、ブダペスト世界陸上の400m予選で44秒77をマークし日本記録を更新した佐藤拳太郎(富士通)、同じくブダペスト世界陸上では予選で44秒97、準決勝で44秒88と立て続けに45秒を切ってきた佐藤風雅(ミズノ)がエントリー、出場すれば400m代表となっているアジア選手権へ向けてのスピード面の確認が目的と思われる。
また400mには出番はなかったが世界陸上マイルリレーの代表に選ばれ、45秒19の自己ベストを持つ岩崎立来(三重県スポーツ協会)が優勝争いの中心となり、東京五輪マイルリレー代表の伊東利来也(住友電工)、東京五輪ではマイルリレーの代表、昨年のオレゴン世界陸上ではリレーに加え、個人種目でも代表を経験した川端魁人(中京大クラブ)、自己ベストは46秒07と45秒台が目前に迫っている吉津拓歩(ジーケーライン)による45秒台前半の決着に期待をしたい。

1500mはアジア大会代表となっている河村一輝(トーエネック)のエントリーがあるが、ここでは無理をしてこない可能性もある。
となれば勝負強さ随一の館澤 亨次(DeNA)が優勝候補の筆頭か。
今シーズンの前半に好調だった飯島陸斗(阿見AC)、河村の同僚、野口雄大(トーエネック)も実力者で優勝候補の一角だ。
5000mでは13分02秒74のベストタイムを持つB・キプランガット(SUBARU)らケニア人選手が優勝争いの中心だが、日本勢ではアジア選手権10000m4位の今江勇人(GMOインターネット)、13分20秒台の自己ベストを持つ小袖英人、森 凪也のhonda勢、ラストスパートの切れ味が魅力の難波天(トーエネック)らが、ケニア勢の争いに加わっていくことを望みたい。

110mHではANG福井で村竹ラシッド(順天堂大)の13秒19に続く13秒20で2着に入り、13秒27のパリ五輪参加標準記録を突破した野本周成(愛媛県競技力向上対策本部)が更に記録を伸ばせるか、400mHではブダペスト世界陸上では予選落ちと力を発揮できなかった岸本鷹幸(富士通)やアジア選手権で決勝進出を果たせなかった筒江海斗(STW)がどのようなレースを見せるのか、7月の愛知県選手権で2020年以来自身3年ぶりの49秒台となる49秒29の自己ベストで優勝した小田将矢(豊田自動織機)が更に記録を短縮し、48秒台に突入をするかが焦点となるだろう。

フィールド種目では真野友博(九電工)、長谷川直人(新潟アルビレックスRC)のブダペスト世界陸上代表の争いが予想されるが、真野はアジア大会の代表でもあるため、欠場があるかもしれない。
今季2m20台中盤で跳躍が安定している瀬古優斗(HST)も優勝争いに加わってくるだろう。
男子棒高跳はこの7月に5m60クリアを連発してランキングでの世界陸上出場ラインに迫った澤慎吾(きらぼし銀行)と、出場すれば故障からの久々の復帰となる東京五輪代表の江島雅紀(富士通)に注目。
男子走幅跳は、オレゴンで行われたダイヤモンドリーグファイナルの110mHで5位入賞を果たし、帰国したばかりの泉谷駿介(住友電工)の、昨年に8m00で優勝したこの種目での出場があるかが最大の焦点だ。
男子三段跳は、世界陸上代表の池畠旭佳瑠(駿河台大非常勤講師)に自己ベスト更新となる17m00ジャンプを期待したい。

男子砲丸投はアジア選手権で9位となった直後の田島記念で自己記録を18m53に伸ばした奥村仁志(センコー)に中村太地(チームミズノ)の持つ18m85の日本記録更新への期待が膨らむ。
円盤投も湯上剛輝(トヨタ自動車)の持つ62m59の日本記録にあと7㎝に迫る62m52を4月に徳島で行われた競技会で記録した幸長慎一(四国大職員)に注目したい。
アジア選手権7位の湯上自身や、同じくアジア選手権5位の堤雄司(ALSOK群馬)が幸長の前に立ち塞がる。
男子ハンマー投では先週に行われた日本インカレでアジア選手権で銅メダルを獲得しアジア大会代表にも選ばれている福田翔大(日本大)が72m02の好記録をマーク、アジア選手権4位で福田と共にアジア大会に臨む、72m92の自己記録を持つ柏村亮太(ヤマダHD)もこれに続きたい。
男子やり投は世界陸上代表のディーン元気(ミズノ)、小椋健司(エイジェック)、崎山雄太(愛媛県競技力向上対策本部)の3人が揃ってエントリー、ディーンは決勝進出を逃した世界陸上のあと、スイスのチューリッヒで行われたダイヤモンドリーグとドイツでの国際大会に出場したが、いずれも80mに届いておらず、小椋と共に代表に選ばれているアジア大会を前に、80mオーバーを投げて弾みをつけることができるかに注目したい。

男子10000m競歩は、ブダペスト世界陸上の20㎞競歩でメダルを逃した池田向希(旭化成)の再起への第一戦。世界陸上で12位と日本人選手最先着となった古賀友太(大塚製薬)や10000m競歩で池田に次ぐ2番目の38分37秒28のベストタイムを持つ濱西諒(サンベルクス)が、どこまで池田に食い下がれるかがポイントになる。2019年ドーハ世界陸上の金メダリストで、元20㎞競歩の世界記録保持者、鈴木雄介(富士通)にも注目だ。

女子100mH 福部真子のパリ五輪に向けての巻き返しがあるかに期待

女子注目の種目は昨年の大会で自身の持つ日本記録を12秒73に塗り替えて優勝を果たした福部真子(日本建設工業)、ブダペスト世界陸上代表の寺田明日香(ジャパンクリエイト)、田中佑美(富士通)がエントリーしている100mH。
福部は昨年のオレゴン世界陸上、そして全日本実業団選手権と立て続けに日本記録を更新した頃の勢いはないものの、今季の自己ベストは12秒90と、これまでの基準からすれば不調というほど調子が悪い訳ではなかったのだが、昨年1年をほぼオーバーホールに充てた寺田の第一線への復帰や、今季シーズン当初から積極的に海外大会に出場して力を付けてきた田中の成長に煽られて日本選手権では4位に敗れ、ただ一人参加標準記録を突破していた世界陸上の代表を逃してしまった。
この夏は心機一転、フランス、イタリア、スペインなどの海外大会に遠征したが、記録はスペインのマドリードで出した12秒98が最も良く、いまひとつ歯車が噛み合ってこないような印象だ。
昨年破格の日本記録を出したこの大会で巻き返しのきっかけを掴みたいところ。

世界陸上で準決勝進出がならなかった寺田と田中だが、その経験を通して、自身の記録や国内の競技水準は上がっているが、世界のレベルもそれ以上に高くなっていることをひしひしと感じたことだろう。
寺田にとっては木南記念でマークした12秒86、田中にとってはGGPで記録した12秒89の自己記録を超えての優勝が、パリ五輪代表獲得へ向けて課せられる最低限のノルマで、さらには12秒7台を目指したい。

5月のGGPで12秒96をマークし日本人5人目の13秒切りを果たした清山ちさと(いちご)も上位を伺い、6月の布勢スプリントの予選で13秒08、7月の南部記念では2.2mの追い風参考記録ながら13秒02をマークした芝田愛花(エディオン)、南部記念で2.2mの追い風ながら13秒01をマーク、その後のANG福井の予選で13秒09をマークするなど今季記録を大きく伸ばしている大松由季(サンドリヨン)には12秒台突入への期待も大きい。

ブダペスト世界陸上の5000m準決勝で14分37秒98の日本記録を樹立して決勝では8位に入賞、9月に入ってダイヤモンドリーグブリュッセル大会では日本記録を14分29秒18に更新し、間髪入れずに出場したダイヤモンドリーグでは14分42秒38で6位に入賞するなど、押しも押されもせぬワールドクラスの選手となった田中希実(New Balance)はその5000mでも東京五輪で8位に入賞した1500mでもなく、800mの1種目のみにエントリー、ダイヤモンドリーグファイナル出場から帰国して間もないが、出場に踏み切ってくれば俄然注目となってくる。

女子100mと200mには今季前半に故障で苦しんだ兒玉芽生(ミズノ)がエントリー、9月に入って大分で行われたローカルの競技会での記録ながら、100mでは11秒67、200mでは23秒87をマーク、この記録だけを取れば、不振の底は脱してコンディションは上向いているように思われる。
昨年のこの大会で、福島千里の持つ11秒21の日本記録に迫る11秒24をマークした兒玉の復調が無ければ、パリ大会での東京大会に続く4×100mリレーの二大会連続出場への展望が開けてこないだけに、順位とともにそのタイムは非常に気になるところ。
200mにエントリーしている世界陸上同種目代表の鶴田玲美は準決勝進出こそならなかったが、予選で記録した向かい風0.3mでの23秒49はけして悪くはなく、兒玉に立ちはだかる存在となりそうだ。

女子10000mには10月15日に行われるパリ五輪マラソン代表選考会、MGCに出場するス上杉真穂(スターツ)、森田香織(パナソニック)がエントリーしており、大一番直前の最終段階での仕上がり具合を確認しておきたい。
10000mが実施される大会初日の岐阜地方は32℃まで気温が上がり、記録は望めそうにないが、ブダペスト世界陸上代表の五島莉乃(資生堂)に加え、柳谷日菜(ワコール)林田美咲(九電工)といった女子長距離界の未来を担う若手選手が上位に食い込めるかに期待をしたい。

女子400mHには念願の世界陸上初出場を果たした宇都宮絵莉(長谷川体育施設)がエントリー、予選のレース後のインタビューでは次の世界大会ではWAからのインヴィテーションではなく、ランキングで資格を得るか、参加標準を突破して出場したい、まずは自己記録の更新を目指したいと語っており、自己記録56秒65の更新が目標となる。自己記録を57秒92に伸ばしてきている南澤明音(松本土建)が強敵となりそうだ。

女子3000m障害には東京五輪、オレゴン世界陸上代表の山中柚乃(愛媛銀行)が出場を予定。
今季ここまで3000m障害への出場は封印し、1500mから10000mまでの平場のトラック種目で総合的な脚力を上げる事に取り組んできたが、その成果を示す時がやって来た。
昨年、山中のほか、今大会でもライバルとなる西山未奈美(三井住友海上)や、5000mのみに出場予定の西出優月(ダイハツ)が9分30秒台に突入し、国内の競技レベルが上がったが、世界の水準も一段と上がっており、久々の3000m障害の実戦ではあっても9分38秒19の自己ベストに近いタイムで走っておきたい。
今季を終えて年が変わればオリンピックイヤーに入るが、3000m障害の実施機会は充分にあるとは言えず、記録は狙える時に狙っておいた方が良いだろう。

フィールド種目の女子走高跳には共に1m85の自己記録を持つ、アジア選手権4位の高橋渚(メイスンワーク)と、故障から復調してきた津田シェリアイ(築地銀だこ)の力が抜けている。二人で競い合い、日本の女子選手がここのところクリアできていない1m86以上を目指して欲しい。

女子走幅跳ではアジア選手権5位の髙良彩花(JAL)に加え、今季6m30をマークしている竹内真弥(ミズノ)、山本渚(長谷川体育施設)の6m50オーバーに、女子三段跳では世界陸上代表の髙島真織子(九電工)に14mオーバーを期待したい。

女子やり投にはオレゴン、ブダペストと二大会連続世界陸上代表となった上田百寧(ゼンリン)、昨年のオレゴン世界陸上で決勝に進出し11位となり、今大会後のアジア大会代表でもある武本紗栄(Team SSP)、2019年のドーハ世界陸上代表で、今季は7月にフィンランドのオウルで60m31を投げ近年の不振から復調してきた佐藤友佳(ニコニコのり)、日本陸連のダイヤモンドアスリートの修了生で、今季61m10の自己記録をマークしている長麻尋(国士館クラブ)が出場を予定。一つ一つの大会の記録、順位が今後を大きく左右する。既にパリ五輪代表に内定している今や説明不要の存在となった北口榛花(JAL)に続く、第2、第3の代表を巡る争いはすでに始まっている。

本文中で少し触れたが、大会期間中の岐阜地方は平年に比べ気温は高めでまだまだ残暑が厳しいが、シーズンも最終盤に差し掛かっており、各選手が少しでも来季へと繋がる結果を得ることを望んでいる。

文/芝 笑翔 (Emito SHIBA)

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