天皇賜盃第94回日本学生陸上競技対校選手権大会、日本インカレが6月5日より4日間の日程で、岡山市のJFE晴れの国スタジアムを会場に行われる。
今年は9月に東京世界陸上が開催されるため、例年9月の実施となっていた開催時期が日本選手権前の6月に組み込まれた事により、4月に学生個人選手権、5月に各地方インカレ、そして日本インカレ後の7月には世界陸上代表選考会として行われる日本選手権と、学生大会だけでなく主要大会が立て続けとなり、身体的にも精神的な面においても調整の難しさを感じている選手も多いのではないだろうか。
そうした中行われる今年の日本インカレでは、7月にドイツのライン・ルール都市圏で行われるワールドユニバーシティゲームズの代表に内定している選手たちの活躍や、世界陸上代表を目指す選手が、それぞれの種目の参加標準記録を突破できるかが注目されるものと思われる。
男子の注目種目、注目選手
学生陸上の華、男子100mには先週行われたアジア選手権を制した柳田大輝(東洋大)のエントリーがあるが、アジア選手権のレース後、今大会の出場に関しては明言を避けている。
WAランキングで高いポジショニングスコアが得られるGGPとアジア選手権を連勝したことにより、Road to Tokyo 25のランキングによる東京世界陸上出場資格の獲得は安全圏に入ってきていると言ってよく、ここで体調面で無理を押す必要がないため、出場するのであれば、参加標準記録突破しての9秒台に狙いを定めてのことと判断できるのではないだろうか。
その柳田が出場を回避するのであれば一転して混戦模様となるが、今シーズン10秒1台を記録している猛者が揃い、競技レベルは非常に高い。
中でも、4月の織田記念を10秒12で制した井上直紀(早稲田大)は世界リレー4×100mリレー代表のアンカーとしてもカナダのA・ドグラスらとも互角以上に渡り合う力走を見せており、やや抜け出している。
井上直紀とともに世界リレーで予選、決勝を走った愛宕頼(東海大)、学生個人選手権の準決勝で10秒16をマーク、決勝も10秒19で制し、ユニバ代表に内定している大石凌功(東洋大)の今シーズン開幕当初に男子スプリントを沸かせた二人は、GGPではややその疲労を覗かせる走りとなっており、コンディション面での立て直しが出来ているかが優勝へのカギとなる。
GGPの予選で10秒13を記録した守祐陽(大東文化大)、10秒17を記録した灰玉平侑吾(順天堂大)も力があり、世界室内の60m、世界リレーと立て続けに代表の経験を積んだ1年生の西岡尚輝(筑波大)も布勢スプリントではウェイティングレースへの出場ながら10秒19とコンディションを上げてきており、優勝争いに加わってきそうだ。
男子400mHにはパリオリンピック代表で、ユニバ代表にも内定している小川大輝(東洋大)がエントリー。今年はパリオリンピックでの経験をもとに、後半型のレーススタイルから、世界のトップ選手たちの潮流となっている前半からスピードに乗って飛ばしていく攻めのスタイルへの転換を意識したレースを行っていたが、10台目ハードル手前辺りから脚が止まり、学生個人選手権など、なかなか結果に結びついてこなかった。しかしながら、静岡国際陸上からはタイムが上向き始め、木南記念では自己記録の48秒61で優勝し、世界陸上参加標準記録にもあと0秒11と迫り、翌週のGGPでもタイムは落としたが、48秒98と立て続けに48秒台を記録し、スピードと出力のコントロールが手の内に入ってきてたように見える。勝負も重要な日本インカレだが、GGPで届かなかった世陸参加標準突破をここでも狙っているだろう。
小川の他にも、昨年秋の日本インカレで世陸標準に肉薄する48秒51を記録した渡邊脩(日本体育大)、48秒78でU20日本記録を更新した渕上翔太(早稲田大)、その渕上のU20日本記録を僅か数分後に48秒59に塗り替えた下田隼人(東洋大)と48秒台の選手が3名に上り、記録水準がかつてないハイレベルとなっているが、今シーズン初戦から49秒台をマークした渕上を除く渡邊、下田の二人は今季未だ50秒を切る事ができていない。
更なる好記録を目指してのオーバーペースや、コンディションの問題など様々な要因が上げられると思うが、そろそろ48秒台で走りたい渕上を含め、好記録後の新たな壁を打ち破ってもらいたい。
この3人に変わって今季好調なのが学生個人選手権を制してユニバ代表に内定し、関東インカレでは自己ベストを49秒06と48秒台目前にまで伸ばしてきている高橋遼将(法政大)で、上手くレースの流れを作り、最後まで小川との競り合いを演じることが出来れば世陸標準突破まで見えてくる。
400mも静岡国際でユニバ代表の平川慧(東洋大)が45秒28の好記録をマークしたのを筆頭に、森田陽樹(早稲田大)、吉川崚(筑波大)、白畑健太郎(東洋大)、播磨仁太(城西大)の計5名が45秒台の資格記録でエントリーしており、この種目もレベルが高くなっている。
ただ、昨年にも45秒台をマークし、世界室内選手権出場も果たした吉川を除き、複数回45秒台を記録している選手はなく、再現性に課題を残している。
ここで再び45秒台を記録することができれば、地元開催でのメダル獲得も期待される東京世界陸上の4×400mの代表へ向けて、選考会となる日本選手権を前に弾みを付けることが出来るだろう。

男子110mHは学生個人選手権の準決勝で13秒26で世陸標準の突破を果たし、またユニバ代表にも内定している阿部竜希(順天堂大)、その阿部に引っ張られるように記録を伸ばし、ユニバ代表を射止めた樋口隼人(筑波大)がエントリー。
阿部はユニバで前回大会の豊田兼(トヨタ自動車)に続く金メダル獲得も期待され、また現在4人が標準記録を突破して、少なくとも誰か一人が落選となる激戦の世界陸上代表争いの渦中にあり、更なる好記録、13秒1台をマークして自信を深めたいところだ。
樋口は先週の布勢スプリントで東京、パリの二大会連続オリンピック代表の高山峻野(ゼンリン)、ブダペスト世界陸上代表の横地大雅(Digverse)を降して勢いに乗る。
阿部に離されず食らい付いていくことが出来れば、この種目5人目の世陸標準突破も不可能ではない。
男子トラックのその他の種目では、200mにユニバ代表の壹岐元太(京都産業大)、植松康太(中央大)の二人に、東北インカレを20秒60で制し、資格記録トップの佐々木清翔(岩手大)が挑戦状を叩きつける。
800mはユニバ代表で世界陸上代表も視野に入れる落合晃(駒澤大)が先週にアジア選手権に出場しており、ここは無理をせず回避となったが、落合と共にユニバ代表に内定している岡村颯太(鹿屋体育大)が1分46秒27、1500mでユニバ代表となっている前田陽向(環太平洋大)が1分46秒10と1分45秒台に迫る自己記録を持っている二人が出場する。
日本インカレは勝負が重要だが、特に岡村にはユニバでの決勝進出を意識し、記録も求めてもらいたい。
2022年のU20世界選手権代表の経験がある東秀太(広島経済大)も力が有る。
前田陽向は1500mでも3分38秒61と資格記録のトップで優勝候補の筆頭。
前田と共にユニバ代表となっている大野聖登(順天堂大)、ロードでもチームのエース格の兵頭ジュダ(東海大)、昨年のU20世界選手権に出場した寺田向希(中央大)がライバルとなりそうで、10000mで27分台の自己記録を持つ山口智規(早稲田大)のエントリーも不気味だ。
5000mユニバ代表の鈴木琉胤(早稲田大)、3000m障害代表の佐々木哲(早稲田大)は今大会の出場を回避、5000mでは13分27秒98の資格記録を持つ東泉大河(駿河台大)、1500mと二種目エントリーの山口智規、13分22秒99の自己ベストがある吉岡大翔(順天堂大)が日本人選手トップ候補、3000m障害では三浦龍司の保持していた高校記録を更新した永原颯磨(順天堂大)が優勝争いの中心と見ている。
10000mは何といっても大阪マラソンで2時間6分5秒の日本学生記録を打ち立てた黒田朝日のエントリーが目を惹く。S・キップケメイ(日本大)、S・ムチーニ(創価大)のケニア人留学生は強力だが、ロードとトラックの違いがあるとは言え、箱根駅伝2区では黒田が先着しており、優勝の可能性は充分だ。
27分45秒12の自己記録を持つ斎藤将也(城西大)は、優勝争いに食らい付いていきたい。
10000m競歩はユニバ20㎞競歩代表の原圭佑(京都大)、土屋温希(立命館大)がエントリー、昨年のU20世界選手権10000m競歩代表でトラックでのスピードに自信を持つ逢坂草太朗(東洋大)、昨年の日本インカレ3位の前川悠雅(東海大)との優勝争いとなりそうだ。
男子のフィールド種目では走高跳の原口颯太(順天堂大)が注目選手の筆頭だ。
原口は4月の学生個人選手権を2m25で制しユニバ代表に内定しているが、世界陸上代表を巡っても、日本人選手4番手ながらランキングでの出場圏内に入っており、ランキングを維持し、出場資格を得るためには、日本インカレを含め、今後の一戦一戦がとても重要になってくる。
優勝はもちろん、2m27の自己記録更新にも期待をしたい。
原口と共にユニバ代表に選ばれた山中駿(京都大)や2m25の自己記録を持つ昨年のU20世界陸上銅メダリストの中谷魁聖(東海大)の存在もあり、この種目もレベルが高くなってきているが、先月の日本大学記録会で2m20をクリアした藤原虎太郎(東京学芸大)も上位に食い込んできそうだ。

やり投の鈴木凜も今季80mオーバーを二度記録し、ランキングで世界陸上出場圏内に位置し、ユニバでのメダル獲得も期待される注目選手の一人。
優勝した学生個人以降、織田記念、GGPと優勝争いに絡むことが出来なかったので、そろそろビッグスロをー見せておきたいところだ。
鈴木の81m23を上回る、81m67の自己記録を持つ清川裕哉(東海大)ユニバ代表に選ばれており、そのユニバで上位進出を果たすためには、もう一段上の安定感が求められる。
三段跳の安立雄斗(福岡大)は、ランキングでの世界陸上出場圏内まであと14ptに迫っている。
高いポイントの得られるアジア選手権への出場は叶わなかったが、ユニバ代表に内定をしており、今大会、日本選手権を好記録で連勝し、ユニバでも上位に食い込むことが出来れば、出場圏内に届くことも考えられ、原口同様に今後の一つ一つの大会の結果が重要な意味を持つ。
まずは今季まだ記録できていない16m50オーバーを期待したい。
その他、棒高跳では、ユニバ代表の原口篤志(東大阪大)と、関東インカレで仲間たちの声援の後押しを受け、5m52まで自己記録を伸ばした松井楓雅(日本体育大)、走幅跳はユニバ代表の藤原孝輝(東洋大)の出場はないが、大久保直樹(山梨学院大)、新留陸(国際武道大)、北川凱(東海大)が優勝候補に挙げられ、砲丸投はアツオビン ジェイソン(福岡大)と山田暉斗(法政大)の18m台での優勝争いが見込まれるが、優勝ラインが17m台にまで下がってくるようだと、渡辺豹冴(新潟医療福祉大)にもチャンスが出てくる。
またハンマー投げの執行大地(筑波大)には70m台を、豊かな将来性を感じさせる十種競技の高橋諒(慶應義塾大)には7500点台を目指してもらいたい。
女子の注目種目、注目選手
女子のトラックの注目は、静岡国際の400mで丹野麻美の日本記録、51秒80を上回る51秒71の日本学生記録を樹立した現在日本国籍取得を申請中のフロレス アリエ(日本体育大)だ。
昨年までの自己ベストが53秒03だったことを考えれば、その進歩は驚異的で、どこまで記録を伸ばすことが出来るのか、楽しみだ。
またこの種目では児島柚月(立命館大)、寺本葵(天理大)も今季に入って自己記録を大幅に更新しており、フロレスのハイペースに慌てることなく上手く流れに乗ることが出来れば52秒台も見えてきそうだ。
女子100mHではユニバ代表の大学院生、島野真央(日本女子体育大)と本田怜(順天堂)に引き続き12秒台の期待をしたい。これが成し遂げられればユニバでの上位入賞も見えてくる。
昨年のU20世界陸上代表の髙橋亜珠(筑波大)はハードルの技術はまだ粗削りだが、200mで23秒40のスピードの高さは魅力的で、現在13秒28の自己記録を13秒1台にまで押し上げる事が出来れば今後に楽しみが広がってくる。

100mは先週のアジア選手権に出場し、ユニバ代表にも選ばれている山形愛羽(福岡大)が優勝候補の筆頭だが、連戦となることを考えれば、山形とともにユニバ代表に選出された奥野由萌(甲南大)や、昨年の国スポ少年Aを11秒51の好タイムで優勝し、大学入学後もいきなり関東インカレを制した杉本心結(青山学院大)、2021年のインターハイチャンピオンで、大学進学後の伸び悩んだ時期を乗り越え、5月の関西インカレを11秒62の自己ベストで制し復活を遂げた永石小雪(立命館大)にもチャンスはある。
400mHでユニバ代表に選ばれた、56秒81を自己記録に持つ瀧野未来(立命館大)は先週行われたアジア選手権で決勝進出を逃しており、出場となれば日程はタイトだが、巻き返しを図りたい大会になると思われるが、関東インカレを制した新戸怜音(尚美学園大)も自己ベストが56秒台目前の57秒10と力を付けてきており、激戦は必至だ。
800mユニバ代表の西田有里(立命館大)は関西インカレでは2分3秒26の自己記録更新を目指してハイペースで突っ込んだがフィニッシュ直前で長谷川麻央に捉えられて敗れており、リベンジを期す大会だ。
10000mにはこの種目のユニバ代表の前田彩花(関西大)、細見芽生、橋本和叶(名城大)に加え、ハーフマラソン代表の土屋舞琴(立命館大)、野田真理耶(大東文化大)、髙橋葵(城西大)が出場する。
ケニア人留学生のS・ワンジル(大東文化大)の力は圧倒的だが、そのペースに出来るだけ食らい付き、ユニバ本番への自信を深めたい。
3000m障害でユニバ代表となった山下彩菜(大阪学院大)は入賞を目標とするのであれば9分台の記録は必須で、9分57秒04の自己記録更新に期待をしたい。
10000m競歩には前回のユニバで6位に入賞し二大会連続の代表となった柳井綾音(立命館大)、柳井と共に代表に選出された谷純花(金沢学院大)がエントリーをしているが柳井も先週のアジア選手権に出場したばかりで、出場に踏み切るかは微妙なところ。
谷は46分43秒7の自己記録を更新してユニバ本番へ弾みを付けたい。
女子のフィールド種目では自身初の60mオーバーとなる60m57で関東インカレを制し、北口榛花(JAL)のブダペスト世界陸上優勝により最大4人まで出場可能となった東京世界陸上のランキングでの出場圏内まであと1ptとなっている、倉田紗優加(慶應義塾大)が注目選手の一人。
学生個人を制し、ユニバ代表となった村上碧海(日本体育大)も譲る訳には行かず、60m台を見据えた優勝争いが期待できそうだ。

ハンマー投の村上来花(九州共立大)も世界陸上出場権獲得へ向けて、アジア選手権に挑んだが、63m50で5位に留まって思っていたようにはランキングスコアを伸ばす事が出来ず、悔し涙を見せた。
そのランキングでの世界陸上出場ラインまでは18ptとなったが、前回大会で6位入賞を果たしたユニバにも二大会連続で代表に内定している村上には、まだ追い上げる機会は残されており、今大会では自己記録の66m82を越えるビッグスローを期待したい。

走幅跳にもユニバ代表の乙津美月(日本女子体育大)、木村美海(四国大)が揃ってエントリー。
乙津は4月の学生個人選手権を6m33の自己記録で制し、また関東インカレでも2.2mの追い風参考記録ながら6m43で優勝を果たしており目下絶好調、6m50まで視界に入ってきている。
木村も乙津に敗れはしたものの1㎝差の6m32を記録、昨年からコンスタントに6m30台を跳ぶことが出来ており、大崩れのない安定感が光る。
ユニバ代表の二人の他にも、橋本詩音(筑波大)、近藤いおん(日本大)も関東インカレでは橋本が公認記録で6m22、近藤が6m22と力のあるところを示しており、今大会でも高いレベルでの優勝争いが予想される。

その他、走高跳では学生個人選手権で1m81の自己ベストを記録した伊藤楓(日本体育大)には更なる記録更新で、国内トップの髙橋渚(センコー)、髙橋に続く津田シェリアイ(築地銀だこ)を脅かす存在となることを期待したい。
もちろん、日本インカレには世界陸上代表を目指す選手やユニバーシティゲームズの代表となったトップレベルの選手だけでなく、日々の努力を積み重ねて晴れの舞台に辿り着いた選手たちも多数出場する。
どの選手も、悔いを残す事無く、自身が今出すことの出来る精一杯をトラック、フィールドで表現し、思い切りその舞台を楽しんでもらいたい。
文/芝 笑翔
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